12 / 27
12
しおりを挟む
「ええい、怯(ひる)むな! たかが発酵臭だ! 換気魔法を展開せよ!」
白いガスが充満する中、フェリクスの冷静な指示が飛んだ。
さすがは公爵代行。
私の『発酵ガス爆弾』による精神攻撃(主に「酸っぱい!でもいい匂い!」という混乱)から、いち早く立ち直ったようだ。
黒服の部隊が風魔法を使い、あっという間に煙を吹き飛ばしていく。
「ちっ、さすがに手強いわね」
私は麺棒を構え直した。
視界がクリアになると、フェリクスが眼鏡を光らせて立っていた。
「無駄なあがきです、パン屋の娘。兄上、そこの女性から離れてください。実力行使に出ます」
フェリクスが手を掲げると、部隊が魔法の杖を一斉に構えた。
「撃て!」
「させん!」
クラウスが前に出た。
彼は私の前に障壁(バリア)を展開するのと同時に、右手を振るった。
「『ウォール・オブ・バゲット(フランスパンの壁)』!!」
ドゴゴゴゴッ!!
地面から巨大な岩……ではなく、岩のように硬いバゲットの柱が数本、槍のように突き出した。
それが部隊の放った魔法弾を防ぐ。
「なっ……!?」
フェリクスが目を見開いた。
「土魔法……いや、これは物質生成魔法か? 兄上、いつの間にこんな無意味な術式を……!」
「無意味ではない! これは、いざという時の非常食にもなる攻防一体の最強魔法だ!」
「食べたくありませんよ、地面から生えたパンなんて!」
兄弟による高度な魔法戦(?)が繰り広げられている。
私はその隙に、厨房へと走った。
「マリー! セバス! 援護射撃よ! 昨日の残りの『失敗作ラスク』を弾丸として装填して!」
「かしこまりましたお嬢様! 硬すぎて歯が折れると評判のアレですね!」
「承知いたしました。投擲(とうてき)スキルには自信がありますぞ」
私たちは窓から身を乗り出し、硬いラスクを手裏剣のように投げまくった。
ビュン! ビュン!
「痛っ!」「硬ぇ!」「これ本当に食べ物か!?」
黒服たちが悲鳴を上げる。
私の焼くパンは、愛情たっぷりだが、失敗して乾燥させたものは凶器になるのだ。
「ええい、鬱陶(うっと)しい!」
フェリクスが苛立ち、自ら魔法を放とうとした。
その時だ。
グゥゥゥゥ……。
戦場に似つかわしくない、情けない音が響いた。
「……?」
全員の動きが止まった。
音の出処は、フェリクスの腹だった。
「……っ」
フェリクスが顔を真っ赤にして腹を押さえた。
「な、なんだ今の音は……」
「空腹音ですね」
私は指摘した。
「フェリクス様。あなた、顔色が青白いですよ。目の下のクマも酷い。ちゃんとご飯食べてます?」
「……余計なお世話だ。兄上が仕事を放り出して失踪したせいで、私はここ一ヶ月、不眠不休で執務をこなしていたのです。食事をとる時間など……ウィダー(栄養ゼリー)で十分です」
「なんてこと!」
私は衝撃を受けた。
パンの国(勝手に認定)の公爵代行が、ゼリー生活だなんて。
それは栄養失調による思考力の低下、そしてイライラの原因だ。
「だからそんなに攻撃的なのよ! 脳にブドウ糖が足りてないわ!」
「黙れ! これより殲滅魔法を……!」
フェリクスが杖を振り上げた瞬間、私は厨房から飛び出した。
「クラウスさん、彼を押さえて!」
「任せろ!」
クラウスが瞬時に弟の懐に飛び込み、その腕を掴んで動きを封じる。
「兄上、離して……!」
「今だシナモン!」
「はい、あーん!」
私はフェリクスの口に、手に持っていた『特製・至福のクリームパン』を突っ込んだ。
「むぐっ!?」
「噛んで! そして飲み込んで!」
フェリクスは抵抗しようとしたが、口の中に広がる甘美な味に、本能が反応してしまった。
カスタードクリーム。
それは、新鮮な卵と牛乳、そして最高級のバニラビーンズを惜しみなく使い、とろ火でじっくりと練り上げた黄金のソース。
パン生地は、赤ちゃんのほっぺのように柔らかく、口溶けが良い。
「ん……ぐ……」
フェリクスの抵抗が弱まる。
彼の瞳孔が開いた。
(……甘い)
(暴力的なまでの糖分が、疲れた脳に染み渡っていく……)
(なんだこのカスタードは。濃厚なのにくどくない。バニラの香りが、荒んだ心を撫でていくようだ……)
彼は無意識のうちに、パンを咀嚼(そしゃく)していた。
ごくん、と飲み込む。
すると、体の中からポカポカと温かいものが湧き上がってくるのを感じた。
それは「満腹感」という名の幸せだった。
「……どうですか?」
私が尋ねると、フェリクスはその場にへたり込んだ。
眼鏡がズレているのも気にせず、彼は呆然と呟いた。
「……敗北だ」
「へ?」
「こんな……こんな幸せな味がするものを突きつけられては、戦意など維持できるはずがない……」
彼は残りのクリームパンを大事そうに両手で持ち、ガブリと齧り付いた。
その目からは、ポロポロと涙がこぼれている。
「うまい……うまいよ兄上……。なんでこんな美味いものを、私に黙って食べていたんだ……ズルイじゃないか……」
「フェリクス……」
クラウスが優しく弟の肩に手を置いた。
「すまなかった。お前にも食べさせてやりたかったんだが、お前は『パンなんて時間の無駄』と言っていただろう?」
「撤回します! パンは……パンは生命の源です!」
フェリクスは叫んだ。
その瞬間、周囲の黒服部隊も、マリーたちが配り始めたラスクや余り物のパンを食べて「うめぇ……」「久しぶりの固形物だ……」と泣き出していた。
どうやらこの『ライ麦公爵家・特殊食品管理部隊』というのは、ただの『ブラック労働被害者の会』だったらしい。
「分かりました」
フェリクスはパンを食べ終えると、指についたクリームを舐め取り、眼鏡を直して立ち上がった。
「兄上の帰還命令は、一時保留とします」
「本当か!?」
「はい。ただし条件があります」
フェリクスは私をビシッと指差した。
「この店に、私専用の席を用意すること。そして、毎日王都への『定期便』を手配すること。……あのクリームパンが執務室になければ、私はまた暴れますよ」
「ありがとうございます! つまり、大口契約成立ですね!」
私はガッツポーズをした。
「良かったな、シナモン」
クラウスが微笑む。
「ええ! 公爵家御用達となれば、ブランド力が爆上がりですわ! あ、フェリクス様、どうせなら商品開発のアドバイザーもやりませんか? その神経質な性格、品質管理に向いてますよ」
「……誰が神経質ですか。まあ、味のチェックくらいならしてあげてもいいですが」
フェリクスはツンとした顔で言ったが、その視線は既にショーケースの中の『チョココロネ』に釘付けだった。
こうして、最強の敵(弟)は、最強の顧客(カモ)へと進化した。
小麦粉の供給ルートも復活し、むしろ公爵家のコネで最高級品が手に入るようになった。
『ベーカリー・シナモン』の未来は明るい。
――と、思っていたのだが。
「大変ですお嬢様!」
数日後、マリーが血相を変えて飛び込んできた。
「王都から早馬が! ……パン不足で市民の不満が爆発し、エドワード殿下が『シナモン討伐隊』を結成してこちらに向かっているそうです!」
「はあ?」
私は耳を疑った。
討伐隊?
パン屋を?
「殿下はこう言っているそうです。『シナモンが禁断の果実(パン)で人々を惑わせ、国家転覆を狙っているに違いない! 聖女リリィと共に浄化してやる!』と」
「……あのバカ王子、想像力が豊かすぎるわ」
私は深いため息をついた。
どうやら、ラスボスの登場は近いらしい。
だが、今の私には最強の布陣がある。
パン職人の私。
魔導騎士のクラウス。
完璧執事のセバス。
そして、糖分補給でキレ者に戻った参謀フェリクス。
「迎撃準備よ! 新作『激辛カレーパン・地獄変』の仕込みを始めるわ!」
私の号令に、全員が「御意!」と応えた。
白いガスが充満する中、フェリクスの冷静な指示が飛んだ。
さすがは公爵代行。
私の『発酵ガス爆弾』による精神攻撃(主に「酸っぱい!でもいい匂い!」という混乱)から、いち早く立ち直ったようだ。
黒服の部隊が風魔法を使い、あっという間に煙を吹き飛ばしていく。
「ちっ、さすがに手強いわね」
私は麺棒を構え直した。
視界がクリアになると、フェリクスが眼鏡を光らせて立っていた。
「無駄なあがきです、パン屋の娘。兄上、そこの女性から離れてください。実力行使に出ます」
フェリクスが手を掲げると、部隊が魔法の杖を一斉に構えた。
「撃て!」
「させん!」
クラウスが前に出た。
彼は私の前に障壁(バリア)を展開するのと同時に、右手を振るった。
「『ウォール・オブ・バゲット(フランスパンの壁)』!!」
ドゴゴゴゴッ!!
地面から巨大な岩……ではなく、岩のように硬いバゲットの柱が数本、槍のように突き出した。
それが部隊の放った魔法弾を防ぐ。
「なっ……!?」
フェリクスが目を見開いた。
「土魔法……いや、これは物質生成魔法か? 兄上、いつの間にこんな無意味な術式を……!」
「無意味ではない! これは、いざという時の非常食にもなる攻防一体の最強魔法だ!」
「食べたくありませんよ、地面から生えたパンなんて!」
兄弟による高度な魔法戦(?)が繰り広げられている。
私はその隙に、厨房へと走った。
「マリー! セバス! 援護射撃よ! 昨日の残りの『失敗作ラスク』を弾丸として装填して!」
「かしこまりましたお嬢様! 硬すぎて歯が折れると評判のアレですね!」
「承知いたしました。投擲(とうてき)スキルには自信がありますぞ」
私たちは窓から身を乗り出し、硬いラスクを手裏剣のように投げまくった。
ビュン! ビュン!
「痛っ!」「硬ぇ!」「これ本当に食べ物か!?」
黒服たちが悲鳴を上げる。
私の焼くパンは、愛情たっぷりだが、失敗して乾燥させたものは凶器になるのだ。
「ええい、鬱陶(うっと)しい!」
フェリクスが苛立ち、自ら魔法を放とうとした。
その時だ。
グゥゥゥゥ……。
戦場に似つかわしくない、情けない音が響いた。
「……?」
全員の動きが止まった。
音の出処は、フェリクスの腹だった。
「……っ」
フェリクスが顔を真っ赤にして腹を押さえた。
「な、なんだ今の音は……」
「空腹音ですね」
私は指摘した。
「フェリクス様。あなた、顔色が青白いですよ。目の下のクマも酷い。ちゃんとご飯食べてます?」
「……余計なお世話だ。兄上が仕事を放り出して失踪したせいで、私はここ一ヶ月、不眠不休で執務をこなしていたのです。食事をとる時間など……ウィダー(栄養ゼリー)で十分です」
「なんてこと!」
私は衝撃を受けた。
パンの国(勝手に認定)の公爵代行が、ゼリー生活だなんて。
それは栄養失調による思考力の低下、そしてイライラの原因だ。
「だからそんなに攻撃的なのよ! 脳にブドウ糖が足りてないわ!」
「黙れ! これより殲滅魔法を……!」
フェリクスが杖を振り上げた瞬間、私は厨房から飛び出した。
「クラウスさん、彼を押さえて!」
「任せろ!」
クラウスが瞬時に弟の懐に飛び込み、その腕を掴んで動きを封じる。
「兄上、離して……!」
「今だシナモン!」
「はい、あーん!」
私はフェリクスの口に、手に持っていた『特製・至福のクリームパン』を突っ込んだ。
「むぐっ!?」
「噛んで! そして飲み込んで!」
フェリクスは抵抗しようとしたが、口の中に広がる甘美な味に、本能が反応してしまった。
カスタードクリーム。
それは、新鮮な卵と牛乳、そして最高級のバニラビーンズを惜しみなく使い、とろ火でじっくりと練り上げた黄金のソース。
パン生地は、赤ちゃんのほっぺのように柔らかく、口溶けが良い。
「ん……ぐ……」
フェリクスの抵抗が弱まる。
彼の瞳孔が開いた。
(……甘い)
(暴力的なまでの糖分が、疲れた脳に染み渡っていく……)
(なんだこのカスタードは。濃厚なのにくどくない。バニラの香りが、荒んだ心を撫でていくようだ……)
彼は無意識のうちに、パンを咀嚼(そしゃく)していた。
ごくん、と飲み込む。
すると、体の中からポカポカと温かいものが湧き上がってくるのを感じた。
それは「満腹感」という名の幸せだった。
「……どうですか?」
私が尋ねると、フェリクスはその場にへたり込んだ。
眼鏡がズレているのも気にせず、彼は呆然と呟いた。
「……敗北だ」
「へ?」
「こんな……こんな幸せな味がするものを突きつけられては、戦意など維持できるはずがない……」
彼は残りのクリームパンを大事そうに両手で持ち、ガブリと齧り付いた。
その目からは、ポロポロと涙がこぼれている。
「うまい……うまいよ兄上……。なんでこんな美味いものを、私に黙って食べていたんだ……ズルイじゃないか……」
「フェリクス……」
クラウスが優しく弟の肩に手を置いた。
「すまなかった。お前にも食べさせてやりたかったんだが、お前は『パンなんて時間の無駄』と言っていただろう?」
「撤回します! パンは……パンは生命の源です!」
フェリクスは叫んだ。
その瞬間、周囲の黒服部隊も、マリーたちが配り始めたラスクや余り物のパンを食べて「うめぇ……」「久しぶりの固形物だ……」と泣き出していた。
どうやらこの『ライ麦公爵家・特殊食品管理部隊』というのは、ただの『ブラック労働被害者の会』だったらしい。
「分かりました」
フェリクスはパンを食べ終えると、指についたクリームを舐め取り、眼鏡を直して立ち上がった。
「兄上の帰還命令は、一時保留とします」
「本当か!?」
「はい。ただし条件があります」
フェリクスは私をビシッと指差した。
「この店に、私専用の席を用意すること。そして、毎日王都への『定期便』を手配すること。……あのクリームパンが執務室になければ、私はまた暴れますよ」
「ありがとうございます! つまり、大口契約成立ですね!」
私はガッツポーズをした。
「良かったな、シナモン」
クラウスが微笑む。
「ええ! 公爵家御用達となれば、ブランド力が爆上がりですわ! あ、フェリクス様、どうせなら商品開発のアドバイザーもやりませんか? その神経質な性格、品質管理に向いてますよ」
「……誰が神経質ですか。まあ、味のチェックくらいならしてあげてもいいですが」
フェリクスはツンとした顔で言ったが、その視線は既にショーケースの中の『チョココロネ』に釘付けだった。
こうして、最強の敵(弟)は、最強の顧客(カモ)へと進化した。
小麦粉の供給ルートも復活し、むしろ公爵家のコネで最高級品が手に入るようになった。
『ベーカリー・シナモン』の未来は明るい。
――と、思っていたのだが。
「大変ですお嬢様!」
数日後、マリーが血相を変えて飛び込んできた。
「王都から早馬が! ……パン不足で市民の不満が爆発し、エドワード殿下が『シナモン討伐隊』を結成してこちらに向かっているそうです!」
「はあ?」
私は耳を疑った。
討伐隊?
パン屋を?
「殿下はこう言っているそうです。『シナモンが禁断の果実(パン)で人々を惑わせ、国家転覆を狙っているに違いない! 聖女リリィと共に浄化してやる!』と」
「……あのバカ王子、想像力が豊かすぎるわ」
私は深いため息をついた。
どうやら、ラスボスの登場は近いらしい。
だが、今の私には最強の布陣がある。
パン職人の私。
魔導騎士のクラウス。
完璧執事のセバス。
そして、糖分補給でキレ者に戻った参謀フェリクス。
「迎撃準備よ! 新作『激辛カレーパン・地獄変』の仕込みを始めるわ!」
私の号令に、全員が「御意!」と応えた。
1
あなたにおすすめの小説
白い結婚三年目。つまり離縁できるまで、あと七日ですわ旦那様。
あさぎかな@コミカライズ決定
恋愛
異世界に転生したフランカは公爵夫人として暮らしてきたが、前世から叶えたい夢があった。パティシエールになる。その夢を叶えようと夫である王国財務総括大臣ドミニクに相談するも答えはノー。夫婦らしい交流も、信頼もない中、三年の月日が近づき──フランカは賭に出る。白い結婚三年目で離縁できる条件を満たしていると迫り、夢を叶えられないのなら離縁すると宣言。そこから公爵家一同でフランカに考え直すように動き、ドミニクと話し合いの機会を得るのだがこの夫、山のように隠し事はあった。
無言で睨む夫だが、心の中は──。
【詰んだああああああああああ! もうチェックメイトじゃないか!? 情状酌量の余地はないと!? ああ、どうにかして侍女の準備を阻まなければ! いやそれでは根本的な解決にならない! だいたいなぜ後妻? そんな者はいないのに……。ど、どどどどどうしよう。いなくなるって聞いただけで悲しい。死にたい……うう】
4万文字ぐらいの中編になります。
※小説なろう、エブリスタに記載してます
恋人に夢中な婚約者に一泡吹かせてやりたかっただけ
棗
恋愛
伯爵令嬢ラフレーズ=ベリーシュは、王国の王太子ヒンメルの婚約者。
王家の忠臣と名高い父を持ち、更に隣国の姫を母に持つが故に結ばれた完全なる政略結婚。
長年の片思い相手であり、婚約者であるヒンメルの隣には常に恋人の公爵令嬢がいる。
婚約者には愛を示さず、恋人に夢中な彼にいつか捨てられるくらいなら、こちらも恋人を作って一泡吹かせてやろうと友達の羊の精霊メリー君の妙案を受けて実行することに。
ラフレーズが恋人役を頼んだのは、人外の魔術師・魔王公爵と名高い王国最強の男――クイーン=ホーエンハイム。
濡れた色香を放つクイーンからの、本気か嘘かも分からない行動に涙目になっていると恋人に夢中だった王太子が……。
※小説家になろう・カクヨム様にも公開しています
【本編完結】婚約者を守ろうとしたら寧ろ盾にされました。腹が立ったので記憶を失ったふりをして婚約解消を目指します。
しろねこ。
恋愛
「君との婚約を解消したい」
その言葉を聞いてエカテリーナはニコリと微笑む。
「了承しました」
ようやくこの日が来たと内心で神に感謝をする。
(わたくしを盾にし、更に記憶喪失となったのに手助けもせず、他の女性に擦り寄った婚約者なんていらないもの)
そんな者との婚約が破談となって本当に良かった。
(それに欲しいものは手に入れたわ)
壁際で沈痛な面持ちでこちらを見る人物を見て、頬が赤くなる。
(愛してくれない者よりも、自分を愛してくれる人の方がいいじゃない?)
エカテリーナはあっさりと自分を捨てた男に向けて頭を下げる。
「今までありがとうございました。殿下もお幸せに」
類まれなる美貌と十分な地位、そして魔法の珍しいこの世界で魔法を使えるエカテリーナ。
だからこそ、ここバークレイ国で第二王子の婚約者に選ばれたのだが……それも今日で終わりだ。
今後は自分の力で頑張ってもらおう。
ハピエン、自己満足、ご都合主義なお話です。
ちゃっかりとシリーズ化というか、他作品と繋がっています。
カクヨムさん、小説家になろうさん、ノベルアッププラスさんでも連載中(*´ω`*)
表紙絵は猫絵師さんより(。・ω・。)ノ♡
白い結婚の行方
宵森みなと
恋愛
「この結婚は、形式だけ。三年経ったら、離縁して養子縁組みをして欲しい。」
そう告げられたのは、まだ十二歳だった。
名門マイラス侯爵家の跡取りと、書面上だけの「夫婦」になるという取り決め。
愛もなく、未来も誓わず、ただ家と家の都合で交わされた契約だが、彼女にも目的はあった。
この白い結婚の意味を誰より彼女は、知っていた。自らの運命をどう選択するのか、彼女自身に委ねられていた。
冷静で、理知的で、どこか人を寄せつけない彼女。
誰もが「大人びている」と評した少女の胸の奥には、小さな祈りが宿っていた。
結婚に興味などなかったはずの青年も、少女との出会いと別れ、後悔を経て、再び運命を掴もうと足掻く。
これは、名ばかりの「夫婦」から始まった二人の物語。
偽りの契りが、やがて確かな絆へと変わるまで。
交差する記憶、巻き戻る時間、二度目の選択――。
真実の愛とは何かを、問いかける静かなる運命の物語。
──三年後、彼女の選択は、彼らは本当に“夫婦”になれるのだろうか?
悪役令嬢と誤解され冷遇されていたのに、目覚めたら夫が豹変して求愛してくるのですが?
いりん
恋愛
初恋の人と結婚できたーー
これから幸せに2人で暮らしていける…そう思ったのに。
「私は夫としての務めを果たすつもりはない。」
「君を好きになることはない。必要以上に話し掛けないでくれ」
冷たく拒絶され、離婚届けを取り寄せた。
あと2週間で届くーーそうしたら、解放してあげよう。
ショックで熱をだし寝込むこと1週間。
目覚めると夫がなぜか豹変していて…!?
「君から話し掛けてくれないのか?」
「もう君が隣にいないのは考えられない」
無口不器用夫×優しい鈍感妻
すれ違いから始まる両片思いストーリー
【本編完結】笑顔で離縁してください 〜貴方に恋をしてました〜
桜夜
恋愛
「旦那様、私と離縁してください!」
私は今までに見せたことがないような笑顔で旦那様に離縁を申し出た……。
私はアルメニア王国の第三王女でした。私には二人のお姉様がいます。一番目のエリーお姉様は頭脳明晰でお優しく、何をするにも完璧なお姉様でした。二番目のウルルお姉様はとても美しく皆の憧れの的で、ご結婚をされた今では社交界の女性達をまとめております。では三番目の私は……。
王族では国が豊かになると噂される瞳の色を持った平凡な女でした…
そんな私の旦那様は騎士団長をしており女性からも人気のある公爵家の三男の方でした……。
平凡な私が彼の方の隣にいてもいいのでしょうか?
なので離縁させていただけませんか?
旦那様も離縁した方が嬉しいですよね?だって……。
*小説家になろう、カクヨムにも投稿しています
誰も愛してくれないと言ったのは、あなたでしょう?〜冷徹家臣と偽りの妻契約〜
山田空
恋愛
王国有数の名家に生まれたエルナは、
幼い頃から“家の役目”を果たすためだけに生きてきた。
父に褒められたことは一度もなく、
婚約者には「君に愛情などない」と言われ、
社交界では「冷たい令嬢」と噂され続けた。
——ある夜。
唯一の味方だった侍女が「あなたのせいで」と呟いて去っていく。
心が折れかけていたその時、
父の側近であり冷徹で有名な青年・レオンが
淡々と告げた。
「エルナ様、家を出ましょう。
あなたはもう、これ以上傷つく必要がない」
突然の“駆け落ち”に見える提案。
だがその実態は——
『他家からの縁談に対抗するための“偽装夫婦契約”。
期間は一年、互いに干渉しないこと』
はずだった。
しかし共に暮らし始めてすぐ、
レオンの態度は“契約の冷たさ”とは程遠くなる。
「……触れていいですか」
「無理をしないで。泣きたいなら泣きなさい」
「あなたを愛さないなど、できるはずがない」
彼の優しさは偽りか、それとも——。
一年後、契約の終わりが迫る頃、
エルナの前に姿を見せたのは
かつて彼女を切り捨てた婚約者だった。
「戻ってきてくれ。
本当に愛していたのは……君だ」
愛を知らずに生きてきた令嬢が人生で初めて“選ぶ”物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる