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「……ついに、着きました。ここが我が国の誇る、絶対不可侵の『聖域の塔』です」
アルベルト様が馬車の扉を開けると、天を突くような白亜の塔が目の前にそびえ立っていた。
塔全体が淡い光を放っており、周囲には目に見えるほどの魔力の波動が渦巻いている。
「……これよ。これなのよ! 私が求めていたのは、この『入ったら二度と出られなさそう』な隔離施設感!」
私は馬車から転げ落ちるように降り、塔の壁に頬を擦りつけた。
冷たい。そして、強固な魔力の拒絶反応。……最高だわ。
「……おお、ターリア様。これほど強力な結界を前にして、安堵の表情を浮かべるとは。普通の人なら、魔力の圧力に酔って気分を悪くするものですが」
「……え? ああ、そうなの? 私はただ、この壁が一枚あるだけで、あの子の『お姉様ぁ!』という声が遮断されるなら、毒沼の中でも平気よ」
「なんと……。肉体的な苦痛よりも、精神の静寂を重んじる。やはり貴女は、悟りを開いた高潔な隠者のような精神性をお持ちだ」
アルベルト様が、またしても聖母でも見るような目で私を拝んでいる。
違うの。私はただ、物理攻撃が効かない空間に引きこもりたいだけの、筋金入りの引きこもり志望なのよ。
塔の重厚な鉄扉が開かれ、私たちは中へと足を踏み入れた。
内部は意外にも豪華で、最上階の居住区には、魔法によって常に最適な温度と湿度が保たれた部屋が用意されていた。
「ここなら、許可なき者は一歩も立ち入れません。ましてや、隣国の聖女といえど、この国の国家級結界を破ることは不可能です」
アルベルト様が、私の前に膝をついた。
「……ターリア様。ここで改めて、貴女に誓わせてください」
「……誓い?」
「はい。私はこれまで、一人の騎士として、国のために剣を振るってきました。ですが、貴女と出会い、その不屈の魂に触れ……私は初めて、自らの意志で『守りたい』と思う存在を見つけたのです」
アルベルト様が、私の右手を取り、その甲に誓いのキスを落とした。
(……うわぁ、本格的なやつ来たわ。これ、乙女ゲームならエンディング確定演出じゃない?)
だが、私の脳内では、この感動的なシーンのBGMとして、フローラ様が塔の壁を爪でガリガリと削る音が再生されていた。
「……アルベルト様。嬉しいわ。でも、本当に私を守ってくれる? 彼女が、もし、空から降ってきたり、地面から生えてきたりしても?」
「ええ。このアルベルト・グランツ、魂の最後の一片が燃え尽きるまで、貴女の盾となりましょう。貴女を狙うあらゆる厄災から、私が必ずや遠ざけてみせます」
アルベルト様の瞳には、一点の曇りもない決意が宿っていた。
(……心強い。この筋肉、この魔力量。彼なら、フローラ様の全速力タックルを、せめて一回くらいは受け止めてくれるはず!)
「……ありがとう。信じているわ。あなたがいてくれるなら、私、ようやく今夜は眠れそうな気がする」
私が精一杯の(死に物狂いで作った)微笑みを浮かべると、アルベルト様は顔を赤らめ、感極まったように立ち上がった。
「……くっ! その儚げな、それでいて全てを包み込むような微笑み……! 私は、私はなんて幸せな騎士なんだ!」
アルベルト様は感極まって部屋を飛び出していった。廊下から「うおぉおおお!」という咆哮と、素振りの音が聞こえてくる。
……まあ、元気なのはいいことね。
私はようやく一人になり、ふかふかのソファに身を沈めた。
ハンスが用意してくれたお茶を飲みながら、窓の外を見下ろす。
ここは塔の最上階。地上は豆粒のようにしか見えない。
「……ふふ。これなら大丈夫。いくらフローラ様でも、空を飛ぶ魔道具もなしに、ここまで来ることは――」
ふと、窓の外に目をやった私は、そのままティーカップを床に落とした。
ガシャァアン!!
「お、お嬢様!? どうされました!?」
ハンスが慌てて駆け寄ってくる。
「……ハ、ハンス。見て。あれ、何かしら」
窓の外、はるか上空。
雲の切れ間から、ゆっくりと「何か」が降下してきていた。
それは、巨大な鷲……ではない。
ピンク色のパラソルを差し、優雅に空中を散歩するように降りてくる、一人の少女。
「お姉様ぁああああ!! 素敵なお城ですねぇえええええ!!」
風に乗って、あの、心臓が跳ね上がるような明るい声が届く。
彼女は、パラソルの柄をバトンのようにくるくると回しながら、塔の結界――触れただけで魔導師が蒸発すると言われる防壁を、まるでカーテンでも開けるかのように『手で割って』侵入してきた。
「……嘘。結界を、素手で……?」
「……お嬢様。あのお方、物理だけじゃなくて魔法も効かないみたいですぞ……」
ハンスが腰を抜かして床にへたり込む。
フローラ様は、そのままバルコニーの欄干に軽やかに着地した。
「お姉様! こんなに高いところに隠れちゃって、恥ずかしがり屋さんですねぇ」
彼女は、ドレスの裾を少しだけ持ち上げ、最高に可憐なカーテシーを見せた。
その背後では、国家級の結界が、バリバリと嫌な音を立てて修復されようとしているが、彼女の周囲だけは空間そのものが彼女に怯えているかのように歪んでいた。
「……フローラ、様……。どうして、ここが……」
「ふふ。お姉様の香りが、風に乗って教えてくれたんですもの。……あ、アルベルト様という騎士の方とは、もう仲良くなられたのかしら?」
フローラ様が、一歩、室内に足を踏み入れた。
その瞬間、部屋の温度が十度くらい下がった気がした。
「……やめて。来ないで。私は、静かに暮らしたいだけなの……!」
「あら、私も同じですわよ? お姉様と二人きりで、誰にも邪魔されない場所で、永遠に、静かに、お話ししたいだけなんですもの」
フローラ様の手には、いつの間にか、先ほどアルベルト様が私に誓いを立てた時に触れた『右手』を縛るための、ピンク色の鎖が握られていた。
「……ヒッ、ヒギィイイイイイ!! アルベルト様ぁああああ!! 盾ぇえええ!! 私の盾を呼んでぇえええ!!」
私の絶叫が、塔全体に響き渡った。
扉を蹴破ってアルベルト様が飛び込んできたのは、そのわずか三秒後のことだった。
アルベルト様が馬車の扉を開けると、天を突くような白亜の塔が目の前にそびえ立っていた。
塔全体が淡い光を放っており、周囲には目に見えるほどの魔力の波動が渦巻いている。
「……これよ。これなのよ! 私が求めていたのは、この『入ったら二度と出られなさそう』な隔離施設感!」
私は馬車から転げ落ちるように降り、塔の壁に頬を擦りつけた。
冷たい。そして、強固な魔力の拒絶反応。……最高だわ。
「……おお、ターリア様。これほど強力な結界を前にして、安堵の表情を浮かべるとは。普通の人なら、魔力の圧力に酔って気分を悪くするものですが」
「……え? ああ、そうなの? 私はただ、この壁が一枚あるだけで、あの子の『お姉様ぁ!』という声が遮断されるなら、毒沼の中でも平気よ」
「なんと……。肉体的な苦痛よりも、精神の静寂を重んじる。やはり貴女は、悟りを開いた高潔な隠者のような精神性をお持ちだ」
アルベルト様が、またしても聖母でも見るような目で私を拝んでいる。
違うの。私はただ、物理攻撃が効かない空間に引きこもりたいだけの、筋金入りの引きこもり志望なのよ。
塔の重厚な鉄扉が開かれ、私たちは中へと足を踏み入れた。
内部は意外にも豪華で、最上階の居住区には、魔法によって常に最適な温度と湿度が保たれた部屋が用意されていた。
「ここなら、許可なき者は一歩も立ち入れません。ましてや、隣国の聖女といえど、この国の国家級結界を破ることは不可能です」
アルベルト様が、私の前に膝をついた。
「……ターリア様。ここで改めて、貴女に誓わせてください」
「……誓い?」
「はい。私はこれまで、一人の騎士として、国のために剣を振るってきました。ですが、貴女と出会い、その不屈の魂に触れ……私は初めて、自らの意志で『守りたい』と思う存在を見つけたのです」
アルベルト様が、私の右手を取り、その甲に誓いのキスを落とした。
(……うわぁ、本格的なやつ来たわ。これ、乙女ゲームならエンディング確定演出じゃない?)
だが、私の脳内では、この感動的なシーンのBGMとして、フローラ様が塔の壁を爪でガリガリと削る音が再生されていた。
「……アルベルト様。嬉しいわ。でも、本当に私を守ってくれる? 彼女が、もし、空から降ってきたり、地面から生えてきたりしても?」
「ええ。このアルベルト・グランツ、魂の最後の一片が燃え尽きるまで、貴女の盾となりましょう。貴女を狙うあらゆる厄災から、私が必ずや遠ざけてみせます」
アルベルト様の瞳には、一点の曇りもない決意が宿っていた。
(……心強い。この筋肉、この魔力量。彼なら、フローラ様の全速力タックルを、せめて一回くらいは受け止めてくれるはず!)
「……ありがとう。信じているわ。あなたがいてくれるなら、私、ようやく今夜は眠れそうな気がする」
私が精一杯の(死に物狂いで作った)微笑みを浮かべると、アルベルト様は顔を赤らめ、感極まったように立ち上がった。
「……くっ! その儚げな、それでいて全てを包み込むような微笑み……! 私は、私はなんて幸せな騎士なんだ!」
アルベルト様は感極まって部屋を飛び出していった。廊下から「うおぉおおお!」という咆哮と、素振りの音が聞こえてくる。
……まあ、元気なのはいいことね。
私はようやく一人になり、ふかふかのソファに身を沈めた。
ハンスが用意してくれたお茶を飲みながら、窓の外を見下ろす。
ここは塔の最上階。地上は豆粒のようにしか見えない。
「……ふふ。これなら大丈夫。いくらフローラ様でも、空を飛ぶ魔道具もなしに、ここまで来ることは――」
ふと、窓の外に目をやった私は、そのままティーカップを床に落とした。
ガシャァアン!!
「お、お嬢様!? どうされました!?」
ハンスが慌てて駆け寄ってくる。
「……ハ、ハンス。見て。あれ、何かしら」
窓の外、はるか上空。
雲の切れ間から、ゆっくりと「何か」が降下してきていた。
それは、巨大な鷲……ではない。
ピンク色のパラソルを差し、優雅に空中を散歩するように降りてくる、一人の少女。
「お姉様ぁああああ!! 素敵なお城ですねぇえええええ!!」
風に乗って、あの、心臓が跳ね上がるような明るい声が届く。
彼女は、パラソルの柄をバトンのようにくるくると回しながら、塔の結界――触れただけで魔導師が蒸発すると言われる防壁を、まるでカーテンでも開けるかのように『手で割って』侵入してきた。
「……嘘。結界を、素手で……?」
「……お嬢様。あのお方、物理だけじゃなくて魔法も効かないみたいですぞ……」
ハンスが腰を抜かして床にへたり込む。
フローラ様は、そのままバルコニーの欄干に軽やかに着地した。
「お姉様! こんなに高いところに隠れちゃって、恥ずかしがり屋さんですねぇ」
彼女は、ドレスの裾を少しだけ持ち上げ、最高に可憐なカーテシーを見せた。
その背後では、国家級の結界が、バリバリと嫌な音を立てて修復されようとしているが、彼女の周囲だけは空間そのものが彼女に怯えているかのように歪んでいた。
「……フローラ、様……。どうして、ここが……」
「ふふ。お姉様の香りが、風に乗って教えてくれたんですもの。……あ、アルベルト様という騎士の方とは、もう仲良くなられたのかしら?」
フローラ様が、一歩、室内に足を踏み入れた。
その瞬間、部屋の温度が十度くらい下がった気がした。
「……やめて。来ないで。私は、静かに暮らしたいだけなの……!」
「あら、私も同じですわよ? お姉様と二人きりで、誰にも邪魔されない場所で、永遠に、静かに、お話ししたいだけなんですもの」
フローラ様の手には、いつの間にか、先ほどアルベルト様が私に誓いを立てた時に触れた『右手』を縛るための、ピンク色の鎖が握られていた。
「……ヒッ、ヒギィイイイイイ!! アルベルト様ぁああああ!! 盾ぇえええ!! 私の盾を呼んでぇえええ!!」
私の絶叫が、塔全体に響き渡った。
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