Voo Doo Child

夜桜一献

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The killer of paranoid Ⅷ

第三十五話

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早苗の前に朱雀が現れ、炎の渦が3つ青葉の周囲に展開されて相葉は咄嗟に結界を幾重にも張り巡らせた。破られた端から展開せねば火達磨になっている。火嵐と呼べる渦も消えた端から展開して青葉を逃さない。その間に夏樹がテラメアを消せばいい。

「厄介な・・・ここに来て殺人の境地に至りましたか」

テラメアはまだ奮戦中。金髪の少女の攻撃が重いと悟ったのか距離を取っている。南瓜の少女と空飛ぶ騎士の連携が上手く気が散らされている印象にある。南瓜の少女が鎌を振りかざすと空中に南瓜のお化けが出現してテラメアに遅いかかる。それをテラメアが処理している。長引けば殺られる可能性がある。青葉は遠巻きに見える人物を見て口元を緩めた。

「まだ、好機はありそうですね」



「旦那ァア!!全員殺っちまいましょうや!!」



大声を張り上げる人物に全員の視線が集中する。



星南を含む後方支援組の背後に、明野が立っている。

「ここにて明野の加勢だと?見張りはどうした!?」

「すでに殺られているね。私とした事が集中しすぎて周囲の警戒を怠るなんて!!取り押さえるんだ!!」

「影が広がって・・・動きを封じられたか。厄介なモン使いやがって!!」

白虎が憤る。呪術捜査官、星南、

空を浮かぶ優理と足場を作って移動している夏樹以外は影に囚われて身動きが取れなくなった。同時に無数の黒い細長い生物が影の中を蠢き跳ねながら移動している。目もなく、口と牙があるだけの悍ましい物体。それらが群体で襲いかかる
殺意という名の呪物。影から無限にその体を伸ばして夏樹と優理にも襲撃してきた。咄嗟に霞の騎士が夏樹と優理を庇った。盾を大きくして力の奔流に対抗する。

「霞!!」

「大丈夫!!あんたはそのテラメアって奴に集中して!!」

怖い、苦しい、痛い、逃げ出したい。

でも

救ってくれた夏樹の力になりたい。

この事件で無茶する夏樹を守りたい

その思いは無限に底から湧いてくる。

「思いの強さが、力に直結するってバクさんに聞いたわ!!なら、私の盾が“こんなの”に負けるはずがない!!」

世界を変えてくれた夏樹の為に、霞は声を張り上げた。聖なる騎士の力も増し、呪物の一撃を見事防ぎきった。

朱雀も攻撃を止め、紅葉と早苗に結界を張る。

「いいえ、貴方方の負けです。テラメア、動けぬ者共を屠りなさい!!」

青葉は、朱雀に結界を施して牢獄を展開し、身動きを封じた。テラメアが夏樹と優理、そして騎士に目も暮れず白虎の結界を割りに下へ降りた。丁度、霞の前にテラメアは降り立つ。大きく振りかぶった拳の一撃により結界は壊された。

「ーーーーーーー霞!!」

テラメアが霞の首を掴んで締め、体を浮かせる。霞は息が出来ずに悶え苦しんだ。足をバタつかせて必死に抵抗している。

【コレヨリ敵性生物ノ動キヲ禁ズル。神二刃向カウ愚カ者二死ヲ与エル】

テラメアがそういうと、巨大な呪術式が発動する。状況が飲み込めたのは青葉ともう一人、星南だけ。

「何を訳分からない事を言っている!!彼女を離せ!!」

「よせ!!死にたいのか!!動くんじゃない!!」

一人の呪術捜査官が式神を動かしてテラメアに攻撃を仕掛けると、先程テラメアが構築した呪術式が発動して黒い靄が捜査官を覆う。

「何だ?うわあああああっっ!!助けっbfkd」

それに覆われると、徐々に生気を奪われ、痩せ細り、目は窪んで黒くなる。口と目、鼻から血が流れて倒れた。それを見て全員が絶句する。

「完成です。この日をどれだけ夢見た事か」

青葉が成し遂げた達成感に包まれる。疑似神が意思を持ち自ら動き始めた。もはや疑う余地のない邪神の創生が成ったのだ。この世の理不尽を正す事の出来る絶対的な力が目の前にある。

「流石、青葉の旦那だな。人生賭けてあんなもん創るとか俺にゃ理解出来んが、えげつないねえ」

黒い靄が霞の周囲にも集り始める。慌てて、優理が夏樹の手を引いて急降下する。でも間に合わない。

「ーーーーーーーー霞いいいい!!」

その瞬間、テラメアの腕が何者かによって斬り伏せられた。黒い靄から救出して結界を張り巡らせ、黒い靄を引き剥がす。この結界の中に無断で侵入した一人と一匹の姿がそこにあった。怪盗紳士の格好をした少年と、神の御使い。

霞は激しく咳き込みながらも、生きている。しかし黒い靄に当たったせいで倒れてしまった。テラメアは何が起こったのか理解出来ずに距離を取る。明野と青葉も警戒して下がる。

「ったく、おいらが居ないと本当にダメダメですねぇ夏樹さんは」

「間に合ったみたいで良かった。花咲さんも無事で何よりでほっとしたよ」

「海人君!?無事だったの!?生贄にされたって聞いたけど」

「陰陽省の人に助けて貰ったんだよ。どうやってかはあんまり覚えてないけど、気が付いたら病院で。バクが心配して来てくれたんだ。そしたら君らがこの騒動で僕の為に動いてくれてるって聞いたから、バクと一緒に夢の回廊を伝ってここまで来たんだ」

「厄介な事になってますねぇ。強力な呪術式っす。一歩外に出て動いたら即死っていう強制ルールが付与されてるとか。ちょっとあんまりっすな」

「霞・・・良かったぁ・・生きてる」

安堵して夏樹涙腺が緩む。

夏樹が霞の安否を確かめた後、バクに向き直った。

「バク、どうしたらいい?」

「そんな糞食らえな呪術制約壊しちゃえばいいんじゃないすか?」

全員の目が点になり、呆れて物も言えなくなる。

「それが出来たら苦労はしないだろう。何物か知らないが、やりようはあるんだろうね」

「つーかその妙ちくりんな奴の言う事に耳を傾ける必要あんのかよ」

「えーっと、こちら神の使徒バクさんです。陰陽省庁に今回の件で協力してくださってますのでご安心を」

「強制即死ルールも何もこの影の影響で動けないわよ!!まずこれ何とか出来ない?」

星南と白虎が懐疑的な目で見るので早苗が一言添えた。紅葉も慌てて口を出す。

「夏樹さん、ここにはどうやって入ったんすか?」

バクの投げかけた質問に全員の視線が夏樹に向く。

夏樹の目が上を向き、左に動いて、何かに気づいた。それから夏樹は結界の外へ出る。当然、黒い靄が夏樹の周囲に集り始めるものの夏樹の体を覆った瞬間蒸発した。

「本当に、こんな事に巻き込んでくれちゃって怒り心頭だわ!!何が動いたら死ぬってのよ。ふざけんな!!」

夏樹が、勢いよく足で地面を踏んで、そこから氷が割れていくように形成された結界が崩壊していく。同時にテラメアが作った限定呪術式と明野が形成した影による呪術式も壊れていった。張られていた結界が無くなり、“通常の空間へと”戻る。その余りの光景に明野と青葉が口を大きく開けて驚愕した。

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