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王女の務め、という体で
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ヘレンにかばわれるようにしてアリシアはうつむいている
「でしゃばるなヘレン・アシュトン」
静かに、しかし、威厳を持った声で、王太子であるアーネストがヘレンに言う
アリシアにではなく、ヘレンに
「いいえ、恐れながら王太子殿下、姫様は今すぐ庇護されてしかるべきです
これから姫様が嫁がれるお相手である公爵閣下がここにおられるのに、これ以上姫様をお守りいただくにふさわしいお方はいるでしょうか」
「私がいる」
「いいえ、恐れながら殿下、殿下はおひとりではありませんか、公爵様の領地はすぐそこ、そして、ここには公爵様が姫様をお守りするための兵をお連れいただきました」
「・・・私がこのままアリシアを城に連れ帰る」
アーネストは、転移魔法陣のあるところまで自分を連れていくつもりなのだ、とアリシアはわかる
そしてそこからそのまま、連れ戻される
「殿下、転移魔方陣はそのように気軽に使用すべきではありませんぞ」
静かに聞いていたハミルトン公爵が、きれいに整えられた口ひげに手を当てて言った
「ご忠告痛み入る公爵、しかし気軽にではありません、王女であるアリシアを連れ帰るのです、妥当な使い道でしょう」
「ふむ、確かに、それならば」
「ご理解いただけましたか?」
「はい、承知いたしました王太子殿下、では、王女殿下はこのまま」
ハミルトン公爵が、アーネストに同意した、その時だった
「お待ちください公爵閣下!」
ヘレンが口をはさんだ
「何かまだあるのか?ヘレン・アシュトン」
アーネストが、威厳と、静かな怒りを込めてそう言うのを、アリシアは震えそうな気持で聞いている
「何かな?侍女殿?」
「恐れながら王太子殿下並びに公爵閣下に申し上げます
姫様は此度の婚姻を楽しみにしておられました」
「え?」
アリシアは思わず顔を上げてヘレンを見た
一体いつ自分が公爵のもとに嫁ぐのを楽しみにしてたというのか
ヘレンはアリシアに強い目で見つめ返した
アリシアはそこで、ヘレンの意図を理解した
これが王女の務めであることを、アリシアに思い起こさせた
そうだ
そうだった
私は嫁がないといけないんだ、公爵に
これが私の務めなのだ
アリシアは、さっきから、自分を無視してアーネストと公爵とヘレンが話をしてるみたいで、嫌だった
しかし、いざ、こうして、一番の当事者本人として自覚させられると
自分で決めないといけないことを突き付けられると
まるで、温かい毛布にくるまっていたのに寒空の下に薄着で連れ出されたような気持ちがした
さっきまでアリシアは、とんでもないことを考えていた
とんでもないことを考えていると自覚することさえできなかった
アリシアはこのまま、アーネストの手で、魔方陣を通って、一瞬で、王城に連れ戻されることを、自分の意思を確かめられることなくそうしてもらうことを、待ち望んでいた
とんでもないことを考えていると、自覚することができないぐらい、アリシアは、そうなることを望んでいた
でも今こうして、アリシアは現実を突きつけられていた
アーネストのそばを離れないといけないことを
・・・嫁いでいかないといけないことを
「姫様、楽しみにしてらしましたよね?」
ヘレンがアリシアを促す
ヘレンはアリシアのために言っている、それはアリシアもわかっている
でも、ヘレンを恨みたい気持がアリシアにはこみ上げる
「姫様!」
「・・・はい、楽しみにしてました、嫁ぐことを」
「ほう」
公爵が相槌を打つ
アーネストは、と思って見ると、目を見開いて、驚いた顔で、アーネストはアリシアを見つめていた
アリシアは、アーネストから目をそらせなかった
アーネストが、呆然とした顔から、激しい怒りを込めてアリシアを見つめる顔へと変わった
「あ・・・」
アリシアは、泣きそうになったが
「姫様、大丈夫です、ヘレンがついております」
ヘレンが再びアリシアを抱きしめた、アーネストからかばった
「・・・アリシア」
はっきりと、誰にもわかるほどの怒りを込めて、アーネストがアリシアの名前を呼んだ
その時
伯爵邸の扉から、「王太子殿下に申し上げます!近衛兵500騎、ただいま到着いたしました!」
という声がした
ヘレン、公爵、エリック、そしてアリシアが、アーネストを見た
「・・・おそいぞ」
とだけアーネストは報告してきた兵に言った
しかし、その目線はアリシアを見つめたままだった
「どうしたアリシア?」
「・・・近衛兵を、あなたの兵を、動かしたの?」
「だからなんだ?当たり前だろう、俺がお前をこのまま行かせると本気で思ったのか?・・・いざというときのための兵ぐらい用意させるさ」
言葉遣いを荒々しいままに、アーネストが答えた
近衛兵は本来、王都にいるべき兵
一人か二人で移動するしかない転移魔方陣はそもそも王族やそれに準ずる貴族しか使えない
軍のような大人数を移動させることはできない
だから
アーネストは初めから、不測の事態に備えて、近衛兵を動かしていたのだ、アリシアに気づかれぬように、アリシアを守るために
そして、軍の到着を待たず、一人で魔方陣を通って、馬を駆って、ここまで来たのだ、アリシアを守るために、一人で、王太子が、王太子であるアーネストが、アリシアのために
アリシアは、うつむいた
嬉しくて、顔を見られたくなくて、俯いた
そして、アーネストは、アリシアがうれしくてうつむいたことをわかっていない
「さあ、帰るぞ、アリシア」
そう言い放った
「え?」
アリシアは顔を上げた
「聞こえなかったか?帰るぞ、と俺は言ったんだ、アリシア」
「でしゃばるなヘレン・アシュトン」
静かに、しかし、威厳を持った声で、王太子であるアーネストがヘレンに言う
アリシアにではなく、ヘレンに
「いいえ、恐れながら王太子殿下、姫様は今すぐ庇護されてしかるべきです
これから姫様が嫁がれるお相手である公爵閣下がここにおられるのに、これ以上姫様をお守りいただくにふさわしいお方はいるでしょうか」
「私がいる」
「いいえ、恐れながら殿下、殿下はおひとりではありませんか、公爵様の領地はすぐそこ、そして、ここには公爵様が姫様をお守りするための兵をお連れいただきました」
「・・・私がこのままアリシアを城に連れ帰る」
アーネストは、転移魔法陣のあるところまで自分を連れていくつもりなのだ、とアリシアはわかる
そしてそこからそのまま、連れ戻される
「殿下、転移魔方陣はそのように気軽に使用すべきではありませんぞ」
静かに聞いていたハミルトン公爵が、きれいに整えられた口ひげに手を当てて言った
「ご忠告痛み入る公爵、しかし気軽にではありません、王女であるアリシアを連れ帰るのです、妥当な使い道でしょう」
「ふむ、確かに、それならば」
「ご理解いただけましたか?」
「はい、承知いたしました王太子殿下、では、王女殿下はこのまま」
ハミルトン公爵が、アーネストに同意した、その時だった
「お待ちください公爵閣下!」
ヘレンが口をはさんだ
「何かまだあるのか?ヘレン・アシュトン」
アーネストが、威厳と、静かな怒りを込めてそう言うのを、アリシアは震えそうな気持で聞いている
「何かな?侍女殿?」
「恐れながら王太子殿下並びに公爵閣下に申し上げます
姫様は此度の婚姻を楽しみにしておられました」
「え?」
アリシアは思わず顔を上げてヘレンを見た
一体いつ自分が公爵のもとに嫁ぐのを楽しみにしてたというのか
ヘレンはアリシアに強い目で見つめ返した
アリシアはそこで、ヘレンの意図を理解した
これが王女の務めであることを、アリシアに思い起こさせた
そうだ
そうだった
私は嫁がないといけないんだ、公爵に
これが私の務めなのだ
アリシアは、さっきから、自分を無視してアーネストと公爵とヘレンが話をしてるみたいで、嫌だった
しかし、いざ、こうして、一番の当事者本人として自覚させられると
自分で決めないといけないことを突き付けられると
まるで、温かい毛布にくるまっていたのに寒空の下に薄着で連れ出されたような気持ちがした
さっきまでアリシアは、とんでもないことを考えていた
とんでもないことを考えていると自覚することさえできなかった
アリシアはこのまま、アーネストの手で、魔方陣を通って、一瞬で、王城に連れ戻されることを、自分の意思を確かめられることなくそうしてもらうことを、待ち望んでいた
とんでもないことを考えていると、自覚することができないぐらい、アリシアは、そうなることを望んでいた
でも今こうして、アリシアは現実を突きつけられていた
アーネストのそばを離れないといけないことを
・・・嫁いでいかないといけないことを
「姫様、楽しみにしてらしましたよね?」
ヘレンがアリシアを促す
ヘレンはアリシアのために言っている、それはアリシアもわかっている
でも、ヘレンを恨みたい気持がアリシアにはこみ上げる
「姫様!」
「・・・はい、楽しみにしてました、嫁ぐことを」
「ほう」
公爵が相槌を打つ
アーネストは、と思って見ると、目を見開いて、驚いた顔で、アーネストはアリシアを見つめていた
アリシアは、アーネストから目をそらせなかった
アーネストが、呆然とした顔から、激しい怒りを込めてアリシアを見つめる顔へと変わった
「あ・・・」
アリシアは、泣きそうになったが
「姫様、大丈夫です、ヘレンがついております」
ヘレンが再びアリシアを抱きしめた、アーネストからかばった
「・・・アリシア」
はっきりと、誰にもわかるほどの怒りを込めて、アーネストがアリシアの名前を呼んだ
その時
伯爵邸の扉から、「王太子殿下に申し上げます!近衛兵500騎、ただいま到着いたしました!」
という声がした
ヘレン、公爵、エリック、そしてアリシアが、アーネストを見た
「・・・おそいぞ」
とだけアーネストは報告してきた兵に言った
しかし、その目線はアリシアを見つめたままだった
「どうしたアリシア?」
「・・・近衛兵を、あなたの兵を、動かしたの?」
「だからなんだ?当たり前だろう、俺がお前をこのまま行かせると本気で思ったのか?・・・いざというときのための兵ぐらい用意させるさ」
言葉遣いを荒々しいままに、アーネストが答えた
近衛兵は本来、王都にいるべき兵
一人か二人で移動するしかない転移魔方陣はそもそも王族やそれに準ずる貴族しか使えない
軍のような大人数を移動させることはできない
だから
アーネストは初めから、不測の事態に備えて、近衛兵を動かしていたのだ、アリシアに気づかれぬように、アリシアを守るために
そして、軍の到着を待たず、一人で魔方陣を通って、馬を駆って、ここまで来たのだ、アリシアを守るために、一人で、王太子が、王太子であるアーネストが、アリシアのために
アリシアは、うつむいた
嬉しくて、顔を見られたくなくて、俯いた
そして、アーネストは、アリシアがうれしくてうつむいたことをわかっていない
「さあ、帰るぞ、アリシア」
そう言い放った
「え?」
アリシアは顔を上げた
「聞こえなかったか?帰るぞ、と俺は言ったんだ、アリシア」
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