宇宙大戦記

Uruka

文字の大きさ
7 / 11
桃源星編

不安と焦り

しおりを挟む
 「よし。今日はもういいぞ。」

 「はい…。」

 あれから1週間経つが、どうやら今日も超能力を教えてもそうにない。もうすぐ7月に差し掛かるというのに。

 さらに1週間が経ったが、トレーニングしかやらせて貰えないままその日も終わった。俺の体力はまだ不十分なのだろうか。そんな思いからか、俺は夜も1人でトレーニングをすることにした。俺がトレーニングをしている頃、他の出場者はもう超能力を覚えているのかと思うと不安で仕方がないのだ。

 次の日も同じメニューを繰り返して終わった。一体どうしたらいいのだ…。いっこうに超能力を教わる気配がない。俺はまたこっそりトレーニングを続けた。

 同じような日が3日くらい続いた頃だろうか。いつも通り、1人で夜にトレーニングをし、寮へ戻ろうとすると、

「お疲れ様です~。居残り練習ってやつですか?」

 振り返るとそこにはアダムが立っていた。

「ああ。」

「ちょうど良かった。これから一緒に大浴場に行きましょうよ。毎日部屋の風呂だと飽きてきませんか?」

 どうやらこの近くには温泉まであるらしい。

「いや…」

「ついでにこの街も案内しますよ。」

「…分かったよ。」

 あまり乗り気ではなかったが、そこまで言われては断りづらい。




「いやーこんな近くに温泉があるんなら言ってくれりゃー良かったのに。」

 歩いて5分程の場所にあった温泉は湯加減も丁度良く、疲れた体によく染み渡る。

「すいませんねぇ。」

「他にも名所は色々あるのか?」

「うーん。ベツレヘムは比較的新しい国ですからねぇ…。まぁ強いて言えば〝神の館〟くらいですかね。」

 ベツレヘムとはここのことらしく、桃源星にはベツレヘムの他にもいくつか国があるらしい。

「〝神の館〟?」

「ええ…。世界最大の図書館です。世界各国の貴重な資料が保管されていますよ。調べたいことがあれば〝神の館〟に行くと大体分かります。」

「へぇ…。」

 てっきり娯楽的な意味での名所を想定していたが、それはそれでアダムらしい。

「ところで居残り練習の成果は出てますか?」

「あぁ…良くなってるよ。」

「嘘はいけませんよ。今まさに壁にぶち当たってるとこでしょう?だから夜まで1人で練習していたんでしょうに。」

 それにしても流石は天才科学者である。俺の内情も丸わかりというわけか。

「…わかってんなら最初から聞くなよ。まぁ正直そうだな…。予選まであと5ヶ月しかないのに俺は超能力を覚えてすらない。少し焦ってはいる。」

「焦るのは分かります。ですが、冷静になって下さい。受験の時も基礎を大事にしたから東京大学に受かったのでしょう?」

「わかってるよ。だからその基礎を練習するために夜まで練習してんだろ。」

「過度な練習はマイナスです。休むことも大事なんですよ。なにせただでさえキツいビティのトレーニングを受けているんですから。」

「ならどうしたらいんだよ。このままだと12月の予選には間に合わないだろ!」 

 焦る気持ちからか、俺はつい声を荒げてしまった。すぐアツくなってしまう所は俺の欠点である。

「今は辛いかもしれませんが、ここが踏ん張り所です。ビティを信じて頑張るしかありません。ですが…」

 アダムは少し間を置いた。

「もしU-20バトルトーナメントに出たくないのであれば辞退してもいいですよ。他の事務仕事とかもありますから。別に辞退したからといって金を返して貰うなんてことはしませんし。」

「おいおい…。辞める訳がねぇだろ。ここまで来て超能力を諦めろとでも言うのか?それにこの仕事の方が儲かるからアンタも俺にやらせたんだろ?」

「確かにそうです。ですけど別に私は金なんて必要ありません。何故なら死ぬ程持ってますからねぇ。金の話を抜きにして君は本当にこの仕事をやりたいと思っていますか?」

「そんな訳ねぇだろ。そりゃ出来ることなら地球にいたい。だが、ここまで来たら俺はやる。超能力だって覚えたいしな。俺はU-20で優勝する。そんでアンタに借りた金を返す。そうじゃないと気が済まないからな。」

「そうですか。付き合わせてしまってすいませんね。」

「そりゃコッチのセリフだ。もともとはウチの借金が原因なんだからな。」

「…そうですね。では私は先に上がります。」

 そう言うとアダムは風呂から出ていった。

「あぁ…わかった。」

 俺はアダムが一瞬間を開けたことが気になったが、それでも温泉に浸かっているうちに忘れていった。少し経って俺も風呂から出ることにした。

 

 次の日、いつも通りにトレーニングを始めるのかと思いきや、ビティは突然

「よーし。今日は鬼ごっこでもするか。」

と言いだした。今までは無難に筋トレやダッシュ、長距離走などをしていたのにである。

「鬼ごっこ?」

「あぁ。ルールは知ってんだろ?今回は制限時間の1時間で最後に鬼だった方の負けだ。俺が勝ったらお前はもう残って練習するのは禁止。お前が勝ったら超能力を教えてやる。あと、一応言っとくが俺は能力を使わない。」

 ビティにまでバレていたとは。だが、そんなことより、俺は勝つことに集中する。何故なら勝てばついに超能力について教えて貰えるからである。しかも相手は能力使用不可。このチャンスを活かさない訳にはいかない。


 


 

 


 

 





 



 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

真実の愛のおつりたち

毒島醜女
ファンタジー
ある公国。 不幸な身の上の平民女に恋をした公子は彼女を虐げた公爵令嬢を婚約破棄する。 その騒動は大きな波を起こし、大勢の人間を巻き込んでいった。 真実の愛に踊らされるのは当人だけではない。 そんな群像劇。

さようなら、たったひとつの

あんど もあ
ファンタジー
メアリは、10年間婚約したディーゴから婚約解消される。 大人しく身を引いたメアリだが、ディーゴは翌日から寝込んでしまい…。

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

〈完結〉遅効性の毒

ごろごろみかん。
ファンタジー
「結婚されても、私は傍にいます。彼が、望むなら」 悲恋に酔う彼女に私は笑った。 そんなに私の立場が欲しいなら譲ってあげる。

地味な薬草師だった俺が、実は村の生命線でした

有賀冬馬
ファンタジー
恋人に裏切られ、村を追い出された青年エド。彼の地味な仕事は誰にも評価されず、ただの「役立たず」として切り捨てられた。だが、それは間違いだった。旅の魔術師エリーゼと出会った彼は、自分の能力が秘めていた真の価値を知る。魔術と薬草を組み合わせた彼の秘薬は、やがて王国を救うほどの力となり、エドは英雄として名を馳せていく。そして、彼が去った村は、彼がいた頃には気づかなかった「地味な薬」の恩恵を失い、静かに破滅へと向かっていくのだった。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

断腸の思いで王家に差し出した孫娘が婚約破棄されて帰ってきた

兎屋亀吉
恋愛
ある日王家主催のパーティに行くといって出かけた孫娘のエリカが泣きながら帰ってきた。買ったばかりのドレスは真っ赤なワインで汚され、左頬は腫れていた。話を聞くと王子に婚約を破棄され、取り巻きたちに酷いことをされたという。許せん。戦じゃ。この命燃え尽きようとも、必ずや王家を滅ぼしてみせようぞ。

処理中です...