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突然の婚約破棄と、思いがけない解放感
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王宮の謁見の間に、貴族たちの視線が集中していた。
普段なら華やかな社交の場となるこの場所が、今日は異様な緊張感に包まれている。
「セレナ・アルトハイム侯爵令嬢」
王太子リオンの声が響く。いつもの優しい口調ではなく、どこか冷たく、よそよそしい。
私――セレナは、美しく整えられた金髪を揺らしながら、静かに一歩前に出た。
「はい、殿下」
完璧な淑女として育てられた私は、動揺を表に出すことなく、優雅に一礼する。しかし、胸の奥では嫌な予感が渦巻いていた。
「セレナ、おまえとの婚約は破棄する」
その言葉が謁見の間に響いた瞬間、貴族たちの間にざわめきが起こった。
私は――驚くべきことに――内心でほっとしていた。
「理由をお聞かせください」
私の声は震えていない。むしろ、落ち着いていた。
「俺は、平民の少女に恋をした。彼女こそが、俺の真の伴侶だ」
リオン王太子の言葉に、貴族たちの間で更なるざわめきが起こる。しかし私は、なぜか清々しい気持ちになっていた。
「承知いたしました。セレナ・アルトハイム、王太子殿下との婚約破棄を受け入れます」
私の即答に、今度は謁見の間が静まり返った。普通なら、泣き崩れるか、抗議するかするところだろう。しかし私は、微笑みさえ浮かべていた。
「……それだけか?」
リオンが困惑したような声を上げる。
「はい。殿下がお幸せになられることを、心よりお祈りしております」
私は再び優雅に一礼すると、踵を返して謁見の間を後にした。
廊下に出ると、私は思わず大きく息を吸い込んだ。
「――やっと終わった。これで、自由だわ」
幼い頃から、私は「王太子妃になるべき女性」として育てられてきた。完璧な淑女であること、王家に恥をかかせないこと、常に気品を保つこと。
それらすべてが、今この瞬間に終わったのだ。
私は自分の部屋に戻ると、鏡の前に立った。
そこには、整った美貌の令嬢がいる。しかし、その瞳には今まで見たことのない輝きがあった。
「これからは、セレナ・アルトハイムとして生きていけるのね」
窓の外を見ると、青い空が広がっている。まるで私の心のように、清々しく晴れ渡っていた。
しかし、この時の私はまだ知らなかった。
この婚約破棄が、私にとって思いもよらない「ご褒美」となることを。
そして、隣国の「氷の王子」と呼ばれる男性が、既に私のことを見つめていたということを。
夕方、私は王宮の庭園を散歩していた。婚約破棄の件で、使用人たちが気を遣って声をかけてこないのが、むしろありがたかった。
「今日は、本当に良い日だった」
私は一人、小さくつぶやいた。それは心からの言葉だった。
その時、庭園の影から、静かな足音が近づいてきた。振り返ると、見知らぬ男性が立っていた。
銀髪に青い瞳、整った顔立ち。そして何より、纏っているオーラが只者ではない。
「君が、セレナ・アルトハイム嬢か」
低く、落ち着いた声。しかし、どこか冷たさを感じさせる。
「はい、そうですが……あなた様は?」
「俺は、ヴェルシュタイン王国第一王子、アレクシス・フォン・ヴェルシュタインだ」
その名前を聞いた瞬間、私は息を呑んだ。
隣国ヴェルシュタインの「氷の王子」。冷酷無慈悲と恐れられる、あの王子だった。
「その婚約、正式に破棄されたのだな?」
彼の質問に、私は頷く。
「はい」
「では、次は俺の婚約者になれ」
突然の言葉に、私は目を見開いた。
「……今度は、絶対に手放さない」
氷のように冷たいはずの瞳が、なぜか私を見つめる時だけ、熱を帯びているような気がした。
普段なら華やかな社交の場となるこの場所が、今日は異様な緊張感に包まれている。
「セレナ・アルトハイム侯爵令嬢」
王太子リオンの声が響く。いつもの優しい口調ではなく、どこか冷たく、よそよそしい。
私――セレナは、美しく整えられた金髪を揺らしながら、静かに一歩前に出た。
「はい、殿下」
完璧な淑女として育てられた私は、動揺を表に出すことなく、優雅に一礼する。しかし、胸の奥では嫌な予感が渦巻いていた。
「セレナ、おまえとの婚約は破棄する」
その言葉が謁見の間に響いた瞬間、貴族たちの間にざわめきが起こった。
私は――驚くべきことに――内心でほっとしていた。
「理由をお聞かせください」
私の声は震えていない。むしろ、落ち着いていた。
「俺は、平民の少女に恋をした。彼女こそが、俺の真の伴侶だ」
リオン王太子の言葉に、貴族たちの間で更なるざわめきが起こる。しかし私は、なぜか清々しい気持ちになっていた。
「承知いたしました。セレナ・アルトハイム、王太子殿下との婚約破棄を受け入れます」
私の即答に、今度は謁見の間が静まり返った。普通なら、泣き崩れるか、抗議するかするところだろう。しかし私は、微笑みさえ浮かべていた。
「……それだけか?」
リオンが困惑したような声を上げる。
「はい。殿下がお幸せになられることを、心よりお祈りしております」
私は再び優雅に一礼すると、踵を返して謁見の間を後にした。
廊下に出ると、私は思わず大きく息を吸い込んだ。
「――やっと終わった。これで、自由だわ」
幼い頃から、私は「王太子妃になるべき女性」として育てられてきた。完璧な淑女であること、王家に恥をかかせないこと、常に気品を保つこと。
それらすべてが、今この瞬間に終わったのだ。
私は自分の部屋に戻ると、鏡の前に立った。
そこには、整った美貌の令嬢がいる。しかし、その瞳には今まで見たことのない輝きがあった。
「これからは、セレナ・アルトハイムとして生きていけるのね」
窓の外を見ると、青い空が広がっている。まるで私の心のように、清々しく晴れ渡っていた。
しかし、この時の私はまだ知らなかった。
この婚約破棄が、私にとって思いもよらない「ご褒美」となることを。
そして、隣国の「氷の王子」と呼ばれる男性が、既に私のことを見つめていたということを。
夕方、私は王宮の庭園を散歩していた。婚約破棄の件で、使用人たちが気を遣って声をかけてこないのが、むしろありがたかった。
「今日は、本当に良い日だった」
私は一人、小さくつぶやいた。それは心からの言葉だった。
その時、庭園の影から、静かな足音が近づいてきた。振り返ると、見知らぬ男性が立っていた。
銀髪に青い瞳、整った顔立ち。そして何より、纏っているオーラが只者ではない。
「君が、セレナ・アルトハイム嬢か」
低く、落ち着いた声。しかし、どこか冷たさを感じさせる。
「はい、そうですが……あなた様は?」
「俺は、ヴェルシュタイン王国第一王子、アレクシス・フォン・ヴェルシュタインだ」
その名前を聞いた瞬間、私は息を呑んだ。
隣国ヴェルシュタインの「氷の王子」。冷酷無慈悲と恐れられる、あの王子だった。
「その婚約、正式に破棄されたのだな?」
彼の質問に、私は頷く。
「はい」
「では、次は俺の婚約者になれ」
突然の言葉に、私は目を見開いた。
「……今度は、絶対に手放さない」
氷のように冷たいはずの瞳が、なぜか私を見つめる時だけ、熱を帯びているような気がした。
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