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「吸って! 息を吸って止めてくださいシナモン様!」
「む、無理です……! これ以上吸ったら、内臓が口から出てきます!」
結婚式当日の朝。
隣国リ・ブレの王宮にある控室は、戦場と化していた。
純白のドレスに身を包んだ私は、数人がかりでコルセットを締め上げられていた。
原因は明白だ。
緊張のあまり、今朝だけでクロワッサンを5個食べてしまったからだ。
「あと1センチ! あと1センチ締めないとファスナーが上がりません!」
「ぐぬぬ……! グルテンの神よ、私に伸縮性を……!」
ギリギリギリ……ッ!
マリー(侍女)渾身の締め付けにより、なんとかドレスの背中が閉まった。
「ふぅ……死ぬかと思ったわ」
私は鏡を見た。
そこには、今までで一番綺麗な私がいた。
シルクの艶(つや)めき、繊細なレース、そして頭上にはダイヤモンドのティアラ。
ただ一つ、右手に食べかけのラスクが握られているのを除けば、完璧な花嫁だ。
「美しいです、お嬢様」
マリーが涙ぐんでいる。
「あの小麦粉まみれだったお嬢様が……こんなに立派になられて……」
「泣かないでマリー。小麦粉まみれなのは昨日までだし、たぶん明日からもよ」
コンコン。
ドアがノックされ、白いタキシード姿のクラウスが入ってきた。
「シナモン、迎えに来たぞ。……準備はいいか?」
彼は私を見て、一瞬言葉を失った。
「……どうだ?」
「変じゃないか? コルセットでお腹が鳴りそうだが」
「いや……綺麗だ。言葉にならないくらい」
クラウスは優しく微笑み、私の手を取った。
その手は少し震えている。
「行くぞ。……みんなが待っている」
「はい!」
***
会場となる大聖堂は、満員だった。
ステンドグラスから光が差し込み、パイプオルガンの荘厳な音色が響き渡る。
私たちはヴァージンロードを歩いた。
一歩進むごとに、参列者からの視線が集まる。
右側には、私の実家の父(辺境伯)が号泣してハンカチを噛んでいる。
左側には、クラウスの親族――筋肉ムキムキの国王、氷のような笑顔の大公妃、そして黒いオーラを放つロダン元皇帝(父)が鎮座している。
(……新郎側の席の圧が強すぎる)
祭壇の前へ。
神父様が厳かに口を開いた。
「新郎、クラウス・フォン・ライ麦。汝はシナモン・クラスツを妻とし、病める時も、健やかなる時も、これを愛することを誓うか?」
「誓います」
クラウスは迷いなく答えた。
「新婦、シナモン・クラスツ。汝はクラウス・フォン・ライ麦を夫とし、富める時も、貧しき時も、これを愛することを誓うか?」
私は一呼吸置いた。
そして、神父様のマイク(拡声魔法)に向かって言った。
「訂正を求めます」
「は?」
神父様が固まる。
「『愛する』という定義が曖昧です。より具体的に、『美味しいパンを焼き続け、酵母の機嫌を取り、オーブンの温度管理を怠らないこと』に変更してください」
「えっ、いや、定型文ですので……」
「大事な契約事項です! ここをあやふやにすると、後で『言った言わない』のトラブルになります!」
ざわつく会場。
クラウスが苦笑しながら、私の耳元で囁いた。
「シナモン。俺への愛は、パンへの愛に含まれているんだろう?」
「もちろんです。パン生地の中に練り込まれたドライフルーツくらい、しっかりと含まれています」
「……なら、誓ってくれ」
「分かりました。……誓います!」
「では、指輪の交換を」
私がクラウスの指に指輪を嵌めようとした、その時だった。
バンッ!!
大聖堂の扉が、乱暴に開かれた。
「ちょっと待ったぁぁぁ!!」
逆光の中、数人の女性たちが立っていた。
派手なドレスを着た彼女たちは、かつて私が王都の学園にいた頃、私を「悪役令嬢」と呼んで蔑(さげす)んでいた令嬢グループだ。
リーダー格の令嬢が、扇子でビシッと私を指差した。
「この結婚、異議ありよ! 騙されてはいけませんわ、ライ麦公爵様!」
「……誰だ?」
クラウスが眉をひそめる。
「私たちは『シナモン被害者の会』です! その女は稀代の悪女! かつて学園で、私のドレスに小麦粉を撒き散らし、廊下をパン屑だらけにし、酵母菌を培養して異臭騒ぎを起こしたテロリストですわ!」
「テロリストとは失礼な。あれは『天然酵母の素晴らしさを布教する活動』でした」
私が反論すると、令嬢たちはヒステリックに叫んだ。
「ほら! 反省してない! こんな女が公爵夫人に収まるなんて許せません! 今すぐ破談になさい!」
彼女たちはバスケットから何かを取り出した。
腐ったトマト――ではなく、カビたパンだ。
「これがお似合いよ! 悪役令嬢にはカビパンの雨を降らせてあげるわ!」
彼女たちがカビパンを投げようと振りかぶった、その瞬間。
ピキィィィン……!
大聖堂の空気が凍りついた。
「……騒がしいわね」
最前列から、アデラ大公妃が立ち上がった。
彼女が扇子を一振りすると、冷気が渦巻き、令嬢たちの足元が瞬時に凍結した。
「ひいっ!? 足が! 動かない!?」
「私の可愛い嫁の晴れ舞台を汚す泥棒猫は、どこのどいつかしら?」
大公妃が微笑む。
その背後には、絶対零度の吹雪が見える(幻覚)。
「くっ、怯(ひる)むな! 私たちには正義があるのよ!」
令嬢たちが抵抗しようとすると、今度は黒い影が覆いかぶさった。
「……正義? パンの前では無力だ」
ロダン元皇帝(父)が、黒い麺棒を構えてヌッと現れた。
「貴様らの持つそのカビパン……パンへの冒涜だ。万死に値する」
「ひっ! な、何この黒いおじさん! 怖い!」
さらに、筋肉ムキムキのアルフレッド国王が、タキシードを破り捨てて筋肉を見せつけた。
「我が国の結婚式を邪魔するとは、いい度胸だ! 私の大胸筋が黙っていないぞ!」
「王様!? なんで裸!?」
最強の親族トリオによる威圧(プレッシャー)。
令嬢たちはガタガタと震え上がった。
「な、なんなのよこの一族……! 化け物揃いじゃない!」
「誰が化け物ですか」
私はツカツカと彼女たちの前に歩み寄った。
そして、懐(ドレスの胸元)から、焼き立ての『和解のアンパン』を取り出した。
「お腹が空いているんでしょう? 血糖値が下がるとイライラしますからね」
「食べるわけないでしょ! 毒入りなんでしょ!」
「いいえ。たっぷりの粒あんと、ホイップクリーム入りです」
私は無理やりリーダー格の令嬢の口にパンをねじ込んだ。
「んぐっ!?」
「噛んで!」
彼女は反射的に咀嚼した。
「……!」
甘いあんこと、まろやかなクリームが口いっぱいに広がる。
怒りで沸騰していた脳が、糖分によって鎮火されていく。
「……おい、しい……」
「でしょう?」
「悔しい……こんなにムカつく女なのに……パンだけは……パンだけは罪がないわ……!」
彼女は泣きながらパンを完食した。
「……覚えてなさい! また買いに来るから!」
捨て台詞を残し、彼女たちは嵐のように去っていった(足元の氷はフェリクス弟が溶かしてあげた)。
「……やれやれ」
クラウスがため息をついた。
「式が進まないな。神父様、続きを」
「は、はい! では、誓いのキスを!」
クラウスが私のベールを上げる。
彼の顔が近づいてくる。
心臓が早鐘を打つ。
(パン以外のことでドキドキするのは久しぶりだわ……)
チュッ。
触れるだけの、優しい口づけ。
会場から拍手が湧き上がった。
「では最後に! 新郎新婦による『共同作業』を行います!」
司会者の合図で、祭壇の後ろから『それ』が運ばれてきた。
長さ5メートル。
直径1メートル。
カチカチに焼き締められた、超特大ハードバゲットだ。
「な、なんだあれは!?」
「丸太か!?」
「いや、パンだ!」
会場がどよめく中、私とクラウスは一本の剣を二人で握った。
特注の『パン切り聖剣(エクス・カリカリ・バー)』だ。
「行きますよ、クラウスさん! 呼吸を合わせて!」
「ああ。……俺たちの未来を切り開く!」
「せーの!」
「「入刀ーーッ!!」」
私たちは渾身の力で剣を振り下ろした。
ザシュッ!!!
乾いた音が響き渡り、巨大なバゲットが見事に真っ二つに断ち切られた。
その断面から、無数の花びらと、小さなパン(一口サイズ)が溢れ出した。
「おおおおお!!」
「中からパンが! パンからパンが生まれたぞ!」
「おめでとう! パン万歳!」
拍手喝采。
紙吹雪のように舞うパン屑の中、私たちは見つめ合った。
「……やったな、シナモン」
「はい、大成功です!」
クラウスは愛おしそうに私を抱きしめた。
「これからもよろしく頼む。……俺の可愛いパン職人」
「こちらこそ。……私の素敵な温度管理係さん」
私たちはもう一度キスをした。
今度は、少し長めの、甘い味のするキスを。
こうして、私たちの結婚式は幕を閉じた。
波乱万丈だったけれど、終わりよければ全てよし。
……と、言いたいところだが。
物語はまだ終わらない。
結婚式の翌日。
新婚旅行(ハネムーン)に出発しようとした私たちに、一通の手紙が届いたのだ。
差出人は、なんと『異大陸のパンギルド』。
『求む、勇者。伝説の「始まりの種」を探し出し、世界を飢餓から救ってくれ』
「……始まりの種?」
私の冒険者魂(パン魂)に火がついた。
「行きましょうクラウスさん! 新婚旅行の行き先は『未開のジャングル』に変更です!」
「……やっぱりそうなるのか」
クラウスは遠い目をしたが、その手はしっかりと私の荷物を持ってくれていた。
「む、無理です……! これ以上吸ったら、内臓が口から出てきます!」
結婚式当日の朝。
隣国リ・ブレの王宮にある控室は、戦場と化していた。
純白のドレスに身を包んだ私は、数人がかりでコルセットを締め上げられていた。
原因は明白だ。
緊張のあまり、今朝だけでクロワッサンを5個食べてしまったからだ。
「あと1センチ! あと1センチ締めないとファスナーが上がりません!」
「ぐぬぬ……! グルテンの神よ、私に伸縮性を……!」
ギリギリギリ……ッ!
マリー(侍女)渾身の締め付けにより、なんとかドレスの背中が閉まった。
「ふぅ……死ぬかと思ったわ」
私は鏡を見た。
そこには、今までで一番綺麗な私がいた。
シルクの艶(つや)めき、繊細なレース、そして頭上にはダイヤモンドのティアラ。
ただ一つ、右手に食べかけのラスクが握られているのを除けば、完璧な花嫁だ。
「美しいです、お嬢様」
マリーが涙ぐんでいる。
「あの小麦粉まみれだったお嬢様が……こんなに立派になられて……」
「泣かないでマリー。小麦粉まみれなのは昨日までだし、たぶん明日からもよ」
コンコン。
ドアがノックされ、白いタキシード姿のクラウスが入ってきた。
「シナモン、迎えに来たぞ。……準備はいいか?」
彼は私を見て、一瞬言葉を失った。
「……どうだ?」
「変じゃないか? コルセットでお腹が鳴りそうだが」
「いや……綺麗だ。言葉にならないくらい」
クラウスは優しく微笑み、私の手を取った。
その手は少し震えている。
「行くぞ。……みんなが待っている」
「はい!」
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会場となる大聖堂は、満員だった。
ステンドグラスから光が差し込み、パイプオルガンの荘厳な音色が響き渡る。
私たちはヴァージンロードを歩いた。
一歩進むごとに、参列者からの視線が集まる。
右側には、私の実家の父(辺境伯)が号泣してハンカチを噛んでいる。
左側には、クラウスの親族――筋肉ムキムキの国王、氷のような笑顔の大公妃、そして黒いオーラを放つロダン元皇帝(父)が鎮座している。
(……新郎側の席の圧が強すぎる)
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神父様が厳かに口を開いた。
「新郎、クラウス・フォン・ライ麦。汝はシナモン・クラスツを妻とし、病める時も、健やかなる時も、これを愛することを誓うか?」
「誓います」
クラウスは迷いなく答えた。
「新婦、シナモン・クラスツ。汝はクラウス・フォン・ライ麦を夫とし、富める時も、貧しき時も、これを愛することを誓うか?」
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そして、神父様のマイク(拡声魔法)に向かって言った。
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「は?」
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「『愛する』という定義が曖昧です。より具体的に、『美味しいパンを焼き続け、酵母の機嫌を取り、オーブンの温度管理を怠らないこと』に変更してください」
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ざわつく会場。
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「シナモン。俺への愛は、パンへの愛に含まれているんだろう?」
「もちろんです。パン生地の中に練り込まれたドライフルーツくらい、しっかりと含まれています」
「……なら、誓ってくれ」
「分かりました。……誓います!」
「では、指輪の交換を」
私がクラウスの指に指輪を嵌めようとした、その時だった。
バンッ!!
大聖堂の扉が、乱暴に開かれた。
「ちょっと待ったぁぁぁ!!」
逆光の中、数人の女性たちが立っていた。
派手なドレスを着た彼女たちは、かつて私が王都の学園にいた頃、私を「悪役令嬢」と呼んで蔑(さげす)んでいた令嬢グループだ。
リーダー格の令嬢が、扇子でビシッと私を指差した。
「この結婚、異議ありよ! 騙されてはいけませんわ、ライ麦公爵様!」
「……誰だ?」
クラウスが眉をひそめる。
「私たちは『シナモン被害者の会』です! その女は稀代の悪女! かつて学園で、私のドレスに小麦粉を撒き散らし、廊下をパン屑だらけにし、酵母菌を培養して異臭騒ぎを起こしたテロリストですわ!」
「テロリストとは失礼な。あれは『天然酵母の素晴らしさを布教する活動』でした」
私が反論すると、令嬢たちはヒステリックに叫んだ。
「ほら! 反省してない! こんな女が公爵夫人に収まるなんて許せません! 今すぐ破談になさい!」
彼女たちはバスケットから何かを取り出した。
腐ったトマト――ではなく、カビたパンだ。
「これがお似合いよ! 悪役令嬢にはカビパンの雨を降らせてあげるわ!」
彼女たちがカビパンを投げようと振りかぶった、その瞬間。
ピキィィィン……!
大聖堂の空気が凍りついた。
「……騒がしいわね」
最前列から、アデラ大公妃が立ち上がった。
彼女が扇子を一振りすると、冷気が渦巻き、令嬢たちの足元が瞬時に凍結した。
「ひいっ!? 足が! 動かない!?」
「私の可愛い嫁の晴れ舞台を汚す泥棒猫は、どこのどいつかしら?」
大公妃が微笑む。
その背後には、絶対零度の吹雪が見える(幻覚)。
「くっ、怯(ひる)むな! 私たちには正義があるのよ!」
令嬢たちが抵抗しようとすると、今度は黒い影が覆いかぶさった。
「……正義? パンの前では無力だ」
ロダン元皇帝(父)が、黒い麺棒を構えてヌッと現れた。
「貴様らの持つそのカビパン……パンへの冒涜だ。万死に値する」
「ひっ! な、何この黒いおじさん! 怖い!」
さらに、筋肉ムキムキのアルフレッド国王が、タキシードを破り捨てて筋肉を見せつけた。
「我が国の結婚式を邪魔するとは、いい度胸だ! 私の大胸筋が黙っていないぞ!」
「王様!? なんで裸!?」
最強の親族トリオによる威圧(プレッシャー)。
令嬢たちはガタガタと震え上がった。
「な、なんなのよこの一族……! 化け物揃いじゃない!」
「誰が化け物ですか」
私はツカツカと彼女たちの前に歩み寄った。
そして、懐(ドレスの胸元)から、焼き立ての『和解のアンパン』を取り出した。
「お腹が空いているんでしょう? 血糖値が下がるとイライラしますからね」
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「いいえ。たっぷりの粒あんと、ホイップクリーム入りです」
私は無理やりリーダー格の令嬢の口にパンをねじ込んだ。
「んぐっ!?」
「噛んで!」
彼女は反射的に咀嚼した。
「……!」
甘いあんこと、まろやかなクリームが口いっぱいに広がる。
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「……おい、しい……」
「でしょう?」
「悔しい……こんなにムカつく女なのに……パンだけは……パンだけは罪がないわ……!」
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「……やれやれ」
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「は、はい! では、誓いのキスを!」
クラウスが私のベールを上げる。
彼の顔が近づいてくる。
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チュッ。
触れるだけの、優しい口づけ。
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長さ5メートル。
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「丸太か!?」
「いや、パンだ!」
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「行きますよ、クラウスさん! 呼吸を合わせて!」
「ああ。……俺たちの未来を切り開く!」
「せーの!」
「「入刀ーーッ!!」」
私たちは渾身の力で剣を振り下ろした。
ザシュッ!!!
乾いた音が響き渡り、巨大なバゲットが見事に真っ二つに断ち切られた。
その断面から、無数の花びらと、小さなパン(一口サイズ)が溢れ出した。
「おおおおお!!」
「中からパンが! パンからパンが生まれたぞ!」
「おめでとう! パン万歳!」
拍手喝采。
紙吹雪のように舞うパン屑の中、私たちは見つめ合った。
「……やったな、シナモン」
「はい、大成功です!」
クラウスは愛おしそうに私を抱きしめた。
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今度は、少し長めの、甘い味のするキスを。
こうして、私たちの結婚式は幕を閉じた。
波乱万丈だったけれど、終わりよければ全てよし。
……と、言いたいところだが。
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私の冒険者魂(パン魂)に火がついた。
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