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第7章
061 虫害
しおりを挟む「大変です。虫の幼虫が20匹ほどいます。中央食料庫の作物の山です」
住民の慌てた報告が八咫烏に入った。
「幼虫ですか?」
幼虫がいると八咫烏に通報するとはよほど虫が嫌いなのだな。幼虫がそれほど大量に発生したわけじゃないなら、大した事はない。酸素が不足するか心配するが、警報もなっていないし20匹ぐらいなら問題にすべき事ではない。受け付けた八咫烏の男は慌てなかった。いざとなったら捻り潰せばいい。彼は報告もしなかった。
プリサンド王国の財政は悪化していた。何者かが野菜を消費しているのだ。食糧の電子脳に搬入する量が減っている。
「野菜が齧られている。納入の時には虫食いもなかったのに」
搬入する兵士が言う。虫食いがあるものは廃棄してしまう。
「おい、納入する時は虫食いのないようにしてくれ。不良品は受け取れない。こんな事じゃ輸入を打ち切るぞ」
しかし輸入する業者を叱責するだけに終わる。輸入業者は恐れ入ったように振る舞う。実は業者は虫を分別していなかったのだ。この事はミサベルの耳に届く事は無かった。
ミサベルは税を取らない。それがいいと人が集まる。しかし八咫烏を維持するのには経費がかかる。また宇宙船を動かすのに費用がかかる。
電子脳を製作するだけでは財源は不足する。宇宙の流通も宇宙船を動かすのに資金を必要とする。だからプリサンド王国の財政はぎりぎりだった。それでも維持できるのは王族は電子脳だから食費を筐体になった時にしか必要としない事にあった。
フレデリックは購入されていた食材に目をつけた。ミサベルらしく食材は綺麗なものを選んでいる。
食事を作る電子脳に興味を持った彼は、原材料はなんでもいい事に気づいた。
「じゃあ虫食いでもいいじゃないか。成分が保証されていたらいい」
ひどく安く輸入はできた。うまく財政を救ったと考えていたが、輸入業者が虫を排除しなかったので、とんでもない事が起こってしまったのだ。
住民から悲鳴と共に通報がある。
「あの虫が1メートルに膨れ上がりました」
「何?1メートルの虫だって?」
「緑の円筒形の虫です。棒で叩き潰そうとしたら分裂して増えるのです。これは退治できません。八咫烏の出動を求めます」
地球ではそんな性質はなかった。
「まるでグレオレアね。お母様が手を焼いたものね」
ミサベルはそばにいるフレデリックをじとっと眺めて言った。
「プリサンド王国にはびこる前に駆除しなさい。私が虫食いじゃない作物しか輸入しないのは、女王は美しいものしか口にしないわけじゃないわ。こういう事が予想できるからよ」
「はい」
フレデリックは恐れ入った。幼虫は大きくなり選り好みもなく、そこら近所の木々を食べ出した。
「第3地区の街路樹が大きな幼虫から食べられています。大きさは1.5メートル。大きくなっています。攻撃すると分裂するから八咫烏も手が出せません」
領主のカロリーナが訴える。フレデリックは銃で殺そうとした。しかし数が増えるだけで排除はできなかった。
「ではこうしたらいい」
スミスが電子脳の空間で言う。
「あれは生き物だ。真空にすれば死に絶える」
フレデリックはうなづいた。
「では幼虫を全滅させます。宇宙船に乗って下さい」
宇宙船はプリサンド30。決まった電子脳のない宇宙船だ。住民を助けるために区画ごと収容できるようになっている。
「この宇宙船は食糧を持っていくんか。そうだとしたら乗船まで時間がかかる」
「食料は艦にあります。味は配給されるものと同じです。着の身着のまま乗船して下さい」
「酒はあるんかい?」
「お酒はありません。宇宙船から降りたら存分に飲んで下さい。配給を増やしています」
住民の移動はスムーズに行われた。酒を出さないのは宇宙船で不慮の事故を予防するからだ。
「全員乗艦完了。虫のみ第3地区にいる状態です」
「他の地区へのエアロックを閉鎖」
「閉鎖しました」
「では第3地区のエアロックを開放しろ」
フレデリックの命令で八咫烏のメンバーがエアロックのバルブを開放する。
みるみるうちに空気が排出される。急激な減圧で虫の体が膨れ上がる。そして破裂する。緑色の内容物が飛び散る。
「全て空気は無くなりました。虫は破裂しました。分裂の様子はありません。死に絶えています」
フレデリックは満足した。八咫烏は生命反応をチェックした。
「虫は全滅しました」
報告は八咫烏からミサベルになされた。
「そう。ご苦労様」
ミサベルは電子脳だけの会話でフレデリックを呼んだ。
「ミサ、こんな事になるとは」
「地区を真空にして駆除するとは考えたわね。まあいいわ。実害も無かったようだし」
「このアイデアはスミス様からいただきました」
「へえ。お父様もやるわね」
火星とディスノミアの距離は気軽に行き交う事はできないが、電子脳の会話では隣国にあるようだった。
「虫の侵入させたのはどの輸入業者かしら?いらないものを輸入しないよう釘を刺さなければ」
プリサンド王国の研究所で幼虫を1匹飼っているのはミサベルは知らなかった。
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