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昨晩の出来事は、夢だったのでしょうか。
いいえ、私の目の前には今、現実という名の「金光りする物体」が鎮座しています。
「(……金貨三千枚、本当に届きましたわ)」
寮の私の部屋に運び込まれた三つの大きな革袋。中には、この国の王室が発行する、混じり気なしの純金貨がぎっしりと詰まっていました。
私は朝から、指の指紋が消えるほど金貨を数え、一枚ずつその重みを確かめていました。
「ふふ、あははは! 見てください、この輝き! これ一枚で、我が家の借金が数ヶ月分は返せますわ!」
私が金貨の海に顔を埋めて悦に浸っていると、部屋の扉が控えめにノックされました。
「ルミエル、私よ。入ってもいいかしら?」
セシリア様が、どこかニヤニヤとした笑みを浮かべて入ってきました。
「おはようございます、セシリア様! 見てください、この景気の良い光景を!」
「ええ、本当に……。クロード様ったら、あんなに急いで手配させるなんて。よっぽど貴女を逃したくないのね」
セシリア様は私の隣に座り、私の頬を指先でつつきました。
「それで、ルミエル。昨日の今日だけれど、お気持ちの方はどうなの? 閣下のあんなに情熱的な告白を受けて、ただ『金貨が嬉しい』だけじゃないでしょう?」
「……え。お、お気持ち、ですか?」
私は金貨を掴んでいた手を止めました。
「そ、そんなの決まっていますわ。あの方は、私の将来の安泰を保証してくれる最高のスポンサー。……そう、一生モノの定期預金のような存在ですわ!」
「まあ、相変わらずね。でも貴女、顔が真っ赤よ?」
「これは金貨の反射ですわ! 物理現象です!」
私は必死に言い訳をしましたが、胸の奥が、昨晩の彼の抱擁を思い出して、妙に熱くなるのを止められませんでした。
私にとって、人間関係は常に「損得」で測るものでした。
愛だの恋だのという不確実な投資に、人生を賭けるなんて愚か者のすることだと思っていたのです。
しかし、クロード閣下のあの真っ直ぐな瞳。私の強欲さを肯定し、その上で「愛している」と言い放ったあの言葉。
「(……計算が合いませんわ。あんなに完璧な男性が、なぜ私のような女を? 何か裏があるのでは? 実は私の知らないところで、私の内臓が高値で売買されているとか!?)」
不信感とときめきが交互に押し寄せ、私の脳内計算機はエラーを吐き出し続けていました。
そこへ、再び来客を告げる声が響きました。
「ルミエル・ダントン。……準備はできているか」
「ひゃいっ!? か、閣下!?」
扉の前に立っていたのは、公務の合間を縫ってきたのか、少しだけ呼吸を乱したクロード様でした。
「クロード様! 早いお出ましね。ルミエルを連れ出しに来たのかしら?」
セシリア様が楽しそうに席を立ちました。
「ああ。……ルミエル。昨日の話の続きだが、早速、私の別邸の鍵を預けに行こうと思う。ついて来い」
「べ、別邸の鍵!? そんな、いきなり重要拠点の管理を任されるなんて!」
私は慌てて身なりを整え、彼の差し出した手に捕まりました。
馬車に揺られながら、私たちは向かい合わせに座りました。
沈黙が流れる中、私はどうにも落ち着かず、ついつい余計なことを口にしてしまいました。
「……閣下。一つ確認させていただきたいのですが。……昨日のあれ、本当にお正気ですの? 私、性格も悪いですし、お金のためなら閣下を売る可能性だって微粒子レベルで存在しますわよ?」
「……売れるものなら売ってみろ。私の身代金がいくらになるか、君なら正確に弾き出すだろう?」
クロード様は呆れたように、しかし愛おしげに目を細めました。
「ルミエル。君は、自分の価値を低く見積もりすぎている。……君がセシリアのために動いたあの執念、そして利害関係を完璧にコントロールするあの頭脳。……私は、そんな君の『生きる力』に惚れたんだ」
クロード様が、私の手を自身の胸元に引き寄せました。
そこからは、彼の力強い心音(ビート)が伝わってきました。
「愛している。……この感情は、損得では計れない。……君が私を金のために利用するなら、それでいい。その代わり、一生かけて私を利用し続けろ」
「……っ。そ、そんなこと言われたら、私が……。私が、計算できなくなってしまうではありませんか……!」
私は視線を逸らしましたが、彼の手から伝わる熱が、私の心の氷を溶かしていくのが分かりました。
「(……ああ、もう! 負けですわ! この『真実の愛』という名の、とんでもない配当金! 私は、謹んでこれをお受けいたしますわ!)」
私は真っ赤な顔で、彼の胸元に額を押し当てました。
しかし。ハッピーエンドへの道は、そう簡単には開かないのが世の常です。
「……閣下、大変です! 王宮から緊急の伝令が!」
馬車の外から、騎士の叫び声が聞こえました。
「……何事だ」
「隣国の使節団が、予定を早めて到着しました! しかも、第一王子の婚約者交代を要求しているという噂が……!」
「(……なんですって!? 私の報酬……じゃなくて、セシリア様の幸せに、また横槍が入るというのですか!?)」
私は反射的に立ち上がり、算盤を構える(ような気分で拳を握る)のでした。
いいえ、私の目の前には今、現実という名の「金光りする物体」が鎮座しています。
「(……金貨三千枚、本当に届きましたわ)」
寮の私の部屋に運び込まれた三つの大きな革袋。中には、この国の王室が発行する、混じり気なしの純金貨がぎっしりと詰まっていました。
私は朝から、指の指紋が消えるほど金貨を数え、一枚ずつその重みを確かめていました。
「ふふ、あははは! 見てください、この輝き! これ一枚で、我が家の借金が数ヶ月分は返せますわ!」
私が金貨の海に顔を埋めて悦に浸っていると、部屋の扉が控えめにノックされました。
「ルミエル、私よ。入ってもいいかしら?」
セシリア様が、どこかニヤニヤとした笑みを浮かべて入ってきました。
「おはようございます、セシリア様! 見てください、この景気の良い光景を!」
「ええ、本当に……。クロード様ったら、あんなに急いで手配させるなんて。よっぽど貴女を逃したくないのね」
セシリア様は私の隣に座り、私の頬を指先でつつきました。
「それで、ルミエル。昨日の今日だけれど、お気持ちの方はどうなの? 閣下のあんなに情熱的な告白を受けて、ただ『金貨が嬉しい』だけじゃないでしょう?」
「……え。お、お気持ち、ですか?」
私は金貨を掴んでいた手を止めました。
「そ、そんなの決まっていますわ。あの方は、私の将来の安泰を保証してくれる最高のスポンサー。……そう、一生モノの定期預金のような存在ですわ!」
「まあ、相変わらずね。でも貴女、顔が真っ赤よ?」
「これは金貨の反射ですわ! 物理現象です!」
私は必死に言い訳をしましたが、胸の奥が、昨晩の彼の抱擁を思い出して、妙に熱くなるのを止められませんでした。
私にとって、人間関係は常に「損得」で測るものでした。
愛だの恋だのという不確実な投資に、人生を賭けるなんて愚か者のすることだと思っていたのです。
しかし、クロード閣下のあの真っ直ぐな瞳。私の強欲さを肯定し、その上で「愛している」と言い放ったあの言葉。
「(……計算が合いませんわ。あんなに完璧な男性が、なぜ私のような女を? 何か裏があるのでは? 実は私の知らないところで、私の内臓が高値で売買されているとか!?)」
不信感とときめきが交互に押し寄せ、私の脳内計算機はエラーを吐き出し続けていました。
そこへ、再び来客を告げる声が響きました。
「ルミエル・ダントン。……準備はできているか」
「ひゃいっ!? か、閣下!?」
扉の前に立っていたのは、公務の合間を縫ってきたのか、少しだけ呼吸を乱したクロード様でした。
「クロード様! 早いお出ましね。ルミエルを連れ出しに来たのかしら?」
セシリア様が楽しそうに席を立ちました。
「ああ。……ルミエル。昨日の話の続きだが、早速、私の別邸の鍵を預けに行こうと思う。ついて来い」
「べ、別邸の鍵!? そんな、いきなり重要拠点の管理を任されるなんて!」
私は慌てて身なりを整え、彼の差し出した手に捕まりました。
馬車に揺られながら、私たちは向かい合わせに座りました。
沈黙が流れる中、私はどうにも落ち着かず、ついつい余計なことを口にしてしまいました。
「……閣下。一つ確認させていただきたいのですが。……昨日のあれ、本当にお正気ですの? 私、性格も悪いですし、お金のためなら閣下を売る可能性だって微粒子レベルで存在しますわよ?」
「……売れるものなら売ってみろ。私の身代金がいくらになるか、君なら正確に弾き出すだろう?」
クロード様は呆れたように、しかし愛おしげに目を細めました。
「ルミエル。君は、自分の価値を低く見積もりすぎている。……君がセシリアのために動いたあの執念、そして利害関係を完璧にコントロールするあの頭脳。……私は、そんな君の『生きる力』に惚れたんだ」
クロード様が、私の手を自身の胸元に引き寄せました。
そこからは、彼の力強い心音(ビート)が伝わってきました。
「愛している。……この感情は、損得では計れない。……君が私を金のために利用するなら、それでいい。その代わり、一生かけて私を利用し続けろ」
「……っ。そ、そんなこと言われたら、私が……。私が、計算できなくなってしまうではありませんか……!」
私は視線を逸らしましたが、彼の手から伝わる熱が、私の心の氷を溶かしていくのが分かりました。
「(……ああ、もう! 負けですわ! この『真実の愛』という名の、とんでもない配当金! 私は、謹んでこれをお受けいたしますわ!)」
私は真っ赤な顔で、彼の胸元に額を押し当てました。
しかし。ハッピーエンドへの道は、そう簡単には開かないのが世の常です。
「……閣下、大変です! 王宮から緊急の伝令が!」
馬車の外から、騎士の叫び声が聞こえました。
「……何事だ」
「隣国の使節団が、予定を早めて到着しました! しかも、第一王子の婚約者交代を要求しているという噂が……!」
「(……なんですって!? 私の報酬……じゃなくて、セシリア様の幸せに、また横槍が入るというのですか!?)」
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