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「……ゼスト様。昨夜の独立宣言、および私への『共同統治』という名の提携案、改めて精査させていただきましたわ」
私は、完成したばかりの王立ガラガラ・パレスの最上階、夜景を一望できる円卓で、ゼスト様と向かい合っていた。
テーブルの上には、最高級のワイン……ではなく、私が徹夜で書き上げた「婚約・結婚に伴う事業統合シミュレーション(予測値)」の書類が山積みになっている。
「……カタール。一応確認しておくけど、今日は『プロポーズの返事』を聞くためのディナーのはずだよね? なぜ君の隣には、給仕ではなく計算尺を持ったバルトが控えているんだい?」
ゼスト様が、額を押さえながら力なく笑った。
「当然ですわ。結婚とは、単なる感情の横流しではなく、二つの巨大な経済資本が一つに溶け合う『世紀の合併(マージン)』ですもの。経営者として、情緒だけで判を押すわけには参りませんわ」
私は背筋を伸ばし、銀縁の眼鏡(実務用)をクイと上げた。
「さあ、ゼスト様。あなたが提示した『結婚』という名の新規プロジェクト。そのメリットとデメリットを、項目別にプレゼンして頂けますかしら? 納得のいく数字が出れば、私は喜んであなたの配偶者……いえ、共同経営責任者に就任いたしますわ」
ゼスト様は、呆れたように、しかしどこか嬉しそうに溜息をつくと、観念したように椅子に深く座り直した。
「……いいだろう。君の土俵で勝負しないと、一生返事はもらえそうにないからね。バルト、書記をお願いするよ」
「承知いたしました、ゼスト商会長。……あ、お嬢様が納得しなかった場合、私の残業代が跳ね上がりますので、手短にお願いしますね」
バルトが淡々と羊皮紙を広げる。
ゼスト様は、私の目を真っ直ぐに見つめ、指を一つ立てた。
「まずメリットの第一。……隣国最大の物流網と、このガラガラ地方の生産拠点が完全に一元化される。これにより、現在の輸送コストはさらに十五パーセント削減可能だ。これは君にとっても、抗いがたい数字だろう?」
「……ふむ。十五パーセント。悪くないわね。……続けて?」
「第二。僕の個人資産の全額を、君の進める『大陸横断温泉鉄道』の建設資金に無利子で貸し付ける。担保は君の笑顔……と言いたいところだが、君なら『所有権の半分』と言うだろうから、経営権の二十パーセントで手を打とう」
「……二十パーセント!? ゼスト様、それは流石に『愛』という名のプレミアムが乗りすぎていませんこと? 相場なら三十は固いわ」
「君を妻にできるなら、十パーセントの損失なんて安いものだよ。……そして第三。これが最大だが……。僕が君の『ブレーキ』になる。君は放っておくと一日に二十五時間働こうとするからね。僕と結婚すれば、強制的に一日の十パーセントを『休息と愛の時間』に充てさせることができる。これは人的資源の長期的な維持に不可欠だ」
私は、提示された「休息の強制」という項目に眉を寄せた。
「休息……。それは短期的には機会損失に繋がりますわ。……では、デメリットは何かしら?」
「デメリットは一つだけだ。……君が僕に惚れすぎて、数字の計算を間違えるようになるリスクだね」
「……っ!? な、何を……! 私が、そんな低俗なミスを犯すとでも!?」
私は思わず頬を染めて立ち上がった。
「カタール。……君はさっきからメリットだのコストだの言っているけれど。……僕が君を愛しているのは、君が有能な経営者だからじゃない。君が、誰よりも一生懸命に、泥にまみれてまで自分の信じる『楽園』を造ろうとする、その眩しさに惚れたんだ」
ゼスト様が席を立ち、私の手を取った。
「数字は後でいくらでも合わせよう。……まずは、僕という資産を、君の人生という帳簿に記帳してくれないか?」
会場が、静寂に包まれる。
私は、彼の熱い眼差しから逃げるように視線を書類に落とした。……だが、そこに並ぶ数字は、私の心臓の鼓動を抑える役には立たなかった。
「……ゼスト様。……あなたの提示した条件、および将来的な収益予測(プロポーズ)。……慎重に検討した結果……」
私は、彼の手を力強く握り返した。
「……承認いたしますわ。……ただし、デメリットとして挙げられた『計算ミス』については、あなたが一生をかけて修正(フォロー)していただくことが条件ですわよ?」
「……ああ。喜んで。……契約成立だね、カタール」
ゼスト様が私の腰を引き寄せ、唇が重なる。
「……おめでとうございます。……さあ、お二人さん。お熱いところを失礼しますが、今の契約に基づいた『婚約公告』のドラフトを作成しました。CEO、検収をお願いします」
バルトの無機質な声が響いたが、今の私の耳には、それが教会の鐘の音よりも心地よく響いていた。
(エリック殿下、見ていらっしゃいますか? 私は今、人生で最大の『黒字決済』を迎えましたわ!)
私のガチ勢経営、そして人生という名の壮大なプロジェクト。
そのパートナーは、世界で一番信頼できる、最高の商人に決まりましたの!
私は、完成したばかりの王立ガラガラ・パレスの最上階、夜景を一望できる円卓で、ゼスト様と向かい合っていた。
テーブルの上には、最高級のワイン……ではなく、私が徹夜で書き上げた「婚約・結婚に伴う事業統合シミュレーション(予測値)」の書類が山積みになっている。
「……カタール。一応確認しておくけど、今日は『プロポーズの返事』を聞くためのディナーのはずだよね? なぜ君の隣には、給仕ではなく計算尺を持ったバルトが控えているんだい?」
ゼスト様が、額を押さえながら力なく笑った。
「当然ですわ。結婚とは、単なる感情の横流しではなく、二つの巨大な経済資本が一つに溶け合う『世紀の合併(マージン)』ですもの。経営者として、情緒だけで判を押すわけには参りませんわ」
私は背筋を伸ばし、銀縁の眼鏡(実務用)をクイと上げた。
「さあ、ゼスト様。あなたが提示した『結婚』という名の新規プロジェクト。そのメリットとデメリットを、項目別にプレゼンして頂けますかしら? 納得のいく数字が出れば、私は喜んであなたの配偶者……いえ、共同経営責任者に就任いたしますわ」
ゼスト様は、呆れたように、しかしどこか嬉しそうに溜息をつくと、観念したように椅子に深く座り直した。
「……いいだろう。君の土俵で勝負しないと、一生返事はもらえそうにないからね。バルト、書記をお願いするよ」
「承知いたしました、ゼスト商会長。……あ、お嬢様が納得しなかった場合、私の残業代が跳ね上がりますので、手短にお願いしますね」
バルトが淡々と羊皮紙を広げる。
ゼスト様は、私の目を真っ直ぐに見つめ、指を一つ立てた。
「まずメリットの第一。……隣国最大の物流網と、このガラガラ地方の生産拠点が完全に一元化される。これにより、現在の輸送コストはさらに十五パーセント削減可能だ。これは君にとっても、抗いがたい数字だろう?」
「……ふむ。十五パーセント。悪くないわね。……続けて?」
「第二。僕の個人資産の全額を、君の進める『大陸横断温泉鉄道』の建設資金に無利子で貸し付ける。担保は君の笑顔……と言いたいところだが、君なら『所有権の半分』と言うだろうから、経営権の二十パーセントで手を打とう」
「……二十パーセント!? ゼスト様、それは流石に『愛』という名のプレミアムが乗りすぎていませんこと? 相場なら三十は固いわ」
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私は、提示された「休息の強制」という項目に眉を寄せた。
「休息……。それは短期的には機会損失に繋がりますわ。……では、デメリットは何かしら?」
「デメリットは一つだけだ。……君が僕に惚れすぎて、数字の計算を間違えるようになるリスクだね」
「……っ!? な、何を……! 私が、そんな低俗なミスを犯すとでも!?」
私は思わず頬を染めて立ち上がった。
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ゼスト様が席を立ち、私の手を取った。
「数字は後でいくらでも合わせよう。……まずは、僕という資産を、君の人生という帳簿に記帳してくれないか?」
会場が、静寂に包まれる。
私は、彼の熱い眼差しから逃げるように視線を書類に落とした。……だが、そこに並ぶ数字は、私の心臓の鼓動を抑える役には立たなかった。
「……ゼスト様。……あなたの提示した条件、および将来的な収益予測(プロポーズ)。……慎重に検討した結果……」
私は、彼の手を力強く握り返した。
「……承認いたしますわ。……ただし、デメリットとして挙げられた『計算ミス』については、あなたが一生をかけて修正(フォロー)していただくことが条件ですわよ?」
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