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セリス
驚き一つ
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アスタール様に弟子入りしたリエラちゃん。赤毛にそばかすの小さな可愛い女の子。
第一印象は守ってあげたいと言うものだったのだけれども、そんな彼女は随分と大きな才能を秘めていた。
調薬を彼女に教え初めてまず驚いたのが、その勘の良さ。
まだ不慣れだから手際は良くはないのだけれど、一般に販売されている傷薬をいとも簡単に作ってしまった。最初のうちは材料を溢してしまったり、加熱しすぎてしまったりと色々な失敗を繰り返すものなのだけれども、量を増やして作って貰ってもそう言った事は殆どなかった。
アスタール様も、随分と優秀な子を見つけてきたものだと思ったけれども、彼女は努力家でもあったようだった。
アスタール様が、魔力を伸ばす一助になる様にと貸し与えた本を読みながら、着実に魔法を身につけていくのには本当に驚くしかありませんでした。
通常、生活に便利だからと多用される魔法であってすらも、身につけるのにはそれなりの苦労があるものです。自己流で身に付けるのには余程のセンスがないと不可能と言ってもおかしくないのですが、一応は『本』と言う形で参考になるものがあったとは言ってもリエラちゃんの身に付ける速度は早すぎます。
しかも、無詠唱でとなると・・・。本には詠唱でしか発現する方法が記されていないはずなのに、どうやって覚えたのか不思議に思って聞いてみるととんでもない答えが返ってきました。
「えっと、詠唱って長くて少しめんどくさかったので・・・。灯りをつける魔導具がお部屋にありますよね?
あれをひたすらポチポチやって、魔力の流れ方を覚えて・・・。詠唱しないでその魔力の流れを再現できるように頑張ってみたら、詠唱しないでも使えました。」
少し恥ずかしそうにニコニコしながら答えてくれるのが何とも言えず可愛らしいので、ついつい頭をなでちゃいました。リエラちゃんがあんまりにも嬉しそうに目を細めるので、暫くそうしてしまいましたが、彼女の言っている事はとんでもない事です。
リエラちゃんは何でもない事の様に言っているのですが、魔導具を使って灯りをつけるのに掛かる時間なんてほんの一瞬です。
魔力視が普通に使えるグラムナードの民でも、ほんの一瞬の瞬きにしか見えないものです。
その流れを覚えて再現・・・。普通にできる事ではありません。
きっと、噂に聞く魔法学校に入学していたら天才少女としてもてはやされていたのに違いありません。
調薬に関しても、天性のモノを感じさせてくれているリエラちゃんですから、そちらの道に流れていなくて本当に良かったと思わずにいられませんでした。
魔法の属性も、一つも欠けることなく全ての属性に適性を示しているそうですし、アスタール様の後継者になんとしてもなって貰いたいところです。
そんなリエラちゃんですが、少し鈍くさいところがあるのは気付いていました。
ええ、そんなところも可愛いなと思っていたんです。
だから、アスラーダ様が身を守るためとはいえ戦闘訓練と称して訓練を始めようとした時、私は断固として反対しました。リエラちゃんが怪我をしないように守るのが貴方の役目でしょうに・・・。
私の抗議は結局受け入れられずに、ひとしきり訓練した後アスラーダ様に連れられてリエラちゃんは迷宮に出かけて行きました。午前中の訓練のせいか、足取りが重そうで心配で仕方なくって、いつもだったらしないドジをいくつかやってしまったのはご愛嬌です・・・。
その翌日、お昼を少し超えた位になった頃でしょうか。心神喪失状態のリエラちゃんがアスラーダ様にお姫様抱っこされて帰ってきたのは・・・。
気が付いたら、アスラーダ様からリエラちゃんを奪う様にして彼女のベッドに運び込んでいました。
心配して着いてきたアスラーダ様を部屋から追い出して、怪我がないか確認します。
―良かった、怪我はないみたい・・・。
ほっとして、暫くの間その場にへたり込みました。一体何があったのか確認しなくては・・・!
リエラちゃんが良く眠っているのを確認してから部屋を出ると、うろうろしていたアスラーダ様の首根っこを掴んで食堂で何があったのかを問い詰めました。
要約したところによると、昨日の訓練の成果を試す為にスルト君と二人でイノシシに挑戦させたところで、牽制の為にリエラちゃんが放った『風弾』がイノシシの足に当たった瞬間に倒れたと言う事でした。
本当にそれだけだったのかと詰め寄っているところで、スルト君が割って入ってきました。
「セリスさん!セリスさん!!落ち着いて!!!」
伏せ気味になったネコ耳に、泡立った心が鎮まって行くのを感じました。
何回か、深呼吸をして心を落ち着けると少し気持ちに余裕が出来るのを感じます。
「…今、お茶を淹れてきますので順を追って説明して下さいね。」
二人に座って待つように伝えて、お茶の準備をしながら深呼吸。
「セリス、私の分も頼む。」
「分かりました。」
いつの間にか来ていたアスタール様の分も用意して、何があったのかをきちんと順を追って確認しましたが、リエラちゃんが倒れる要因の見当が付きませんでした。
リエラちゃんは最近、随分と魔力が伸びていて『風弾』の100発位は余裕で放てるはずですし、魔力切れと言う事はなさそうですし、魔力切れだったらもっと瀕死の状態になっているはずです。
「えっと…」
私たちが首を傾げる中、スルト君がびくびくしながら手を上げました。
「何か心当たりでも?」
アスタール様が問いかけると、少し言い辛そうに話しだしました。
「リエラが倒れたの、もしかしたら血を見たせいかも…?」
スルト君が言うには、もっと小さい頃からリエラちゃんは血を見ると具合が悪くなる事があったとか。
「昔、取っ組み合いの喧嘩をした時にさ、俺が口の端を切ったんだけど…それ見た瞬間にぶっ倒れたんだ。その後も、何かの拍子に転んだ奴の手当てをしようとして倒れたりとかあったから、もしかしたら今回もそれかもしれない。」
「成程。では、リエラには出血に対する耐性が出来るまでは戦闘行為は行わせない方が良さそうだな。」
それを聞いて、アスタール様がそう結論を出して下さったので一安心です。
「訓練の方は、続けるようにしてもいいか?」
「うむ。いざという時に自衛はできる必要はあるだろうから、そちらに関しては頼む。」
御兄弟での決定を聞きながら、心の中でほっと溜息を吐きました。
さて、どうにかしてリエラちゃんを戦闘行為から遠ざけなくては。
もう、今日みたいに心臓に悪い事はこりごりです。
リエラちゃんを何としてでも守らないと、と決意を硬くしました。
第一印象は守ってあげたいと言うものだったのだけれども、そんな彼女は随分と大きな才能を秘めていた。
調薬を彼女に教え初めてまず驚いたのが、その勘の良さ。
まだ不慣れだから手際は良くはないのだけれど、一般に販売されている傷薬をいとも簡単に作ってしまった。最初のうちは材料を溢してしまったり、加熱しすぎてしまったりと色々な失敗を繰り返すものなのだけれども、量を増やして作って貰ってもそう言った事は殆どなかった。
アスタール様も、随分と優秀な子を見つけてきたものだと思ったけれども、彼女は努力家でもあったようだった。
アスタール様が、魔力を伸ばす一助になる様にと貸し与えた本を読みながら、着実に魔法を身につけていくのには本当に驚くしかありませんでした。
通常、生活に便利だからと多用される魔法であってすらも、身につけるのにはそれなりの苦労があるものです。自己流で身に付けるのには余程のセンスがないと不可能と言ってもおかしくないのですが、一応は『本』と言う形で参考になるものがあったとは言ってもリエラちゃんの身に付ける速度は早すぎます。
しかも、無詠唱でとなると・・・。本には詠唱でしか発現する方法が記されていないはずなのに、どうやって覚えたのか不思議に思って聞いてみるととんでもない答えが返ってきました。
「えっと、詠唱って長くて少しめんどくさかったので・・・。灯りをつける魔導具がお部屋にありますよね?
あれをひたすらポチポチやって、魔力の流れ方を覚えて・・・。詠唱しないでその魔力の流れを再現できるように頑張ってみたら、詠唱しないでも使えました。」
少し恥ずかしそうにニコニコしながら答えてくれるのが何とも言えず可愛らしいので、ついつい頭をなでちゃいました。リエラちゃんがあんまりにも嬉しそうに目を細めるので、暫くそうしてしまいましたが、彼女の言っている事はとんでもない事です。
リエラちゃんは何でもない事の様に言っているのですが、魔導具を使って灯りをつけるのに掛かる時間なんてほんの一瞬です。
魔力視が普通に使えるグラムナードの民でも、ほんの一瞬の瞬きにしか見えないものです。
その流れを覚えて再現・・・。普通にできる事ではありません。
きっと、噂に聞く魔法学校に入学していたら天才少女としてもてはやされていたのに違いありません。
調薬に関しても、天性のモノを感じさせてくれているリエラちゃんですから、そちらの道に流れていなくて本当に良かったと思わずにいられませんでした。
魔法の属性も、一つも欠けることなく全ての属性に適性を示しているそうですし、アスタール様の後継者になんとしてもなって貰いたいところです。
そんなリエラちゃんですが、少し鈍くさいところがあるのは気付いていました。
ええ、そんなところも可愛いなと思っていたんです。
だから、アスラーダ様が身を守るためとはいえ戦闘訓練と称して訓練を始めようとした時、私は断固として反対しました。リエラちゃんが怪我をしないように守るのが貴方の役目でしょうに・・・。
私の抗議は結局受け入れられずに、ひとしきり訓練した後アスラーダ様に連れられてリエラちゃんは迷宮に出かけて行きました。午前中の訓練のせいか、足取りが重そうで心配で仕方なくって、いつもだったらしないドジをいくつかやってしまったのはご愛嬌です・・・。
その翌日、お昼を少し超えた位になった頃でしょうか。心神喪失状態のリエラちゃんがアスラーダ様にお姫様抱っこされて帰ってきたのは・・・。
気が付いたら、アスラーダ様からリエラちゃんを奪う様にして彼女のベッドに運び込んでいました。
心配して着いてきたアスラーダ様を部屋から追い出して、怪我がないか確認します。
―良かった、怪我はないみたい・・・。
ほっとして、暫くの間その場にへたり込みました。一体何があったのか確認しなくては・・・!
リエラちゃんが良く眠っているのを確認してから部屋を出ると、うろうろしていたアスラーダ様の首根っこを掴んで食堂で何があったのかを問い詰めました。
要約したところによると、昨日の訓練の成果を試す為にスルト君と二人でイノシシに挑戦させたところで、牽制の為にリエラちゃんが放った『風弾』がイノシシの足に当たった瞬間に倒れたと言う事でした。
本当にそれだけだったのかと詰め寄っているところで、スルト君が割って入ってきました。
「セリスさん!セリスさん!!落ち着いて!!!」
伏せ気味になったネコ耳に、泡立った心が鎮まって行くのを感じました。
何回か、深呼吸をして心を落ち着けると少し気持ちに余裕が出来るのを感じます。
「…今、お茶を淹れてきますので順を追って説明して下さいね。」
二人に座って待つように伝えて、お茶の準備をしながら深呼吸。
「セリス、私の分も頼む。」
「分かりました。」
いつの間にか来ていたアスタール様の分も用意して、何があったのかをきちんと順を追って確認しましたが、リエラちゃんが倒れる要因の見当が付きませんでした。
リエラちゃんは最近、随分と魔力が伸びていて『風弾』の100発位は余裕で放てるはずですし、魔力切れと言う事はなさそうですし、魔力切れだったらもっと瀕死の状態になっているはずです。
「えっと…」
私たちが首を傾げる中、スルト君がびくびくしながら手を上げました。
「何か心当たりでも?」
アスタール様が問いかけると、少し言い辛そうに話しだしました。
「リエラが倒れたの、もしかしたら血を見たせいかも…?」
スルト君が言うには、もっと小さい頃からリエラちゃんは血を見ると具合が悪くなる事があったとか。
「昔、取っ組み合いの喧嘩をした時にさ、俺が口の端を切ったんだけど…それ見た瞬間にぶっ倒れたんだ。その後も、何かの拍子に転んだ奴の手当てをしようとして倒れたりとかあったから、もしかしたら今回もそれかもしれない。」
「成程。では、リエラには出血に対する耐性が出来るまでは戦闘行為は行わせない方が良さそうだな。」
それを聞いて、アスタール様がそう結論を出して下さったので一安心です。
「訓練の方は、続けるようにしてもいいか?」
「うむ。いざという時に自衛はできる必要はあるだろうから、そちらに関しては頼む。」
御兄弟での決定を聞きながら、心の中でほっと溜息を吐きました。
さて、どうにかしてリエラちゃんを戦闘行為から遠ざけなくては。
もう、今日みたいに心臓に悪い事はこりごりです。
リエラちゃんを何としてでも守らないと、と決意を硬くしました。
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