君にこの想いが届かなくとも…

翔(カケル)

文字の大きさ
132 / 154
五章 俺と君の狭くも広い道

しおりを挟む
「ふふっ!君たちの想いは受け取った。なら、この後のことを一緒に考えよう。まずは、どうやって足を付けずに逃げ回るかだ」
「一平のスマホは、彼女にほとんど乗っ取られていると考えた方がいいと思います」
「そうだな、それともしかすると『盗聴』されてる可能性もあることを考えた方がいい。優太くんのスマホは問題ないかい?」
「俺は特に変わりないです。今まで一平とやり取りをしていたメールもアドレスを変えました」
「分かった、なら…一平くん、辛いと思うけどここから逃げる途中でそのスマホを叩き壊せるかい?」

 大胆不敵な大輔さんからの提案。
 でも足がついてしまっては、逃げる意味が無くなってしまうのも事実。一平のスマホが無くなっても、俺のスマホがあればなんとかなるということなのだろう。

「ス、スマホをですか!?」
「ああ、監視されてる以上、それしかない」
「分かりました、あとで壊します!」
「あとは、何か監視されていそうなものはあるかい?」
「監視されそうなもの…あっ…そういえば、さっき彼女からペンを返されました」
「なっ!今すぐそのペンと、もう一つのペンが何か違いがないかを確認するんだ」

 もしかすると『盗聴器』や『超小型のカメラ』がペンの中に仕組まれているかもしれないと大輔さんは続け、俺と一平は『Yuta』のペンと『Ippei』のペンを隈なく確認した。

「恐らく、何もなさそうですが…」
「『Ippei』くんのペンと見比べても?」
「素人目じゃ、同じにしか見えなくて…」
「そうか…恐らく盗聴とかはないと思うが念の為、寂しいとは思うけれど今すぐ『Yuta』くんのペンを壊すことは出来るかい?」
「一平…」
「寂しいけど、僕の隣にはずっと優太さんがいてくれるから僕は構わないです。壊しましょう」

 念には念を入れるため、一平が大切に使ってくれていた『Yuta』と刻まれたペンを袋に入れ、俺は金槌で木っ端微塵に破壊した。

 二人の想い出は心の中でずっと生き続ける。
 今は、目の前のことに向き合わなければ。

「よし、次だ。逃げるのは早い方がいい、モタモタしてたら次は何をするのかと探られても面倒だからな?そうだな…明日でもいいか?」
「あ、明日!?…で、でもどうやって…そ、それに家には猫がいるんです…」

 どうしたらいいのかと相談したものの、大輔さんのあまりにも早い決断へ、俺たちは必死に着いていくことしか出来ない。そして大輔さんは「ちょっと待ってろ」と発しては、パソコンで何かを調べる音がスマホのスピーカーから居間へと響いた。

「だ、大輔さん、もしかして車でパソコンを?」
「ああ、家に着いちまったら何も出来ないからな!車通勤だったことを感謝しろよぉ!」
「ありがとうございます…」

 スムーズにかつ、手慣れた様子で話を進めてくれる大輔さん。信じても大丈夫とは分かっていても、ここまで出来る大輔さんは、本当に何者なのだろうかと感じてしまうのも確かだ。

「よし、逃げる手段は確保した。次だ、一平くん、お金の件なんだが『君しか分からない君名義の口座』ってあるかい?」
「あ、あります…!」
「それは、彼女も知らないね?」
「知りません、教えたこともありません」
「よし、ならそのお金を優太くんの口座へと移せるだけ移すんだ。君のことだ、ネットバンキングぐらい使えるだろ?」
「はい、使えます!」
「なら、今すぐに優太くんへ送れるだけお金を送金し、旅の資金をコンビニのATMで降ろすんだ。そして、どこかのタイミングでその口座ごと解約することを忘れずにな?」
「わ、分かりました…なんかあった時にと思って、口座は直ぐに解約出来るようにと準備を進めておいたので大丈夫です」

 一平は大輔さんの指示に従っては、俺の口座へとお金を送金してくれたのだけれど、俺へと送り込まれた桁に、俺の目が点になってしまったのは、言うまでもなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

番解除した僕等の末路【完結済・短編】

藍生らぱん
BL
都市伝説だと思っていた「運命の番」に出逢った。 番になって数日後、「番解除」された事を悟った。 「番解除」されたΩは、二度と他のαと番になることができない。 けれど余命宣告を受けていた僕にとっては都合が良かった。

奇跡に祝福を

善奈美
BL
 家族に爪弾きにされていた僕。高等部三学年に進級してすぐ、四神の一つ、西條家の後継者である彼が記憶喪失になった。運命であると僕は知っていたけど、ずっと避けていた。でも、記憶がなくなったことで僕は彼と過ごすことになった。でも、記憶が戻ったら終わり、そんな関係だった。 ※不定期更新になります。

消えない思い

樹木緑
BL
オメガバース:僕には忘れられない夏がある。彼が好きだった。ただ、ただ、彼が好きだった。 高校3年生 矢野浩二 α 高校3年生 佐々木裕也 α 高校1年生 赤城要 Ω 赤城要は運命の番である両親に憧れ、両親が出会った高校に入学します。 自分も両親の様に運命の番が欲しいと思っています。 そして高校の入学式で出会った矢野浩二に、淡い感情を抱き始めるようになります。 でもあるきっかけを基に、佐々木裕也と出会います。 彼こそが要の探し続けた運命の番だったのです。 そして3人の運命が絡み合って、それぞれが、それぞれの選択をしていくと言うお話です。

【完結】幼馴染から離れたい。

June
BL
隣に立つのは運命の番なんだ。 βの谷口優希にはαである幼馴染の伊賀崎朔がいる。だが、ある日の出来事をきっかけに、幼馴染以上に大切な存在だったのだと気づいてしまう。 番外編 伊賀崎朔視点もあります。 (12月:改正版) 8/16番外編出しました!!!!! 読んでくださった読者の皆様、たくさんの❤️ありがとうございます😭 1/27 1000❤️ありがとうございます😭 3/6 2000❤️ありがとうございます😭 4/29 3000❤️ありがとうございます😭 8/13 4000❤️ありがとうございます😭 お気に入り登録が500を超えているだと???!嬉しすぎますありがとうございます😭

宵の月

古紫汐桜
BL
Ωとして生を受けた鵜森月夜は、村で代々伝わるしきたりにより、幼いうちに相楽家へ召し取られ、相楽家の次期当主であり、αの相楽恭弥と番になる事を決められていた。 愛の無い関係に絶望していた頃、兄弟校から交換学生の日浦太陽に出会う。 日浦太陽は、月夜に「自分が運命の番だ」と猛アタックして来て……。 2人の間で揺れる月夜が出す答えは一体……

36.8℃

月波結
BL
高校2年生、音寧は繊細なΩ。幼馴染の秀一郎は文武両道のα。 ふたりは「番候補」として婚約を控えながら、音寧のフェロモンの影響で距離を保たなければならない。 近づけば香りが溢れ、ふたりの感情が揺れる。音寧のフェロモンは、バニラビーンズの甘い香りに例えられ、『運命の番』と言われる秀一郎の身体はそれに強く反応してしまう。 制度、家族、将来——すべてがふたりを結びつけようとする一方で、薬で抑えた想いは、触れられない手の間をすり抜けていく。 転校生の肇くんとの友情、婚約者候補としての葛藤、そして「待ってる」の一言が、ふたりの未来を静かに照らす。 36.8℃の微熱が続く日々の中で、ふたりは“運命”を選び取ることができるのか。 香りと距離、運命、そして選択の物語。

僕の幸せは

春夏
BL
【完結しました】 【エールいただきました。ありがとうございます】 【たくさんの“いいね”ありがとうございます】 【たくさんの方々に読んでいただけて本当に嬉しいです。ありがとうございます!】 恋人に捨てられた悠の心情。 話は別れから始まります。全編が悠の視点です。

処理中です...