【完結】婚約破棄された悪役令嬢、隣国の冷酷王子に拾われて、なぜか愛されています

22時完結

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麗しき誓い、王宮の祝福

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    アルシュレイン王国の王宮――
その一角にある、格式高き迎賓の間に、数多の貴族たちが集まっていた。

本日、ここで行われるのは、第一王子ユリウス・アーデルハイトと、リリアーヌ・ド・マリヴェールの“正式な婚約”の発表である。

貴族社会において、それはただの私的な契りではなく、政治的意味合いも含んだ一大行事だ。
とくに、今回のように“かつて断罪された悪役令嬢”が、王子の花嫁になるということは、耳目を集めるには十分だった。

「……随分と静かですわね」

リリアーヌは緊張を隠すように、ゆっくりと息を吐いた。
彼女の身を包むのは、深紅のベルベットドレス。
肩のラインが美しく露わになった優雅なデザインで、王宮の格式にふさわしい仕立てだった。

「気にするな。どうせ何を言っても、俺の意志は変わらんとわかっているからだ」

隣に立つユリウスは、いつもと変わらぬ冷静さで人々を見渡していた。
黒と金の軍装風礼服を身にまとった彼は、まるで氷の騎士のように凛然としていた。

「……それでも、私が過去に犯したと“思われている”ことは、消えないのではないかと」

「過去はお前を形作ったが、決してお前の全てではない。……俺がそう言えばいい」

その一言に、リリアーヌの緊張はほんの少し解ける。

(――ユリウスは、いつだって私の“存在”そのものを見てくれる)

彼の言葉は、彼女の心に“居場所”を作ってくれた。
それだけで、世界が少しだけ優しくなる気がした。

 

***

 

やがて、王の重々しい声が会場に響いた。

「皆の者、本日はこの場において、第一王子ユリウス・アーデルハイトと、リリアーヌ・ド・マリヴェールの婚約を公にする」

王の言葉に続き、厳粛な拍手が湧き起こる。
しかし、その拍手には複雑な思いも混じっていた。

「……まさか、本当にこのまま婚約を認めるとは……」

「相手はかつての“悪役令嬢”よ? 殿下は何をお考えなのかしら……」

小声で交わされる囁きに、リリアーヌの背筋が少しだけ強張った――だが、

「そのような声が出ることは想定済みだ」

ユリウスが低く、しかしはっきりとした声で続ける。

「だが、俺が選んだのは“この人だ”。――どれほど非難されようと、変えるつもりはない」

彼はリリアーヌの手を取り、高く掲げた。

「この人は、誇り高く、聡明で、慈愛に満ちた女性だ。俺は、そんな彼女と共に歩んでいく」

静まり返っていた会場に、再び拍手が起こる。
それは先ほどとは違い、敬意と驚きと、少しの感動が混じった音だった。

「……ユリウス様」

「俺の“想い”は、誰にも否定させない」

リリアーヌは唇を噛みしめながら、静かに頭を下げた。

(――この人が隣にいてくれる限り、私は大丈夫)

 

***

 

発表のあと、婚約記念の茶会が開かれた。

花々に囲まれた庭園の一角で、リリアーヌは様々な人々の祝辞を受けていた。
中には、かつて彼女を冷たく見ていた貴婦人たちもいたが、今はどこか態度を和らげていた。

「本日はおめでとうございます、マリヴェール様」

「……ありがとうございます。未だ至らぬ身ではございますが、ユリウス殿下のお力添えに恥じぬよう精進いたしますわ」

丁寧に礼を返すその姿は、かつての“悪役令嬢”という言葉からはかけ離れたものだった。

「……思ったより、ずっと落ち着いた女性なのね」

「殿下がお気に召すのも、わかる気がするわ」

――変わり始めた空気。
リリアーヌ自身が、自らの存在をもって“過去”を塗り替えていっているのだ。

 

***

 

その夜。

ユリウスとリリアーヌは、庭園を歩いていた。

春の夜風が心地よく、満開の花が香りを運んでくる。

「……疲れてないか?」

「いえ、むしろ清々しい気持ちですわ。今日という日を迎えられて、本当に幸せで……」

「……なら、良かった」

ユリウスの手が、そっと彼女の手を取る。

「……でも、これからが本番だ」

「本番……?」

「“王子の婚約者”ではなく、いずれ“王妃”となるべき女性として――誰よりも、堂々としていてほしい」

リリアーヌはその言葉に少し驚き、そして微笑んだ。

「私などに務まるでしょうか?」

「務まる。“誰よりも美しく、誇り高い女”――それが、お前だから」

彼の言葉は、いつだって誇張ではない。
まるで、真実を告げるような静けさと確信に満ちている。

リリアーヌは静かに頷いた。

「……はい。ユリウスの隣にふさわしい女性となれるよう、日々努力いたしますわ」

ユリウスはその言葉に満足げに笑い、彼女の手の甲に軽く口づけた。

「……愛している、リリアーヌ」

「私も……あなたを、心から」

 

***

 

その夜、リリアーヌのもとに一通の手紙が届いた。

差出人は――マリヴェール家の末弟、テオドール。

「姉上へ。姉上がユリウス殿下と婚約されたと聞き、胸がいっぱいです。姉上は誰よりも優しくて、誰よりも真っ直ぐな方でした……」

手紙には、家族の想いと、過去にリリアーヌを信じきれなかった悔いが綴られていた。

「今度、もしお許しいただけるのなら……直接、お祝いを申し上げに参ります」

その文面に、リリアーヌの目から自然と涙がこぼれた。

過去は消えない。
けれど、“今”が“未来”を変えることはできる。

ユリウスとの婚約は、ただの恋の成就ではなく――
彼女の人生そのものを肯定する“救い”でもあったのだ。

 
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