悪役令嬢をプロデュースして、お礼に最高の玉の輿を紹介してもらいますわ

ちゅんりー

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王立ルミナス学園の正門。そこは私、ルミエル・ダントンにとって、ただの学び舎ではありませんでした。

目の前に広がるのは、磨き上げられた石畳と、贅を尽くした校舎。そして何より、登校してくる生徒たちが身に纏う、宝石のような輝きです。

「ああ、見えますわ……。あの方々の背後に、山積みの金貨と、一生遊んで暮らせるだけの不動産権利書の束が……!」

私は校門の影で、一人深く頷きました。

我がダントン男爵家は、名前こそ立派ですが、実情は火の車です。

昨日の夕食なんて、薄いスープと、硬くて石のようなパン一切れ。それも家族四人で分け合ったのですから、涙が出てきます。

「お父様、お母様。安心してください。私はこの学園で、必ずや『超』が付くほどの玉の輿に乗ってみせますわ!」

拳を握りしめ、私は鼻息荒く宣言しました。

私の武器は、この少しばかり整った顔立ちと、貧乏生活で培った図太い精神力。

狙うは、高位貴族の嫡男。それも、性格は二の次で、とにかく資産が潤沢な方が望ましいですわね。

そんな野望を胸に、私は意気揚々と式典会場である大講堂へと向かいました。

しかし、そこで私の目に飛び込んできたのは、期待していたキラキラした出会いではなく、一触即発の修羅場だったのです。

「エドワード様! どうしてあのような、どこの馬の骨ともしれない小娘と親しくなさっているのですか!」

高く鋭い声が、講堂の入り口付近に響き渡りました。

見れば、縦ロールの金髪を誇らしげに揺らした、一人の令嬢が立っています。

彼女の名前はセシリア・ド・ヴァルーア。この国の公爵令嬢であり、第一王子エドワード様の婚約者です。

対するエドワード王子は、眉間に深く皺を寄せ、心底うざったそうに彼女を見下ろしていました。

「セシリア、いい加減にしないか。彼女はただ、学園の案内を求めてきただけだ。君のその疑い深い性格には、正直に言って愛想が尽きている」

「なんですって……!? 私は、あなたの婚約者として当然の心配を!」

「その心配が重いと言っているんだ。少しは慎みというものを覚えたらどうだ」

王子の冷徹な言葉に、周囲にいた生徒たちがひそひそと囁き合います。

「また始まったわ。セシリア様の高飛車な態度、王子様も相当嫌気がさしているみたいね」

「このままだと、卒業を待たずに婚約破棄なんてこともあるんじゃない?」

野次馬たちの会話を聞いて、私の脳内に、激しい警報が鳴り響きました。

「(ちょっと待ちなさい……! それは困りますわ!)」

私は心の中で絶叫しました。

なぜなら、セシリア様の実家であるヴァルーア公爵家は、この国でも指折りの名門中の名門。

もし彼女が王子と円満に結婚して、そのまま公爵夫人の座を維持してくれれば、彼女は未来の社交界の女王となります。

そんな彼女と仲良くなって、「あら、ルミエルさん。あなたのような素敵な方には、私の親戚の独身大富豪を紹介してあげるわ」なんて展開を、私は密かに狙っていたのです。

しかし、もし彼女が今ここで王子に嫌われ、婚約破棄をされて実家に幽閉なんてことになったら……。

私の「有力な紹介状ルート」が、一本完全に消滅してしまいます!

「(ダメ……! 絶対にダメですわ! 私の不労所得計画に支障が出るなんて、万死に値します!)」

私はドレスの裾を翻し、修羅場の中心へと突き進みました。

「あらあら、まあまあ! なんてお美しいセシリア様でしょう!」

唐突に割り込んできた私に、セシリア様とエドワード王子、そして周囲の視線が集中します。

「な、何かしら、貴女は。今、私はエドワード様とお話ししているのよ。控えなさい」

セシリア様が、私を鋭い目付きで射抜きます。

普通の令嬢ならここで震え上がるのでしょうが、金貨の山を夢見る私にとって、この程度の視線はそよ風のようなものです。

「失礼いたしました。あまりの神々しさに、つい足が勝手に動いてしまいまして。私はルミエル・ダントンと申します」

私は最高に優雅な(そして計算高い)カーテシーを披露しました。

「ダントン……? ああ、あの地方の貧乏男爵家ね。そんな身分で、よく私に声をかけられたものだわ」

「ええ、ええ。仰る通りですわ! ですが、セシリア様のその凛とした佇まい! まさにこの学園の、いえ、この国の至宝ですわね!」

「……は? 何を言って」

呆気にとられるセシリア様を無視して、私はエドワード王子の方を向きました。

「王子殿下、失礼ながら申し上げます。セシリア様がこれほどまでに感情を露わになさるのは、偏に殿下への愛が深すぎるが故。これほど情熱的に愛される殿下は、世界一の幸せ者でございますわね!」

「……君、本気で言っているのか? これはただの嫉妬と嫌がらせだぞ」

王子が引きつった笑顔を向けますが、私は引き下がりません。

「いいえ! これは『ツン』が強すぎるあまり、表現が少しだけ、ほんの少しだけ不器用になっていらっしゃるだけですわ! ねえ、セシリア様?」

「つ、ツン……? よくわからないけれど、私がエドワード様を愛しているのは事実よ! 当然じゃない!」

セシリア様が頬を赤らめて胸を張りました。

よし、チョロい! この公爵令嬢、恐ろしいほどにチョロいですわ!

「殿下、ご覧ください。この純真無垢な反応を! セシリア様はただ、殿下に構ってほしくて甘えていらっしゃるだけなのです。さあ、ここは殿下が広い御心で、『可愛い奴だな』と頭の一つでも撫でて差し上げれば、すべて解決ですわ!」

「なっ……ななな何を言っているのよ貴女は! は、破廉恥な!」

セシリア様が茹でダコのように真っ赤になり、扇子で顔を隠しました。

王子はといえば、呆れ果てたように天を仰いでいます。

「……もういい。式典が始まる。セシリア、席に着くぞ。ダントン嬢、君の独特すぎる解釈には驚かされたが……ひとまず場を収めたことには感謝しよう」

王子はそう言い残すと、足早に去っていきました。

残されたのは、真っ赤な顔で固まっているセシリア様と、私。

「(ふふふ……。第一段階、成功ですわ)」

私は心の中で、札束を数えるような邪悪な笑みを浮かべました。

まずはセシリア様に「味方がいる」と思わせること。そして、彼女のトゲを抜き、王子との関係を破綻させない程度に矯正する。

すべては、彼女から「最高の玉の輿」を紹介してもらうお礼を引き出すため。

「セシリア様。もしよろしければ、このルミエル、お力添えをいたしますわ。殿下を虜にする『究極の淑女テクニック』を伝授いたしましょう」

「……べ、別に頼んでないわ。頼んでないけれど、貴女がそこまで言うなら、話くらいは聞いてあげてもいいわよ」

セシリア様が、チラリとこちらを見ました。

その瞳には、私に対する警戒心よりも、藁にもすがるような期待が混ざっています。

「ありがとうございます! では、放課後にお茶会を。場所は、もちろんセシリア様のお奢りでお願いいたしますわ!」

「ええ、それくらい構わないわよ」

「(やった! タダ飯ゲットですわ!)」

こうして、貧乏男爵令嬢ルミエルによる、悪役令嬢更生(プロデュース)計画が幕を開けたのです。

すべては私の、輝かしい金持ち生活のために!
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