手紙〜裏切った男と浮気を目撃した女が夫婦に戻るまで〜

jun

文字の大きさ
40 / 68

もう一度 シモン視点




泣き疲れたのか気を失ったのか、シャルがくったりしたと思ったら眠ってしまった。

「記憶を失くして目覚めてから、皆さんの事や自分の事の情報を詰め込み過ぎると混乱してしまうかもしれません。
2人ずつ位からお会いするのをお勧めします。
今は眠っているだけなので心配いりませんが、決して詰め寄るような事はなさりませんように気をつけて下さい。

記憶がないという事は、本人にとっては皆さん赤の他人と同じです。その他人から家族だからと詰め寄られたら恐怖でしかありません。

かと言って他人のように接せられたら家族ではなく他人としか認識しませんから、その辺は皆さんの対応に任せるしかないのですが、一番は気を使いすぎない事です。
今まで通りとまでは言いませんが、普通に接してあげて下さい。

シャルーナ様は今、この屋敷にと思っていると思います。
まだ家族と認識していません。
皆さんの心情を思うと心苦しいのですが、一気に押しかけるのは控えましょう。

先ずは御両親、お兄様御夫妻、シモン様とロビン様、フォックス侯爵御夫妻、クーファール前公爵御夫妻の順番での面会と致しましょう。
その後はシャルーナ様のご様子を見ながら面会する、という事でよろしいでしょうか。

決してシャルーナ様に負担をかけないように致しましょう。
わたくし共も全力でシャルーナ様の治療とケアを致します。
皆様もお辛いと思いますが全員で頑張りましょう。」

と専属医師のウィリアム医師が穏やかにだが力強く俺達に言った。

皆んな本当はシャルの側にいたいだろうが、寝室から出て行った。
俺は目覚めるまで側にいたいと頼み、ウィリアム医師が付き添うのを条件に残った。


ベッドの横の椅子に座り、シャルの顔に残る涙の跡を濡らしたタオルで拭いてあげた。

俺の事を忘れてしまったシャル・・・
他人のように俺を見たシャル・・・

ショックだった…あんな目でシャルに見られたことなど一度もなかったから。

やっと目覚めたと思ったら記憶喪失だなんて神様はどれだけシャルを苦しめるのだろう…。

次に目が覚めても「シモン」とは呼んでくれない…。
困った顔で俺を見るのだろう…。
申し訳なさそうに俯いてしまうんだろうな…。

抱きしめてあげることも出来ない。
泣かないでとキスしてあげる事も出来ない。

「シモン様・・・大丈夫ですか…」

小さな声でウィリアム医師が声をかけてきた。
泣いていたらしい俺にハンカチを差し出した。

「シモン様とシャルーナ様が私を“しぇんしぇー”としか呼べない頃からお二人を見てきました。
その頃から仲睦まじくて、私はお二人のそんな姿を見るのが大好きでした。

何処に行くのも手を繋ぎ、どちらかがお手洗いに行くだけで泣いていたお二人は微笑ましいものでした。

ちゃんと“せんせい”と言えるようになっても、“ウィリアム先生”と言えるようになってもそれは変わらず、お二人が結婚なさっても、ロビン様が生まれてもそのお姿は変わりませんでした。

お二人に何があったのかは私には分かりませんが、それでもその困難を乗り越えられたお二人です。
この困難も時間はかかるかもしれませんが、きっとお二人で乗り越えると信じております。

“しぇんしぇー”と呼んでいた頃は、恥ずかしながらも離れたくなくて、照れからなのかよく喧嘩なさっていました。
その頃のお姿がまた見れるのかもしれませんね。
だからシモン様、悲しむばかりではなく、もう一度、シャルーナ様とあの頃のような初々しい小さな恋人に戻ったと思って、シャルーナ様を慈しんで下さい。

夫婦だったのだと言い募るのではなく、初めて会って、一目で好きになった時のようにそこからまた始めたら良いのです。

もう一度恋人時代を味わえると思って、あまり思い詰めないで下さい、シモン様。」


小声で俺の背中を摩ってくれるウィリアム医師の優しい言葉が、俺の重く沈んだ気持ちを引き上げてくれた。

『シモン』と呼んでくれないなら、また呼んでもらえるようになればいいだけだ。

恥ずかしがって人前で手を繋ぐなと顔を赤くして怒っていたシャル。
その顔が可愛くて、怒られてもニコニコしてた俺をまた怒るシャルがもっと可愛くてよく喧嘩していたっけ。

そんなシャルが見れるなら記憶喪失だからと泣いているのは駄目だよな…。


「ありがとう・・・
俺の事を忘れてしまったのなら、また好きになってもらえるよう頑張るよ。
先生のおかげで元気が出たよ、さすがフォックス家の専属医師だな。」

と笑うとウィリアム先生も微笑みながら頷いた。

「きっとまたシャルーナ様はシモン様を好きになりますよ。
だって中身はなんら変わってないのですから。」と笑うウィリアム先生。

そうだ、シャルはシャルだ。
だったら何にも心配はいらない。

俺のシャルへの気持ちは何も変わっていないし、なんなら昔よりもシャルへの愛情は激増しているくらいだ。

俺は気持ちも新たにシャルの寝顔を見た。
顔に貼られたガーゼは取れたが、まだ痣や擦り傷が残る顔は痛々しい。
それでも俺の最愛の妻は可愛い。
その最愛の妻の左手を両手で握り、指に唇をあてた。

この状況で目が覚めたら、きっとシャルは目を見開いて俺を見るだろう。
そして真っ赤な顔で恥ずかしがり、手を離してほしいって言うんだろうな。
それとも怒るだろうか。

シャルの反応を楽しみにしながら俺は寝顔を見つめ続けた。





















あなたにおすすめの小説

あなたの妻にはなりません

風見ゆうみ
恋愛
幼い頃から大好きだった婚約者のレイズ。 彼が伯爵位を継いだと同時に、わたしと彼は結婚した。 幸せな日々が始まるのだと思っていたのに、夫は仕事で戦場近くの街に行くことになった。 彼が旅立った数日後、わたしの元に届いたのは夫の訃報だった。 悲しみに暮れているわたしに近づいてきたのは、夫の親友のディール様。 彼は夫から自分の身に何かあった時にはわたしのことを頼むと言われていたのだと言う。 あっという間に日にちが過ぎ、ディール様から求婚される。 悩みに悩んだ末に、ディール様と婚約したわたしに、友人と街に出た時にすれ違った男が言った。 「あの男と結婚するのはやめなさい。彼は君の夫の殺害を依頼した男だ」

理想の『女の子』を演じ尽くしましたが、不倫した子は育てられないのでさようなら

赤羽夕夜
恋愛
親友と不倫した挙句に、黙って不倫相手の子供を生ませて育てさせようとした夫、サイレーンにほとほとあきれ果てたリリエル。 問い詰めるも、開き直り復縁を迫り、同情を誘おうとした夫には千年の恋も冷めてしまった。ショックを通りこして吹っ切れたリリエルはサイレーンと親友のユエルを追い出した。 もう男には懲り懲りだと夫に黙っていたホテル事業に没頭し、好きな物を我慢しない生活を送ろうと決めた。しかし、その矢先に距離を取っていた学生時代の友人たちが急にアピールし始めて……?

10年前に戻れたら…

かのん
恋愛
10年前にあなたから大切な人を奪った

わたしは婚約者の不倫の隠れ蓑

岡暁舟
恋愛
第一王子スミスと婚約した公爵令嬢のマリア。ところが、スミスが魅力された女は他にいた。同じく公爵令嬢のエリーゼ。マリアはスミスとエリーゼの密会に気が付いて……。 もう終わりにするしかない。そう確信したマリアだった。 本編終了しました。

〖完結〗私はあなたのせいで死ぬのです。

藍川みいな
恋愛
「シュリル嬢、俺と結婚してくれませんか?」 憧れのレナード・ドリスト侯爵からのプロポーズ。 彼は美しいだけでなく、とても紳士的で頼りがいがあって、何より私を愛してくれていました。 すごく幸せでした……あの日までは。 結婚して1年が過ぎた頃、旦那様は愛人を連れて来ました。次々に愛人を連れて来て、愛人に子供まで出来た。 それでも愛しているのは君だけだと、離婚さえしてくれません。 そして、妹のダリアが旦那様の子を授かった…… もう耐える事は出来ません。 旦那様、私はあなたのせいで死にます。 だから、後悔しながら生きてください。 設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。 全15話で完結になります。 この物語は、主人公が8話で登場しなくなります。 感想の返信が出来なくて、申し訳ありません。 たくさんの感想ありがとうございます。 次作の『もう二度とあなたの妻にはなりません!』は、このお話の続編になっております。 このお話はバッドエンドでしたが、次作はただただシュリルが幸せになるお話です。 良かったら読んでください。

「本当に僕の子供なのか検査して調べたい」子供と顔が似てないと責められ離婚と多額の慰謝料を請求された。

佐藤 美奈
恋愛
ソフィア伯爵令嬢は、公爵位を継いだ恋人で幼馴染のジャックと結婚して公爵夫人になった。何一つ不自由のない環境で誰もが羨むような生活をして、二人の子供に恵まれて幸福の絶頂期でもあった。 「長男は僕に似てるけど、次男の顔は全く似てないから病院で検査したい」 ある日、ジャックからそう言われてソフィアは、時間が止まったような気持ちで精神的な打撃を受けた。すぐに返す言葉が出てこなかった。この出来事がきっかけで仲睦まじい夫婦にひびが入り崩れ出していく。

貴妃エレーナ

無味無臭(不定期更新)
恋愛
「君は、私のことを恨んでいるか?」 後宮で暮らして数十年の月日が流れたある日のこと。国王ローレンスから突然そう聞かれた貴妃エレーナは戸惑ったように答えた。 「急に、どうされたのですか?」 「…分かるだろう、はぐらかさないでくれ。」 「恨んでなどいませんよ。あれは遠い昔のことですから。」 そう言われて、私は今まで蓋をしていた記憶を辿った。 どうやら彼は、若かりし頃に私とあの人の仲を引き裂いてしまったことを今も悔やんでいるらしい。 けれど、もう安心してほしい。 私は既に、今世ではあの人と縁がなかったんだと諦めている。 だから… 「陛下…!大変です、内乱が…」 え…? ーーーーーーーーーーーーー ここは、どこ? さっきまで内乱が… 「エレーナ?」 陛下…? でも若いわ。 バッと自分の顔を触る。 するとそこにはハリもあってモチモチとした、まるで若い頃の私の肌があった。 懐かしい空間と若い肌…まさか私、昔の時代に戻ったの?!

心から信頼していた婚約者と幼馴染の親友に裏切られて失望する〜令嬢はあの世に旅立ち王太子殿下は罪の意識に悩まされる

佐藤 美奈
恋愛
公爵令嬢アイラ・ミローレンス・ファンタナルは虚弱な体質で幼い頃から体調を崩しやすく常に病室のベットの上にいる生活だった。 学園に入学してもアイラ令嬢の体は病気がちで異性とも深く付き合うことはなく寂しい思いで日々を過ごす。 そんな時、王太子ガブリエル・アレクフィナール・ワークス殿下と運命的な出会いをして一目惚れして恋に落ちる。 しかし自分の体のことを気にして後ろめたさを感じているアイラ令嬢は告白できずにいた。 出会ってから数ヶ月後、二人は付き合うことになったが、信頼していたガブリエル殿下と親友の裏切りを知って絶望する―― その後アイラ令嬢は命の炎が燃え尽きる。