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「ターリア様、お下がりください! この不届き者は私が……っ!?」
部屋に飛び込んできたアルベルト様が、バルコニーに立つフローラ様を見て絶句した。
無理もない。地上数百メートルの、しかも国家級の結界に守られた塔のバルコニーに、ピンクのパラソルを差した美少女が、羽毛のような軽やかさで着地しているのだ。
「……貴様、何者だ。どうやってここへ侵入した」
アルベルト様が、抜き放った長剣をフローラ様に向ける。その剣先は、かつてないほど鋭い魔力を帯びていた。
「あらぁ、怖い騎士様。私はただ、大切なお姉様に忘れ物を届けに来ただけの、か弱い乙女ですわよ?」
フローラ様は、ふふっ、と鈴を転がすような声で笑った。
その「か弱い乙女」の足元の石畳は、彼女が着地した際の衝撃で細かくひび割れているのだが、アルベルト様の目には入っていないらしい。
「か弱いだと? 結界を素手で割っておいて、よくもそんな口が……!」
「あら、お姉様。この騎士様、とっても冗談がお上手ですわね。私のような力のない娘が、結界なんて壊せるはずがありませんもの」
フローラ様が、私に助けを求めるような潤んだ瞳を向けてくる。
(……ひぃっ! 嘘よ! 全部嘘よ! その指先一つで、私の頭蓋骨なんてクルミみたいに割れるでしょぉおおお!)
私はアルベルト様の背中に、爪が食い込むほどの勢いでしがみついた。
「アルベルト様! 騙されないで! その子、昨日クマをビンタで片付けたって言ったじゃない! その笑顔の裏には、筋肉の悪魔が棲んでいるのよ!」
「……なるほど。相手は精神操作の術者でもあるというわけか。ターリア様の正気を奪おうとするとは、卑劣な!」
アルベルト様が、一歩踏み出した。
「問答無用! 我が国の至宝たるターリア様に仇なす者は、この私が排除する!」
アルベルト様が、目にも止まらぬ速さで踏み込み、剣を振り下ろした。
キィィィィィィィン!!
鼓膜を突き刺すような金属音が響き渡った。
「……なっ!?」
アルベルト様の瞳が驚愕に見開かれた。
彼の自慢の長剣を受け止めていたのは――フローラ様が差していた、可愛らしいピンクのパラソルだった。
「うふふ。騎士様、あんまり乱暴にすると、お姉様に嫌われてしまいますわよ?」
フローラ様は、片手でパラソルの柄を握ったまま、アルベルト様の全力の斬撃を、微動だにせず受け止めていた。
どころか、パラソルの布地には傷一つついていない。
「……バカな! 私の剣は、ドラゴンの鱗さえ切り裂くはず……! それを、日傘一本で!?」
「お姉様にお会いするために、特注で作らせたものですわ。骨組みは、私の『愛』で補強してありますの」
(……愛っていうか、それ絶対、古代の超硬度合金とかを握力で練り上げたやつでしょぉおおお!)
フローラ様が、少しだけパラソルを押し返した。
それだけで、アルベルト様の巨体が数メートル後方へと弾き飛ばされた。
「ぐはっ……!?」
「アルベルト様ぁああああ!! 盾! 私の盾が吹っ飛んだわ!!」
私は壁際まで転がっていったアルベルト様を見て絶叫した。
フローラ様は、パラソルをパチンと閉じると、優雅な足取りで私に近づいてきた。
「お姉様……。やっと二人きりになれましたわね」
「……こ、来ないで。お願いだから、一回落ち着いて。話し合いましょう。民主主義的に、平和的に!」
「ええ、もちろんですわ。私はお姉様のことが、だぁい好きなんですもの」
フローラ様が、私の目の前で足を止めた。
彼女の体からは、甘い百合の香りと、それ以上に濃厚な「暴力の気配」が漂ってくる。
彼女は、懐から一通の封筒を取り出した。
「お姉様、お手紙を書いてきましたの。……本当は、昨夜の宿屋でお渡しするはずだったのですけれど。逃げるのがお早いんですもの」
「……て、手紙?」
「はい。これを読んでくだされば、私の『真意』がわかっていただけるはずですわ」
私は震える手で、そのピンク色の封筒を受け取った。
受け取らないという選択肢はなかった。拒否すれば、たぶんこの塔ごと粉砕される。
私は、アルベルト様が立ち上がろうとするのを制し(彼がこれ以上ボコボコにされるのを見たくなかった)、おそるおそる封を切った。
中には、真っ赤なインクで――。
『お姉様を、私の専用の地下室に招待するための準備が整いました。 追伸:逃げれば逃げるほど、捕まえた時の「可愛がり」が増えると思ってくださいね♡』
「……あ、あ、あああああああ……」
私は、その場に崩れ落ちた。
「……ターリア様! その手紙に何が!? 呪いですか!? 精神攻撃の術式ですか!?」
アルベルト様が私を抱きかかえる。
「……アルベルト様。もうダメだわ。私、あの子の地下室で、永遠にイチゴを食べさせられ続ける運命なのね……」
「地下室!? なんと……! 貴女を監禁し、その高潔な魂を汚そうというのか! 断じて許さん!!」
アルベルト様が再び剣を構えるが、その手は微かに震えていた。
彼は、騎士としての本能で理解してしまったのだ。
目の前の少女が、人間の枠を完全に超えた「災害」であることを。
「ふふ。お姉様、そのお手紙、大切に持っていてくださいね」
フローラ様は、満足そうに微笑むと、再びパラソルを開いた。
「今日は、このくらいにしておきますわ。……あまり急に詰め寄ると、お姉様が壊れてしまいそうですもの。私、お姉様のことは『大切に、大切に』扱いたいんです」
彼女はバルコニーの欄干に飛び乗ると、夜空を見上げて言った。
「明日の夜、またお迎えに上がりますわ。……あ、騎士様。お姉様を泣かせたら、その剣を蝶々結びにして差し上げますから、気をつけてくださいね?」
フローラ様は、そのまま夜の闇へと飛び降りた。
パラソルをパラシュートのように広げ、優雅に、そして恐ろしい速度で、彼女は去っていった。
「……は、はは……。蝶々結びって、言ってたわね。鉄の剣を、蝶々結びに……」
私は、虚空を見つめながら乾いた笑い声を漏らした。
「……。ターリア様……」
アルベルト様が、悔しそうに拳を床に叩きつけた。
「……私の負けです。あのような化け物……いえ、不条理な存在、初めて見ました。……ですが、諦めません。例えこの剣が蝶々結びにされようとも、私は貴女をお守りします!」
「……ありがとう、アルベルト様。でも、次は蝶々結びじゃなくて、粉々にされる気がするわ……」
聖域の塔。
絶対不可侵のはずのその場所は、今や、フローラ様という名の捕食者が「明日のおやつ」を予約していくレストランへと成り下がっていた。
部屋に飛び込んできたアルベルト様が、バルコニーに立つフローラ様を見て絶句した。
無理もない。地上数百メートルの、しかも国家級の結界に守られた塔のバルコニーに、ピンクのパラソルを差した美少女が、羽毛のような軽やかさで着地しているのだ。
「……貴様、何者だ。どうやってここへ侵入した」
アルベルト様が、抜き放った長剣をフローラ様に向ける。その剣先は、かつてないほど鋭い魔力を帯びていた。
「あらぁ、怖い騎士様。私はただ、大切なお姉様に忘れ物を届けに来ただけの、か弱い乙女ですわよ?」
フローラ様は、ふふっ、と鈴を転がすような声で笑った。
その「か弱い乙女」の足元の石畳は、彼女が着地した際の衝撃で細かくひび割れているのだが、アルベルト様の目には入っていないらしい。
「か弱いだと? 結界を素手で割っておいて、よくもそんな口が……!」
「あら、お姉様。この騎士様、とっても冗談がお上手ですわね。私のような力のない娘が、結界なんて壊せるはずがありませんもの」
フローラ様が、私に助けを求めるような潤んだ瞳を向けてくる。
(……ひぃっ! 嘘よ! 全部嘘よ! その指先一つで、私の頭蓋骨なんてクルミみたいに割れるでしょぉおおお!)
私はアルベルト様の背中に、爪が食い込むほどの勢いでしがみついた。
「アルベルト様! 騙されないで! その子、昨日クマをビンタで片付けたって言ったじゃない! その笑顔の裏には、筋肉の悪魔が棲んでいるのよ!」
「……なるほど。相手は精神操作の術者でもあるというわけか。ターリア様の正気を奪おうとするとは、卑劣な!」
アルベルト様が、一歩踏み出した。
「問答無用! 我が国の至宝たるターリア様に仇なす者は、この私が排除する!」
アルベルト様が、目にも止まらぬ速さで踏み込み、剣を振り下ろした。
キィィィィィィィン!!
鼓膜を突き刺すような金属音が響き渡った。
「……なっ!?」
アルベルト様の瞳が驚愕に見開かれた。
彼の自慢の長剣を受け止めていたのは――フローラ様が差していた、可愛らしいピンクのパラソルだった。
「うふふ。騎士様、あんまり乱暴にすると、お姉様に嫌われてしまいますわよ?」
フローラ様は、片手でパラソルの柄を握ったまま、アルベルト様の全力の斬撃を、微動だにせず受け止めていた。
どころか、パラソルの布地には傷一つついていない。
「……バカな! 私の剣は、ドラゴンの鱗さえ切り裂くはず……! それを、日傘一本で!?」
「お姉様にお会いするために、特注で作らせたものですわ。骨組みは、私の『愛』で補強してありますの」
(……愛っていうか、それ絶対、古代の超硬度合金とかを握力で練り上げたやつでしょぉおおお!)
フローラ様が、少しだけパラソルを押し返した。
それだけで、アルベルト様の巨体が数メートル後方へと弾き飛ばされた。
「ぐはっ……!?」
「アルベルト様ぁああああ!! 盾! 私の盾が吹っ飛んだわ!!」
私は壁際まで転がっていったアルベルト様を見て絶叫した。
フローラ様は、パラソルをパチンと閉じると、優雅な足取りで私に近づいてきた。
「お姉様……。やっと二人きりになれましたわね」
「……こ、来ないで。お願いだから、一回落ち着いて。話し合いましょう。民主主義的に、平和的に!」
「ええ、もちろんですわ。私はお姉様のことが、だぁい好きなんですもの」
フローラ様が、私の目の前で足を止めた。
彼女の体からは、甘い百合の香りと、それ以上に濃厚な「暴力の気配」が漂ってくる。
彼女は、懐から一通の封筒を取り出した。
「お姉様、お手紙を書いてきましたの。……本当は、昨夜の宿屋でお渡しするはずだったのですけれど。逃げるのがお早いんですもの」
「……て、手紙?」
「はい。これを読んでくだされば、私の『真意』がわかっていただけるはずですわ」
私は震える手で、そのピンク色の封筒を受け取った。
受け取らないという選択肢はなかった。拒否すれば、たぶんこの塔ごと粉砕される。
私は、アルベルト様が立ち上がろうとするのを制し(彼がこれ以上ボコボコにされるのを見たくなかった)、おそるおそる封を切った。
中には、真っ赤なインクで――。
『お姉様を、私の専用の地下室に招待するための準備が整いました。 追伸:逃げれば逃げるほど、捕まえた時の「可愛がり」が増えると思ってくださいね♡』
「……あ、あ、あああああああ……」
私は、その場に崩れ落ちた。
「……ターリア様! その手紙に何が!? 呪いですか!? 精神攻撃の術式ですか!?」
アルベルト様が私を抱きかかえる。
「……アルベルト様。もうダメだわ。私、あの子の地下室で、永遠にイチゴを食べさせられ続ける運命なのね……」
「地下室!? なんと……! 貴女を監禁し、その高潔な魂を汚そうというのか! 断じて許さん!!」
アルベルト様が再び剣を構えるが、その手は微かに震えていた。
彼は、騎士としての本能で理解してしまったのだ。
目の前の少女が、人間の枠を完全に超えた「災害」であることを。
「ふふ。お姉様、そのお手紙、大切に持っていてくださいね」
フローラ様は、満足そうに微笑むと、再びパラソルを開いた。
「今日は、このくらいにしておきますわ。……あまり急に詰め寄ると、お姉様が壊れてしまいそうですもの。私、お姉様のことは『大切に、大切に』扱いたいんです」
彼女はバルコニーの欄干に飛び乗ると、夜空を見上げて言った。
「明日の夜、またお迎えに上がりますわ。……あ、騎士様。お姉様を泣かせたら、その剣を蝶々結びにして差し上げますから、気をつけてくださいね?」
フローラ様は、そのまま夜の闇へと飛び降りた。
パラソルをパラシュートのように広げ、優雅に、そして恐ろしい速度で、彼女は去っていった。
「……は、はは……。蝶々結びって、言ってたわね。鉄の剣を、蝶々結びに……」
私は、虚空を見つめながら乾いた笑い声を漏らした。
「……。ターリア様……」
アルベルト様が、悔しそうに拳を床に叩きつけた。
「……私の負けです。あのような化け物……いえ、不条理な存在、初めて見ました。……ですが、諦めません。例えこの剣が蝶々結びにされようとも、私は貴女をお守りします!」
「……ありがとう、アルベルト様。でも、次は蝶々結びじゃなくて、粉々にされる気がするわ……」
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