秘密の異世界交流

霧ちゃん→霧聖羅

文字の大きさ
67 / 80
昔がたり

★兄

しおりを挟む
 父の仕事は早かった。
翌日には、スフィーダ魔法学園に在学中の兄を呼びよせる手配をし、半月後には祖父の葬儀を執り行われ、私は祖父の『後継者』として正式に紹介される事になり、それまでどんなに私が祖父ではないと主張しても受け入れなかった者達が、私を祖父とは『一応』区別するようになっていく。
若干、納得がいかなかったものの、祖父と同一視されないだけでも気持ちが随分と楽になる。
何より、父が祖父と私を間違わなかったと言う事が一番有難かった。
彼は、踏み込み過ぎぬように細心の注意を払いながら、一月ほど滞在している。
 母上? 
論外だ。
彼女とはまともに会話が出来る自信がないので、アレ以来、出来るだけ接触を避けるようにしている。

 父の株が上がったその一方で、兄上が酷い。
子供の頃はあんなに長い間2人きりで生きてきていたと言うのに、あろう事か、私を『祖父』だと思ったようなのだ。しかも、『弟の体を乗っ取って』。
あんまりだ。
それじゃあ、心のありようが似通っている様ではないか?
顔形や背格好が似ているというのであれば、『遺伝』の一言で済むだろうが、中身が似ているなんて冗談じゃない!!!
 とはいえ、本人も自分の勘違いだと認識した後、謝罪の意味も込めてか色々と私の面倒を見始めた。
その様は、日本の朝ドラに出てくる世話好きな『お母さん』の様に甲斐甲斐しい。
兄上はきっと、素敵な奥方になれるだろう。
王都なり、スフィーダなりで素敵な連れ合いを見付ければ良い。
……そう思っていたのだが、父母が仕事の為に王都に戻った後も帰る気配がない。

「兄上は、何故王都に帰らないのだろう?」
「いや、わたしに聞かれてもわからんよ??」
「うむ……。しかし、本人には中々聞き辛いのだ。」
「ふぅん?」

 リリンが、ハサミで骨を素材にする為にチョキチョキと切る音が部屋に響く。
ハサミで骨を切れるのはいささか不思議ではあるが、『ゲームだから』でいつも細かい事は脇に追いやられる。『ゲームだから』というのは、なんて便利な言葉なのだろうか?

「アルと一緒に居たいからかもね。」

 チョキチョキ言う音の合間に彼女が呟く。

「……期待するのは止めたのだ。」

 彼女が作業に忙しくしているので、私も一緒にゲーム内でポーションを作る事にした。
ポーションと言うのは『水薬』らしく、作るとチャプチャプトポポポポと言う音がする。
なんだか、現実でも同じ様なものを大量に作っているのだが、この音が私は割と好きで、手持無沙汰になると必ずそればかりやっていた。

「何作るの?」
「爆発薬」
「助かるぅ♪」

 ゲーム内で彼女が開いている店に並べるように作っているソレは、丁度『爆発薬』の在庫が薄くなっていたから、私がそれを作り始めたと聞くと彼女は嬉しげに『♪』を語尾につける。
最初は、この『♪』も何を表しているのか分からなかったなと、ふと思い出して可笑しくなった。

「お兄ちゃん、一緒に暮らしてくれたら寂しくなくなるのにね?」

 咄嗟に、その言葉に返答する事が出来ずにハサミの鳴る音と、水音だけが部屋にこだまする。

「うむ……。」

 もし、また彼と一緒に暮せたなら、どんなに心休まる事だろう?
だが、もう期待をして裏切られるのが恐ろしい。



 リリンとそんな会話を何度かした後も兄は留まり続けていて、とうとう私は本人にどうするつもりなのかを訊ねる事にした。

「勉学の方はいいのかね?」
「教わるより、教えされられる方が多いから、ここで本でも読んでいた方がよっぽど勉強になる。」
「……ずっとここにいるのかね?」
「今のところその予定だ。」

 シレっとそう言いながら、彼は私の目の前に食事を並べていく。
その彼の手元を眺め、「了解した」とポツリと呟くとため息が漏れた。
たったこれだけの事を聞くのに、どんなに緊張していた事か……。
父の作った食事を見た時も思ったのだが、父にしろ兄にしろ、どこで料理など覚えたのだろうと思いながら、並べられた彩り豊かな食事を眺める。

「冷めないうちに食べてくれ。」
「うむ……。」

 どういう訳やら、その日の食事はやたらと美味しく感じられ、それをとても不思議に思う。
気持ち一つでこうもかわるものなのか、と。
それから、少しづつ彼に対して私なりに歩み寄る努力を始めた。
どうやって距離を詰めればいいのか分からなかったので、リリンに相談したら「頼み事してみたら?」と言われ、それを実践してみる。
どの程度の事が出来るのかが全く分からない状態だ。
最初の内は簡単なものから。
徐々に難度を上げていく。
兄が私の頼み事を叶える為に迷宮に赴く度に、出掛けて行った迷宮を生成している賢者の石にその姿を映し出して、その姿を追う。まるで、恋焦がれる相手を追う様に。

「お兄ちゃんと仲良くなってきてるみたいで良かった。」
「君の助言のお陰だ。」
「にょ??」

 不思議そうに首を傾げる彼女のアバターを見ながら、口元を緩むのを感じる。


それでも、やはり君が私にとっての『唯一の女性』だとそう強く思う。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】ドアマットに気付かない系夫の謝罪は死んだ妻には届かない 

堀 和三盆
恋愛
 一年にわたる長期出張から戻ると、愛する妻のシェルタが帰らぬ人になっていた。流行病に罹ったらしく、感染を避けるためにと火葬をされて骨になった妻は墓の下。  信じられなかった。  母を責め使用人を責めて暴れ回って、僕は自らの身に降りかかった突然の不幸を嘆いた。まだ、結婚して3年もたっていないというのに……。  そんな中。僕は遺品の整理中に隠すようにして仕舞われていた妻の日記帳を見つけてしまう。愛する妻が最後に何を考えていたのかを知る手段になるかもしれない。そんな軽い気持ちで日記を開いて戦慄した。  日記には妻がこの家に嫁いでから病に倒れるまでの――母や使用人からの壮絶な嫌がらせの数々が綴られていたのだ。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

【完結】番である私の旦那様

桜もふ
恋愛
異世界であるミーストの世界最強なのが黒竜族! 黒竜族の第一皇子、オパール・ブラック・オニキス(愛称:オール)の番をミースト神が異世界転移させた、それが『私』だ。 バールナ公爵の元へ養女として出向く事になるのだが、1人娘であった義妹が最後まで『自分』が黒竜族の番だと思い込み、魅了の力を使って男性を味方に付け、なにかと嫌味や嫌がらせをして来る。 オールは政務が忙しい身ではあるが、溺愛している私の送り迎えだけは必須事項みたい。 気が抜けるほど甘々なのに、義妹に邪魔されっぱなし。 でも神様からは特別なチートを貰い、世界最強の黒竜族の番に相応しい子になろうと頑張るのだが、なぜかディロ-ルの侯爵子息に学園主催の舞踏会で「お前との婚約を破棄する!」なんて訳の分からない事を言われるし、義妹は最後の最後まで頭お花畑状態で、オールを手に入れようと男の元を転々としながら、絡んで来ます!(鬱陶しいくらい来ます!) 大好きな乙女ゲームや異世界の漫画に出てくる「私がヒロインよ!」な頭の変な……じゃなかった、変わった義妹もいるし、何と言っても、この世界の料理はマズイ、不味すぎるのです! 神様から貰った、特別なスキルを使って異世界の皆と地球へ行き来したり、地球での家族と異世界へ行き来しながら、日本で得た知識や得意な家事(食事)などを、この世界でオールと一緒に自由にのんびりと生きて行こうと思います。 前半は転移する前の私生活から始まります。

番が見つけられなかったので諦めて婚約したら、番を見つけてしまった。←今ここ。

三谷朱花
恋愛
息が止まる。 フィオーレがその表現を理解したのは、今日が初めてだった。

おばさんは、ひっそり暮らしたい

波間柏
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。 たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。 さて、生きるには働かなければならない。 「仕方がない、ご飯屋にするか」 栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。 「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」 意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。 騎士サイド追加しました。2023/05/23 番外編を不定期ですが始めました。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

処理中です...