王子と従者と私〜邪魔なのは私だった

jun

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説得



シリル視点


何も言わない俺に変わりケネスがリジーに話しかけていた。
必死に俺の話しを聞いてあげて欲しいと土下座して頼んでいる。
俺の為にそんな事をさせてしまったと手を出そうとして、医務官の汚物をみるような視線でなんとか手を止めた。
リジーを見ると、真っ白な顔は何の感情もない顔をして俺達を見ていた。
何を言ってもリジーには全く届いていないようだった。
俺は何度もリジーを愛している、婚約は解消しない、一度最初から説明させて欲しいと何度も言ったが、リジーの表情が変わる事はなかった。

「シリル殿下と二人きりでなら…日を改めて話しを聞きます。
近日中に連絡はします。我が家に来て頂きたいのですが、構わないでしょうか?
おそらくケネス様は我が家には入れないと思いますので護衛は別の人にお願い出来ればと思います。
では私はこれで失礼致します。」
と俺達の反対側からベッドを降り、医務官に連れられ医務室を出て行った。

俺もケネスも見た事もないリジーの態度に動けなかった。
俺にもケネスにも明るく親し気に話していた今までのリジーはいなかった。
俺の事を殿下と呼び、ケネスを様付けで呼んだ。
ケネスは俺の従者だが平民だ。
リジーは平民でも俺の従者としてケネスの事もきちんと敬意をもって接していたが、友人のように話していたし、慕っていた。
一度もケネスを“ケネス様”なんて呼ばなかった。
まるでケネスが俺の将来の伴侶とでも言うような態度にどうしていいのか分からなかった。
それはケネスも同じだったようで、土下座したまま震えていた。

そのうちリジーを送っていった医務官が戻ってきた。

「いつまでここにいるつもりだ!とっとと出てけ!さっさと家帰って二人で乳繰りあって慰めてろ、クソが!」
そう怒鳴り俺達を医務室から叩き出すとドアが壊れるほどの勢いでドアが閉まった。

教室に帰ると何故かライアンが俺達を待っていた。
「どの面下げて彼女に会ったんだかな。
その顔色だとようやくお前らが学院でしていた事がどれだけ酷い事だったのか分かっただろう。
皆んなが知っていて彼女だけが知らなかった。
お前らがヤってる声は全校生徒が知ってたのに、皆んなが彼女に聞かせないように、サロンに行かせないようにしてた。
皆んなが同情してた。
あんなにお前達を慕ってたのに、お前ら隠れて彼女を裏切っていた。
だから俺は彼女に昼休憩のサロンとだけ教えた。
それでも彼女は何の事か分からなかったから行かなかった。
俺が言ったから行ったわけではないんだろうが、多分ドアを開けようと思ったのは俺が言ったからだろう。
自分だけが知らなかった事を確認するために。
でも何も知らずにお前達を慕っていた彼女が可哀想で堪らなかった…。」

それだけ言うとライアンはカバンを持って教室を出て行った。


ライアンに何も言い返せず俯く俺に、
「帰ろう…」とケネスに声をかけられて俺達も教室を出た。

その日は俺もケネスも自分の部屋に籠り、今日会った事を思い出し、唇を噛んだ。
自分がしてきた事、リジーの姿、態度、医務官の言葉、ライアンの言葉、それが頭の中でグルグル回っていた。

眠る事も出来ず朝を迎え、朝食も喉を通らず、学院に行く為部屋を出るとケネスがいた。
ケネスも眠れなかったのか目の下に隈が出来ていた。
いつもなら体調を気遣い、ベッドに寝かせてから学院に行くのに今日は何も言えなかった。

二人で学院へ行くと教室の入り口にエリザベス嬢が仁王立ちして待っていた。
「おはようございます、シリル殿下、ケネス。ブリジット様からお預かりした殿下へのお手紙です。
返事は結構だそうです、では。」

手紙を俺に押し付けさっさと自分の教室に戻っていった。
彼女が手紙を渡しに来たということはリジーは登校していないのだろう。
それか余程俺達には会いたくないか…。
教室の自分の席に座り、手紙を読んだ。
リジーの綺麗な字で書かれた真っ白な便箋を見て、またショックを受けた。
いつもはリジーの瞳の色と同じ綺麗なグリーンの便箋にいつも使っている香水が微かにするのに、この便箋は侯爵家の家紋が入った公用の便箋。
宛名は“シリルへ”ではなく“シリル・ハーネスト第二王子殿下”。
差出人は“リジー”ではなく“ブリジット・スケイル”。
内容は定型の挨拶文とお日付と時間。
待っているとも書いていない素っ気ない手紙は、リジーの俺に対する嫌悪以外の何物でもないと思えた。
顔色の悪い俺をケネスが心配気に見ていたので、「明日、いつでも良いそうだ…。悪いが明日は学院は休むと後で伝えて欲しい…。」
と伝えた後、授業の内容など頭に入らず、食欲もないので午後は早退した。

ケネスに何も話しかけずに部屋に入ろうとすると、
「シリル、大丈夫?何か食べないと…。
昨日も食べてないし…。いつ討伐依頼来るかも分からないよ、少しだけでも食べよう、後で何か持って行くから。」と気遣うケネスに「分かった」とだけ言うと一人、部屋に戻った。

制服を脱ぎ捨て部屋着に着替えてベッドに横になるが、徹夜したのに眠くはならなかった。
しばらくするとケネスが軽食とお茶を持ってきてテーブルに置いたが、起き上がることすらしなかった。
ベッドの側に来たケネスが俺の頭を撫でながら「少しでも食べてね」とだけ言うと部屋を出て行った。
今までならケネスと一緒にお茶を飲んで軽食を食べた後、夕食まで執務に取り掛かるが何も手につかない。

リジーは俺の番だ。
結婚したら俺の逆鱗をリジーに飲ませてから初夜を済ませれば“番”成立だ。
番だから好きなのか、リジーだから好きなのか最初は分からなかった。
俺にはケネスがいるから。
でも一緒にいるうちにリジーの事を好きになった。
公の場では完璧な美しい淑女だが、普段はコロコロと表情を変え、明るくて可愛いリジーを愛おしいと思い、俺とリジーの子供が早く欲しいと思った。
熱が溜まった時は本当は婚約者のリジーに頼むのが一番だったのだろうが、16になったばかりのリジーには頼めなかったし、ケネスがいるならそれで良かった。
でもいつしか熱とは関係なくケネスを抱くようになると、見境なく抱いた。
誰の目も気になどしなかったが、リジーには知られたくはなかった。
体質の説明もしなければと思っていたが、ケネスとの事を話すのは躊躇われた。
リジーに嫌われるてしまうかもと思うのと、ケネスと別れろと言われるのが嫌だったから。
リジーに嫌われるのも、ケネスと離れるのも嫌な俺はバレなければこのままでも良いのではと思った。
結果がこれだ。

リジーと結婚する為にはケネスを手放せば解決するが、討伐がある限りケネスは必要だ。
それをリジーに分かってもらえるよう説得出来なければ婚約は解消されてしまう。

俺はケネスが用意してくれた軽食を食べ、お茶を飲み干すと執務を終わらせ、明日リジーへの説明を簡潔に分かりやすくする為の準備を深夜遅く迄かかって終わらせた。
4時間ほど寝た後シャワーを浴びてから部屋で朝食を取った。
昨日軽食を持ってきてからケネスには会っていない。
一度来たようだが返事はしなかった。

料理長に頼んでリジーの好きな焼き菓子を包んでもらい、非常識にならないギリギリの時間まで待ち、リジーの待つスケイル侯爵家へ馬を走らせた。

門の前まで行くと、門番がお待ち致しておりましたと開けてくれた。
馬を預けると侯爵家の執事が玄関を開けて俺を待っていた。
「竜王リューク様に忠誠を。
シリル殿下、お待ち致しておりました。
ブリジット様がお待ちです。」
今までこんなに静かな出迎えはなかった。
いつもはリジーが待っていて、皆がにこやかに俺を迎えてくれた。
今日は屋敷の中には俺を案内する執事以外誰の姿も見えなかった。
いつものリジーの部屋ではなく、来客用の応接室に案内された。

そこには窶れてはいるが凛として立つリジーが立っていた。


「竜王リューク様に忠誠を。

お待ちしておりました、シリル第二王子殿下。」


こうして俺の長い説明と謝罪と言い訳が始まった。















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