隠していない隠し部屋

jun

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番外編 クリスハートの結婚

結婚式

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今日はフランシスと俺の結婚式だ。
朝早くから準備しているフランシスとは違い、俺は早々に支度を終えブライアンと控え室で喋っていた。

「とうとうクリスも既婚者かぁ~。」
とブライアン。

「まあな。お前もやっと婚約者決まったじゃないか。」

「これが落とし所って感じかな。国内には王妃になれる令嬢は残ってなかったからな。
気の強さはヒーナス侯爵夫人に似てるぞ。」

「ヒーナス侯爵夫人…そうか…良かったな。」

「クリスはまだ忘れてないんだな…エルザの事。」

「・・・・・・・」

「結婚式に言う事じゃないな、とにかく結婚おめでとう、クリス。」

「・・・ああ、ありがとう、ブライアン。」

女々しいな俺・・・。

そんな事を考えていた時、宰相のダニエルが
「クリス様、フランシスをお連れしました。」
と言い控え室にフランシスと二人やってきた。

フランシスはアイボリー色のオフショルダーのドレスを着た姿はとても綺麗だった。
いつもより濃いめの化粧も似合っている。

「とても綺麗だよ、フランシス。」

「ありがとうございます、クリス様。
クリス様もとっても素敵です。」
と頬を染めて話すフランシスはとても可愛らしい。
だが、俺の気持ちは高揚しない。
いつもの笑顔でフランシスを褒める。


最低だな、俺…。



そんな俺を見てブライアンは苦笑している。
ダニエルも小さくハァとため息をついている。
フランシスはどう思っているんだろうか。
俺の気持ちを知ったらフランシスはどうするのだろう。
結婚式当日になっても、俺は妻となる女性を優先して考えていない事に気付いているんだろうか。

作った笑顔でフランシスと話す自分を嫌悪した。


結婚式が終わると、結婚披露パーティーとなる。
フランシスと俺は別の衣装に着替える為、一旦別れた。

今のうちに軽く何かを摘めと、軽食が運ばれたが食欲はない。
俺は夜の事を考えていたから。
フランシスとの初夜の事が何より身体を重くした。

あの騒ぎから女は抱いていない。
抱きたいとも思わなかった。
今でもそう思っている。
なのに今夜はフランシスを抱かなければならない。
ちゃんと勃つだろうかと心配になる。
そんな心配をしているなどフランシスは思ってもいないだろうな…。

俺は幼い時から命を狙われ、母は殺され、俺を無条件に愛してくれるのは異母弟のブライアンだけになった。
父も愛してくれてはいたのだろうが、甘える事も出来なかった幼少期の記憶は根強く、父を父とは思えなかった。
母が死んでからは、王太子としての俺を慕ってくる者しかおらず、俺自身を好きになったのはフランシスだけだった。
たが、そんなフランシスをどうしても異性として思えなかった。

俺にとって唯一気を抜ける相手でもあったから婚約者となっても嫌ではなかったが、王太子を降りたかった俺とは結婚してはいけないと思った。
だからあんな事を繰り返したのにフランシスは俺から離れなかった。

愛してあげたいが、今更それも出来ないだろう。
でも、健気なフランシスを大切にしたいとは思っている。




ボォーっと一人で考えている所に、俺が心配なのかブライアンが顔を出した。

「なんとも情けない顔だな、クリス。」

「そうかもな…きっと情けない顔をしてるだろうな…」

「なんだよ、何悩んでんだよ。」

「今夜の事を考えてた。
俺、全く性欲ないんだけど、勃つのかなってさ。」

「ハア⁉︎何それ⁉︎性欲ないって事あんの⁉︎」

「ああ、裸の女が隣りに寝てても欲情しないな。」

「ダメだ・・・重症だな。パーティーでエルザ見ても顔に出すなよ!
フランシスがあまりにも可哀想だ。」

「出すわけないだろ!それくらいの常識も誠意もある!フランシスを大切にしようとも思ってる。」

「だったら良いけど。不安なら弱い薬置いといてやるから、本番前に飲め。」

媚薬使えってか。
でも、有り難い。

「そんなに嫌なら婚約解消すれば良かったのに。」

「今までずっとフランシスは俺を待っててくれたんだ、結婚するのが俺の責任だ。」

「責任感で結婚される方も可哀想だけどな。
ま、夫婦になってからゆっくり愛せば問題ないんじゃないの。」

「ああ、ゆっくり仲を深めていくよ。」

こんな会話ばかりしている俺達って酷い奴らだな…。

フランシスを迎えに行くようにと声がかかり、ブライアンとは別れた。

フランシスを迎えに行くと、俺の髪と瞳と同じゴールドのドレスを着たフランシスがいた。
キッチリ髪を結い上げ、華美過ぎない上品な姿は美しい。
「フランシス、とても似合ってるよ、綺麗だね。さあ、行こう。」

フランシスの手を取り、会場へのドアの前に立つ。

父上とブライアンは既に会場入りしている。

これから延々とお祝いの言葉をひたすら聞かなければならないのかと思うとため息が出そうだが、グッと堪えフランシスと共に笑顔で入場した。


父上の横に並び、父上が俺達の結婚が成立した事を隣りで話している。
俺は真っ直ぐ前を見ていた。

探そうとしていた訳ではない。
だが、直ぐに見つけてしまった。
美しい銀髪を。

ほんの一瞬腕に力が入った。
フランシスはその一瞬を見逃さなかったのだろう。
俺の腕に添えていた手に力が入ったのが分かった。
“しまった”と思ったが、もう遅い。
だが相手が誰かは分からないだろう。
視線だけフランシスに向けると笑顔ではいるが、添える手の力は抜けていない。

ごめん、フランシス…。
傷付けるつもりはなかったんだ。


表面上、俺達は笑顔で大勢の祝福を受けている。
高位の者からの挨拶は、ヒーナス侯爵夫妻の番になった。

久しぶりに見る彼女は相変わらず美しい。
俺は必死にいつもの胡散臭い笑顔で対応した。
いつまでも見ていたいが、それも出来ない。

ほんの数分、彼女を間近で感じられただけでこんなにも気持ちは昂る。

誰にも悟られないように挨拶を終わらせた。


その時の俺は自分の事でいっぱいで、フランシスの手が震えていることに気付いていなかった。















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