隠していない隠し部屋

jun

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番外編 クリスハートの結婚

溝は埋められても

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それからも俺達の間に出来た溝は埋められる事もないが、顔を合わす回数は増えた。
身重の妻をいつまでも放ってもおけず、一日一度は顔を見せるようにした。

フランシスはもっと一緒にいたいようだが、俺がダメだった。
大切にしようと思う気持ちは変わらない。
フランシスが懐妊したと報せを聞いた時、友愛から親愛へと変わる分岐点だったんだと思う。
あの時俺は本当に嬉しくて、俺とフランシスの子供が出来た、これからは子供も増えていくのだろうと喜んでいた。
でもフランシスの言葉で、俺は自分のしてきた事のツケがここで来たのかと、
俺は結婚するべきではなかったのだと気付いた。
フランシスに侮辱された事に腹を立てていたが、俺が間違ったのだ。
フランシスが俺を想ってくれていたのなら尚更、どんなに時間がかかろうと婚約を解消させなければいけなかった…それに俺はエルザの事を忘れていなかったのだから。
結局俺はフランシスを傷付けただけだった。
これから愛していこうと思った時、フランシスに楔を打たれた事で、分岐点は親愛の道は閉ざされ、友愛への道に俺は進んでしまった。
だが、俺に出来る形でフランシスと子供は大切にしていこうと思っている。
そう思い、俺はフランシスの部屋に通っている。




「フランシス、今日の体調はどうだろうか。
お腹も大きくなってきたな、順調そうで良かった。」

「はい。悪阻も落ち着きましたし、食欲も戻りました。」

「そうか、良かった。でも無理はしないように。また、夜にでも顔を出す。」

「あの、クリス様、悪阻も治りましたので食事を一緒にとりませんか?お食事がダメならお茶の時間をご一緒にいかがでしょうか。」

「食事は時間が合わない事もあるから、お茶ならば時間を作る。それでいいだろうか?」

「はい!嬉しいです!」


こうしてお茶を二人で飲むようになったが、結婚する前と違って、フランシスは俺の顔色を伺うようになり、ほとんど会話がない。

「クリス様は・・・まだ怒っておられるのでしょうか…」
と恐る恐る聞いてきた。

「いや、怒ってなどいないが。そう見えるのか?」

「クリス様は…私の名前を呼ばなくなりましたから・・・」

そういえばあの時から名前を呼んでない。
無意識にフランシスの名を呼ぶ事を拒絶していたようだ。

「そんな事はない。会う機会が少なくなって呼ぶ機会も減ったからだろう。」

「そう…ですか…。」

「本当に怒ってはいないのだが、あの時、子が出来たと喜んでいた私に、フランシスがそれまでの私の罪に罰を与えたんだろう。
私に家族が出来る幸せなど許さないと言われたような気がしたのだ。
納得出来たから怒ってはいない。
確かに間違ってはいないのだから。」

「違います!私はそのような意味で言ったのではございません!」

「分かっている。フランシスはあの時、嫉妬したのだろう?
でも、私がしてきた事は消えない。
女性達を傷付けてきた事に違いないのは確かだ。
済まなかった、フランシス、私は結局君を傷付けただけだった。」

「違うのです!私は覚悟が足りませんでした。誰よりもクリス様を分かっているつもりが誰よりも知らなかった私がいけないのです。
何故あのような事をするのかを、きちんと考えればならなかったのに、嘆くばかりで何も知ろうとしなかった。
それでも私はクリス様が好きだと、そんなクリス様を支えるのは私だと、勝手に思い込んでいたのです。
私がクリス様に執着していただけなのです…。」

「好きな女を忘れられずにいる時点で、フランシスとは結婚すべきではなかったのだ。
だが、俺を待っていてくれたフランシスを大切にしようと思ってしまった。
済まなかった、もっと其方を幸せにしてくれる男は他にいたはずなのに、俺と結婚させてしまった。」

「私はクリス様と結婚した事を一度も後悔した事はございません!」

「ありがとう、そう言ってもらえて嬉しいよ。
だからこれからもフランシスの事も、生まれてくる子も大事にする。
それは間違いない。
だから身体も心も大事にして欲しい。」

「最後に一つだけお聞かせ下さい。
クリス様は私の事をどう思っているのですか?」

「フランシスは私の大切な妻だ。
それ以上でもそれ以下でもない。」

「好きだとも愛しているとも言っては下さらないのですね…。
それはまだあの方を思っているからなのですか…」

「彼女を忘れる事はないだろうが、もう心が揺れる事はない。
私も彼女も既婚者で、もう関わる事もない。
二度と不貞などしない。」

「ではいずれは私を愛して下さいますか?」

「それは・・・分からない。
あの時…フランシスの妊娠が分かった時、フランシスを愛おしいと思った。
子供とフランシスを幸せにしようと思っていた。
だが、フランシスの言葉で思い知らされた、私にその資格はないのだと。」

「・・・・私は自分で自分の幸せを失くしてしまったのですね・・。
あの時…どうしてあんな事を言ってしまったのでしょう・・取り返しのつかない事をしてしまいました・・・私は…クリス様を愛しているのに・・・・・。」

「フランシス、これから私は君を大切にしていくのは変わらないし家族として愛していく。
フランシスの事はブライアンと同じように好きだ。だが、同じベッドに寝る事は出来るが、もう子作りの為だけの行為は出来ない。
抱きしめる事は出来るが、それ以上の行為はしないが、それでも構わないか?」

「私を家族としては愛しはするけども、妻としては愛せないという事ですか?」

「私が悪いのだ。私が結婚した事が間違いだった。
奪われ続けた大切なものを、増やしていこうと思ってしまった。
その中にフランシスを入れてしまった…フランシスが求めていたものは“大切”ではなく“愛”だったのにな…。
あの時確かに愛はあったのに、今はなくなってしまった。
フランシスが悪いのではない。
私が全て悪いのだ…。」

「いえ、私が悪いのです…。
クリス様が女性とのお付き合いを辞めた時から、話し方が変わってしまった時に諦めれば良かったのです…。
前はもっと気さくに話して下さっていましたし、“フラン”とも呼ばれなくなりました。
“俺”ではなく“私”となり、話し方も王族らしくなりました。
私はそれを、私と結婚する為に直されたのだと思ってしまいました。
でも違ったのですね…。
クリス様は私を大切にしようとそうしてくれたのかもしれませんが、無意識に明確に私との距離をとったのでしょう…。
本当に私と共に過ごそうと思うなら、昔のようにフランと呼び、『フランはバカだな』と頭を撫でてくれていたでしょうに…。
そんな事にも気付かず一人で喜んでいました…。

私が離れなければいけなかったのに…。
クリス様にこそ、もっと幸せになれる方がいたかもしれないのに…。
ごめんなさい…ごめんなさい、クリス様…」


俺達は出来た溝を埋める事は出来ても、それ以上の修正は出来なかった。















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