魔力ゼロの-人形使い(ドールマスター) -最強ドールと契約してダンジョンを攻略します-

仁科異邦

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国からの接触

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朝。
協会から連絡が来た。

「面談の場を設けたい」
それだけだった。
差出人は「特別管理部」。

登録の時に見た部署じゃない。
初めて聞く名前だった。



放課後、協会に向かった。
いつものロビーを通り抜けて、エレベーターで五階へ。
五階は来たことがなかった。
廊下が静かだ。人が少ないし、壁が白い。
どこか病院に似た雰囲気がある。

案内された部屋に入った。
テーブルを挟んで、三人が座っていた。
協会の制服を着た中年の男。
スーツ姿の女。
そして――軍服だった。
軍服の男が俺を見た。

年齢は四十代くらい。目が鋭い。
胸に階級章がついている。
「石浜秀馬くんかな?」

「はい」
「座ってください」
俺と桜花が座った。
軍服の男が桜花を見た。
じっと、見た。
品定めではなく、もっと複雑な目で見られていると感じた。

「……本当に現存していたのか」

桜花が答えた。
「私は桜花です。石浜秀馬の契約ドールです」
「名前は知っている」
男が資料を開いた。
「防衛省特別対策室、室長の黒沢だ」
防衛省。
俺は少し背筋が伸びた。

「単刀直入に聞く」
黒沢が俺を見た。
「桜花を、国に貸してほしい」

静寂。
桜花は表情を変えなかった。
俺も変えなかった。

「……理由を聞かせてください」
「現在、第12区のダンジョンで異常が確認されている。深層から未確認の魔物が複数、浮上しつつある。現行のSランクドールである程度、渡り合えるがSランクドールは貴重、数に限りがあるから対処が難しい」

「その相手に桜花なら対処できると?」
「出力測定の結果を見た。Sランク以上の力だ。可能性がある」
俺は黒沢を見た。

「桜花は俺の契約ドールです。国の所有物じゃない」
「それは理解している」
「なので貸せません」
黒沢が少し間を置いた。

「理由を聞かせてくれるか」
「桜花は俺の隣で戦うために目覚めた、それを国の都合で動かすものじゃない」
スーツの女が口を開いた。

「石浜くん、少し落ち着いて聞いてください。第12区には住民が三万人います。ダンジョンブレイクが起きれば——」
「それは分かっています」
俺は女を見た。
「でも、答えは変わりません」


桜花が口を開いた。
「黒沢様」
黒沢が桜花を見た。
「一つ、確認させてください」
「どうぞ」
「貸す、ということは——私が単独で出向くということですか?」
「そうなる」
「では秀馬は?」

「同行は想定していない。危険すぎる」
桜花が頷いた。
それから、静かに言った。
「お断りします」

黒沢の目が細くなった。
「理由を」
「私は石浜秀馬の契約ドールです」
桜花が真っ直ぐ黒沢を見た。
「契約者なしで動くことは、約定に反します」
「約定というのは?」

「源之助様との、200年前の約束です。石浜家の子息に従い、共に戦う。単独行動は、その約定の外にあります」
「しかし石浜くんでは深層に——」
「それを判断するのは私です」
静寂。
黒沢がしばらく桜花を見た。
やがて、息を吐いた。
「……強情だな」
「はい」

秀馬が桜花に聞く。
「200年前からそうなのか?」
「源之助様にもよく言われました」


会議が止まった。
黒沢が資料を閉じた。
「分かった。今日のところは引き下がる」
「ありがとうございます」
「ただ——」
黒沢が俺を見た。

「状況は刻一刻と変わる。第12区の異常が拡大すれば、また話を持ってくる」
「その時は——」

「その時も同じ答えかもしれない。でも、聞いてほしい」
俺は少し間を置いた。
「……分かりました」
黒沢が立ち上がった。
部屋を出る前に、振り返った。

「石浜くん」
「はい」
「君には魔力がないと聞いた」
「そうです」
「それでも、桜花が選んだのか」
俺は少し考えた。

「選んだというより——目が覚めたら俺がいた、という感じだと思います」
黒沢が少し目を細めた。
笑ったのかもしれなかった。

「……そうか」
扉が閉まった。


廊下に出た。
桜花が歩きながら言った。
「……すみません」
「何が?」
「秀馬に余計な面倒をかけました」
「面倒だとは思ってない」
「でも、国が相手です」
「分かってる」
俺は少し考えた。

「桜花」
「はい」
「第12区の話、本当だとしたら」
「本当だと思います。黒沢様の目に、嘘はありませんでした」
「深層から魔物が浮上してる」

「はい」
「放っておけないな」
桜花が足を止めた。
俺も止まった。
「……桜花、ひとつ条件がある」
「条件?」
「俺も連れていくこと。それが条件なら、協力できる」
桜花がしばらく俺を見た。
長い沈黙だった。

「……危険です」
「分かってる」
「深層は、第二層とは比較にならない」
「分かってる、それでも」

桜花がまた俺を見た。
金色の目が、夕方の廊下の光を映していた。
「……鍛錬を、続けなければなりませんね」
「そうなるな」
「五時起きです」

「一時間ずらせない?」
「四時に変更ですね、分かりました」
「いや、ちがーう!」

桜花が歩き出した。
一歩、二歩と。

「秀馬」
「なに」
「……ありがとうございます」
俺は何も言わなかった。

でも、隣を歩く速度を合わせた。
それで十分な気がした。
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