覚えのない罪で婚約破棄、なぜか隣国の王太子に気に入られた

ちゅんりー

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「……マリーナ。こうして二人で街を見下ろしていると、ようやく実感が湧いてくるよ。君が本当に、私の妻になったということが」


新婚旅行を兼ねた西領(旧王国)の巡察を終え、私たちは帝都の宮殿のバルコニーに立っていました。


眼下に広がるのは、以前の停滞が嘘のように活気づいた街並み。


新しい魔導街灯が夜の街を白銀に照らし、行き交う馬車の音は帝国の繁栄を象徴するリズムのようです。


「……ええ。ですがラインハルト様、実感を噛みしめる時間は『五分間』で切り上げてください。明朝からは新州の教育特区に関する予算案の承認が待っておりますわ」


私は、ラインハルト様の隣で手帳を開き、完璧なスケジュールを確認しました。


「……マリーナ。君は生涯、私を仕事から解放してはくれないようだね」


「あら。……有能な伴侶を退屈させるのは、経営者として最大の過失ですもの。……それに」


私は手帳を閉じ、彼を真っ直ぐに見上げました。


「……私という『最強の秘書官』を一生使い続けられるのは、世界であなた一人だけ。……これは、破格の独占契約だと思いませんか?」


ラインハルト様は一瞬目を見開き、それから堪えきれないといった様子で、低く心地よい笑い声を上げました。


「……ハハッ! 確かにその通りだ。……どんな宝石よりも、どんな領土よりも価値のある、最高に贅沢な契約だ。……マリーナ、改めて誓おう。私は君という契約(愛)を、命ある限り守り抜く」


ラインハルト様は私の腰を引き寄せ、指先に、そして唇に、永遠を約束する熱を落としました。


一方。


旧王国の辺境、名もなき開拓村。


そこには、ひび割れた手で泥だらけの芋を掘り起こしている、一人の男の姿がありました。


「……くそ、腰が痛い。……どうして私が、こんなことを……。……おい、休憩だ! 誰か水を……!」


エドワードは叫びましたが、周囲の農民たちは誰も彼を顧みません。


「……おい、新人。動かないなら今日の夕飯は抜きだぞ。……お前が計算ミスして腐らせた苗の分、しっかり働いてもらわないとな」


「け、計算ミスだと!? 私は元王太子だぞ!」


「はいはい、その話はもう聞き飽きた。……ほら、一足す一は二だ。これすら間違える奴に、王族の理屈は通用しねぇよ」


かつての王太子は、今や村で一番の「お荷物」として、厳しい現実の洗礼を受けていました。


そして、さらに北の山奥。


冷たい石壁に囲まれた修道院の教室では、リリアンが絶叫していました。


「いやぁぁぁ! 二桁の足し算なんて地獄ですぅぅぅ! ……先生! 私、可愛いから許してくださいぃぃ!」


「リリアン。その言葉は、ここでは一斤のパンの価値もありません。……さあ、この問題を解くまで、今夜のデザートは無しです」


「お、お菓子がないなんて……。……マリーナ様、助けてぇぇぇ! 私、もう『可愛げ』なんていりませんからぁぁぁ!!」


かつての寵姫の叫びは、冷たい風にかき消され、誰に届くこともありませんでした。


私は、ラインハルト様の腕の中で、静かに目を閉じました。


かつてのブラックな日々は、もはや遠い過去の「減価償却済み」の思い出。


有能なパートナー、潤沢な予算、そして溢れるほどの愛。


「……マリーナ。明日の仕事、少しだけ遅らせてもいいかな?」


「……合理的な理由があれば、承認いたしますわ」


「理由は、『君を愛でる時間が不足しているから』だ。……これ以上の優先事項はないだろう?」


「……ふふ。……その提案、可決(パス)させていただきますわ」


私は幸せな溜息をつき、最高の「黒字」の人生に、深く酔いしれるのでした。
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