魔力ゼロの-人形使い(ドールマスター) -最強ドールと契約してダンジョンを攻略します-

仁科異邦

文字の大きさ
11 / 12

対抗戦

しおりを挟む
学園対抗戦の会場は、第3区の屋内競技場だった。

広く、天井が高い、それに観客席がある。

五校が参加する。各校から三チーム。
総当たりの勝ち点制だ。
俺たちは第一試合から出る。

「……人が多いですね」
桜花が観客席を見上げた。
「対抗戦は毎年人気があるらしい」
「見物ですか」
「強いドールを見たい人間は多い」
「……そうですか」
桜花が視線を戻した。

アリーナの中央。他校の参加者が準備をしている。
ドールの型式が、うちとは違う。
オーダーメイド型が多い。高価なやつだ。
上野が小声で言った。
「あの赤いの、S学園のエースだ。昨年の優勝校」
「どんな型式だ」
「攻撃特化のオーダーメイド。名前は『紅』。かなり速いらしい」
俺は紅を見た。

赤い外装。細身の体躯。契約者は女子生徒だった。
目が合った。
だが向こうが先に視線を切った。



第一試合。
相手はC学園だった。
バランス型の汎用ドール二体。手堅い構成だ。
審判の笛が鳴った。
相手のドールが散開する。
左右から挟む作戦だ。

しかし桜花は動かなかった。
待っている。
左のドールが踏み込んだ。速い。
スッと桜花が動いた――左ではなく、右へ。

右のドールの間合いに、自分から入った。
「……っ」
相手の契約者が息を呑む声が聞こえた。
想定外の動きだった。
挟む作戦が、逆に密集を生んだ。

桜花が右のドールに柄打ち。
弾かれた右のドールが、左のドールに接触した。
一瞬、両方の体勢が崩れた。
その瞬間、二連の柄打ち。
右左間髪入れずに。

乾いた音が二度、続いた。
相手の両ドールが膝をついた。
笛が鳴った。
「両ドール戦闘不能。石浜・桜花の勝利」

第二試合。
第四試合。
第六試合。
桜花は全て、刃を使わなかった。
それでも、全勝だった。

観客席がざわめき始めた。
「あの旧式、何者だ」
「型式が分からない。どこの学園だ」
「刀を抜かないのに勝ってる」
「契約者が魔力ゼロって本当か」
声が聞こえた。

俺には聞こえていた。
桜花にも聞こえているはずだった。
「……気になるか、ああいう声」
「いいえ」
「本当に?」
「私が気にするのは秀馬だけです」
さらっと言うやつだった。



決勝。
相手はS学園だった。
紅が出てきた。
細身の赤い外装と契約者の女子生徒が、俺を見た。
「石浜くん、だよね」
「そうですが」
「噂は聞いてる。魔力ゼロで旧式のドールを動かしてるって」
「動かしてるというより、動いてくれてる感じですが」
女子生徒が少し笑った。
「正直だね」
「嘘をつく理由がないので」
「私は倉木如月(くらきさつき)。S学園二年、本気で行くよ」
「石浜秀馬。一年、こちらも本気で行く」

如月が桜花を見た。
桜花が紅を見ている。
静かに、真っ直ぐに。
紅も桜花を見ていた。
二体のドールが、互いを測っていた。

そして、審判の笛が鳴った。
先に紅が動いた。
速い。今日見た中で、一番速い。
開幕の一歩目から最高速だ。
桜花が動いた。
正面から――掻き消えた。
紅の刃が虚空を切る。

「……っ」
観客席から声が上がった。
視界の端。桜花は紅の横にいた。
柄打ち。
紅が弾いた。

硬い。防御反応が速い。
桜花がすでに離れていた。
「速い」
桜花が小さく言った。

「今日一番です」
「楽しそうだな」
「少し」
また踏み込んだ。今度は角度を変えて。
紅が対応した。完璧な反応だ。

弾かれた。
桜花が後退した。
初めてだった。
桜花が後退したのは、今日初めてだった。


如月が叫んだ。
「紅、行って」
紅が追った。
速い。追撃の速度が上がった。
桜花は下がり続けた。
俺は見ていた。
下がりながら、桜花の目が動いていた。
何かを、測っていた。

「……桜花」
届かないかもしれない。でも、言った。
「見えてるか」
桜花が一瞬、俺を見た。
頷いた。
「見えています」
紅が踏み込んだ。今日一番の速度だった。

桜花が動いた。
下がらず。前に出た。
真正面から、ぶつかるように。
紅の刃が来る――その軌道の内側へ、潜り込んだ。
重心を落とす、限界まで低く‥あの形だ。

懐に入って。刀を抜いた。

音が違った。
今日一番鋭い音。空気が断たれる乾いた響き。
紅の外装に、一筋の光が走った。
遅れて。

硬質な装甲が、小さく割れる音が響いた。
紅がよろめいた。
桜花はすでに離れていた。
静寂。
笛が鳴った。
「紅、損傷判定。継続不能。石浜・桜花の勝利——」

観客席が、沸いた。
俺には聞こえていなかった。
桜花を見ていた。
桜花が刀を納めていた。

今日、初めて刃を使った試合だった。
如月が紅に駆け寄った。
「大丈夫?」
「問題ありません」

紅はよろめかず、立ち上がった。
如月が桜花を見た。
「……すごいね」
「紅も強かったです」

「刀、抜かせたのはうちだけだよね、今日」
「はい」
「それって、褒め言葉として受け取っていい?」
桜花が少し間を置いた。

「そうですね」
如月が俺を見た。
「石浜くん」
「なんですか」
「魔力ゼロでも、ちゃんと戦ってたよ」
「桜花が戦ってただけです」
「違う」
如月が首を振った。

「さっき声をかけたでしょ。桜花に」
「聞こえてましたか」
「聞こえてた。あれで桜花の目が変わった」
俺は少し黙った。

「……そうですか」
「魔力がなくても、できることはある」
如月が笑った。
「また戦いたいな」
「こっちも」



表彰式が終わった。
優勝旗を持って、会場を出た。
川沿いの風が気持ちよかった。
桜花が空を見上げていた。

「……秀馬」
「なに」
「今日、刀を抜きました」
「見てた」
「加減が難しかったです」
「壊れなかったからいい」

「紅は良いドールでした」
「褒めるのか相手を」
「強い相手は素直に認めます」

俺は優勝旗を肩に担いだ。
「桜花」
「はい」
「楽しかったか」

桜花が少し間を置いた。
「……はい」
「良かった」
「秀馬は」
「楽しかった」
「魔力がなくても?」

「関係ない」
桜花が俺を見た。
金色の目が、夕日を映していた。
「……そうですね」

並んで歩いた。
優勝旗が、風に揺れた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

転生したら世界一の御曹司だった〜巨乳エルフメイド10人と美少女騎士に溺愛されています〜

まさき
青春
異世界転生した最強の金持ち嫡男、 専属エルフメイドと美少女騎士に囲まれて至福のハーレム生活   現代日本で「地味だが実は超大富豪」という特殊な人生を送っていた青年は、ある日事故で命を落とす。   しかし目を覚ますと、そこは魔法と様々な種族が存在する異世界だった。   彼は大陸一の富を誇る名門貴族―― ヴァン・バレンティン家の嫡男カイルとして転生していたのだ。   カイルに与えられたのは ・世界一とも言える圧倒的な財力 ・財力に比例して増大する規格外の魔力   そして何より彼を驚かせたのは――   彼に仕える十人の専属メイド全員が、巨乳美少女だったことである。   献身的なエルフのメイド長リリア。 護衛騎士でありながら隙あらば誘惑してくる女騎士シルヴィア。   さらに個性豊かな巨乳メイドたち。   カイルは持ち前の財力で彼女たちの願いを叶え、最高級の装備や生活を与えていく。   すると彼女たちの忠誠心と愛情はどんどん加速していき――   「カイル様……今日は私が、お世話をさせてください」   領地を狙う貴族を金と魔力で圧倒し、 時にはメイドたちの愛が暴走して甘すぎる時間に巻き込まれながらも、   最強の御曹司カイルは 世界一幸せなハーレムを築いていく。 最後までお読みいただきありがとうございました。よろしければ応援をお願いいたします。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

処理中です...