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失った信頼
しおりを挟むキャルティの子供は俺の子だった。
避妊薬は飲んでた。
でも、何度か飲まずに外に出した事がある。
俺はエルザを裏切ったんだと改めて思い知らされる。
子供が王太子の子なら、ひょっとしたらエルザは戻ってきてくれるのではと、少し思っていた。
そんな事はないと分かっていてもその思いに縋らずにはいられなかった。
でも、そんな甘い考えもあっさり切り捨てられた。
分かっている。
エルザは俺を許さない。
でも、俺が立派な大人になったら褒めてくれると言ってくれた。
俺がエルザを愛し続けても良いと許してくれた。
なら今はこの生まれた子を立派に育てよう。
そしたら、エルザは褒めてくれるだろうか。
『シルビオ、凄いじゃない!』って言ってくれるかな…。
エルザがこの屋敷を出た後、エルザの両親のユージン様とケイト様に屋敷まで来てもらい、
頭を下げた。
「どうか、どうか、2年間、2年間だけ俺に猶予を下さい。
どの面でとお思いでしょうが、今度こそエルザを泣かせる事はしません。
もう二度とあんな悲しい顔はさせません。
お願いします、お願いします、どうか、2年だけ離婚届を提出するのを待って頂けないでしょうか。
決してエルザには近付きません。
エルザには離婚したと言ってくれて構いません。
エルザが他に好きな人が出来たらすぐに提出します。いや、離婚届はお預けします。
エルザが他の人と結婚したいとなった時はすぐに提出してくれて構いません。
どうか、それまで、俺にエルザの夫でいさせてください、お願いします。」
「シルビオ、私達はね、エルザが幸せならそれで構わないんだ。
きっと君は別れ際にエルザにガツンと何か言われたんだろう、あの子は容赦がないからね。それで君が変わろうと思ったのなら、それはとても素晴らしいと思う。
でもね、一度失った信頼を取り戻すのは余程じゃないと回復しない。
君はそれが出来る?
今まで寄ってきていた女性を無碍に出来る?
周りの女性は君をそういう目で見てくるし、今までのように誘ってくる。
このくらいならと君が思った事でもエルザにとっては我慢が出来ない事かもしれない。
でも君はそれが何かを知らない。
君の腕に触る事かもしれない。
2人きりで話す事かもしれない。
髪についたゴミを取る事かもしれない。
そんな姿をエルザはずっと見てきているよ。
そしてそんな女性を君は抱いてきた。
その事をエルザは知っている。
どうやってエルザの信頼を回復するつもりなの?
二度としないと言うけれど、どうするつもりなの?
それが分からない以上、頷く事は出来ない。
私もケイトも君の事は嫌いじゃない。
でも人前で、何度も何度もエルザに愛を告げていた君が浮気で離婚する羽目になった。
分かってるかな、君はエルザだけじゃない、
私達サバーナ家の信頼も回復しないといけないってこと。
先ずは私達を納得させない限り許可は出来ない。
何度でも話しを聞くよ。
納得出来なかったら駄目だし、納得出来たら待ってあげる。
さあ、頭を上げて考えなさい。
行動しなさい。
これで私達は帰るけど、たった今から考えなさい。分かったね。」
そうユージン様は言って2人は帰っていった。
エルザを取り戻す、その為には何でもする、そう決心はした。
でも、言われた通りだ。
俺はどうエルザの信頼を回復出来るのかをふんわりとしか考えていなかった。
サバーナ家の信頼も全くない。
どうする…どう説明する…どうすれば信頼してもらえる…
座ったまま、ずっと考えていた。
なんで俺はエルザが好きなのに他の子と一緒にいたんだろう。
魅力的な女の子が付き合おうと言えば、気にせず付き合った。
エルザの事を好きな気持ちと他の女の子を好きな気持ちは俺の中では別物で、デートしたり、買い物したり、セックスしたりするのが普通だった。
離れていく子の事は気にしなかったし、ヤキモチ灼く子はこっちから振った。
エルザは誘っても断られるし、しつこくして嫌われたくなくて、なかなか誘えなかった。
エルザと出来ない事を他の子としていたんだと思う。
エルザとここに来たら喜ぶかな、エルザにはこれが似合うかな、エルザはどのケーキが好きかなとかをいつも考えていた。
嫌われてもエルザを誘えば良かった…。
何回も誘ったらエルザは付き合ってくれただろうに…。
そしたらエルザの好きなケーキも分かったし、
エルザの嫌いな食べ物も、好きな色も、怖いものも、全部わかったのに。
そして俺がどんなにエルザが好きなのか分かってもらえたのに。
他の子とじゃなくエルザとデートすれば良かったな…。
あ───そうか、分かった。
エルザが近くにいたから、すぐ手の届く所にいたから、他の女の子といたんだ。
近くにいるのに、誘えないから。
付き合えないから。
セックス出来ないから。
だって今、他の子とそんな事したいとちっとも思わない。
エルザがいないから。
俺の所にはもういないから…。
キャルティの時も、近くにいるのに、結婚したのに、エルザはいつも淡々としていた。
だからエルザにしてもらいたい事、したい事をキャルティに求めた。
エルザは俺が誘おうとしても、察知して上手く交わした。でも今なら分かる、どうして断っていたか。
一緒に出かけるとエルザを無視して女の子達が俺に群がってくるのが嫌だったから。
プレゼントもあまり喜んではくれなかった。
今考えれば、一緒に選べば良かったんだ。
好きな食べ物も嫌いな食べ物も分からないのは、いつもエルザの顔を見ていただけだから。表情を見てれば分かったのに、ただ大好きと思って食べている所を見ていただけ。
嫌な事もそう、ちゃんとエルザはこれはダメ、やっちゃダメ、って言ってた。
なのに俺はごめんごめんばっかりでどうしてダメなのかを聞いてなかった。
俺って良いところが一つもない・・・。
なのにエルザは俺と結婚してくれた。
どうして?
エルザが俺を好きになってくれたから。
皆んなが言ってた。
“エルザはなんだかんだ言ってシルビオの事好きだから。”
そうだ…エルザは俺の事好きになってくれてたんだ…。
そんな事にも気付かなかった。
なのに、学生時代と同じだと思って、酷い事をしてた。
学生の時とは違って、エルザはとっくに俺の事好きになってくれてたのに。
エルザが側にいないなら俺は他の女の子なんかいらない。
近くにいるのに出来ないジレンマで他の子を相手にしていたのだ、エルザがいないなら別の女の子なんていらない。
だから今は擦り寄られても、今は気持ちが悪いって思う。
キスなんか出来ない。
セックスなんて話にならない。
だってエルザとしたいから。
もう一度、エルザに触れたいから。
エルザだけが好きだから。
エルザの俺に対する気持ちが、今はホコリほど軽い気持ちになったかもしれないけど、エルザは俺の事を好きな事を知ってるから。
だからもう間違わない。
もう迷わない。
俺に触れられるのはエルザだけだと言えるから。
なら、それを貫こう。
決して他の女に目はいかない。
触れさせない。
興味もない。
いつかエルザに届くように。
褒めてもらえるように。
俺はもう一度ユージン様とケイト様に会った。
そして今度こそ、許可が降りた。
ジョバンニもモリスも心配していたけど、俺は何も迷わない。
だから、ひたすら仕事をした。
夜会にも必要な時以外は行かなかった。
寄ってきた女達には容赦なく触るなと言った。
触って良いのはエルザだけだとはっきり言った。
大丈夫、ちゃんと出来る。
これからちゃんと断れる。
だから、少しずつ信じてもらえるよう努力し続ける。
エルザにもう一度プロポーズする為に。
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