【完結】契約結婚のはずが、冷酷な公爵の独占欲が強すぎる!?

22時完結

文字の大きさ
3 / 15

揺れ動く心

しおりを挟む

エリーナの生活は、孤独と期待の狭間で揺れていた。形式的な契約結婚とはいえ、彼女はアレクシスに何かしらの心の温かみを感じたいと思っていた。しかし、その願いは簡単には叶えられそうになかった。彼は必要以上に彼女に関与せず、冷淡な態度を崩すことはなかった。

ある日、エリーナは屋敷の図書室で、ふとした偶然からアレクシスの若い頃の記録を見つけた。それは、かつて彼が戦場に立っていた頃の報告書だった。血と汗にまみれた戦場での彼の功績は壮絶で、数々の栄光を手にしてきたことが記されていたが、その裏には彼がどれだけの苦難を乗り越えてきたかが垣間見えた。

その日以降、エリーナはアレクシスに対する見方が少しずつ変わり始めた。冷徹に見える態度の裏には、深い傷や苦しみが隠されているのではないか――そんな気がしてならなかったのだ。

ある夜、エリーナは夢を見た。それは、どこか不安定で、暗闇の中に立つ自分と、その遠くに立つアレクシスがぼんやりと浮かび上がる夢だった。彼女が彼に近づこうとするたび、彼はさらに遠ざかっていく。必死に呼びかけても、彼は答えない。その夢から目覚めたとき、エリーナの心には奇妙な焦燥感が残っていた。

「私は何をしているのだろう……。」
その呟きは、自分に対する問いでもあり、アレクシスに向けたものでもあった。

翌朝、エリーナは庭園に出て、咲き誇る花々を見つめていた。そこにアレクシスが現れるとは思いもよらなかった。彼はいつものように無表情で、エリーナに短く視線を向けただけだった。

「……おはようございます。」
エリーナが声をかけると、アレクシスは一瞬だけ立ち止まり、低く返事をした。
「おはよう。」
それだけで彼はその場を立ち去ろうとしたが、エリーナは思わず彼を引き止めた。
「少しだけ、お話ししてもいいですか?」
アレクシスは振り返り、彼女を見つめた。しばらくの沈黙の後、彼はうなずいた。

二人は庭園のベンチに腰を下ろした。エリーナはどこから話を切り出すべきか悩みながら、ふと図書室で見つけた戦場の記録について触れることにした。
「公爵様、昔は戦場に立たれていたのですね。」
その言葉に、アレクシスの表情がわずかに硬くなった。
「……その話をどこで聞いた?」
「図書室で、偶然記録を見つけました。公爵様がどれほど多くの人を救い、この国に尽くされてきたか……尊敬します。」

エリーナの言葉にアレクシスは何も答えなかったが、その横顔にはわずかな苦悩が浮かんでいた。彼女はその様子を見て、さらに言葉を続けた。
「でも、その分、大変な思いもされたのではないですか? 私には想像もつかないようなことを、たくさん背負ってこられたのでは……。」

その瞬間、アレクシスは小さくため息をつき、エリーナを見つめた。
「君にそんなことを心配される筋合いはない。」
冷たい声ではあったが、その目にはどこか複雑な感情が宿っているように見えた。

「……そうかもしれません。でも、私はただ、あなたのことをもっと知りたいんです。」
エリーナのその言葉に、アレクシスは一瞬だけ目を伏せた。そして何も言わずに立ち上がり、その場を去っていった。

エリーナはその後も、彼と距離を縮めようと努力を続けた。彼女の行動は慎ましく、決して強引なものではなかったが、使用人たちの間では次第に彼女の評判が高まっていった。

そんなある日、エリーナが執務室の前を通りかかると、ドアが少しだけ開いているのに気付いた。中を覗くと、アレクシスが一人で椅子に座り、何かをじっと見つめていた。それは古びた懐中時計だった。彼がその時計を持つ姿には、普段の冷徹さとは違う柔らかさが漂っていた。

「その時計……大切なものなんですね。」
エリーナの声に、アレクシスは驚いたように振り返った。彼は時計をそっとしまい、いつもの冷たい表情に戻った。
「これは関係のないものだ。」
「でも、その表情を見ると、きっと特別な思い出があるのだと分かります。」

アレクシスは短く息をつき、椅子から立ち上がった。
「君は本当にしつこいな。」
そう言いながらも、彼の声にはどこか諦めにも似た優しさが含まれていた。

こうして二人の距離は少しずつ近づき始めた。アレクシスの心に秘められた真実とは何なのか、そしてエリーナの想いはどこへ向かうのか――揺れ動く二人の心が、運命の歯車をゆっくりと回し始めていた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

メイド令嬢は毎日磨いていた石像(救国の英雄)に求婚されていますが、粗大ゴミの回収は明日です

有沢楓花
恋愛
エセル・エヴァット男爵令嬢は、二つの意味で名が知られている。 ひとつめは、金遣いの荒い実家から追い出された可哀想な令嬢として。ふたつめは、何でも綺麗にしてしまう凄腕メイドとして。 高給を求めるエセルの次の職場は、郊外にある老伯爵の汚屋敷。 モノに溢れる家の終活を手伝って欲しいとの依頼だが――彼の偉大な魔法使いのご先祖様が残した、屋敷のガラクタは一筋縄ではいかないものばかり。 高価な絵画は勝手に話し出し、鎧はくすぐったがって身よじるし……ご先祖様の石像は、エセルに求婚までしてくるのだ。 「毎日磨いてくれてありがとう。結婚してほしい」 「石像と結婚できません。それに伯爵は、あなたを魔法資源局の粗大ゴミに申し込み済みです」 そんな時、エセルを後妻に貰いにきた、という男たちが現れて連れ去ろうとし……。 ――かつての救国の英雄は、埃まみれでひとりぼっちなのでした。 この作品は他サイトにも掲載しています。

【完結】異世界転移したら騎士団長と相思相愛になりました〜私の恋を父と兄が邪魔してくる〜

伽羅
恋愛
愛莉鈴(アリス)は幼馴染の健斗に片想いをしている。 ある朝、通学中の事故で道が塞がれた。 健斗はサボる口実が出来たと言って愛莉鈴を先に行かせる。 事故車で塞がれた道を電柱と塀の隙間から抜けようとすると妙な違和感が…。 気付いたら、まったく別の世界に佇んでいた。 そんな愛莉鈴を救ってくれた騎士団長を徐々に好きになっていくが、彼には想い人がいた。 やがて愛莉鈴には重大な秘密が判明して…。

しつこい公爵が、わたしを逃がしてくれない

千堂みくま
恋愛
細々と仕事をして生きてきた薬師のノアは、経済的に追い詰められて仕方なく危険な仕事に手を出してしまう。それは因縁の幼なじみ、若き公爵ジオルドに惚れ薬を盛る仕事だった。 失敗して捕らえられたノアに、公爵は「俺の人生を狂わせた女」などと言い、変身魔術がかけられたチョーカーを付けて妙に可愛がる。 ジオルドの指示で王子の友人になったノアは、薬師として成長しようと決意。 公爵から逃げたいノアと、自覚のない思いに悩む公爵の話。 ※毎午前中に数話更新します。

エリート医務官は女騎士を徹底的に甘やかしたい

鳥花風星
恋愛
女騎士であるニーナには、ガイアという専属魔術医務官がいる。エリートであり甘いルックスで令嬢たちからモテモテのガイアだが、なぜか浮いた話はなく、結婚もしていない。ニーナも結婚に興味がなく、ガイアは一緒いにいて気楽な存在だった。 とある日、ニーナはガイアから女避けのために契約結婚を持ちかけられる。ちょっと口うるさいただの専属魔術医務官だと思っていたのに、契約結婚を受け入れた途端にガイアの態度は日に日に甘くなっていく。

【完結】冷徹執事は、つれない侍女を溺愛し続ける。

たまこ
恋愛
 公爵の専属執事ハロルドは、美しい容姿に関わらず氷のように冷徹であり、多くの女性に思いを寄せられる。しかし、公爵の娘の侍女ソフィアだけは、ハロルドに見向きもしない。  ある日、ハロルドはソフィアの真っ直ぐすぎる内面に気付き、恋に落ちる。それからハロルドは、毎日ソフィアを口説き続けるが、ソフィアは靡いてくれないまま、五年の月日が経っていた。 ※『王子妃候補をクビになった公爵令嬢は、拗らせた初恋の思い出だけで生きていく。』のスピンオフ作品ですが、こちらだけでも楽しめるようになっております。

転生したので推し活をしていたら、推しに溺愛されました。

ラム猫
恋愛
 異世界に転生した|天音《あまね》ことアメリーは、ある日、この世界が前世で熱狂的に遊んでいた乙女ゲームの世界であることに気が付く。  『煌めく騎士と甘い夜』の攻略対象の一人、騎士団長シオン・アルカス。アメリーは、彼の大ファンだった。彼女は喜びで飛び上がり、推し活と称してこっそりと彼に贈り物をするようになる。  しかしその行為は推しの目につき、彼に興味と執着を抱かれるようになったのだった。正体がばれてからは、あろうことか美しい彼の側でお世話係のような役割を担うことになる。  彼女は推しのためならばと奮闘するが、なぜか彼は彼女に甘い言葉を囁いてくるようになり……。 ※この作品は、『小説家になろう』様『カクヨム』様にも投稿しています。

「25歳OL、異世界で年上公爵の甘々保護対象に!? 〜女神ルミエール様の悪戯〜」

透子(とおるこ)
恋愛
25歳OL・佐神ミレイは、仕事も恋も完璧にこなす美人女子。しかし本当は、年上の男性に甘やかされたい願望を密かに抱いていた。 そんな彼女の前に現れたのは、気まぐれな女神ルミエール。理由も告げず、ミレイを異世界アルデリア王国の公爵家へ転移させる。そこには恐ろしく気難しいと評判の45歳独身公爵・アレクセイが待っていた。 最初は恐怖を覚えるミレイだったが、公爵の手厚い保護に触れ、次第に心を許す。やがて彼女は甘く溺愛される日々に――。 仕事も恋も頑張るOLが、異世界で年上公爵にゴロニャン♡ 甘くて胸キュンなラブストーリー、開幕! ---

二年後、可愛かった彼の変貌に興ざめ(偽者でしょう?)

岬 空弥
恋愛
二歳年下のユーレットに人目惚れした侯爵家の一人娘エリシア。自分の気持ちを素直に伝えてくる彼女に戸惑いながらも、次第に彼女に好意を持つようになって行くユーレット。しかし大人になりきれない不器用な彼の言動は周りに誤解を与えるようなものばかりだった。ある日、そんなユーレットの態度を誤解した幼馴染のリーシャによって二人の関係は壊されてしまう。 エリシアの卒業式の日、意を決したユーレットは言った。「俺が卒業したら絶対迎えに行く。だから待っていてほしい」 二年の時は、彼らを成長させたはずなのだが・・・。

処理中です...