婚約破棄? 喜んで! ついでにこれも返却しますね?

ちゅんりー

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「……何かの間違いではないか? この私が、第一王子のこの私が、リリアーヌへのプレゼントを買えないなどということがあってたまるものか!」

王宮のきらびやかな一室で、ジュリアンが絶叫した。
手元にあるのは、宝石商から突きつけられた一枚の「お断り」の書状だ。
そこには丁寧な文体で、暗に『お前の口座は空っぽだ』という事実が記されていた。

「ジュリアン様、そんなに怒らないでください。あのピンクダイヤモンドのネックレス、とっても可愛かったですけど……。買えないなら、お城の庭にある噴水を金塊に変えて売っちゃえばいいんじゃないかしらぁ?」

リリアーヌが、マシュマロを頬張りながら恐ろしい提案をする。

「リリアーヌ、それは名案だ! 流石は私の愛した女性だ。よし、今すぐ工事を……」

「できるわけがないでしょうがぁぁぁ!!」

扉が蹴破られ、財務大臣が文字通り「死神」のような形相で飛び込んできた。
彼の顔は青白く通り越して土色になり、手には震える手つきで一冊の帳簿を抱えている。

「殿下! お聞きください! 我が国の金庫は、今朝、ついに空になりました! どころか、このままでは来月の役人の給料すら払えません! 国が……国が破産します!」

「何を馬鹿な。昨日まではあんなに金があったではないか。私がリリアーヌのために開いた夜会、十回分くらいの予算は残っていたはずだぞ」

「それは、エーリカ様が『裏帳簿』を回して、余剰利益を捻出していたからです! 殿下が浪費するたびに、彼女は自分の個人資産を切り崩し、商会との交渉で値引きを引き出し、無駄な支出を徹底的に削って……そうやって、奇跡のようなバランスで保っていたのですよ!」

ジュリアンは一瞬、言葉を失った。
だが、すぐに鼻を鳴らして反論する。

「あいつの勝手だろう。公爵令嬢なのだから、金くらい持っていたはずだ。それに、あいつがいなくなっても、このリリアーヌの『愛の力』があれば運気も上がるはず……」

「愛の力で金が増えるなら、今すぐこの国中のパンを金に変えてください! いいですか殿下、現在、各国の商会から『エーリカ様がいないなら、この国に信用はない』と、売掛金の即時回収を求められています! 総額で国家予算の三倍です!」

「さ、三倍……?」

ジュリアンは、ようやく事の重大さに気づき始めたのか、膝をガクガクと震わせた。

「さらに、先日の『キャベツ一万トン』の輸送費と廃棄手数料が、追い打ちをかけております。殿下、キャベツの山を公爵家に送ろうとして失敗した際の、往復の運賃だけで、地方の橋が三つ建つほどの金額がかかっているのですよ!」

「だって、リリアーヌが名案だって言うから……」

「そうですわ、ひどいですわ大臣さん! 私はただ、緑色のお野菜がいっぱいあれば、みんな健康になれると思っただけなのに!」

リリアーヌが涙目で訴えるが、大臣の瞳に慈悲はない。

「リリアーヌ様。健康になる前に、この国は餓死します。現在、王宮のシェフたちも『給料が出ないなら、今夜からキャベツの芯しか出さない』とストライキを始めておりますぞ」

「キャベツの芯!? そんなの嫌ですわ! 私、甘いケーキが食べたいの!」

「ならば、その宝石をすべて売り払ってください! それでようやく、明日一日の食費が賄えるかどうかです!」

大臣の咆哮に、リリアーヌは悲鳴を上げて自分の首筋を隠した。

「そんなのダメです! これはジュリアン様が私に『永遠の愛』としてくださったものですもの!」

「永遠の愛も、現金の前では無力です! 殿下、今すぐエーリカ様に土下座をして戻ってきていただくしかありません。彼女の持つ『アステリア・ネットワーク』……彼女が独自に築いた商流がなければ、我が国の経済は一週間で沈没します!」

ジュリアンは机の上に崩れ落ちた。
かつて「冷徹で面白みのない女」と切り捨てたエーリカが、実はこの国の血流を一人で支えていた心臓だったのだと、今更ながらに突きつけられたのだ。

「……エーリカ。あいつ、そんなに働いていたのか?」

「殿下が昼寝をしている間に三百通の書類に目を通し、殿下がリリアーヌ様と遊んでいる間に国境の関税交渉を行い、殿下が夜会で騒いでいる間に翌年の予算案を独力で書き上げておられました! むしろ、なぜ今まで彼女が愛想を尽かさなかったのか、不思議なくらいです!」

大臣は涙ながらに訴え、そのまま心労でその場に倒れ込んだ。

「……ジュリアン様ぁ、どうしましょう。お腹が空いてきちゃいましたわ」

「……黙れ、リリアーヌ。今、キャベツという言葉を聞いただけで、吐き気がするんだ……」

栄華を極めたはずの王宮は今、かつてないほどの静寂と、インクの匂いの代わりに漂う「キャベツの腐敗臭」に包まれていた。
それは、有能な「悪役」を追い出した愚か者たちに下された、あまりにも現実的で、ユーモアの欠片もない報いだった。
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