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学園祭まであと数日。
私の脳内計算機は、五パーセントの報酬という名の極楽浄土に向かって爆走していました。
「ふふ、ふふふふ。この予算の浮かせ方……我ながら天才を通り越して、もはや富の化身ですわね」
私は実行委員室で、祭りの目玉である『光の噴水』の最終確認をしていました。
この噴水の演出に使う魔石も、私が独自のルート(クロード閣下のツテを全力で利用した裏取引)で仕入れた、格安かつ超高品質なものです。
しかし、そんな私の幸福な時間に、全力で泥を塗るような悲鳴が響き渡りました。
「大変ですわ! 第1応接室で、エドワード殿下がセシリア様を問い詰めていらっしゃいます!」
クラスメイトの令嬢が駆け込んできたその言葉に、私は持っていた算盤を落としそうになりました。
「問い詰める? 一体何をですの? まさか、セシリア様がまた私の教育を忘れて毒を吐いたとか?」
「いえ、そうではなくて……。特待生のマリア様が、学園祭で使う大切な衣装を、セシリア様に燃やされたと泣きついたのです!」
「(燃やした!? セシリア様が、私の報酬の源泉である学園祭の備品を!? あり得ませんわ!)」
私はスカートをまくり上げ(淑女失格ですが背に腹は代えられません)、応接室へと猛ダッシュしました。
応接室の扉を開けると、そこには最悪の光景がありました。
床に散らばる、黒焦げになった白いドレス。
その前で顔を覆って泣き崩れるマリアさんと、冷徹な目で彼女を見下ろすエドワード王子。
そして、信じられないという表情で立ち尽くすセシリア様の姿です。
「セシリア! 君は、あれほど更生したと信じさせておきながら、裏ではまだこのような卑劣な真似をしていたのか!」
王子の怒声が部屋に響きます。
「ち、違いますわ、エドワード様! 私はただ、マリアさんに衣装の確認をお願いされただけで……!」
「嘘よ! セシリア様は私を呼び出して、『平民の分際で、殿下と同じ舞台に立とうなんておこがましい』って。それで、魔法で……!」
マリアさんが、震える指でセシリア様を指差しました。
「セシリア、言い逃れはできないぞ。君の得意属性は『火』だ。このドレスの焼け跡、君の魔力特性と一致していると、先ほど教師が確認した」
「そ、そんな……」
セシリア様が膝をつきそうになったその瞬間、私は彼女の背中をガッシリと支えました。
「お待ちくださいませ、殿下。その断定は、あまりに早計というものですわ」
「ダントン嬢か。……また君か。だが、今回は証拠が揃いすぎている。彼女の魔力反応が検出された以上、弁明の余地はない」
王子の瞳には、失望のの色が濃く浮かんでいました。
「(……なるほど。マリアさん、今度は証拠の捏造までしてきやがりましたわね。私の五パーセントを、こんな小細工で潰されてたまるもんですか!)」
私は床の黒焦げたドレスの残骸を、じっと観察しました。
「殿下。確かにこれは『火』の魔法による跡です。ですが、セシリア様の魔法は、もっとこう……情熱的で、一気に燃え上がるタイプ。対してこの焼け跡、じわじわと低温で炙ったような跡に見えませんか?」
「何を言っている。火は火だろう」
「いいえ! お金の動きと同様、魔法の痕跡にも『クセ』があるのですわ! それに……」
私はマリアさんの足元へ歩み寄りました。
「マリア様。貴女、先ほどからずっと右手を隠していらっしゃいますけれど。その手、少し拝見してもよろしいかしら?」
「えっ……。な、なぜですか? 私は怖くて震えているだけです」
「いいから、お出しなさいな!」
私はマリアさんの右手を強引に掴み上げました。
そこには、うっすらと赤い火傷の跡がありました。
「あら。セシリア様の魔法で焼かれたのなら、もっと広範囲に傷がつくはず。これは……指先だけで扱う、ごく小規模な火炎魔法を失敗した時の傷ですわね?」
「そ、それは……!」
「マリア様、貴女の特技は『生活魔法』でしたわね。お湯を沸かしたり、明かりを灯したり……。それを応用すれば、時間をかけてドレスの一部を焼くことくらい、貴女にだってできるはずですわ」
部屋の中が、静まり返りました。
「(さあ、ここからが本番ですわ。私の『報酬防衛戦』のクライマックスです!)」
私は王子に向き直り、深々とお辞儀をしました。
「殿下。セシリア様は、この学園祭のために、ご自分の大切な時間を削って、マナーの悪い生徒への指導や、予算の適正化に協力してくださいました。そんな彼女が、なぜ自分の評価を下げるような、こんな非効率な真似をなさると思われますか?」
「それは……嫉妬に狂えば、冷静な判断ができなくなることも……」
「いいえ。セシリア様にとって、現在の『殿下との良好な関係』こそが最大の資産。それを自ら投げ捨てるような投資、彼女がするはずありませんわ! なぜなら、私がそう教えたからです!」
私は胸を張って言い切りました。
セシリア様が、涙を拭って私を見上げます。
「エドワード様……。私は、本当にやっておりません。ルミエルが教えてくれた、この学園の皆と笑い合える学園祭を、私も楽しみにしていたのです」
王子の表情が、苦渋に満ちたものから、次第に揺らぎ始めました。
「マリア。……君の手の傷、本当はどうしたんだ?」
「……あ。……あう……」
マリアさんは言葉に詰まり、その場にへたり込みました。
「殿下。マリア様も、きっと殿下の愛を失うのが怖くて、魔が差してしまったのでしょう。……ですが、衣装を燃やすのは『備品損壊罪』。これは私の予算管理において、看過できない重罪ですわ!」
私はマリアさんに、冷徹な(金貸しのような)微笑みを向けました。
「マリア様。この衣装代、貴女のこれからの奉仕活動で、きっちり補填していただきますわよ。……よろしいですね?」
マリアさんは、ただこくりと頷くしかありませんでした。
「……セシリア、疑ってすまなかった。……私は、また君を信じきれなかった」
王子がセシリア様の手を取り、謝罪しました。
「いいのですわ、エドワード様。……でも、次からは、私の言葉もちゃんと聞いてくださいね?」
セシリア様は、最高の「陽だまりの微笑み」を浮かべました。
「(ふぅ……。首の皮一枚で繋がりましたわね。私の報酬も、彼女の恋も)」
私は安堵のため息をつき、応接室を出ようとしました。
しかし、廊下の影に、いつものように腕を組んで立っている男がいました。
「……相変わらず、法務官も顔負けの推理力だな。ルミエル」
「クロード閣下。見ていらしたのですか?」
「ああ。君が自分の取り分を守るために、どれほど必死になるかをな」
クロード様は私の前まで来ると、私の額に軽くデコピンをしました。
「……痛っ! 何をなさるんですの!」
「君のその『守銭奴パワー』に免じて、衣装の補填分は私が個人的に出してやろう。……その代わり、学園祭のダンス、一曲は私に空けておけ」
「……はい?」
「二度は言わん。……わかったな?」
クロード様はそう言い残すと、耳元まで赤くして去っていきました。
「(……えっ。今、あの方……照れていらっしゃいました? 鉄仮面の宰相閣下が!?)」
私の金持ちセンサーが、かつてないほど複雑なリズムを刻み始めました。
どうやら学園祭当日は、予算管理以外にも、私のキャパシティを大幅に超える事態が待ち受けていそうですわ!
私の脳内計算機は、五パーセントの報酬という名の極楽浄土に向かって爆走していました。
「ふふ、ふふふふ。この予算の浮かせ方……我ながら天才を通り越して、もはや富の化身ですわね」
私は実行委員室で、祭りの目玉である『光の噴水』の最終確認をしていました。
この噴水の演出に使う魔石も、私が独自のルート(クロード閣下のツテを全力で利用した裏取引)で仕入れた、格安かつ超高品質なものです。
しかし、そんな私の幸福な時間に、全力で泥を塗るような悲鳴が響き渡りました。
「大変ですわ! 第1応接室で、エドワード殿下がセシリア様を問い詰めていらっしゃいます!」
クラスメイトの令嬢が駆け込んできたその言葉に、私は持っていた算盤を落としそうになりました。
「問い詰める? 一体何をですの? まさか、セシリア様がまた私の教育を忘れて毒を吐いたとか?」
「いえ、そうではなくて……。特待生のマリア様が、学園祭で使う大切な衣装を、セシリア様に燃やされたと泣きついたのです!」
「(燃やした!? セシリア様が、私の報酬の源泉である学園祭の備品を!? あり得ませんわ!)」
私はスカートをまくり上げ(淑女失格ですが背に腹は代えられません)、応接室へと猛ダッシュしました。
応接室の扉を開けると、そこには最悪の光景がありました。
床に散らばる、黒焦げになった白いドレス。
その前で顔を覆って泣き崩れるマリアさんと、冷徹な目で彼女を見下ろすエドワード王子。
そして、信じられないという表情で立ち尽くすセシリア様の姿です。
「セシリア! 君は、あれほど更生したと信じさせておきながら、裏ではまだこのような卑劣な真似をしていたのか!」
王子の怒声が部屋に響きます。
「ち、違いますわ、エドワード様! 私はただ、マリアさんに衣装の確認をお願いされただけで……!」
「嘘よ! セシリア様は私を呼び出して、『平民の分際で、殿下と同じ舞台に立とうなんておこがましい』って。それで、魔法で……!」
マリアさんが、震える指でセシリア様を指差しました。
「セシリア、言い逃れはできないぞ。君の得意属性は『火』だ。このドレスの焼け跡、君の魔力特性と一致していると、先ほど教師が確認した」
「そ、そんな……」
セシリア様が膝をつきそうになったその瞬間、私は彼女の背中をガッシリと支えました。
「お待ちくださいませ、殿下。その断定は、あまりに早計というものですわ」
「ダントン嬢か。……また君か。だが、今回は証拠が揃いすぎている。彼女の魔力反応が検出された以上、弁明の余地はない」
王子の瞳には、失望のの色が濃く浮かんでいました。
「(……なるほど。マリアさん、今度は証拠の捏造までしてきやがりましたわね。私の五パーセントを、こんな小細工で潰されてたまるもんですか!)」
私は床の黒焦げたドレスの残骸を、じっと観察しました。
「殿下。確かにこれは『火』の魔法による跡です。ですが、セシリア様の魔法は、もっとこう……情熱的で、一気に燃え上がるタイプ。対してこの焼け跡、じわじわと低温で炙ったような跡に見えませんか?」
「何を言っている。火は火だろう」
「いいえ! お金の動きと同様、魔法の痕跡にも『クセ』があるのですわ! それに……」
私はマリアさんの足元へ歩み寄りました。
「マリア様。貴女、先ほどからずっと右手を隠していらっしゃいますけれど。その手、少し拝見してもよろしいかしら?」
「えっ……。な、なぜですか? 私は怖くて震えているだけです」
「いいから、お出しなさいな!」
私はマリアさんの右手を強引に掴み上げました。
そこには、うっすらと赤い火傷の跡がありました。
「あら。セシリア様の魔法で焼かれたのなら、もっと広範囲に傷がつくはず。これは……指先だけで扱う、ごく小規模な火炎魔法を失敗した時の傷ですわね?」
「そ、それは……!」
「マリア様、貴女の特技は『生活魔法』でしたわね。お湯を沸かしたり、明かりを灯したり……。それを応用すれば、時間をかけてドレスの一部を焼くことくらい、貴女にだってできるはずですわ」
部屋の中が、静まり返りました。
「(さあ、ここからが本番ですわ。私の『報酬防衛戦』のクライマックスです!)」
私は王子に向き直り、深々とお辞儀をしました。
「殿下。セシリア様は、この学園祭のために、ご自分の大切な時間を削って、マナーの悪い生徒への指導や、予算の適正化に協力してくださいました。そんな彼女が、なぜ自分の評価を下げるような、こんな非効率な真似をなさると思われますか?」
「それは……嫉妬に狂えば、冷静な判断ができなくなることも……」
「いいえ。セシリア様にとって、現在の『殿下との良好な関係』こそが最大の資産。それを自ら投げ捨てるような投資、彼女がするはずありませんわ! なぜなら、私がそう教えたからです!」
私は胸を張って言い切りました。
セシリア様が、涙を拭って私を見上げます。
「エドワード様……。私は、本当にやっておりません。ルミエルが教えてくれた、この学園の皆と笑い合える学園祭を、私も楽しみにしていたのです」
王子の表情が、苦渋に満ちたものから、次第に揺らぎ始めました。
「マリア。……君の手の傷、本当はどうしたんだ?」
「……あ。……あう……」
マリアさんは言葉に詰まり、その場にへたり込みました。
「殿下。マリア様も、きっと殿下の愛を失うのが怖くて、魔が差してしまったのでしょう。……ですが、衣装を燃やすのは『備品損壊罪』。これは私の予算管理において、看過できない重罪ですわ!」
私はマリアさんに、冷徹な(金貸しのような)微笑みを向けました。
「マリア様。この衣装代、貴女のこれからの奉仕活動で、きっちり補填していただきますわよ。……よろしいですね?」
マリアさんは、ただこくりと頷くしかありませんでした。
「……セシリア、疑ってすまなかった。……私は、また君を信じきれなかった」
王子がセシリア様の手を取り、謝罪しました。
「いいのですわ、エドワード様。……でも、次からは、私の言葉もちゃんと聞いてくださいね?」
セシリア様は、最高の「陽だまりの微笑み」を浮かべました。
「(ふぅ……。首の皮一枚で繋がりましたわね。私の報酬も、彼女の恋も)」
私は安堵のため息をつき、応接室を出ようとしました。
しかし、廊下の影に、いつものように腕を組んで立っている男がいました。
「……相変わらず、法務官も顔負けの推理力だな。ルミエル」
「クロード閣下。見ていらしたのですか?」
「ああ。君が自分の取り分を守るために、どれほど必死になるかをな」
クロード様は私の前まで来ると、私の額に軽くデコピンをしました。
「……痛っ! 何をなさるんですの!」
「君のその『守銭奴パワー』に免じて、衣装の補填分は私が個人的に出してやろう。……その代わり、学園祭のダンス、一曲は私に空けておけ」
「……はい?」
「二度は言わん。……わかったな?」
クロード様はそう言い残すと、耳元まで赤くして去っていきました。
「(……えっ。今、あの方……照れていらっしゃいました? 鉄仮面の宰相閣下が!?)」
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