王となった弟とその奴隷となった姉の話

nana

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「無事か、アリシア」
まっすぐに、必死な目で、アーネストがアリシアに問う
アリシアは、ナイトドレスに、返り血を浴びている
「大丈夫よ、これ全部、返り血だから」
アリシアは、返り血まみれの自分の体を見回して、再びアーネストを見た
笑おうとしたけど、凍り付いた
アーネストは、怒っていた
「アリシア」
「ご、ごめ」
謝ってはいけない
謝る理由がない
自分は王女として、そして、剣士としてなすべきことをした
何も間違ってなどいない
そうわかっていても、体は、アーネストに逆らえなかった
「・・・・」
アーネストがぐっと両手でアリシアの肩を、腕をつかんだ
アリシアは、目をつぶった
怒られる
そう思ったけれど
強く
抱きしめられた
「すまなかった、アリシア」
「え・・・なにが?」
すごい安心と、なぜ謝られるのかわからないから困惑が、同時にアリシアを襲っていた
「来るのが遅くなった、お前に剣を持たせてしまった、お前を戦わせてしまった」
「・・・」
「すまない、すまないアリシア、すまない・・・」
「・・・」
どこまで行っても剣士としての自分をアーネストは認めてくれない
それをもう隠しもしない
そのことに腹が立たないといけない
でも
今、アーネストの腕に、大きな腕に抱きしめられ、すっぽりとその中に自分の体が収まっている
そのことが、いろいろな思いを、思考を、アリシアから奪っていく
来てくれた
王太子のアーネストが自ら戦いに出向くことなどあってはいけないこと
臣下としてアリシアはそう思う
でも、嬉しい
来てくれたことが、嬉しい
なんて、なんて、あさましい

そこで、皆が見てることに、アリシアがまず気づき、それから、アーネストが気づいた

アリシアはアーネストから少し体を離した

アーネストも名残惜しそうにしながら、アリシアを離した

「なぜ、ここにいるのですか?王太子殿下」

口調をアリシアは変えた

「・・・あなたの侍女のヘレンに、何かあったらすぐ王宮に知らせがはいる魔道具を持たせておいたのです、姉上」

「ヘレンが」

ヘレンの方を見ると、ヘレンはアリシアとアーネストに一礼した

「姫様を危険な目にあわせた罰はいかようにでも」

「何を言う、知らせてくれて礼を言う、ヘレン・アシュトン」

「私は、姫様の侍女ですから」

そう言ってヘレンは再び一礼した

顔を上げたとき、ヘレンは、厳しい顔を二人に見せた

アーネストとアリシアが抱き合っていた姿を、これ以上皆に見られるわけにはいかない、そう暗に訴えかけていた

アリシアは、療養中、庭園でアーネストに抱きしめられたことは何度かあるが、そのたびに、ヘレンに厳しく言われた

そして、その通りだと思っていた

二人きりの姉弟

不出来な姉と見下されてはいても、大事に思われているのだと、アリシアは思っていた

だから抱きしめられる、小さい子どものように、でももう、お互い大人だから

だから

こういうことはよくないことなんだと、アリシアはわかっていた

「それで、転移魔法で来たのですが、一番近い魔方陣からここまで・・・時間がかかった」

「いけません王太子殿下、あなたが、おひとりで来るなど」

「・・・なら、私から勝手に離れていかないでいただきたい・・・姉上」

また責められた気持ちになった

自分は間違っていない

アリシアは自分にそう言い聞かせようとするが、目をそらしてしまう

「いったん、王宮へと戻りましょう、姉上」

「え?」

「公爵家には、王家から使いを出します、いまだ治安が不安定な地域がこんなに多い
嫁ぐのはまた日を改めて」

「バ、バカなこと言わないでください王太子殿下!」

「何がバカなことですか、こんなことがあったのです、いったん王宮へと連れ帰るのが妥当でしょう姉上」

「そんなこと許されません」

「私が許します、アーネスト・ホワイトの名において、認めさせます」

バカなことをアーネストが言い出した

ヘレンもエリックも目を丸くしている

しかし王太子であるアーネストに何も言えることはない

アリシアは、実質、助け舟はなかった

どうしようどうしようどうしようどうしよう

アーネストに自分が何か言い聞かせることなんかできるわけがない

アリシアは軽くパニックになった

王宮へと帰る、ええ、もちろんそれができれば苦労はしない、苦労は

でも

王宮へと帰った後、剣を取り上げられ、どこにも嫁ぐことなく王女としてずっと王宮にいて、そんな惨めな思いは、したくなかった

だから逃げ出したのに

「さあ、姉上、帰りましょう」

「アーネスト・・・」

アリシアは逆らえない、アーネストに

どうしても逆らえない

差し出された手に、アリシアは逡巡しつつ、断り切れないのが自分でもわかった

アーネストの言うことは、なにより、アリシアにとっても望むことだった

ずっと、アーネストのそばにいられたら

だけど

「さあ、姉上」

「アーネスト・・・」

アーネストに逆らえないままその手を取ろうとした、その時

「ご無事で何よりです王女殿下・・・それと、王太子殿下も、ここにおられるとは」

よくとおるそれでいて低く心地よく威厳を漂わせる声がした

アーネストはその男を睨んだ

アリシアは、助け舟が来たと思うより、これから自分が果たすべき務めとしての現実がそこにいるのを見た

「ハミルトン公爵・・・」

アーネストが、その男の名を呼んだ

アリシアがこれから嫁ぐ相手だった



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