悪役令嬢をプロデュースして、お礼に最高の玉の輿を紹介してもらいますわ

ちゅんりー

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「……はぁ、ため息が出るほど素晴らしい数字ですわ。算盤の珠が金貨の音を奏でています」

私は学園祭実行委員の特別室に籠もり、山のような伝票と格闘していました。

クロード閣下から任された三倍の予算。これをいかに効率よく使い、かつ、いかに合法的に『余剰金』を生み出すか。

それが今の私の人生における最優先事項です。

「装飾用の花は、隣領の卸業者から直接買い付ければ三割カット。警備の騎士団への差し入れは、賞味期限間近の高級茶葉を安く買い叩いて……ふふふ」

ペンを走らせる私の背後に、いつの間にか人の気配がありました。

「ルミエル、まだお仕事をしていたの?」

「ひゃいっ!? ……あ、セシリア様。驚かさないでくださいまし、心臓が口から金貨と一緒に飛び出すかと思いましたわ」

セシリア様は、手作りのクッキーが入ったバスケットを抱え、申し訳なさそうに立っていました。

「ごめんなさいね。貴女、この数日間、食事も満足に取らずに予算案を練っていると聞いたから。……はい、これ。差し入れよ」

「まあ! セシリア様のお手製ですか? 毒……いえ、隠し味などは入っておりませんわね?」

「失礼ね! ルミエルが教えてくれた通り、真心を込めて焼いたわ。……エドワード様にも、少しだけお裾分けするつもりなの」

私はクッキーを一枚口に放り込みました。……おや、意外と美味しいですわ。

セシリア様は、私の机に積み上がった書類の山を、痛ましそうな目で見つめました。

「ルミエル。私、本当に貴女には感謝しているのよ。……以前の私なら、こんな大きな行事、ただ我儘を言って周囲を困らせるだけだったわ。でも貴女が、お金の使い道一つで人の心が動くのだと教えてくれた」

「……ええ、世の中の大抵のことは、金貨で解決できますから」

「ふふ、貴女らしいわね。でも、貴女が自分の睡眠時間を削ってまで学園のために尽くしている姿を見て、皆、感動しているのよ?」

セシリア様の言葉に、私は一瞬フリーズしました。

感動? 尽くしている? 私はただ、自分の取り分である『五パーセントの余剰金』を増やすために、血眼になってコストカットをしているだけなのですが。

「あ、あの、セシリア様。それは少し、買い被りというもので……」

「いいえ! 貴女はいつもそうやって自分を低く見せるけれど、私には分かっているわ。貴女は私の紹介状のためではなく、この学園の皆の笑顔のために戦っているのね!」

セシリア様の瞳から、一粒の涙がこぼれ落ちました。

「ルミエル、貴女は私の誇りよ。私の、世界一の親友だわ!」

「(……ちょ、ちょっと待ちなさい! 罪悪感が! 私の強固な金銭欲の壁を、純粋な友情が侵食し始めていますわ!)」

私はセシリア様に抱きつかれ、あたふたとするしかありませんでした。

そんな感動の場面をぶち壊すように、部屋の扉が乱暴に開けられました。

「ルミエル・ダントン! 貴女、ついに尻尾を出しましたわね!」

現れたのは、あのベアトリス様率いる令嬢軍団でした。

「まあ、騒々しいですわね。今はセシリア様との感動の抱擁タイムですのに」

「白々しい! 貴女、業者から不当なリベートを受け取っているという噂がありますわよ! なぜ花代が去年の七割に抑えられているのです!? 差額を着服しているのでしょう!」

周囲の生徒たちも、ざわざわと集まってきました。

「着服? 失礼なことを仰らないでください。私はただ、無駄な中間マージンを削り、適正な価格で取引をしただけですわ」

「嘘をつけ! 男爵家の小娘に、そんな芸当ができるはずがない! クロード閣下のお気に入りだからと、好き勝手しおって!」

ベアトリス様の攻撃に、セシリア様が毅然と前に出ました。

「おやめなさい、ベアトリス様! ルミエルがどれほどの努力を重ねているか、貴女は何も知らないはずよ!」

「セシリア様まで、この女に毒されて……!」

状況は最悪。……いえ、最高ですわ。

私は算盤をパチンと弾き、立ち上がりました。

「ベアトリス様。疑うのであれば、この帳簿をご覧くださいませ。一リーブルの狂いもなく、すべての出納が記録されております。そして、浮いたお金で何をしたか……貴女、あそこの噴水が新しくなったのをご存知なくて?」

「え……? 噴水?」

「老朽化して止まっていた噴水を、浮いた予算で修理いたしましたの。これは、学園祭に来るすべてのお客様への『おもてなし』のためですわ」

……本当は、噴水の修理業者と『宣伝になるから安くしろ』と交渉して、さらに予算を浮かせるための布石だったのですが。

「(ふふふ、善行は目に見える形にするのが、プロデュースの基本ですわ)」

生徒たちから、「おお……」という感心の声が漏れました。

「ルミエル様は、ご自分のためではなく、私たちの学園のために……!」

「疑ってごめんなさい、ルミエル様!」

一転して、教室は私への称賛の嵐に包まれました。

ベアトリス様は、悔しげに顔を真っ赤にして逃げ出していきました。

「……さすがだわ、ルミエル。貴女はやっぱり、聖女だわ」

セシリア様が、キラキラした目で私を見つめます。

「……ええ。まあ、そういうことにしておいてくださいまし」

私は、計算通りに積み上がった『五パーセントの権利』を思い浮かべ、聖女のような(?)微笑みを浮かべるのでした。

その夜、誰もいなくなった特別室に、一つの影が落ちました。

「……噴水の修理とは。君は、人の心理を操る天才だな」

「……クロード閣下。お褒めにあずかり光栄ですわ」

私は暗闇の中で書類をまとめながら、背後の彼に答えました。

「だが、セシリアを泣かせるとはな。彼女、君に一生ついて行くと息巻いていたぞ」

「あら、それは困りますわ。私の将来の旦那様が、嫉妬してしまいますもの」

「……その旦那様なら、今、君の目の前で呆れている」

クロード様は私の肩に手を置き、低く笑いました。

「学園祭の当日、空けておけ。君のその『手腕』、特等席で拝ませてもらう」

私の働かない生活への夢は、どうやらこの「聖女(のふりをした強欲鳥)」の演技を完遂した先にしかないようですわ!
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