婚約破棄で自由になった悪役令嬢カタールは、趣味で無双?

ちゅんりー

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「……というわけで、お父様。私は今夜をもってこの公爵家を去り、国外追放の身となります。長らくお世話になりました」

パーティー会場から疾風のごとく帰宅した私は、書斎でくつろいでいた父、オシエル公爵に向かって深々と頭を下げた。

手には、先ほどエリック殿下から力ずくで(合意の上で)もぎ取ったサイン入りの婚約解消合意書、および国外追放命令書を握りしめている。

「ああ、そうか。ようやく終わったのか」

父は読みかけの本を閉じると、驚く様子もなく、むしろ「お疲れ」と言いたげな表情で私を見た。

「早かったな、カタール。あのお花畑の王子が君の有能さに耐えきれなくなるのは、あと三ヶ月は先だと思っていたが」

「殿下の忍耐力よりも、ミルフイユ様の誘惑力が勝ったようでございます。それと、私の事務処理速度が彼らの理解を超えてしまったのも要因かと」

「だろうな。君が十秒で書き上げる予算案を、あいつは三日かけても読み切れないのだから」

父はため息をつくと、デスクの引き出しから分厚い封筒を取り出し、私に差し出した。

「これは予備の資金と、ガラガラ地方に関する極秘の地質調査資料だ。いつか君が追放される日のために、コツコツと調べておいた」

「お父様……! 流石です、準備が良すぎて感激いたしました!」

「オシエル家の家訓は『最悪を想定して最高を掴む』だろう? さあ、行くがいい。君のいない我が家は寂しくなるが、王宮の連中が泣きつく姿を見るのは楽しみだ」

父のドライかつ合理的なエールを受け取り、私はすぐさま自分の部屋へと駆け戻った。

部屋の入り口では、専属メイドのアンナが目を真っ赤にして待ち構えていた。

「カタール様っ……! なんてことでしょう、あんな王子に捨てられるなんて……! 一生、おそばでお仕えすると誓いましたのに!」

「アンナ、泣いている暇があったらトランクを持ってきてちょうだい。あと、私の私物の中で『換金性が高いもの』と『実用的な農機具のカタログ』を仕分けして。時間は三十分よ」

「はえ……? 農機具……?」

「いい? これから行くのは未開の地よ。ドレスなんて三着あれば十分。それよりも、ペンとインクの替え、それに計算尺が必要だわ。あ、あと防虫剤も多めにね」

私はドレスを脱ぎ捨てながら、驚異的なスピードで指示を飛ばしていく。

アンナは呆気に取られていたが、私の「業務命令よ」という言葉に弾かれたように動き出した。

「お嬢様、この真珠のネックレスはどうされますか!?」

「それは予備の買収資金にするから、一番取り出しやすい場所へ。代わりにその、特注の製図セットを一番下に敷いて!」

「このふわふわの寝巻きは……!」

「いらないわ! 現地では野宿の可能性もあるから、軍用の寝袋を調達してちょうだい。お父様の倉庫にあるはずよ!」

テトリスのブロックを積み上げるような正確さで、トランクの中に「生き残るための道具」が詰め込まれていく。

公爵令嬢の部屋とは思えない、殺伐とした、しかし極めて効率的なパッキング風景であった。

二十五分後。

「完了。五分の余裕を持てたわね。アンナ、あなたはここに残りなさい」

「えっ……!? そんな、連れていってください!」

「いいえ。あなたはここに残って、私がガラガラ地方で事業を軌道に乗せた後の『王都側の連絡窓口』になってもらうの。これからあそこを開発すれば、物流のハブが必要になるわ。その時、信頼できる人間がこっちにいないと困るのよ」

私はアンナの両手を握り、真剣な眼差しで見つめた。

「これは私にしかできない仕事ではなく、あなたにしか任せられない重要なプロジェクトなの。受けてくれる?」

「プロジェクト……。はい……! はいっ、カタール様! このアンナ、王都の地下情報から物価の変動まで、すべて網羅してお待ちしております!」

「いい返事だわ。期待しているわね」

私は最後に一度だけ、住み慣れた部屋を見渡した。

華やかなシャンデリア、柔らかなベッド、そして美しい庭園。

それらすべてに未練はない。むしろ、自分の知略ひとつで何を作り上げられるかという興奮が、全身の血を沸騰させている。

「さあ、出発よ! 目指すは黄金の岩場、ガラガラ地方!」

夜闇に紛れて、私は一台の馬車に乗り込んだ。

御者台に座るのは、父が手配してくれた寡黙な護衛騎士だ。

ガタゴトと揺れ始めた馬車の中で、私はさっそくペンを走らせる。

「まずは、現地の土壌改良に必要な資材のリストアップ。それから温泉が湧いた場合の温度管理システム……。ふふ、やるべきことが山積みで、眠る暇もありませんわ!」

暗い馬車内、月明かりに照らされた私の顔は、おそらく「追放された悲劇のヒロイン」とは程遠い、野心に満ちた起業家そのものだったに違いない。

こうして、私の「悪役令嬢(笑)」としての第二の人生が、爆速で幕を開けたのである。
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