悪役令嬢をプロデュースして、お礼に最高の玉の輿を紹介してもらいますわ

ちゅんりー

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王宮から学園の寮に戻った私は、真っ先に自席に座り、電卓代わりに算盤を弾き始めました。

「願いましては、クロード閣下の総資産推定……いえ、これでは桁が足りませんわ!」

算盤を放り出し、私は頭を抱えました。

あのクロード閣下が、私に「自分が玉の輿の相手になってもいい」と言い出したのです。

これは、崖から落ちそうになったら下から巨大な金塊がせり上がってきて助けてくれたような、恐ろしいほどの強運です。

「(でも、待ちなさいルミエル。冷静になるのですわ。あの男は『仕事中毒』で有名な宰相。彼と結婚するということは、私もその激務の隣で、淑女としての完璧な振る舞いを求められるということでは!?)」

私の夢は、あくまで「働かずに、贅沢三昧」することです。

昼まで寝て、おやつを食べて、宝石を眺めてまた寝る。そんな怠惰な生活を、あの冷徹で隙のない男が許してくれるでしょうか?

「……無理ですわ。あの人、きっと私が二度寝しようとしたら、毛布を剥ぎ取って『公文書を読め』とか言いそうですもの!」

私は戦慄しました。

クロード閣下は、巷では「金貨の音が聞こえる男」と囁かれています。

彼が通った後は、死んでいた商売が蘇り、国庫が潤う。彼の耳には、世界中の金の流れが音として聞こえているという伝説さえあるのです。

「(そんな超人と結婚したら、私の『裏帳簿』なんて一瞬で暴かれて、没収されてしまいますわ。それは死を意味します!)」

利益とリスクの天秤が、激しく上下に揺れ動きます。

そんな時、部屋の扉が勢いよく開きました。

「ルミエル! 大変よ、聞いてちょうだい!」

セシリア様が、顔を上気させて飛び込んできました。

「セシリア様。淑女は扉を蹴り破るような真似はいたしませんわ。……で、今度は何ですの? 殿下からバラの花束でも届きましたか?」

「そんなものより、もっと凄いことよ! クロード様が、次の学園祭の予算を、例年の三倍に引き上げると発表されたの!」

「……三倍!?」

私の金持ちセンサーが、ピンと反応して直立しました。

「ええ! しかも、その予算の運用を、生徒会ではなく『最も信頼できる協力者』に任せると仰っているそうなの。学園内は、その協力者が誰なのかで持ち切りよ!」

「(……最も、信頼できる、協力者?)」

嫌な予感がします。いえ、これは金貨の香りがする予感です。

「それって、もしや……」

「ええ、皆そう言っているわ。最近クロード様と親しくしている、貴女のことではないかって!」

セシリア様が私の手を握り、ぶんぶんと振り回しました。

「凄いじゃない、ルミエル! 貴女、ついに閣下に実力を認められたのね! これで貴女が予算を管理すれば、私のお茶会ももっと豪華にできるわ!」

「セシリア様、落ち着いてください。私はただの貧乏男爵令嬢ですわ。そんな国家予算並みの金額を動かすなんて、荷が重すぎ……」

「報酬は、予算の余剰分の五パーセントを『管理費』として認める、と書いてあったわよ?」

「……引き受けますわ。今すぐクロード閣下の元へ、承諾のサインを届けに行きます!」

私は手のひらを太陽よりも早く返しました。

五パーセント! 学園祭の予算の五パーセントと言えば、我が男爵家が三代遊んで暮らせるほどの額ですわ!

「(あの男、私の弱点を完全に把握していますわね……。あんな餌をぶら下げられたら、食いつかないわけがないじゃない!)」

私はセシリア様を部屋に残し、風のような速さで廊下へ飛び出しました。

しかし、階段を駆け下りようとしたところで、そこに立っていた「壁」に激突しました。

「うわっ!? ……痛たた。どこのどいつですわ、廊下の真ん中で柱のフリをしているのは!」

「柱ではなく、君の『雇い主』だ」

見上げると、そこには不敵な笑みを浮かべたクロード様が立っていました。

「閣下! なぜ学園の女子寮に!? ここは男子禁制ですわよ!」

「私がこの国の法だ。……それよりルミエル。話は聞いたようだな?」

クロード様が、私の鼻先を一筆書きでなぞるように指を動かしました。

「五パーセント。……君なら、一銭も無駄にせずに学園祭を成功させ、かつ自分の懐もしっかりと温めるだろう?」

「……性格が悪すぎますわ、閣下。私の欲望を見透かして楽しんでいるでしょう!」

「ああ、楽しいな。君が金貨の音を聞いて目を輝かせる姿を見るのは、どんな名画を鑑賞するよりも面白い」

クロード様は私の腰を引き寄せ、耳元で低く囁きました。

「この予算を完璧に使い切ってみせろ。そうすれば、五パーセントどころか、私の私産の一部も君に管理させてやろう。……君の言う『働かない生活』の原資としてな」

「(……っ!)」

鼓動が速くなります。これは恋でしょうか、それともただの強欲でしょうか。

「……いいでしょう。受けて立ちますわ。その代わり、私が何をやっても、後で文句を言わないでくださいね!」

「期待しているよ、私の小さな強欲鳥」

クロード様は私の頭を軽く撫でると、優雅な足取りで立ち去っていきました。

残された私は、赤くなった顔を隠すように両手で頬を押さえました。

「(……いけませんわ、ルミエル。あの男は危険すぎます。でも、あの人の資産……本当に、甘い香りがしますわ!)」

こうして、私の「玉の輿計画」は、いつの間にか「国家予算運用計画」へと、とんでもないスケールアップを遂げてしまったのです。
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