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桃源星編
鬼ごっこ
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「鬼はどっちが先にやります?」
「どっちでもいいぜ。俺が先にやろうか?」
「分かりました。」
「うーん。決めた。場所を変えよう。」
「え?」
「近くに公園がある。ここだと広過ぎて2人で鬼ごっこをやるのには向かないからな。」
「なるほど。」
近くにあった公園は運動場の4分の1程の面積だった。周りは塀に囲われており、当然、公園だから遊具や木もある。見た感じ、運動場よりも逃げやすい。
「じゃ、やるか。10秒数えたら追いかけるぞ。」
俺はなるべく遠くに陣取ることにした。10秒が経ち、ビティは追いかけて来た。
速い!
気が付いた時にはもう目の前にいた。必死で近くにあった木の裏に隠れたが、速すぎて捕まってしまった。
「じゃ次はお前が鬼だな。」
「…10秒数えます。」
「いやいいぜ。このまま始めよう。俺は絶対にお前には捕まらん。」
「そうですか。なら遠慮なく。」
俺はそう言った瞬間に手を伸ばした。だが、ビティにはアッサリ逃げられた。
「あれ?どうした?遠慮なくって言ってなかったか?」
確実に捕まえたと思った瞬間、ビティは凄まじい瞬発力を発揮し、俺の手から逃れた。だが、ここまで煽られては捕まえない訳にはいかない。だが、この前みたいにやすやすと挑発に乗ったりはしない。俺は同じことは2度も繰り返さないのだ。なにせ時間は1時間もある。何も問題はない。
「ほれほれ~。どうした~?もうバテたか?」
あれから30分は経っただろうか。俺は今だに一度もビティにタッチ出来ないままだった。もちろん走力に差があることは自覚していた。だが、まさかここまで差があるとは思わなかった。俺はビティを目で追うことすら出来なかった。
30分の間、1度も捕まえられないことにも驚きだが、それだけでなく、ビティは疲れている様子が全く無かった。俺は30分間フルスピードで走っていたため、疲れ始めていた。
その後も追いかけ回したが、ビティは全く疲れる様子がなかった。それどころか、俺との距離が空いたときに逆立ちしたり、バク転したりして俺をおちょくる余裕まで見せていた。
結局俺は一度もビティを捕まえることが出来ないまま1時間が過ぎた。
「どうだ?俺はまだ全然本気じゃないぞ。」
それが強がりではないことはビティの表情を見ればよく分かる。
「正直舐めてました…。まさか一度も捕まえられないとは。」
「まぁお前はまだ桃源星に来て半月も経ってないんだ。だが、だからといって1人で居残り練習はするなよ。疲労が溜まって逆効果だからな。」
「流石ビティさんだ…。気付いていたんですね…。でもこのままじゃ時間が!」
「うん…ま、まぁな。問題ない。まだ大丈夫だ。」
ビティは何故か少し慌てていた。だが俺はあまり気にしなかった。
「分かりました。ビティさんを信じます。」
次の日も俺はビティと鬼ごっこをすることになった。今度は鬼ごっこの前にトレーニングも軽めにやった。
「へいへい。どうしたどうした。そんなもんか?」
昨日同様、俺はビティを一度も捕まえることが出来なかった。トレーニングをしていたこともあり、むしろ昨日よりも早く疲れが回って来た。
「あの…俺には何が足りないでしょうか?」
「あ?あぁ…全部だ。」
「全部?!」
「そうだ。本戦に出場する奴らと比較してお前は全て劣っている。だから今は基礎である身体能力を鍛えている。そうじゃなきゃ話にならんからな。」
「…。」
覚悟はしていたが、まさかそこまで言われるとは。しかし、俺を成長させるために本音を言っているのだろう。
「お前はまだこの星に来て半年くらいしか経っていない。それにしては頑張っている方ではある。が、それでも生まれた時からこの星に住んでいる奴らには当然及ばない。それが現実だ。だがまだ5ヶ月ある。その間に少しでも差を縮める。」
「はい。」
~2日前~
ヒロとアダムが一緒に温泉に行った後、アダムはビティに電話していた。
「なんだよ。」
「ヒロ君が居残り練習してました。」
「何?!ほんとか?!」
「ええ…。まぁ君が気付かないってことはまだ居残り練習してから日が浅いのかもしれませんが。」
「全然気が付かなかったぜ。」
「まぁ私の方から言っておいたのでもう大丈夫でしょう。ですが、そのうちにまたやりだすかもしれません。」
「あぁ。まだトレーニングしかしてないしな…。よし!明日はちょっと練習メニューを変えるか。」
「それはいいかもしれません。ですが、そろそろ超能力を教えてもいいのでは?」
「いやダメだ。アイツにはまだ早い。このまま超能力を教えても本戦に出ることすら出来ない。」
「でもあと5ヶ月しかないんですよ?」
「分かってるよ!そもそもお前が俺に無理難題を押し付けんのが悪りぃーんだろうが!アイツはまだここに来て半年も経ってないんだぞ!」
「すいません!コッチにも色々事情があって…。」
「ったく。まぁいい。とはいえ、最低限の条件は達成してもらわないとな…。」
そして、ビティと鬼ごっこを始めてから1週間が経ち、その鬼ごっこにも変化が表れた。
「クソッ!」
「いい調子だ。だんだん俺にも追いつけて来ている。」
最初は目で追うことすら出来なかったビティの動きも少しずつ追えるようになっていた。何度かタッチ出来そうな距離まで詰められるようもなった。だが、それでもそう簡単にはいかない。時間が経つにつれ、体力の差が明白になっていく。
「悪くなかったぞ!そろそろ俺を捕まえることが出来るかもな。」
後半になってくると、どうしても体力が落ちる。休もうとして足を止めると、ビティが目の前まで来て挑発してくる。それに本番は休む暇などない。
やはり課題は体力とスピードである。だが、相手はビティである。真っ向勝負するには実力がかけ離れすぎている。俺はビティに勝つための対策を練ることにした。ビティを目で追えるようになった今なら何とかなるかもしれない。
次の日も、またいつものように鬼ごっこを始めた。
「じゃ、今日も始めるか。」
「うっす…。」
「じゃ、先に鬼やるぞ。」
最初は数秒で捕まっていたが、何回もやるうちに1~2分くらいは逃げられるようになっていた。いつもは、端に追いやられるとすぐに捕まっていたが、今日は捕まらない。
「端に追いやったぞ。」
「…。」
だが、俺とビティの間には遊具が置いてある。俺もビティみたいに上手く利用すれば…。今まではスピードが桁違いで、駆け引きをする間もなく捕まっていたが、今日こそはそうはいかない。
ビティは俺がいつもと違うことを感じ取ったのか、ビティは動きを止めた。だが、しばらく沈黙が続いた後に先に動き出したのはビティだった。
来る!
ビティは遊具を避けて右側から回り込んできた。俺は必死で逆側に逃げる。だが、やはりスピードの差は歴然。俺は一瞬で捕まった。
「残念だったな。」
もう少しで上手く撒けたはずだったが、やはり相手は一人前。そう簡単にはいかない。
今度は俺が鬼となって、ビティを追いかけた。単純なスピード勝負では勝てっこない。だが幸い、公園はそこまで広くない。上手く追い込めば端に追いやれる。だが問題はそこからである。
「捕まえてみろ。」
端に追いやれてもビティは余裕そうな表情をしている。だが、それも当然である。今まで端まで追いやったことは何度かあった。だが、その度に遊具や木を上手く利用されて逃げられた。今回も俺とビティの間には」木が生えている。
「言われなくてもそうするよ!」
俺はビティの右側に回り込むフリをして、左側からビティを捕まえようとした。
「フェイントか!」
《捕まえる!》
だが、ビティの反応速度は速く、ギリギリの所で逃げられてしまった。
「危ない危ない。今の動きは良かったぞ。その調子で来い。」
その後も、俺は何度かビティを追い詰めるが、なかなか捕まえることは出来なかった。追い詰めても、フェイントをかけても、上手く遊具や木を利用して逃げられる。
結局、ビティを一度も捕まえられないまま30分が経った。だが、まだ30分ある。今日こそはビティに勝つ。今日の俺は今までとは違う。今までは60分間フルで体力を消耗していたが、今回はビティのことを追いかけつつも、体力をなるべく削らないようにしていた。おそらくビティもそれに気が付いている。
「お前もかなり成長した。だが、まだ甘ぇ。悔しかったら俺を捕まえてみろ!」
「そのつもりだ。」
しばらくして、俺はまたしてもビティを端に追いやることに成功した。だが、ビティも間合いを取るのが上手い。端に追いやられても、間には必ず木がある状態を保っている。
しかし、俺も無策ではない。スピードの差は頭脳で埋めるしかない。
俺は今度はフェイントなしで木の右側から回り込んだ。だが、ビティはヒロがフェイントを使うようになってからは、その対策としてヒロの動きを見てから動くようにしていた。そのため、フェイントをしないことが逆にフェイントとなったのだ。ビティはワンテンポ遅れて逆側へ逃げた。だが、それも読んでいた。俺はそのままビティを追いかけた。
「なんだ?スピード勝負か?負ける訳ねぇだろ!」
ビティは走りながらそう言った。だが、そんなつもりはない。ビティが逃げたすぐ先は塀になっている。ビティはそれを避けるために、公園の内側(ビティにとって左側)へ曲がらなければならなかった。何故なら、逆側(ビティにとって右側)も塀があり、逃げられないからである。ビティが左に曲がった所で俺は手を伸ばした。俺の手はビティの腕をかすめた。
「触ったぞ!今度はアンタが鬼だ。」
「…なるほどな。さっきの場所は他の場所より塀と木の間が狭い。だからさっきあえてフェイントをしなかったことと相まって俺が加速する前に捕まえられたって訳か。」
「そうだ。」
作戦が成功して俺はホッとしていた。もしこの作戦が失敗していたら、捕まえられる望みはほぼないからである。
「ここの地形を利用するとは考えたな…。だがあと15分はある。逃げれるものなら逃げてみろ。」
「そのつもりだ。」
当然俺はビティを捕まえた後のことも考えていた。最初にその策を見せなかったのはこの時のためである。
ビティが追いかけてくる間に、俺はその策を実行した。その策は、
「なるほどな…。滑り台か。」
滑り台の上まで登ったら、ビティが登る隙に降りて、ビティが降りたら、その隙に上まで登る。これを繰り返せば捕まることはない。なにせ滑る速度に身体能力は関係ない。体重差を考えても、摩擦などを考えればおそらく速度はほぼ同じ。俺はビティが10秒数える間に滑り台の上まで登っていた。これでもう負けることはない。
だが俺は肝心な事を忘れていた。
「考えていたことはなんとなく分かるが、お前はまだ地球にいる気でいんのか?」
ビティはそう言うと、滑り台の上までジャンプした。地球だったら届くか微妙な所だが、ここは桃源星である。楽々と上までたどり着き俺にタッチした。
「残念だったな。せっかく俺を捕まえたのにこれでまた振り出しだな。残り15分。せいぜい頑張れ。」
しまった…。つい身近な遊具を見つけてここが桃源星であることを考慮していなかった。勝利への確信から一転、俺は絶体絶命のピンチに陥った。
「どっちでもいいぜ。俺が先にやろうか?」
「分かりました。」
「うーん。決めた。場所を変えよう。」
「え?」
「近くに公園がある。ここだと広過ぎて2人で鬼ごっこをやるのには向かないからな。」
「なるほど。」
近くにあった公園は運動場の4分の1程の面積だった。周りは塀に囲われており、当然、公園だから遊具や木もある。見た感じ、運動場よりも逃げやすい。
「じゃ、やるか。10秒数えたら追いかけるぞ。」
俺はなるべく遠くに陣取ることにした。10秒が経ち、ビティは追いかけて来た。
速い!
気が付いた時にはもう目の前にいた。必死で近くにあった木の裏に隠れたが、速すぎて捕まってしまった。
「じゃ次はお前が鬼だな。」
「…10秒数えます。」
「いやいいぜ。このまま始めよう。俺は絶対にお前には捕まらん。」
「そうですか。なら遠慮なく。」
俺はそう言った瞬間に手を伸ばした。だが、ビティにはアッサリ逃げられた。
「あれ?どうした?遠慮なくって言ってなかったか?」
確実に捕まえたと思った瞬間、ビティは凄まじい瞬発力を発揮し、俺の手から逃れた。だが、ここまで煽られては捕まえない訳にはいかない。だが、この前みたいにやすやすと挑発に乗ったりはしない。俺は同じことは2度も繰り返さないのだ。なにせ時間は1時間もある。何も問題はない。
「ほれほれ~。どうした~?もうバテたか?」
あれから30分は経っただろうか。俺は今だに一度もビティにタッチ出来ないままだった。もちろん走力に差があることは自覚していた。だが、まさかここまで差があるとは思わなかった。俺はビティを目で追うことすら出来なかった。
30分の間、1度も捕まえられないことにも驚きだが、それだけでなく、ビティは疲れている様子が全く無かった。俺は30分間フルスピードで走っていたため、疲れ始めていた。
その後も追いかけ回したが、ビティは全く疲れる様子がなかった。それどころか、俺との距離が空いたときに逆立ちしたり、バク転したりして俺をおちょくる余裕まで見せていた。
結局俺は一度もビティを捕まえることが出来ないまま1時間が過ぎた。
「どうだ?俺はまだ全然本気じゃないぞ。」
それが強がりではないことはビティの表情を見ればよく分かる。
「正直舐めてました…。まさか一度も捕まえられないとは。」
「まぁお前はまだ桃源星に来て半月も経ってないんだ。だが、だからといって1人で居残り練習はするなよ。疲労が溜まって逆効果だからな。」
「流石ビティさんだ…。気付いていたんですね…。でもこのままじゃ時間が!」
「うん…ま、まぁな。問題ない。まだ大丈夫だ。」
ビティは何故か少し慌てていた。だが俺はあまり気にしなかった。
「分かりました。ビティさんを信じます。」
次の日も俺はビティと鬼ごっこをすることになった。今度は鬼ごっこの前にトレーニングも軽めにやった。
「へいへい。どうしたどうした。そんなもんか?」
昨日同様、俺はビティを一度も捕まえることが出来なかった。トレーニングをしていたこともあり、むしろ昨日よりも早く疲れが回って来た。
「あの…俺には何が足りないでしょうか?」
「あ?あぁ…全部だ。」
「全部?!」
「そうだ。本戦に出場する奴らと比較してお前は全て劣っている。だから今は基礎である身体能力を鍛えている。そうじゃなきゃ話にならんからな。」
「…。」
覚悟はしていたが、まさかそこまで言われるとは。しかし、俺を成長させるために本音を言っているのだろう。
「お前はまだこの星に来て半年くらいしか経っていない。それにしては頑張っている方ではある。が、それでも生まれた時からこの星に住んでいる奴らには当然及ばない。それが現実だ。だがまだ5ヶ月ある。その間に少しでも差を縮める。」
「はい。」
~2日前~
ヒロとアダムが一緒に温泉に行った後、アダムはビティに電話していた。
「なんだよ。」
「ヒロ君が居残り練習してました。」
「何?!ほんとか?!」
「ええ…。まぁ君が気付かないってことはまだ居残り練習してから日が浅いのかもしれませんが。」
「全然気が付かなかったぜ。」
「まぁ私の方から言っておいたのでもう大丈夫でしょう。ですが、そのうちにまたやりだすかもしれません。」
「あぁ。まだトレーニングしかしてないしな…。よし!明日はちょっと練習メニューを変えるか。」
「それはいいかもしれません。ですが、そろそろ超能力を教えてもいいのでは?」
「いやダメだ。アイツにはまだ早い。このまま超能力を教えても本戦に出ることすら出来ない。」
「でもあと5ヶ月しかないんですよ?」
「分かってるよ!そもそもお前が俺に無理難題を押し付けんのが悪りぃーんだろうが!アイツはまだここに来て半年も経ってないんだぞ!」
「すいません!コッチにも色々事情があって…。」
「ったく。まぁいい。とはいえ、最低限の条件は達成してもらわないとな…。」
そして、ビティと鬼ごっこを始めてから1週間が経ち、その鬼ごっこにも変化が表れた。
「クソッ!」
「いい調子だ。だんだん俺にも追いつけて来ている。」
最初は目で追うことすら出来なかったビティの動きも少しずつ追えるようになっていた。何度かタッチ出来そうな距離まで詰められるようもなった。だが、それでもそう簡単にはいかない。時間が経つにつれ、体力の差が明白になっていく。
「悪くなかったぞ!そろそろ俺を捕まえることが出来るかもな。」
後半になってくると、どうしても体力が落ちる。休もうとして足を止めると、ビティが目の前まで来て挑発してくる。それに本番は休む暇などない。
やはり課題は体力とスピードである。だが、相手はビティである。真っ向勝負するには実力がかけ離れすぎている。俺はビティに勝つための対策を練ることにした。ビティを目で追えるようになった今なら何とかなるかもしれない。
次の日も、またいつものように鬼ごっこを始めた。
「じゃ、今日も始めるか。」
「うっす…。」
「じゃ、先に鬼やるぞ。」
最初は数秒で捕まっていたが、何回もやるうちに1~2分くらいは逃げられるようになっていた。いつもは、端に追いやられるとすぐに捕まっていたが、今日は捕まらない。
「端に追いやったぞ。」
「…。」
だが、俺とビティの間には遊具が置いてある。俺もビティみたいに上手く利用すれば…。今まではスピードが桁違いで、駆け引きをする間もなく捕まっていたが、今日こそはそうはいかない。
ビティは俺がいつもと違うことを感じ取ったのか、ビティは動きを止めた。だが、しばらく沈黙が続いた後に先に動き出したのはビティだった。
来る!
ビティは遊具を避けて右側から回り込んできた。俺は必死で逆側に逃げる。だが、やはりスピードの差は歴然。俺は一瞬で捕まった。
「残念だったな。」
もう少しで上手く撒けたはずだったが、やはり相手は一人前。そう簡単にはいかない。
今度は俺が鬼となって、ビティを追いかけた。単純なスピード勝負では勝てっこない。だが幸い、公園はそこまで広くない。上手く追い込めば端に追いやれる。だが問題はそこからである。
「捕まえてみろ。」
端に追いやれてもビティは余裕そうな表情をしている。だが、それも当然である。今まで端まで追いやったことは何度かあった。だが、その度に遊具や木を上手く利用されて逃げられた。今回も俺とビティの間には」木が生えている。
「言われなくてもそうするよ!」
俺はビティの右側に回り込むフリをして、左側からビティを捕まえようとした。
「フェイントか!」
《捕まえる!》
だが、ビティの反応速度は速く、ギリギリの所で逃げられてしまった。
「危ない危ない。今の動きは良かったぞ。その調子で来い。」
その後も、俺は何度かビティを追い詰めるが、なかなか捕まえることは出来なかった。追い詰めても、フェイントをかけても、上手く遊具や木を利用して逃げられる。
結局、ビティを一度も捕まえられないまま30分が経った。だが、まだ30分ある。今日こそはビティに勝つ。今日の俺は今までとは違う。今までは60分間フルで体力を消耗していたが、今回はビティのことを追いかけつつも、体力をなるべく削らないようにしていた。おそらくビティもそれに気が付いている。
「お前もかなり成長した。だが、まだ甘ぇ。悔しかったら俺を捕まえてみろ!」
「そのつもりだ。」
しばらくして、俺はまたしてもビティを端に追いやることに成功した。だが、ビティも間合いを取るのが上手い。端に追いやられても、間には必ず木がある状態を保っている。
しかし、俺も無策ではない。スピードの差は頭脳で埋めるしかない。
俺は今度はフェイントなしで木の右側から回り込んだ。だが、ビティはヒロがフェイントを使うようになってからは、その対策としてヒロの動きを見てから動くようにしていた。そのため、フェイントをしないことが逆にフェイントとなったのだ。ビティはワンテンポ遅れて逆側へ逃げた。だが、それも読んでいた。俺はそのままビティを追いかけた。
「なんだ?スピード勝負か?負ける訳ねぇだろ!」
ビティは走りながらそう言った。だが、そんなつもりはない。ビティが逃げたすぐ先は塀になっている。ビティはそれを避けるために、公園の内側(ビティにとって左側)へ曲がらなければならなかった。何故なら、逆側(ビティにとって右側)も塀があり、逃げられないからである。ビティが左に曲がった所で俺は手を伸ばした。俺の手はビティの腕をかすめた。
「触ったぞ!今度はアンタが鬼だ。」
「…なるほどな。さっきの場所は他の場所より塀と木の間が狭い。だからさっきあえてフェイントをしなかったことと相まって俺が加速する前に捕まえられたって訳か。」
「そうだ。」
作戦が成功して俺はホッとしていた。もしこの作戦が失敗していたら、捕まえられる望みはほぼないからである。
「ここの地形を利用するとは考えたな…。だがあと15分はある。逃げれるものなら逃げてみろ。」
「そのつもりだ。」
当然俺はビティを捕まえた後のことも考えていた。最初にその策を見せなかったのはこの時のためである。
ビティが追いかけてくる間に、俺はその策を実行した。その策は、
「なるほどな…。滑り台か。」
滑り台の上まで登ったら、ビティが登る隙に降りて、ビティが降りたら、その隙に上まで登る。これを繰り返せば捕まることはない。なにせ滑る速度に身体能力は関係ない。体重差を考えても、摩擦などを考えればおそらく速度はほぼ同じ。俺はビティが10秒数える間に滑り台の上まで登っていた。これでもう負けることはない。
だが俺は肝心な事を忘れていた。
「考えていたことはなんとなく分かるが、お前はまだ地球にいる気でいんのか?」
ビティはそう言うと、滑り台の上までジャンプした。地球だったら届くか微妙な所だが、ここは桃源星である。楽々と上までたどり着き俺にタッチした。
「残念だったな。せっかく俺を捕まえたのにこれでまた振り出しだな。残り15分。せいぜい頑張れ。」
しまった…。つい身近な遊具を見つけてここが桃源星であることを考慮していなかった。勝利への確信から一転、俺は絶体絶命のピンチに陥った。
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