隠していない隠し部屋

jun

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限界なんだ

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エルザが攫われたと王太子の俺の所に連絡が入ったのは夕食前。
俺とクリスが飯でも食おうぜと言っていた時だった。
エルザの父親、ユージン騎士団副団長からの一報だった。
街に買い物に出て、そのまま帰っていないと心配しているところに、御者が駆け込んできたそうだ。

クリスは自分も捜索に加わると言い飛び出して行った。

俺はエルザを攫う理由を考えた。
シルビオの追っかけ連中がそこまでやるとは思えない。
ま、頭がおかしな奴らは何をするかは予想がつかないが、捕まえられるからそれで終わるだろう。
でも、彼女はクリスの想い人。
微かに過ぎるあの女。
俺の母親。

だがエルザの事は知らないはずだ。

キャルティならまだ分かる。
さすがに母上ではないだろう。

もう少し状況を知りたい。

夜が明けても見つかったと連絡はない。


見つかったと連絡が来たのは昼。
見つけたのはクリス。

誘拐犯3人と戦闘をしたと聞いた時は驚いた。

クリスが帰ってきたのはそれからしばらく経ってから。
帰ってきたクリスの顔色は悪い。

「エルザは大丈夫だったのか⁉︎」

「手分けして捜索した。それでも見つけられなかったから、街に出て、使ってない倉庫や納屋のようなものを知らないかと聞いて回った。街外れに住んでる狩猟を生業にしてる男が納屋として使っている小屋が森にあるというから案内させたら、小屋の前に弓矢で射られた男が2人倒れてた。
中を見たら、切られたロープがあった。
だから近くを一緒に来ていた警備隊の騎士と探した。
離れた場所に短剣で背中を刺された男が倒れていた。
でも、エルザがいない。
よく見ると人が通った跡があった。
血痕も残っていた。
だいぶ離れた所に倒れているエルザを見つけた・・・。
傷だらけで・・血だらけだった・・・。」

「大怪我でもしてたのか⁉︎」

「多分返り血だ。跡はロープを切った時の傷と裸足だったから足だな…」

「よくもまあ、って感じだな…でも良かった。」

「ああ、あの姿はしばらく夢に見そうだ・・」

「でもさすがサバーナだな。令嬢がそこまでやるとは…。」

「短剣で刺されていた男に見覚えがある・・・」

「誰だ?」

「ベック伯爵が使ってる傭兵の男だ。俺も襲われた事がある。毎回逃げられてたが、エルザが捕まえてくれた…。
もし、エルザが逃げ出さなかったら・・・」

「待て、て事は母上か⁉︎」

「だろうな…ベック伯爵はレベッカ様の子飼いだからな。
どこで知ったんだか…俺のせいだな、エルザが襲われたのは・・・」

「その男生きてるのか?」

「まだ死んではいない。今治療を受けてる。」

「今すぐ迎えに行かせる。その男母上に知られたら殺される。俺は父上に報告してくる。
あの女は今すぐ幽閉する。」

「俺がいなくなれば良いのかもな・・・」

俺はクリスに飛び交って、胸ぐらを掴んだ。
「お前が今度そんなこと言ったら俺が死んでやる。そしたらお前は王太子に返り咲きだ。
それが嫌なら二度と言うな!」

「好きな女があんな姿で倒れてたのを見つけた俺の気持ちが分かんのかよ!
顔中血だらけで、傷だらけで、服はボロボロで、そんな姿で倒れてんの見て、自分のせいだって分かった時の俺の気持ちが分かんのかよ!」

「分かんねーよ、そんなの!でも、エルザは戦った。1人で、たった1人で戦って勝って倒れてたんだ!
テメェがメソメソ泣いてたって、なんも変わんねえんだよ、泣く暇あんなら、今からできる事やれや、クソが!」

「ウッ・・・ウッ・・ウッ・・・」

「クリスの気持ちもなんとなく分かる。
でも今ここで折れたらあの女の思う壺だ。
もう少しであの女も終わる。
だからもう少し、もう少しだけ頑張れ。頼む。」



クリスを残し、父上の執務室へ向かった。


「父上、もう限界です。クリスがもう限界です。俺も我慢の限界です。
今すぐ幽閉しないのなら俺はあの女と差し違えても殺します。
良いですね、父上。」

「何があったのかを説明もせず、そう怒鳴るな。何があった?」

「あの女の子飼いがヒーナス侯爵夫人を攫いました。夫人は自力で逃げましたが、怪我を負い侯爵邸で治療中です。
夫人は・・・クリスの初恋の相手です。
クリスも捜索に加わり、発見したのはクリスです。好きな女が自分のせいでボロボロの姿を見て、クリスは壊れてしまいそうなんです。
クリスは自分さえいなければと思っています。
一番悪いのは貴方達夫婦なのに、なにもしてないクリスが苦しんでいるのが、もう俺は我慢が出来ません。
俺もクリスも王位なんかいらない。
これ以上、あの女に好き放題させるなら、俺達は消えます。」

「・・・・・・・・・」

「父上がクリスよりもあの女が大事だというなら、お二人で幽閉塔に行って下さっても構いませんが。」

「私はお前もクリスも大事だ。
レベッカは・・・私が歪めてしまった責任がある。いつかクリスを許す時が来ると、「父上、何も悪い事をしていないクリスを何故母上が許さなければならないのですか?
クリスが生まれた事が悪いのなら、作らなければ良かったんです。
側妃なんか娶らなければ良かったんです。
母上にもっと納得させれば良かったんです。
お前が正妃だと、お前の生んだ子も愛していると、生んでくれてありがとうと、一度でも言ってあげれば良かったんですよ。
貴方は何もしなかった。
労いもせず、感謝もせず、愛しもせず、たった一言、いつもありがとうと言ってあげたら、あの人は頑張れたのに、それすらもしない。
俺達にはまだ貴方が必要だと思ったから、あの人だけを幽閉しようと思っていましたが、こんなにポンコツだったのなら、2人仲良く幽閉されれば宜しいのでは?
ほんとに貴方達にはウンザリだ。
親らしい事も、愛情も、何ももらえなかった。もらったものは、一番いらない王位。
ほんの少しでも俺達に愛情があるなら、最後のプレゼントとして母上を処罰して下さい。
出なければ俺が母上を殺します。
本気ですから。

証拠は揃ってるんですよね?だったら今すぐお願いします。

クリスは優しいから貴方達を許すだろうけど、俺は母親を殺すと思わせるような生活をさせた貴方達の事が心の底から嫌いです。」

「・・・・・・・・・分かった。」

挨拶もせずに執務室を出た俺は、ダニエルに呼び止められた。

「全く貴方は容赦がない。
私もいたんですから、もうちょっと気を遣って下さい。

それに貴方達には分からない陛下は陛下の悩みも後悔もあるんです。
まだまだお子ちゃまな貴方には分からないでしょうが。」

「分かってる。俺がまだまだなのは分かってるから、まだ父上には頑張ってもらいたいんだよ。
でも、もう母上は害にしかならない。」

「陛下、落ち込んでいますよ、息子にあれだけ罵られて。」

「今度・・・謝る…」

「そうして下さい。」


ハア…分かってるけど、言わずにはいられなかった…。

だってずっとクリスだけが俺の家族だったんだ。

でもこれで少しでもクリスが楽になるなら、
クリスが少しでも幸せになれるなら、
俺は母親だろうが、父親だろうが、切り捨てる。
最後まで謝る事も出来ないあの人の代わりに俺が出来るクリスへの贖罪だから。



あれから父上は、母上を幽閉塔に送った。
父上は、俺が言った事を全て母上に伝えたそうだ。
泣きながら俺に謝っていたが、最後までクリスに謝罪の言葉はなかったそうだ。
父上は俺達が独り立ち出来るまでは国王としていてくれる事になった。

俺は、母上が幽閉塔に出発する前日に、会いに行った。

「貴方には、もう会う気はなかったのですが、最後に何を言うのか聞いてみたかったんです。」

「ブライアンは私が生んだのに、いつでもリーシャ様、リーシャ様だった。
私なりに愛していたのに、私よりもクリスハートを大事にした。
陛下もそう。
私から愛する人を奪うのはいつもあの2人。
憎むなという方がおかしいでしょ?
だから、私は私がした事を後悔なんかしていないし、謝罪もする気はないわ。」

「あんたは最後まで自分の事ばっかりだな。
自分を愛してくれない。
大事にしてくれない。
結局、自分が一番じゃないから許せないんだろう?
その自己中な考えで5歳のクリスを殺そうとした。
あんたは人間のクズだ。
国民には好かれていたのかもしれないが、俺にとっては母親なんかじゃなく鬼か悪魔だった。
俺をこんな風にしたのはあんただ。
それを全部クリスのせいにして、いつまでもいつまでも、自分の思うままになるまで暴れてガキみたいに我儘放題。
とっととくたばれクソババア。」

「あ、あ、あなたって人は・・・」

「あ、そういえばなんでヒーナス侯爵夫人を攫ったんだ?誰に何を聞いた?」

「御者に聞いたのよ、クリスの初恋はヒーナス侯爵夫人だって…」

「御者だったのか…ホント、くそだな。」


翌日の夜明け前に裏門から出発した母だった人は、途中馬車の車輪が外れ、崖から落ちて死んだ、御者も一緒に。

その馬車の御者はあの時の男だった。










────────────────────────
いつもお読み下さいありがとうございます。

今日一気に完結まで投稿します!
後4話です。




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