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もう一度 シモン視点
しおりを挟む泣き疲れたのか気を失ったのか、シャルがくったりしたと思ったら眠ってしまった。
「記憶を失くして目覚めてから、皆さんの事や自分の事の情報を詰め込み過ぎると混乱してしまうかもしれません。
2人ずつ位からお会いするのをお勧めします。
今は眠っているだけなので心配いりませんが、決して詰め寄るような事はなさりませんように気をつけて下さい。
記憶がないという事は、本人にとっては皆さん赤の他人と同じです。その他人から家族だからと詰め寄られたら恐怖でしかありません。
かと言って他人のように接せられたら家族ではなく他人としか認識しませんから、その辺は皆さんの対応に任せるしかないのですが、一番は気を使いすぎない事です。
今まで通りとまでは言いませんが、普通に接してあげて下さい。
シャルーナ様は今、この屋敷にお世話になっていると思っていると思います。
まだ家族と認識していません。
皆さんの心情を思うと心苦しいのですが、一気に押しかけるのは控えましょう。
先ずは御両親、お兄様御夫妻、シモン様とロビン様、フォックス侯爵御夫妻、クーファール前公爵御夫妻の順番での面会と致しましょう。
その後はシャルーナ様のご様子を見ながら面会する、という事でよろしいでしょうか。
決してシャルーナ様に負担をかけないように致しましょう。
わたくし共も全力でシャルーナ様の治療とケアを致します。
皆様もお辛いと思いますが全員で頑張りましょう。」
と専属医師のウィリアム医師が穏やかにだが力強く俺達に言った。
皆んな本当はシャルの側にいたいだろうが、寝室から出て行った。
俺は目覚めるまで側にいたいと頼み、ウィリアム医師が付き添うのを条件に残った。
ベッドの横の椅子に座り、シャルの顔に残る涙の跡を濡らしたタオルで拭いてあげた。
俺の事を忘れてしまったシャル・・・
他人のように俺を見たシャル・・・
ショックだった…あんな目でシャルに見られたことなど一度もなかったから。
やっと目覚めたと思ったら記憶喪失だなんて神様はどれだけシャルを苦しめるのだろう…。
次に目が覚めても「シモン」とは呼んでくれない…。
困った顔で俺を見るのだろう…。
申し訳なさそうに俯いてしまうんだろうな…。
抱きしめてあげることも出来ない。
泣かないでとキスしてあげる事も出来ない。
「シモン様・・・大丈夫ですか…」
小さな声でウィリアム医師が声をかけてきた。
泣いていたらしい俺にハンカチを差し出した。
「シモン様とシャルーナ様が私を“しぇんしぇー”としか呼べない頃からお二人を見てきました。
その頃から仲睦まじくて、私はお二人のそんな姿を見るのが大好きでした。
何処に行くのも手を繋ぎ、どちらかがお手洗いに行くだけで泣いていたお二人は微笑ましいものでした。
ちゃんと“せんせい”と言えるようになっても、“ウィリアム先生”と言えるようになってもそれは変わらず、お二人が結婚なさっても、ロビン様が生まれてもそのお姿は変わりませんでした。
お二人に何があったのかは私には分かりませんが、それでもその困難を乗り越えられたお二人です。
この困難も時間はかかるかもしれませんが、きっとお二人で乗り越えると信じております。
“しぇんしぇー”と呼んでいた頃は、恥ずかしながらも離れたくなくて、照れからなのかよく喧嘩なさっていました。
その頃のお姿がまた見れるのかもしれませんね。
だからシモン様、悲しむばかりではなく、もう一度、シャルーナ様とあの頃のような初々しい小さな恋人に戻ったと思って、シャルーナ様を慈しんで下さい。
夫婦だったのだと言い募るのではなく、初めて会って、一目で好きになった時のようにそこからまた始めたら良いのです。
もう一度恋人時代を味わえると思って、あまり思い詰めないで下さい、シモン様。」
小声で俺の背中を摩ってくれるウィリアム医師の優しい言葉が、俺の重く沈んだ気持ちを引き上げてくれた。
『シモン』と呼んでくれないなら、また呼んでもらえるようになればいいだけだ。
恥ずかしがって人前で手を繋ぐなと顔を赤くして怒っていたシャル。
その顔が可愛くて、怒られてもニコニコしてた俺をまた怒るシャルがもっと可愛くてよく喧嘩していたっけ。
そんなシャルが見れるなら記憶喪失だからと泣いているのは駄目だよな…。
「ありがとう・・・ウィリアム先生。
俺の事を忘れてしまったのなら、また好きになってもらえるよう頑張るよ。
先生のおかげで元気が出たよ、さすがフォックス家の専属医師だな。」
と笑うとウィリアム先生も微笑みながら頷いた。
「きっとまたシャルーナ様はシモン様を好きになりますよ。
だって中身はなんら変わってないのですから。」と笑うウィリアム先生。
そうだ、シャルはシャルだ。
だったら何にも心配はいらない。
俺のシャルへの気持ちは何も変わっていないし、なんなら昔よりもシャルへの愛情は激増しているくらいだ。
俺は気持ちも新たにシャルの寝顔を見た。
顔に貼られたガーゼは取れたが、まだ痣や擦り傷が残る顔は痛々しい。
それでも俺の最愛の妻は可愛い。
その最愛の妻の左手を両手で握り、指に唇をあてた。
この状況で目が覚めたら、きっとシャルは目を見開いて俺を見るだろう。
そして真っ赤な顔で恥ずかしがり、手を離してほしいって言うんだろうな。
それとも怒るだろうか。
シャルの反応を楽しみにしながら俺は寝顔を見つめ続けた。
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