悪役令嬢をプロデュースして、お礼に最高の玉の輿を紹介してもらいますわ

ちゅんりー

文字の大きさ
14 / 28

14

しおりを挟む
学園祭まであと数日。

私の脳内計算機は、五パーセントの報酬という名の極楽浄土に向かって爆走していました。

「ふふ、ふふふふ。この予算の浮かせ方……我ながら天才を通り越して、もはや富の化身ですわね」

私は実行委員室で、祭りの目玉である『光の噴水』の最終確認をしていました。

この噴水の演出に使う魔石も、私が独自のルート(クロード閣下のツテを全力で利用した裏取引)で仕入れた、格安かつ超高品質なものです。

しかし、そんな私の幸福な時間に、全力で泥を塗るような悲鳴が響き渡りました。

「大変ですわ! 第1応接室で、エドワード殿下がセシリア様を問い詰めていらっしゃいます!」

クラスメイトの令嬢が駆け込んできたその言葉に、私は持っていた算盤を落としそうになりました。

「問い詰める? 一体何をですの? まさか、セシリア様がまた私の教育を忘れて毒を吐いたとか?」

「いえ、そうではなくて……。特待生のマリア様が、学園祭で使う大切な衣装を、セシリア様に燃やされたと泣きついたのです!」

「(燃やした!? セシリア様が、私の報酬の源泉である学園祭の備品を!? あり得ませんわ!)」

私はスカートをまくり上げ(淑女失格ですが背に腹は代えられません)、応接室へと猛ダッシュしました。

応接室の扉を開けると、そこには最悪の光景がありました。

床に散らばる、黒焦げになった白いドレス。

その前で顔を覆って泣き崩れるマリアさんと、冷徹な目で彼女を見下ろすエドワード王子。

そして、信じられないという表情で立ち尽くすセシリア様の姿です。

「セシリア! 君は、あれほど更生したと信じさせておきながら、裏ではまだこのような卑劣な真似をしていたのか!」

王子の怒声が部屋に響きます。

「ち、違いますわ、エドワード様! 私はただ、マリアさんに衣装の確認をお願いされただけで……!」

「嘘よ! セシリア様は私を呼び出して、『平民の分際で、殿下と同じ舞台に立とうなんておこがましい』って。それで、魔法で……!」

マリアさんが、震える指でセシリア様を指差しました。

「セシリア、言い逃れはできないぞ。君の得意属性は『火』だ。このドレスの焼け跡、君の魔力特性と一致していると、先ほど教師が確認した」

「そ、そんな……」

セシリア様が膝をつきそうになったその瞬間、私は彼女の背中をガッシリと支えました。

「お待ちくださいませ、殿下。その断定は、あまりに早計というものですわ」

「ダントン嬢か。……また君か。だが、今回は証拠が揃いすぎている。彼女の魔力反応が検出された以上、弁明の余地はない」

王子の瞳には、失望のの色が濃く浮かんでいました。

「(……なるほど。マリアさん、今度は証拠の捏造までしてきやがりましたわね。私の五パーセントを、こんな小細工で潰されてたまるもんですか!)」

私は床の黒焦げたドレスの残骸を、じっと観察しました。

「殿下。確かにこれは『火』の魔法による跡です。ですが、セシリア様の魔法は、もっとこう……情熱的で、一気に燃え上がるタイプ。対してこの焼け跡、じわじわと低温で炙ったような跡に見えませんか?」

「何を言っている。火は火だろう」

「いいえ! お金の動きと同様、魔法の痕跡にも『クセ』があるのですわ! それに……」

私はマリアさんの足元へ歩み寄りました。

「マリア様。貴女、先ほどからずっと右手を隠していらっしゃいますけれど。その手、少し拝見してもよろしいかしら?」

「えっ……。な、なぜですか? 私は怖くて震えているだけです」

「いいから、お出しなさいな!」

私はマリアさんの右手を強引に掴み上げました。

そこには、うっすらと赤い火傷の跡がありました。

「あら。セシリア様の魔法で焼かれたのなら、もっと広範囲に傷がつくはず。これは……指先だけで扱う、ごく小規模な火炎魔法を失敗した時の傷ですわね?」

「そ、それは……!」

「マリア様、貴女の特技は『生活魔法』でしたわね。お湯を沸かしたり、明かりを灯したり……。それを応用すれば、時間をかけてドレスの一部を焼くことくらい、貴女にだってできるはずですわ」

部屋の中が、静まり返りました。

「(さあ、ここからが本番ですわ。私の『報酬防衛戦』のクライマックスです!)」

私は王子に向き直り、深々とお辞儀をしました。

「殿下。セシリア様は、この学園祭のために、ご自分の大切な時間を削って、マナーの悪い生徒への指導や、予算の適正化に協力してくださいました。そんな彼女が、なぜ自分の評価を下げるような、こんな非効率な真似をなさると思われますか?」

「それは……嫉妬に狂えば、冷静な判断ができなくなることも……」

「いいえ。セシリア様にとって、現在の『殿下との良好な関係』こそが最大の資産。それを自ら投げ捨てるような投資、彼女がするはずありませんわ! なぜなら、私がそう教えたからです!」

私は胸を張って言い切りました。

セシリア様が、涙を拭って私を見上げます。

「エドワード様……。私は、本当にやっておりません。ルミエルが教えてくれた、この学園の皆と笑い合える学園祭を、私も楽しみにしていたのです」

王子の表情が、苦渋に満ちたものから、次第に揺らぎ始めました。

「マリア。……君の手の傷、本当はどうしたんだ?」

「……あ。……あう……」

マリアさんは言葉に詰まり、その場にへたり込みました。

「殿下。マリア様も、きっと殿下の愛を失うのが怖くて、魔が差してしまったのでしょう。……ですが、衣装を燃やすのは『備品損壊罪』。これは私の予算管理において、看過できない重罪ですわ!」

私はマリアさんに、冷徹な(金貸しのような)微笑みを向けました。

「マリア様。この衣装代、貴女のこれからの奉仕活動で、きっちり補填していただきますわよ。……よろしいですね?」

マリアさんは、ただこくりと頷くしかありませんでした。

「……セシリア、疑ってすまなかった。……私は、また君を信じきれなかった」

王子がセシリア様の手を取り、謝罪しました。

「いいのですわ、エドワード様。……でも、次からは、私の言葉もちゃんと聞いてくださいね?」

セシリア様は、最高の「陽だまりの微笑み」を浮かべました。

「(ふぅ……。首の皮一枚で繋がりましたわね。私の報酬も、彼女の恋も)」

私は安堵のため息をつき、応接室を出ようとしました。

しかし、廊下の影に、いつものように腕を組んで立っている男がいました。

「……相変わらず、法務官も顔負けの推理力だな。ルミエル」

「クロード閣下。見ていらしたのですか?」

「ああ。君が自分の取り分を守るために、どれほど必死になるかをな」

クロード様は私の前まで来ると、私の額に軽くデコピンをしました。

「……痛っ! 何をなさるんですの!」

「君のその『守銭奴パワー』に免じて、衣装の補填分は私が個人的に出してやろう。……その代わり、学園祭のダンス、一曲は私に空けておけ」

「……はい?」

「二度は言わん。……わかったな?」

クロード様はそう言い残すと、耳元まで赤くして去っていきました。

「(……えっ。今、あの方……照れていらっしゃいました? 鉄仮面の宰相閣下が!?)」

私の金持ちセンサーが、かつてないほど複雑なリズムを刻み始めました。

どうやら学園祭当日は、予算管理以外にも、私のキャパシティを大幅に超える事態が待ち受けていそうですわ!
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢まさかの『家出』

にとこん。
恋愛
王国の侯爵令嬢ルゥナ=フェリシェは、些細なすれ違いから突発的に家出をする。本人にとっては軽いお散歩のつもりだったが、方向音痴の彼女はそのまま隣国の帝国に迷い込み、なぜか牢獄に収監される羽目に。しかし無自覚な怪力と天然ぶりで脱獄してしまい、道に迷うたびに騒動を巻き起こす。 一方、婚約破棄を告げようとした王子レオニスは、当日にルゥナが失踪したことで騒然。王宮も侯爵家も大混乱となり、レオニス自身が捜索に出るが、恐らく最後まで彼女とは一度も出会えない。 ルゥナは道に迷っただけなのに、なぜか人助けを繰り返し、帝国の各地で英雄視されていく。そして気づけば彼女を慕う男たちが集まり始め、逆ハーレムの中心に。だが本人は一切自覚がなく、むしろ全員の好意に対して煙たがっている。 帰るつもりもなく、目的もなく、ただ好奇心のままに彷徨う“無害で最強な天然令嬢”による、帝国大騒動ギャグ恋愛コメディ、ここに開幕!

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

元婚約者からの嫌がらせでわたくしと結婚させられた彼が、ざまぁしたら優しくなりました。ですが新婚時代に受けた扱いを忘れてはおりませんよ?

3333(トリささみ)
恋愛
貴族令嬢だが自他ともに認める醜女のマルフィナは、あるとき王命により結婚することになった。 相手は王女エンジェに婚約破棄をされたことで有名な、若き公爵テオバルト。 あまりにも不釣り合いなその結婚は、エンジェによるテオバルトへの嫌がらせだった。 それを知ったマルフィナはテオバルトに同情し、少しでも彼が報われるよう努力する。 だがテオバルトはそんなマルフィナを、徹底的に冷たくあしらった。 その後あるキッカケで美しくなったマルフィナによりエンジェは自滅。 その日からテオバルトは手のひらを返したように優しくなる。 だがマルフィナが新婚時代に受けた仕打ちを、忘れることはなかった。

人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている

井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。 それはもう深く愛していた。 変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。 これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。 全3章、1日1章更新、完結済 ※特に物語と言う物語はありません ※オチもありません ※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。 ※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。

跡継ぎが産めなければ私は用なし!? でしたらあなたの前から消えて差し上げます。どうぞ愛妾とお幸せに。

Kouei
恋愛
私リサーリア・ウォルトマンは、父の命令でグリフォンド伯爵令息であるモートンの妻になった。 政略結婚だったけれど、お互いに思い合い、幸せに暮らしていた。 しかし結婚して1年経っても子宝に恵まれなかった事で、義父母に愛妾を薦められた夫。 「承知致しました」 夫は二つ返事で承諾した。 私を裏切らないと言ったのに、こんな簡単に受け入れるなんて…! 貴方がそのつもりなら、私は喜んで消えて差し上げますわ。 私は切岸に立って、夕日を見ながら夫に別れを告げた―――… ※この作品は、他サイトにも投稿しています。

【完結】家族に愛されなかった辺境伯の娘は、敵国の堅物公爵閣下に攫われ真実の愛を知る

水月音子
恋愛
辺境を守るティフマ城の城主の娘であるマリアーナは、戦の代償として隣国の敵将アルベルトにその身を差し出した。 婚約者である第四王子と、父親である城主が犯した国境侵犯という罪を、自分の命でもって償うためだ。 だが―― 「マリアーナ嬢を我が国に迎え入れ、現国王の甥である私、アルベルト・ルーベンソンの妻とする」 そう宣言されてマリアーナは隣国へと攫われる。 しかし、ルーベンソン公爵邸にて差し出された婚約契約書にある一文に疑念を覚える。 『婚約期間中あるいは婚姻後、子をもうけた場合、性別を問わず健康な子であれば、婚約もしくは結婚の継続の自由を委ねる』 さらには家庭教師から“精霊姫”の話を聞き、アルベルトの側近であるフランからも詳細を聞き出すと、自分の置かれた状況を理解する。 かつて自国が攫った“精霊姫”の血を継ぐマリアーナ。 そのマリアーナが子供を産めば、自分はもうこの国にとって必要ない存在のだ、と。 そうであれば、早く子を産んで身を引こう――。 そんなマリアーナの思いに気づかないアルベルトは、「婚約中に子を産み、自国へ戻りたい。結婚して公爵様の経歴に傷をつける必要はない」との彼女の言葉に激昂する。 アルベルトはアルベルトで、マリアーナの知らないところで実はずっと昔から、彼女を妻にすると決めていた。 ふたりは互いの立場からすれ違いつつも、少しずつ心を通わせていく。

私と義弟の安全は確保出来たので、ゆっくり恋人を探そうと思います

織り子
恋愛
18歳で処刑された大公家の令嬢、セレノア・グレイス。 目を覚ますと――あの日の6年前に戻っていた。 まだ無邪気な弟ルシアン、笑う両親。 再び訪れる“反逆の運命”を知るのは、彼女だけ。 ――大公家に産まれた時点で、自由な恋愛は諦めていた。だが、本当は他の令嬢達の話を聞くたびにうらやましかった。人生1度きり。もう少し花のある人生を送りたかった。一度でいいから、恋愛をしてみたい。 限られた6年の中で、セレノアは動き出す。 愛する家族を守るため、未来を変えるために。 そして本当の願い(恋愛)を叶えるために。

【完結】妻の日記を読んでしまった結果

たちばな立花
恋愛
政略結婚で美しい妻を貰って一年。二人の距離は縮まらない。 そんなとき、アレクトは妻の日記を読んでしまう。

処理中です...