悪役令嬢をプロデュースして、お礼に最高の玉の輿を紹介してもらいますわ

ちゅんりー

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放課後、私はセシリア様に招かれ、学園のテラス席に座っていました。

目の前に並ぶのは、我が家の一ヶ月分の食費よりも高そうな色とりどりのマカロン。そして、香るだけで寿命が延びそうな最高級の紅茶。

「(ああ、これですわ……! この芳醇な香り! 貧乏生活で濁りきった私の血が、浄化されていくようですわ!)」

私は震える手でティーカップを持ち上げ、優雅さを装いながらも、心の中では狂喜乱舞していました。

「それで、ルミエル。貴女、さっきの大言壮語を忘れたわけではないわよね?」

セシリア様が、扇子をパサリと閉じて私を睨みました。

睨んでいるとはいえ、その頬にはまだ昼間の火照りが残っており、どこか落ち着かない様子です。

「もちろんですわ、セシリア様。私はあの日、誓ったのです。この素晴らしい美貌を持つセシリア様が、不当な評価を受ける現状を打破してみせると!」

私はマカロンを一口で食べたい衝動を抑え、熱っぽく語りかけました。

「不当な評価? 私が公爵令嬢として、誰よりも気高く振る舞っていることに疑いの余地はないはずよ」

「……セシリア様。失礼を承知で申し上げますが、今のままでは、三ヶ月以内にエドワード様から『婚約破棄』を突きつけられますわよ?」

私がわざと深刻なトーンで告げると、セシリア様はティーカップを取り落としそうになりました。

「こ、婚約破棄!? そんな馬鹿なことがあるはずないわ! 私と彼は、親同士が決めた正当な仲なのよ!」

「愛のない義務感だけで結ばれた関係ほど、脆いものはありませんわ。特に殿下の最近の冷めた目……あれは『婚約者』を見ている目ではなく、『期限切れのパン』を見ている目ですわ」

私は適当な嘘(というより誇張)を混ぜながら、彼女の危機感を煽ります。

実際、昼間の王子の態度は、パンというよりは「処分に困る粗大ゴミ」を見る目に近かったですが。

「き、期限切れ……! 私が!? この、社交界の華と謳われるセシリア・ド・ヴァルーアが!?」

「そうですわ! 華は華でも、トゲが多すぎて誰も近づけないサボテンのようですわ! セシリア様、今の貴女は『ただの怖い女』なんですのよ!」

「な、なんですって……!」

セシリア様はショックのあまり、椅子に崩れ落ちました。

よし、いい反応です。プライドを一度叩き折らなければ、教育は始まりません。

「ですが、ご安心ください。私という敏腕プロデューサーがついているのです。まずは、その『威圧感』を『カリスマ的な包容力』へと変換しましょう」

「変換……? そんなことが可能なの?」

「ええ。簡単ですわ。貴女が今やっている『他者を見下す視線』を、『慈愛に満ちた眼差し』に変えるだけ。そして、王子に対しては『要求』ではなく『おねだり』を覚えるのです」

私はテーブルを乗り出し、彼女の瞳をじっと見つめました。

「おねだり……? そんな、卑しい真似ができるわけないわ! 私は与える側の人間なのよ!」

「いいですか、セシリア様。真に高貴な女性とは、殿下を『自分なしではダメな男』に育てる、いわば猛獣使いのような存在なのです。殿下のプライドを尊重しつつ、裏で手綱を握る……これが最強の淑女ですわ」

「猛獣使い……。何だか、かっこいい響きね」

セシリア様の瞳に、少しずつ興味の光が宿り始めました。本当にこの方、単純……いえ、素直で助かりますわ。

「そのためには、まず第一歩。明日から学園で見かける生徒全員に、微笑みかけなさい。それも、牙を見せるような笑みではなく、春の陽だまりのような笑みですわ」

「全、全員に!? あの平民上がりの特待生や、小うるさい教師たちにも?」

「そうですわ。それができて初めて、エドワード様は貴女を『王妃に相応しい、徳のある女性』と認め直すのです。いいですか、紹介状……ゴホン、殿下との明るい未来のためですわ!」

私は危うく本音を漏らしそうになり、咳払いで誤魔化しました。

セシリア様が更生して、無事に王子と結婚すれば、ヴァルーア家はさらに盤石。そのお礼に、私には「若くて、優しくて、顔が良くて、何より死ぬほど金持ちな貴族」を紹介してもらう……。

「(ふふふ、見えますわ。金貨で作ったベッドで、昼寝をする私の姿が……!)」

「わかったわ、ルミエル。貴女の言うことを信じてみるわ。だって、貴女だけよ。私にこんなにハッキリと物申してくれたのは……。みんな私の顔色を伺うばかりで、本当の友達なんていなかったもの」

セシリア様が、少しだけ寂しそうに微笑みました。

その純粋な瞳を見て、私の胸が一瞬だけチクりと痛みました。

「(……いけないわ。これはビジネスよ、ビジネス。同情なんて、金貨一枚の価値もないんだから!)」

私は首を振って雑念を払い、さらに大きなマカロンを手に取りました。

「お任せください。私が、貴女を世界一幸せな(そして私に最高の報酬をくれる)公爵令嬢に仕立て上げて見せますわ!」

「ええ、頼りにしてるわ、ルミエル!」

セシリア様は私の手を握りしめました。

その力強さに、私は「絶対にこの金づる……いえ、親友を離さないわ」と心に誓ったのでした。

お茶会の帰り道、私はお土産に持たせてもらった最高級のチョコレートを抱え、鼻歌まじりに寮へと戻りました。

しかし、その途中の渡り廊下で、私は意外な人物と遭遇することになります。

「……君か。昼間の、妙な男爵令嬢は」

冷たく、それでいて深みのある声。

振り返ると、そこには漆黒の髪をなびかせ、眼鏡の奥で鋭い瞳を光らせる男性が立っていました。

「(ひゃ、百億……! いいえ、千億……!?)」

私の「金持ちセンサー」が、過去最高クラスの数値を叩き出しました。

全身から漂う、圧倒的な財力と権力のオーラ。彼こそが、若き宰相にして辺境伯、クロード・フォン・レオンハート様です。

「あ、あの、クロード様……ですよね? こんなところで何を……」

「セシリア嬢の監視だ。最近、彼女の奇行が目立つという報告があってな。……先ほどのお茶会も見ていたが、君、なかなか面白い詐欺師のような口上を述べていたな?」

「さ、詐欺師!? 人聞きが悪いですわ! 私はただ、親愛なるセシリア様の将来を憂いているだけで……!」

私は必死に愛想笑いを浮かべますが、彼の視線は私の嘘を見透かしているようです。

「ふん。まあいい。公爵令嬢をどう料理するつもりか知らんが、あまり派手に動くな。私の仕事が増えるのは、御免被る」

クロード様はそれだけ言うと、風のように去っていきました。

「(……怖いですわ。でも、あの溢れ出る資産価値……抱きつきたいくらい魅力的ですわね)」

私は去りゆく彼の背中を見つめながら、新たなターゲットの出現に、ごくりと唾を飲み込んだのでした。
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