女魔王は冒険者になりました!

猫部猫

文字の大きさ
3 / 6

「仲良しだと思ったぁ?」

しおりを挟む
♢天界♢

最高神ルシファーのあとに続き『神殿』へとむかった魔王とナンナは慣れた様子で【友人専用】と木彫りのプレートに書かれた部屋に招かれた。

「では、私は何かお茶請けを作ってきますね」

魔王とルシファーが部屋に入ったところでナンナが言う。

「あら、ごめんなさいねナンナ。材料はいつものところにあるからどう使ってくれても構わないわ」
「感謝いたします」
「儂はミルククッキーにココアパウダーを振り掛けたやつじゃ!」

12個の椅子が囲む白い円卓の2時の方角で既に着席している魔王が勢い良く手を上げた。

「デヘヘッ、解りました!魔王様!」

一瞬で頬が紅潮したナンナを見てルシファーは一言
「うっわ…」
と、漏らし顔を引きつかせた。




ナンナから魔王専用のティーセットを受け取りナンナを見送ると、ルシファーはそれを魔王の側に置き自分は12時の位置に座った。

「まったくあなた達は、やってくれたわねぇ」
「まあまあよいではないか!そう怒るでない」

カップにココアを注ぎながら魔王は「カカッ」っと笑う。

「うふふ♪…別に怒っているわけじゃないの、 ただ…」

台に肘を乗せ指を絡めその上に顎を乗る

「せっかくとして私が存在しているのに本当にやる事が無くなっちゃったって思ったのよ」

微笑みながら少し寂しそうに右の瞼を閉じた。

「クハハ!何を今更、貴様の所に勇者が来たことなど一度も無いだろうに」

それがどうした、と言わんばかりの表情で魔王は湯気をたてるココアに口をつける。

「まぁ、そうなのよねぇ…いっつも魔王と相討ちか魔王を倒したものの失った物の重圧で気を病み、引退するか自ら命を断つか…。結局、天界まで来れた者は誰一人居なかったわ」
「儂の時代は特に酷かった。儂のもとにたどり着けた人間がたったの1パーティだけじゃ!し・か・も・雑魚!」

今朝の話を思い出し声が荒ぶる魔王。

「雑魚なのは置いておいて、魔王ちゃんを討伐しに来なかったのは単純に、あなたが軍を手放したからよ。村に攻めいる魔物も悪戯をする魔物も国を滅ぼす魔物もぜーんぶリストラしたでしょ?」
「むむむ…だってそっちの方が勇者を招きやす
いと思ったんじゃもん!」
「結果は?」
「……さっき話した通りじゃ…」
「そりゃあそうよ。だって危機が無いのだもの。そんな世界、平和ボケするに決まってるわ」

あしらう様に手を振る。

「ぬぬ…正に、じゃったか」

否定の仕様もない。人里離れた蜂の巣をわざわざ突くなど、度し難き阿呆だ。
触らぬ神に祟りなしとも言う。

「でも、私の前の最高神での世界だったら魔王ちゃんは存在を消されていたかもしれないわね」
「ふむ?儂は前最高神の事を深くは知らん……一体、どんな神だったのじゃ?」

そう聞かれなかなか難しいのか、回答に困るルシファーは
「そうねぇ…彼は一言で言うなら“遊び心の無い神”だったわ」

渋々答えを出したといった様子だった。

「と言うと?」
「私達みたいにを破ると慈悲なく世界から追放、もしくは消滅」

その言葉に、苦虫を噛み潰したよな顔をする

原初の誓ルールブック、か。アレはどうも堅苦しくて嫌じゃ。そもそも《魔王は魔王城から出てはならない》とは何じゃ!良かろう!?自由欲しかろ!?」

同意を求めるように「クワッ!」とルシファーに顔を向けると

「そうよそうよ!私だって最新の化粧品とか買いに行きたかったのよ!それなのに《神(最高神含む)が天界を離れる事を禁ず》って何よ!?お出かけしたいじゃない!お洒落したいじゃない!心は乙女なのよ!」

「「ねー!「のー!」」


己を落ち着かせる為に二人は1杯「グイッ!」とカップの中身を飲み干した。

「ふう…。そう考えると貴様の創った現世は良かったのかもしれんな。ナンナと出会い、フェンリルと出会い、マーリンと出会い、バハムートと出会い、スプリガンと出会った。貴様もな最高神」

魔王は懐かしむ様に目を瞑った。まぶたの裏には彼らとの記憶が鮮明に映し出されている。

「ナンナと魔王ちゃんと私で人間の都市へお買い物に行ったこともあったわね。あ、もしかしてその時のティーセット?」
「いや、あれは流石に200年前の物じゃったからな取っ手が折れて割れてしまった。これはナンナが買って来てくれたものじゃ」

広角を軽く上げルシファーに見せびらかす。

「ふーん…いいセンスしてるじゃない。まぁ、私と同じ天使長をしてたこともあるしね。目利きに関しては無問題だろうし、加えて、魔王ちゃんの好みなんて見透かしてるわよ」
「……実に良い近侍じゃよ。気は回るし仕事も早い。特に、儂の下僕共はフリーダムすぎるからな」
「《巨狼》フェンリル、《天災》バハムート、《静謐なる魔女》マーリン。人間側からすると、どれも捨て置けない者たちを何故、手元においたのかしら?」

その質問を魔王は鼻で笑い、一つ、長いため息をつく。

「まぁ……あれじゃ。結局儂らは人間が好きじゃったんじゃよ」

「自ら滅ぼしたのに変な話じゃろ?」と憂いを帯びた顔で魔王は首を傾げた。

「良いのよ、神は彼らを見放しちゃったんだから。それに原初の誓ルールブックに則り、近々滅ぼす予定だったのよ?手間が省けて清々したわ♪」

ルシファーは朗らかに笑い、心配ないといった様子で魔王を見つめた。

「ふん…そう言ってもらえると助かるな」


━━━分かっているのじゃ。
別にナンナに急かされたからと言って世界を滅ぼした訳ではない。

勇者でも良い。魔王でも良い。神でも良い。
俗に言う世界終末戦争ラグナロクが起こせれば誰が発端でも良かった。

だが、儂は嫌じゃった。

こやつが最高神となり原初の誓ルールブックは有ってないようなものとなった。
魔王は魔王城に縛られることなく儂は世界を巡ることができるようになった。
1000年じゃ。
1000年掛けてこの世界を見てきた。

じゃからこそ言える。この世界は
“反吐が出るほどに美しく。ココアのように甘ったるい。”
人間同士の争いが定期的にあるものの、そこには必ず愛があった。
止めるべき場所で止められる世界になった。
儂の管轄外の魔物達も必要以上に狩りをせず、必要な数が生き、必要な数が死ぬ。

世界は至って正常。。。

そんなものを破壊するのは魔王ヴィランの仕事じゃし特権じゃ。
じゃから正義ヒーローにはさせぬし
何より儂がそれを望まん。


「世界は正常に機能しておったな。貴様は間違ってなかったのだろう」
「そうねぇ……私達は退屈だったけど、人間も魔物も、まぁ平和だったでしょうね」
「そうじゃな…」
「仕方ないわ…寿

世界の寿命
世界の造られ方はこうじゃ。

ラグナロクにより生き残った種族の中の一人が次の世界の核となりその者の残りの寿命が次の世界の寿命となる。
その核を中心に最高神が新たな世界を創造していくのじゃ。
すでに“最高神”が“最高神となって”5000年以上は経っておるはず…。
5000年以上の寿命を持つものは神か魔王しかおらん。

つまりこの世界の核となったのは……


・・・・・。


魔王はそこで深いため息をつき、ココアを胃に流し込みガタッと勢い良く立ち上がった。
呼吸一回分の間を開け「…どうしたのよ」とルシファーはカップを持ち上げて目を瞑った。

「…………のう…儂の我儘を聞いてくれるか?」

俯き話す魔王にようやく飲み終えたルシファーは一言

「嫌よ~」

と言うと、瞑っていた瞼を


━━━━見開いた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

真祖竜に転生したけど、怠け者の世界最強種とか性に合わないんで、人間のふりして旅に出ます

難波一
ファンタジー
"『第18回ファンタジー小説大賞【奨励賞】受賞!』" ブラック企業勤めのサラリーマン、橘隆也(たちばな・りゅうや)、28歳。 社畜生活に疲れ果て、ある日ついに階段から足を滑らせてあっさりゲームオーバー…… ……と思いきや、目覚めたらなんと、伝説の存在・“真祖竜”として異世界に転生していた!? ところがその竜社会、価値観がヤバすぎた。 「努力は未熟の証、夢は竜の尊厳を損なう」 「強者たるもの怠惰であれ」がスローガンの“七大怠惰戒律”を掲げる、まさかのぐうたら最強種族! 「何それ意味わかんない。強く生まれたからこそ、努力してもっと強くなるのが楽しいんじゃん。」 かくして、生まれながらにして世界最強クラスのポテンシャルを持つ幼竜・アルドラクスは、 竜社会の常識をぶっちぎりで踏み倒し、独学で魔法と技術を学び、人間の姿へと変身。 「世界を見たい。自分の力がどこまで通じるか、試してみたい——」 人間のふりをして旅に出た彼は、貴族の令嬢や竜の少女、巨大な犬といった仲間たちと出会い、 やがて“魔王”と呼ばれる世界級の脅威や、世界の秘密に巻き込まれていくことになる。 ——これは、“怠惰が美徳”な最強種族に生まれてしまった元社畜が、 「自分らしく、全力で生きる」ことを選んだ物語。 世界を知り、仲間と出会い、規格外の強さで冒険と成長を繰り広げる、 最強幼竜の“成り上がり×異端×ほのぼの冒険ファンタジー”開幕! ※小説家になろう様にも掲載しています。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです

NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた

神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

処理中です...