【完結】婚約破棄された悪役令嬢、隣国の冷酷王子に拾われて、なぜか愛されています

22時完結

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仮面の舞踏会と、微笑みの約束

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    アルシュレイン王国の年に一度の大舞踏会――
王都中が華やかさと祝祭の空気に包まれるこの一大行事は、貴族たちの社交の場であると同時に、新たな縁や噂を生む“魔法の夜”でもあった。

リリアーヌも例外ではなく、ユリウスの“仮の婚約者”として、舞踏会に出席することが決まっていた。

「……正直、あまり気が進まないのですわ」

自室で仕立てられたドレスを試着しながら、リリアーヌはそっと呟いた。
鏡に映る自分は、見違えるほど華やかで――
けれど、そこにはどこか、浮かない顔があった。

「気後れする必要はない。お前は、俺の隣に立つにふさわしい」

背後から聞こえた声に、驚いて振り返る。
ユリウスが、いつの間にか部屋に入ってきていた。

「ユ、ユリウス……その、お入りになるときは一声……!」

「リリアーヌ。……今日のお前は、ひときわ綺麗だ」

「っ……」

その真っ直ぐな言葉に、頬が熱くなる。
ユリウスは少し微笑みながら、そっと手を差し出した。

「共に踊る相手は、当然俺だ。嫌だとは言わせないぞ?」

「……言うつもりはありませんわ」

静かに手を取ると、その温かさに、また胸が少しだけ苦しくなった。

“仮の婚約”――
その関係が、次第に曖昧になっていくのを、リリアーヌは確かに感じていた。

 

***

 

舞踏会の会場である大広間は、金糸と銀糸を織り込んだ天蓋が張られ、無数のシャンデリアが輝いていた。
花々の香りと高貴な香水の匂いが交じり合い、まさに“夢の夜”にふさわしい空間となっていた。

リリアーヌが会場に足を踏み入れた瞬間、その美しさに人々の視線が集まった。
薄い桜色のドレスに、柔らかな波打つブロンド。
そして、ユリウスの腕に寄り添う姿は、まさに理想のカップルそのものだった。

「……あの方が、ユリウス殿下の婚約者?」

「噂ほど“悪役”には見えないわ……むしろ妖精のよう」

リリアーヌはその声を聞きながらも、平静を装い、笑みを浮かべていた。
内心は緊張で張り詰めていたが、隣にいるユリウスの手が、そっと自分の指を包み込んでいるのを感じ、少しだけ心が和らいだ。

 

「リリアーヌ、初めの舞は俺と踊る。心の準備はいいか?」

「はい、ユリウス。あなたとなら」

その返事に、ユリウスは微かに口元を緩めた。

二人が舞踏の中央へ進むと、演奏が始まり、ゆったりとしたワルツが流れる。
リリアーヌの手がユリウスの肩に置かれ、彼の手が腰に添えられる。

一歩、また一歩――
二人の呼吸はぴたりと合い、まるで長年のパートナーのように、優雅に舞い始めた。

「リリアーヌ。……今日、お前は“仮の婚約者”ではない。俺の“大切な人”として、ここにいるんだ」

「……それは、舞踏会だからですか?」

「違う。……俺の本心だ」

その言葉に、リリアーヌの視界が少し滲んだ。
誰もが彼女を“悪役令嬢”と蔑んだ過去。
その彼女を、今、“大切”と口にしてくれる人がいる――
それだけで、心が震える。

 

***

 

舞踏会が進むにつれ、社交の輪が広がり、ユリウスもまた王族としての務めのため、一時的にリリアーヌの傍を離れることとなった。

「すぐ戻る。……お前に無礼なことを言う者がいれば、遠慮なく追い払え」

「ふふ。あなたの真似をして、冷たく睨んでみますわ」

「似合いそうだな」

そう言って微笑むユリウスの背を見送り、リリアーヌは一人、会場の片隅へと足を運んだ。

そのときだった。

「――これはこれは、見覚えのある顔だと思ったら。まさかこんなところで再会できるとはね」

冷ややかな声が背後から聞こえた。

振り向けば、そこにいたのは――
エドガー・フォン・セルヴァン。

かつてリリアーヌを“断罪”した男。
そして、彼女の婚約を破棄した本人であった。

「……セルヴァン様」

「ずいぶんとお元気そうで。まるで、なにもなかったかのように振る舞っている」

その言葉に、リリアーヌは目を伏せた。

「過去は過去ですわ。今の私は、アルシュレインの者として、この場に立っております」

「ふん……ふさわしいのかは疑問だがな。君のような“偽善者”が、王子の隣にいるなど滑稽だ」

その瞬間、リリアーヌは口を開きかけた。
だが――

「君はいつまで彼女を侮辱するつもりだ?」

背後から聞こえた鋭い声に、エドガーが目を見開いた。

「ユ、ユリウス殿下……」

「貴族の社交の場での振る舞いとは思えんな。帰国するなら、マナーを身につけてからにしてくれ」

ユリウスはリリアーヌの前に立ち、冷ややかな視線をエドガーに向ける。

「彼女は俺の大切な人だ。……再び侮辱するような真似をすれば、それ相応の“責任”を取ってもらう」

「……っ、これは失礼。……退散します」

エドガーが唇を噛んで踵を返したあと、ユリウスはようやくリリアーヌに視線を向けた。

「……大丈夫か?」

「……はい。ありがとう、ユリウス」

「怒るのは、俺のほうだ。お前が耐えてきた時間を思うと、あんな男の言葉など……」

「でも、過去があったから今があります。あなたと出会えたことが、私の救いですわ」

その言葉に、ユリウスは微かに目を細める。

「……リリアーヌ。今日、この夜が終わったら、話したいことがある」

「話したいこと……?」

「俺はもう、“仮の関係”ではいられないと思っている。だから……」

言いかけた言葉は、ちょうどそのとき、演奏の再開でかき消された。

ユリウスは肩をすくめて笑うと、手を差し出す。

「続きを踊る。俺の隣に、もう一度」

「……はい。喜んで」

再び手を取り合い、ふたりは舞踏の輪へと戻っていく。
誰よりも優雅に、誰よりも誇らしげに。

――その夜、ふたりは“仮”を越えた、確かな一歩を踏み出していた。

 
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