【完結】地味令嬢を捨てた婚約者、なぜか皇太子が私に執着して困ります

22時完結

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元婚約者の執着と決定的な差

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 月明かりが侯爵邸の広間を淡く照らす夜、セシリアの心はこれまでの複雑な日々の重みと、未来への新たな決意の狭間で揺れ動いていた。ここ数週間、皇太子アレクシスの溺愛とその絶え間ない支えにより、彼女は次第に自らの存在意義を見出しつつあった。しかし、その静かなる変化の中に、かつて捨て去られた元婚約者エドワードの影が、再び彼女の前に立ちはだかろうとしていた。

 エドワードは、あの日の軽率な決断を深く悔やみ、何度も自らの誤りを取り戻すために行動を起こしていた。彼は、侯爵邸の周囲にひそかに潜み、セシリアの居場所を伺いながら、かつての栄光と傲慢さに変わることなく、今なお彼女への執着を露わにしていた。その眼差しには、かつての自信と誇りは影を潜め、ただただ取り返しのつかない過去への後悔と、執拗な執着が宿っていた。

 ある晩、侯爵邸の静かな回廊で、エドワードはついにセシリアの前に現れた。柔らかな月光に照らされる彼の顔は、かつての輝きを失い、哀愁と焦燥に満ちていた。彼は、声を震わせながらも必死に語りかけた。

「セシリア……あの日の俺の過ちを、どうか許してほしい。君を失って初めて、俺がどれほど君を必要としていたかを知ったんだ。俺の方が、君にふさわしいと信じている。もう一度、俺と共に歩んでほしい」

 その言葉は、かつての彼の威厳を偲ばせるものではなく、今はただ虚しさと執着の色を濃く映し出していた。しかし、セシリアの瞳は、彼の声に応えることなく、静かに冷たくそれを見据えた。彼女の内面には、すでに新たな光――アレクシスの真摯な愛情が、確固たる存在として根付いていたのだ。

 セシリアは、ゆっくりと立ち上がり、静かに口を開いた。

「エドワード……あなたの後悔は十分に伝わりました。しかし、私の未来は、もはや過去のあなたと共にあるものではありません。私は、あなたに対してかつて感じた愛情をもう取り戻すことはできません」

 その瞬間、回廊に流れる静寂は、まるで決定的な時を迎えたかのように重苦しく響いた。エドワードの顔に、失望と苦悩の表情が広がり、彼は一歩後ずさると、ただただ沈黙に身を委ねるしかなかった。

 その直後、侯爵邸の大広間にて、華やかな晩餐会が開かれていた。社交界の一員として、また新たな未来の希望として、セシリアは皇太子アレクシスと共に宴の席にいた。会場には、数多の貴族たちの視線が集まり、彼女の存在は以前にも増して輝きを放っていた。だが、空気の中には、エドワードの後悔とその執着が、かすかに漂っていた。

 その晩、宴も佳境に差し掛かる中、アレクシスは堂々たる立ち姿で席を立ち、会場中央に姿を現した。彼は、集まった貴族たちの前で、低く、しかし力強い声で宣言を始めた。

「ここにいる皆に申し上げよう。セシリア嬢は、私のもとで新たな未来を歩むべき存在である。かつて誰が彼女を『地味』と断じ、軽んじたのか。私こそが、彼女の真の価値を知り、その内面に宿る美しさを見出した者である」

 その言葉は、会場内に一瞬の静寂と、そして熱い賛同の声を巻き起こした。アレクシスはさらに続けた。

「私は、本日ここに、セシリア嬢との婚約を正式に申し出る。彼女は、私がかねてより求め続けた、真実の愛の象徴であり、私の心に永遠の光を灯す存在である。誰にも、彼女を私のもとから引き離すことはできはしない」

 その宣言の瞬間、会場は拍手と歓声に包まれた。セシリアの瞳は、驚きと戸惑い、そして深い感動に輝いていた。彼女は、長い間自らの内面で葛藤し続け、静かに耐えてきたが、今、はっきりと自らの未来が見えてきたような気がした。すべての執着や後悔を超え、初めて自分自身が大切にされるという確かな実感が、胸の奥に温かく広がった。

 エドワードは、会場の隅でその光景を見つめながら、もはや取り返しのつかない現実を悟った。彼は、かつて自らの傲慢さゆえに手放したものの重みを、今となっては深い後悔と共に味わうしかなかった。心の中で、かすかな涙が頬を伝うが、それを堪えるかのように、ただ遠くへと背を向け、静かにその場を去った。

 その後、アレクシスはセシリアの前に再び近づき、優しく、しかし揺るぎない眼差しで彼女に問いかけた。

「セシリア嬢、あなたは、私を信じ、私の愛を受け入れてくれるか?」

 会場に満ちる温かな雰囲気の中、セシリアはしばし考え込んだ。過去の傷は決して忘れることはできないが、今ここで新たな未来を歩むための一歩を踏み出す決意が、彼女の心を満たしていた。ゆっくりと、しかし確固たる口調で彼女は答えた。

「はい……私は、あなたが最初から私を大切にしてくれたことを、忘れることはできません。もう、過去に囚われる必要はないと、心から思えるのです」

 その言葉と同時に、会場に温かな拍手が巻き起こり、二人の間に流れる空気は、真実の愛と決意で満たされた。アレクシスは、セシリアの手をしっかりと握り、微笑みながらその目を見つめた。彼の瞳には、これまで以上の愛情と未来への希望が輝いていた。

 こうして、元婚約者の執着は、決定的な差となり、エドワードが取り戻すことの叶わぬ過去として、永遠に影を落とすこととなった。セシリアは、かつて誰かに軽んじられた「地味な令嬢」ではなく、愛と誇りに満ちた一人の女性として、新たな道を歩み始めた。彼女の内面には、今や自らの価値を確信する光が宿り、皇太子アレクシスとの未来が、どんな嵐にも負けない強固な絆として築かれようとしていた。

 その夜、侯爵邸の中庭で、セシリアは月明かりの下、ひとり静かに呟いた。
「私の未来は、私自身が選んだもの。もう誰のものでもない――私を大切にしてくれたあなたと共に歩むのです」

 この決意の言葉は、長い葛藤と後悔を乗り越えた先に見えた、真実の愛と希望の象徴であった。会場での宣言とともに、上流社会の偏見や執着は、次第に新たな秩序と変革の風に押し流され、セシリアとアレクシスの愛は、確固たる未来への礎として刻まれることとなった。

 ――そして、かつての元婚約者エドワードは、もう決して戻ることのできない過去として、セシリアの記憶の隅に静かに眠り、彼女は新たな光とともに、これから歩む未来へと一歩を踏み出すのだった。
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