霊力ゼロの陰陽師見習い

テラトンパンチ

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違和感

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違和感は、ずっとそこにあった。

篠宮 恒一。
穏やかで、理知的で、玄弥を「無能者」として扱わない唯一の存在。
それなのに――。

「……おかしい」

訓練場で一人、呼吸を整えながら玄弥は呟いた。

基礎訓練。
足運び、重心、霊力の循環。

篠宮が教えるそれは、あまりにも正確すぎた。

人間の陰陽師が「経験」で辿り着く理論ではない。
まるで――霊そのものの構造を、最初から理解しているかのような。

(……知りすぎている)

玄弥は無意識に胸元を押さえた。
内側で、九尾の存在が静かにざわめく。

――警戒しろ。

はっきりした言葉ではない。
だが、九尾の尾の気配が、微かに反応していた。

その日、帰り道。

夕暮れの商店街。
人の声、笑い声、生活の匂い。

篠宮は、自然な足取りで玄弥の隣を歩いている。

「今日の練習、良かったな」
「霊力の流れ、かなり安定してきてる」

「……篠宮」

玄弥は足を止めた。

「お前、どうして“九尾の尾を出す前兆”を知ってる?」

空気が、一瞬で冷えた。

「……何の話だ?」

篠宮は笑う。
だが、その笑みは、ほんの一拍だけ遅れていた。

玄弥は視線を逸らさず、続ける。

「俺は誰にも言ってない」
「九尾の反応も、代償の兆候も……」

一歩、距離を詰める。

「それを“九尾の尾を出す前に抑えろ”って言った」
「まるで、経験者みたいにな」

沈黙。

夕暮れのざわめきが、やけに遠く感じられた。

篠宮は、深く息を吐く。

「……やっぱり、気づくか」

声の温度が、消えた。

次の瞬間。

篠宮の足元から、黒い影が滲み出す。
人の形を保っていた輪郭が、歪んでいく。

「本当は、もう少し時間をかけるつもりだった」

瞳が、赤黒く光る。

「だが……仕方ない」

妖気が、爆発した。

通行人が悲鳴を上げる。
空気が腐り、霊の流れが乱れる。

「な……っ!」

玄弥が霊符を構えるより早く、篠宮――いや、刺客は腕を振るった。

黒い靄が伸び、人々の影に絡みつく。

「やめろ!!」

叫びは、届かない。

影が、魂を引き剥がす。

――喰われた。

人の身体から淡い光が引き抜かれ、刺客の口へと吸い込まれる。
倒れる人々。意識を失い、膝をつく。

「……ああ……」

刺客は、恍惚とした息を吐いた。

「これだ……」
「人の街は、やはり甘い」

妖気がさらに膨れ上がる。
人の姿が、完全に崩れ始めた。

玄弥の視界が、赤く滲む。

怒り。
恐怖。
そして――後悔。

(信じた……)

(隣に立たせた……)

九尾の声が、低く響く。

――来るぞ。ここからが、本番だ。

玄弥は、震える手で拳を握った。

「……街でやるな」

低く、抑えた声。

「相手は……俺だ」

背中で、九尾の尾の気配がうごめく。
一本目の九尾の尾が、今にも顕現しそうになるのを必死で抑え込む。

刺客は、嗤った。

「いいだろう、玄弥」
「お前の“本当の力”――九尾の力を、引きずり出してやる」

次の瞬間、地面が砕ける。

妖気と霊力が激突し、商店街の灯りが一斉に消えた。

――戦いは、始まった。
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