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その頃リアスは・・ 執事ジェフリー視点
しおりを挟むヒストリア様がこの屋敷から居なくなってしまわれてから、あんなにも華やかだった屋敷内はシーンとした静けさと重苦しい空気に包まれていました。
奥様のカタリナ様は体調を崩され領地療養となられ、旦那様は笑う事が無くなり、トーリ様ご夫婦は別邸にてひっそりお暮らしになっていました。
旦那様とトーリ様は時間を見つけてはヒストリア様の捜索を続けておりましたが、目撃情報も手がかりもなく、2年以上が過ぎてしまいました。
明るい話題と言えば、トーリ様とミュール様の間に待望の第一子となるユーリ様がお生まれになった事でしょうか。
今年一歳になられたユーリ様はトーリ様の幼い頃によく似ていらっしゃる整った顔立ちの愛らしいお子様でございます。
ユーリ様の笑い声が響く毎日は、わたくし達使用人には何よりの癒しとなっておりました。
そんなある日、王太子殿下より至急返信必須の封書が届けられました。
お読みになられた旦那様は、酷く動揺した後、返信の手紙を書かれ、使者様にお渡しするよう私にその手紙を渡されました。
それからは屋敷中の使用人達が浮足立つほど、皆が笑顔で忙しく動き回る毎日でございました。
あれほど探しても見つからなかったヒストリア様が隣国にて見つかった事、ヒストリア様がご出産されていた事、お子様はコーキン様のお子であった事、そして、ヒストリア様が帰って来られる事が旦那様から聞かされた時は、恥ずかしながら涙が出てしまいました…。
そして帰って来られたヒストリア様、そしてヒストリア様と共に行方が分からなかった侍女のフラン、そしてご子息のコーリアス様。
ヒストリア様は少しお痩せになられてはいるものの、とてもお元気そうでした。
コーリアス様はコーキン様の幼少期にそっくりで利発で整った顔立ちで明るく笑われている姿に皆様微笑ましく見つめていらっしゃいました。
アキラス様もトーリ様も隣国まで行き、ヒストリア様にもコーリアス様にもお会いしていましたが、ヒストリア様方を隣国からお連れしたのはコーキン様でございました。
ヒストリア様とコーキン様はそれはそれは仲睦まじく、私共もお二人の結婚を楽しみにしておりました・・・。
あんな事があり、婚約は破棄され、ヒストリア様は行方知らず、コーキン様は責任を取り別の方と結婚・・・この世の終わりのように絶望致しました…。
そんな絶望も今は昔、目の前のお可愛らしいコーリアス様が明るく笑ってくださればそれだけで未来は明るいものだと信じられます。
ですが…今目の前で打ちひしがれ、床に倒れているお姿は痛々しいものでございます・・・。
「ちゃーちゃん・・ちゃーちゃん・・・」
“ちゃーちゃん”・・・コーキン様が、血の繋がらないお子様を我が子としてお引き取りなさったのが“チャーリー”様。
そのチャーリー様とコーリアス様はとても気が合うのか、今は引き裂かれた恋人達のような様子に、申し訳ないのですが、少し面白くてつい見入ってしまいます。
ですが、床は冷たいのでいつまでも倒れていては風邪をひいてしまいます。
ですから恐れながらもコーリアス様を抱き起こし、そのまま抱っこをしております。
コーリアス様は私にしがみつき、「ちゃーちゃん…」と呼んでいます。
余程チャーリー様にお会いしたいのでしょう…お可哀想に…。
「コーリアス様、チャーリー様にお手紙を書きましょう。わたくしジェフリーがお手伝いさせて頂きますからね。」
「・・・おてがみ?」
「そうでございますよ、コーリアス様。
文字でなくてもお絵描きでも良いのです。
コーリアス様がチャーリー様に会いたい気持ちを書けば良いのですよ。
きっとチャーリー様には伝わりますから、そんな悲しい顔はなさらないで下さいませ。」
「ちぇふ…」
「ええ、ええ、承知いたしましたよ、コーリアス様。今すぐお手紙をジェフリーと書きましょう。」
そうして少し元気を取り戻したコーリアス様は、ただいまお絵描き・・・お手紙を真剣に書いております。
どうやらチャーリー様の絵を描いているようです。
最近発売された“クレヨーン”なる物は、緑色だけで数種類もあり、その中からチャーリー様の瞳の色に近い、新芽のような黄緑色を使って今はグルグルと力強くチャーリー様のお目目を描いていらっしゃいます。
チャーリー様を書き終わったのか、次はご自分をお描きになるのかピンク色のクレヨーンを持ちグルグルし出しました。
コーリアス様は目から描き出すのですね。
髪は多少の違いはありますが、お二人とも金髪ですから黄色で塗っておりますね。
顔は描き終わったようです。
今度は身体ですね。
肌の色のクレヨーンをお持ちになっています。
箱の中を見れば肌の色も数種類あり、白に近い肌色を選び嬉々として身体を描いておられます。
はて?足の間だけ少し色濃く塗っているのはもしやアレではございませんよね?
あ…チャーリー様のお身体にも同じ場所を濃くしておりますけど、やっぱりその箇所はアレなのですか、コーリアス様!
「こ、コーリアス様、その、お洋服は描かれないのですか?」
「そうなのーー!」
眩しい笑顔で応えられ、私にはもう何も言うことなど出来ません。
きっと一緒に入浴された時のことを描かれているのでしょう。
そうして完成したお手紙は、折り目を付けるのは忍びないので、丸めてリボンをつけ送らせて頂こうと思います。
あ、ヒストリア様が来られましたね。
コーリアス様の力作をご覧になっております。
「あの、リアス、裸なのは可哀想よ。
お洋服を着せてあげたらもっと素敵よ?」
ヒストリア様もあの箇所を凝視しておられますね…。
ですが、コーリアス様は首を横に振られています。
必死の説得も虚しく、描き直される事はありませんでした。
ヒストリア様は苦笑いされておりましたが、優しくコーリアス様の頭を撫でられておりました。
そうしてわたくし自らコーリアス様のお手紙をマウントゥイン侯爵家にお届けにあがりました。
態々コーキン様が出迎え下さり、チャーリー様を抱っこされておりましたので、コーリアス様からチャーリー様宛のお手紙でございますと直接チャーリー様にお渡しする事が出来ました。
チャーリー様はとてもお喜びになりました。
「コーリアス様はチャーリー様にお会い出来ない事にとても悲しがっておりました。
またのお越しをお待ち致しております。」
私がそう言うと、
「あ、ジェフリー、持っていってもらいたいものがある。」とコーキン様が仰られました。
すると何やらラッピングされた大きめの袋が渡されました。
「それをコーリアスに渡して欲しい。
我が家のお針子達がコーリアスにと作ったらしい。
喜んでくれると嬉しいのだが。」
畏まりましたと応え、イナダール邸に戻りコーリアス様にコーキン様からの贈り物をお渡ししました。
リボンを解き、袋から出した物を見たコーリアス様は「ちゃーーちゃーーん!」と言って抱きしめました。
以前チャーリー様が持っておられた“コーキン様人形”のチャーリー様版のようです。
コーキン様がヒストリア様方をお迎えに行かれた際、長期間のコーキン様の留守に、チャーリー様が酷く悲しまれた為、お針子達がコーキン様の人形を作られたのだとか。
寂しがられているコーリアス様のために“チャーリー様人形”を作って下さったのでしょう・・・あちらのお屋敷の方々もコーリアス様を大事に思って下さっていると思うと嬉しく思います。
コーリアス様はチャーリー様人形を抱きしめ、
「ちゃーちゃん、かわいいねー」とギューと抱きしめ、先程までの憂いはすっかり無くなったようです。
明日は本人が来られますよ、コーリアス様。
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