婚約破棄を申し込むも、殿下の説得がガチすぎて詰む?

ちゅんりー

文字の大きさ
12 / 29

12

しおりを挟む
「……いいですわね、セバス。前回のモンブランは、私の計算ミスでしたわ。甘いものは人を幸せにしてしまう……それは、この世界のバグですわ!」

リペは、自室の床を埋め尽くすほどの大量の荷物を前に、不敵な笑みを浮かべた。

「お嬢様。その大量の『最高級シルクのドレス』や『魔力石のアクセサリー』は一体……?」

「ふふふ、これこそが真の嫌がらせですわ! マリアンヌ様に、管理しきれないほどの大量の品を『無理やり』押し付けるのです! 断れば私のプライドを傷つけることになり、受け取れば彼女の狭い部屋はゴミ溜め同然になりますわ!」

リペは扇子をバサァ! と広げ、高笑いを上げた。

「これぞ、物理的な圧迫! 受け取った彼女は、その重圧に夜も眠れず、ついには私を恨むようになるはずですわ!」

「なるほど。お嬢様の中では、高級品のプレゼントも『嫌がらせ』に変換されるのですね。ある意味、殿下と同じくらいポジティブな脳構造をされています」

「失礼ですわね! さあ、これらを今すぐマリアンヌ様の屋敷へ運び込みますわよ!」

数時間後、マリアンヌが滞在している慎ましい別邸の客間は、リペが持ち込んだ箱で足の踏み場もなくなっていた。

「さあ、マリアンヌ様! この私の使い古し……ではなく、あえて貴女に似合いそうにない派手な品々をすべて差し上げますわ! 一つ残らず、貴女の部屋に飾りなさいな!」

リペは、わざとらしく顎を上げ、マリアンヌを見下した。

マリアンヌは、山積みになったドレスや宝石を呆然と見つめていた。その瞳が、みるみるうちに潤んでいく。

(よし! 今度こそ、その物量の多さに絶望しましたわね!)

「……あ、あぁ……っ!」

マリアンヌは、リペの手をぎゅっと握りしめた。

「リペ様! どうして、どうしてそこまで私のことを……!」

「……え?」

「私、田舎から出てきたばかりで、明日の夜会に着ていくドレスがなくて……。でも、実家の家計を考えると、新しいものを買うなんて言い出せなくて、一人で泣いていたんです!」

マリアンヌは、リペの手を頬に寄せ、涙を流した。

「それをリペ様は、魔法のように察してくださって……。しかも、私の部屋のカーテンが古びているのを見て、同じ色のシルクまで用意してくださるなんて……! 貴女様は、私の守護天使なのですか!?」

「天使じゃありませんわ! ただの不法投棄ですわよ!」

「いいえ! これほど温かい不法投棄がこの世にあるでしょうか! お姉様、私は一生、このドレスに袖を通すたびに貴女様の慈悲を思い出しますわ!」

マリアンヌは、もはやリペを「お姉様」と呼び、幸せそうにドレスの山にダイブした。

そこへ、背後から聞き慣れた、そして聞きたくない拍手が聞こえてきた。

「……素晴らしい。リペ、君の慈善活動には、いつも頭が下がるよ」

カイル殿下が、いつの間に現れたのか、窓辺で感極まった表情を浮かべていた。

「殿下! 不法侵入ですわよ!」

「いいや、愛の引力に引かれてついね。リペ、君はマリアンヌ嬢の『経済的困難』を、彼女のプライドを傷つけないように『いじめ』という形で解決してあげたんだね」

「いじめですわ! 一ミリの慈悲もありませんわ!」

「ふふ、隠さなくてもいい。あえて『派手で似合わない』と言って渡すことで、彼女が『自分には勿体ない』と気負わないように配慮したんだろう? 君の優しさは、いつも回りくどくて、そして誰よりも深い」

カイルはリペに歩み寄り、その手を取って優しく口付けした。

「リペ、君がマリアンヌ嬢に贈ったこれらの品々の代金、すべて僕が支払っておいたよ。君のポケットマネーが減るのを、僕が黙って見ているわけにはいかないからね」

「……は?」

「君は徳を積み、僕は君に尽くす。これこそが理想の夫婦の形じゃないか。ねえ、セバスもそう思うだろう?」

カイルの問いかけに、セバスは深々と頭を下げた。

「全くもってその通りでございます、殿下。お嬢様の『いじめ』という名の寄付活動は、今後も王国の経済を大いに潤すことでしょう」

(なんで……なんで私が嫌がらせをするたびに、みんなが幸せになって、挙句の果てに殿下のお金で精算されるんですの!?)

リペは、マリアンヌに抱きつかれ、カイルに熱烈な視線を送られながら、真っ白に燃え尽きた。

彼女の悪役令嬢としてのプライドは、マリアンヌの涙という名の洗浄液によって、今やピカピカの「聖女」へと磨き上げられていた。

「お嬢様、次は……何を『差し入れ』ますか?」

セバスの淡々とした問いかけに、リペはもはや、力なく首を振るしかなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢の末路

ラプラス
恋愛
政略結婚ではあったけれど、夫を愛していたのは本当。でも、もう疲れてしまった。 だから…いいわよね、あなた?

公爵令嬢の辿る道

ヤマナ
恋愛
公爵令嬢エリーナ・ラナ・ユースクリフは、迎えた5度目の生に絶望した。 家族にも、付き合いのあるお友達にも、慕っていた使用人にも、思い人にも、誰からも愛されなかったエリーナは罪を犯して投獄されて凍死した。 それから生を繰り返して、その度に自業自得で凄惨な末路を迎え続けたエリーナは、やがて自分を取り巻いていたもの全てからの愛を諦めた。 これは、愛されず、しかし愛を求めて果てた少女の、その先の話。 ※暇な時にちょこちょこ書いている程度なので、内容はともかく出来についてはご了承ください。 追記  六十五話以降、タイトルの頭に『※』が付いているお話は、流血表現やグロ表現がございますので、閲覧の際はお気を付けください。

村娘になった悪役令嬢

枝豆@敦騎
恋愛
父が連れてきた妹を名乗る少女に出会った時、公爵令嬢スザンナは自分の前世と妹がヒロインの乙女ゲームの存在を思い出す。 ゲームの知識を得たスザンナは自分が将来妹の殺害を企てる事や自分が父の実子でない事を知り、身分を捨て母の故郷で平民として暮らすことにした。 村娘になった少女が行き倒れを拾ったり、ヒロインに連れ戻されそうになったり、悪役として利用されそうになったりしながら最後には幸せになるお話です。 ※他サイトにも掲載しています。(他サイトに投稿したものと異なっている部分があります) アルファポリスのみ後日談投稿しております。

逆行した悪女は婚約破棄を待ち望む~他の令嬢に夢中だったはずの婚約者の距離感がおかしいのですか!?

魚谷
恋愛
目が覚めると公爵令嬢オリヴィエは学生時代に逆行していた。 彼女は婚約者である王太子カリストに近づく伯爵令嬢ミリエルを妬み、毒殺を図るも失敗。 国外追放の系に処された。 そこで老商人に拾われ、世界中を見て回り、いかにそれまで自分の世界が狭かったのかを痛感する。 新しい人生がこのまま謳歌しようと思いきや、偶然滞在していた某国の動乱に巻き込まれて命を落としてしまう。 しかし次の瞬間、まるで夢から目覚めるように、オリヴィエは5年前──ミリエルの毒殺を図った学生時代まで時を遡っていた。 夢ではないことを確信したオリヴィエはやり直しを決意する。 ミリエルはもちろん、王太子カリストとも距離を取り、静かに生きる。 そして学校を卒業したら大陸中を巡る! そう胸に誓ったのも束の間、次々と押し寄せる問題に回帰前に習得した知識で対応していたら、 鬼のように恐ろしかったはずの王妃に気に入られ、回帰前はオリヴィエを疎ましく思っていたはずのカリストが少しずつ距離をつめてきて……? 「君を愛している」 一体なにがどうなってるの!?

愛すべきマリア

志波 連
恋愛
幼い頃に婚約し、定期的な交流は続けていたものの、互いにこの結婚の意味をよく理解していたため、つかず離れずの穏やかな関係を築いていた。 学園を卒業し、第一王子妃教育も終えたマリアが留学から戻った兄と一緒に参加した夜会で、令嬢たちに囲まれた。 家柄も美貌も優秀さも全て揃っているマリアに嫉妬したレイラに指示された女たちは、彼女に嫌味の礫を投げつける。 早めに帰ろうという兄が呼んでいると知らせを受けたマリアが発見されたのは、王族の居住区に近い階段の下だった。 頭から血を流し、意識を失っている状態のマリアはすぐさま医務室に運ばれるが、意識が戻ることは無かった。 その日から十日、やっと目を覚ましたマリアは精神年齢が大幅に退行し、言葉遣いも仕草も全て三歳児と同レベルになっていたのだ。 体は16歳で心は3歳となってしまったマリアのためにと、兄が婚約の辞退を申し出た。 しかし、初めから結婚に重きを置いていなかった皇太子が「面倒だからこのまま結婚する」と言いだし、予定通りマリアは婚姻式に臨むことになった。 他サイトでも掲載しています。 表紙は写真ACより転載しました。

私が嫌いなら婚約破棄したらどうなんですか?

きららののん
恋愛
優しきおっとりでマイペースな令嬢は、太陽のように熱い王太子の側にいることを幸せに思っていた。 しかし、悪役令嬢に刃のような言葉を浴びせられ、自信の無くした令嬢は……

さようなら、婚約者様。これは悪役令嬢の逆襲です。

パリパリかぷちーの
恋愛
舞台は、神の声を重んじる王国。 そこでは“聖女”の存在が政治と信仰を支配していた。 主人公ヴィオラ=エーデルワイスは、公爵令嬢として王太子ユリウスの婚約者という地位にあったが、 ある日、王太子は突如“聖女リュシエンヌ”に心を奪われ、公衆の場でヴィオラとの婚約を破棄する。 だがヴィオラは、泣き叫ぶでもなく、静かに微笑んで言った。 「――お幸せに。では、さようなら」 その言葉と共に、彼女の“悪役令嬢”としての立場は幕を閉じる。 そしてそれが、彼女の逆襲の幕開けだった。 【再公開】作品です。

知らぬはヒロインだけ

ネコフク
恋愛
「クエス様好きです!」婚約者が隣にいるのに告白する令嬢に唖然とするシスティアとクエスフィール。 告白してきた令嬢アリサは見目の良い高位貴族の子息ばかり粉をかけて回っていると有名な人物だった。 しかも「イベント」「システム」など訳が分からない事を言っているらしい。 そう、アリサは転生者。ここが乙女ゲームの世界で自分はヒロインだと思っている。 しかし彼女は知らない。他にも転生者がいることを。 ※不定期連載です。毎日投稿する時もあれば日が開く事もあります。

処理中です...