王子と従者と私〜邪魔なのは私だった

jun

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泣いているのは

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綿密な計画とシリルが団長を務める第二騎士団からケネス始め10名、サーシャ様の護衛として近衛団長と近衞騎士10名、そして私で裏門から湖へと出発したのはまだ夜も明けていない時間だ。
場所は目立つから全員馬での移動になる。
私も馬には乗れるが、さすがに騎士団の騎士には追いつけないのでサーシャ様、ケネス、団長のザイル様の馬に交代で乗せてもらう事になった。

湖近くの森まで休憩なしなら1日半かからず行けるが、森に入ると徒歩移動なので私が足を引っ張る事になるが、最悪誰かに抱えてもらってでも目的地に連れて行ってもらうと我儘を言って、なんとか湖まで行ける事になったのだ。

病み上がりの身体にはかなり辛かったが、とにかく1日でも早く湖に行きたかったから苦ではなかった。
湖に近付く毎に女の子の啜り泣きが聞こえてきたから。
それはケネスも同じだったようだ。

ケネスの馬に乗せてもらってる時に、私とケネスは同時に身体を揺らした。

「何か聞こえた?」と聞くと、
「はい…泣いているような声が聞こえました。ブリジット様も?」とケネス。

「聞こえた。でも他の人は何の反応もしないね…気のせい…かな。今も聞こえるけど…。」

「はい。今も聞こえます。」

しばらくそのまま移動したが、少しずつその泣き声はハッキリしてきた。

私とケネスは周りの第二騎士団の人達に手で前を走るサーシャ様に知らせる為にスピードを上げて前へ移動した。

私達の気配を察知したザイル様が腕を上げて停止するよう合図した。

サーシャ様の近くに移動したので、ザイル様も来てくれた。

「サーシャ様、私とケネスには女の子の泣き声が聞こえているのですが、サーシャ様は聞こえていらっしゃいますか?」と聞くと、周りが騒ついた。

「いや、何も聞こえない。ザイルはどうだ?」

「いえ、私にも聞こえません。おそらくサーシャ様に説明して頂いた仮説が正しかったのだと思います。
おそらく湖で命を落とした姫が泣いている声なのでしょう。その声が聞こえるブリジット様とケネスが今世の“遠い国の姫”と“隣国の姫”なのでしょう。
このまま2人を近付ける事が吉なのか凶なのか判断がつきません。」
とザイル様が言うが、ここまで来たのだ。
1人で泣いてる女の子を助けたいと思うと私が言うと、
少し悩んだサーシャ様が、
「このまま行こう。もうすぐ森だ、この2人が行く事に意味があるんだと思う。
一度行方不明になった姫も戻って来れた。
行き当たりばったりになるが、2人に任せるのが得策だと俺は思う。
危険な事があると思うが、ブリジット、大丈夫か?」と決断してくれたので、「大丈夫」と伝えた。

森の手前で長めの休憩を取った後森へ入る。

みんな直に座り、各々水を飲んだり、携帯食を食べたりしている。
私も疲れて同じように直に座り足を伸ばした。

「ブリジット様、直に座っては身体を冷やします。少しでも身体を休ませる為にもこれを敷いて下さい。」とケネスが毛布を渡してくれた。

「ありがとう、ケネス。ケネスも休んで。私は大丈夫だから。
何だか声が聞こえ出してから身体が楽になったの…不思議ね。」
「私もです。身体が楽になりました。」

そうなのだ。今も聞こえる泣き声は、時折“ごめんなさい…ごめんなさい”と謝る言葉が聞こえ始めるようになった。
その後から何故か身体が楽になった。
まるで何かが私達を守っているように。

「とにかく私達に早く来て欲しいみたいだね。早く行ってあげよう、こんなに泣いてるのに放って置けないもんね。」

「はい。泣いている女性を助けないのは騎士道に反しますので。
森の中は道も悪いです。頑張って歩きたいブリジット様の気持ちは分かるのですが、私が背負います。
一刻も早く行ってあげましょう、ブリジット様。」


休憩が終わり、さあ出発となった時、突然私とケネスは目の前が真っ暗になった。
一瞬の事で何が起こったのか分からず隣りにいたはずのケネスの腕にしがみついた。
ケネスも剣を抜こうとしたのか、カチャっと音がした。
殺気を感じるような気配はない。
でもずっと聞こえていた泣き声がすぐ側で聞こえた。

目が慣れると少し先に蹲み込み、顔を手で覆い泣いている私と変わらない位の女性がいた。
隣りのケネスも気がついたのか、剣は抜かなかったが手はいつでも抜けるように剣の柄から外さない。
私も邪魔にならないように、ケネスを掴んでいた手を離した。

おそらくこの人は“隣国のお姫様”だろう。
この人が魔獣を生み出していたとはとても思えない。

「大丈夫、ですか…」と恐る恐る声をかけると、

「ごめ、なさい・・わ、たし・・・もう・・いや、なの・・・・もう…誰も、泣かせたく、ないの…」

誰を泣かせたのかを聞くと、

「何、年も・・何、十年…も、何百、年も…彼の方と、彼の方の…大切な方を、苦しめて・・泣かせて・・・死なせて・・
もう…止めたいのに…私には止められない…
だから…助けて、誰か食べ助けてって…ずっと呼んだの・・・1人だけ・・ここに来てくれた人がいたわ…私の話しを聞いて…私のお墓を作ってくれたの…その時だけはとても嬉しかったけど…しばらくしたら…また悲しくなって…もう…帰りたい…
彼の方の顔も、お姫様の顔も、誰の顔も覚えていないの…名前も…自分の名前も…大好きだった彼の方の名前も声も思い出せない…
ただ…帰りたいの…もう…終わりたいの…」

段々落ち着いてきたのか、話すのもしっかりしてきたようだ。

「お姫様、私達に出来る事はありますか、どうしたらお姫様を帰してあげられますか?」
と聞くと、

「帰りたい・・・でも…私は…姫様への嫉妬と…彼の方の裏切りに…悲しくてここに来たんじゃないの…お2人に私と同じ思いをすればいい、そう思いながらここに身を沈めてしまった…死んでしまった後も楽にはならなかった…全部…見えていたから…今までずっと…。

彼の方と姫様と私の魂を持った人達がどうなったのかも…。
貴方は姫様なのね…あちらの方は私…。
彼の方の魂を持った人は今は泣いているわ…私のせいね…私が忘れてしまったから…。」

泣いてる?シリルが泣いてるの?

「王子様の魂を持った方は、どうして…泣いているのですか?」
震えそうになる声を必死に堪えた。
そうでないと泣いてしまいそうだから。

「貴方を忘れてしまった事を…また傷付けてしまったと…思い出したいと泣いているわ…。
いつも・・・いつも・・泣かせてしまった…彼の方の事も…姫様の事も…私の事も…。
せめて新しい私達は幸せになってもらいたいのに…私が…私が、人ではなくなってしまったから…」


お姫様がそう言った後、突然お姫様は真っ黒な竜になった。

竜に変わる時に開いた羽の風圧で私達は飛ばされ、ケネスと離れてしまった。
竜の咆哮に気を失いそうになった。

口を大きく開け、私を見ていた竜の口の中は真っ赤な炎が見えた。
咆哮で耳をやられたのか、ケネスが何かを言っていたが聞こえなかったし、身体は動かなかった。


私は段々大きくなる炎を見つめるしかなかった















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