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婚約破棄と冷酷王子の求婚
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「この婚約は、本日をもって破棄とする。お前のような女と結婚など、王族の恥だ」
王太子アルベルト・イグナーツ・アーレンベルクの冷ややかな声が、舞踏会場に響き渡った。
きらびやかなシャンデリアの下。貴族たちの視線が、一斉に私へと注がれる。
赤いドレスの裾を強く握りしめ、私は黙ってその言葉を受け止めた。
「……はい、承知いたしました」
それが、私の精一杯の返事だった。
頭を深く下げて、表情を隠す。もしも顔を上げてしまったら、涙が溢れてしまいそうだったから。
(……やっぱり、運命は変えられなかった)
私、リリエル・ヴァン・クローデルは、この国の名門・クローデル公爵家の令嬢。
そして、ほんの少しだけ特別な存在。なぜなら――私は前世の記憶を持っているから。
この世界が、かつてプレイした乙女ゲームの舞台そのものであることに気づいたのは、十歳の誕生日を迎えた日。
ゲームの登場人物と全く同じ名前、同じ外見、同じイベント。全てが現実のものとして目の前に現れた。
そして、私自身は**“悪役令嬢”として断罪され、婚約破棄された挙句、国外追放になる運命**をたどる存在だった。
(できる限りおとなしく、目立たず、ゲームの展開から外れるように……そう努力してきたのに)
それでも、ヒロインに都合よく進むこの世界では、悪役令嬢の役目から逃れることはできなかったらしい。
「リリエル・ヴァン・クローデル。貴様が我が許婚でありながら、クラリス嬢を侮辱し、侍女に暴行を加えたという報告が数多く寄せられている。証拠も、証人も、ある」
「…………」
クラリス・ミューゼル。
ゲームのヒロインであり、今は王太子の腕にしなだれかかっている銀髪の少女。
彼女は涙を溜めた目でこちらを見つめ、震える声で言った。
「リリエル様……わたくし、本当に怖かったのです。あの夜、物陰から『庶民が王子に近づくな』と、鋭い刃物を突きつけられて……!」
(そんなこと、していない。していないけれど)
今この場で何を弁明しても、無駄だ。
王太子が「信じた」と言えば、それがすべてになる。
「リリエル様、もし言い訳があるのでしたら、どうぞ。ですが、貴女の顔をこれ以上見るのも不愉快ですから、手短にお願いいたしますわ」
クラリスの口調は、ふるえるように優しい。
だがその瞳には、かすかな嘲りの色があった。
私は、静かに口を開く。
「……申し訳ございません。何も申し上げることはございません。殿下、これまでのご縁に感謝申し上げます。末永く、お幸せに」
「ふん、潔いな。だがもう遅い。お前は社交界から永久に追放されるだろう」
くすくすと笑い声が上がる。貴族たちが、今まで媚びていた私に向かって、口々に侮辱を投げつける。
「やっぱりあの女、裏では腹黒だったのね」
「気に食わない顔してると思ってたのよ!」
「ざまぁ。やっと罰が当たったわね」
私は静かに目を閉じた。
前世で読んだ“悪役令嬢ざまぁ”のテンプレートそのものだった。まさか自分がその当事者になるとは。
(もう、ここにはいたくない)
そう思って、ドレスの裾を翻し、会場を出ようとした、そのとき。
「──待て」
静寂を切り裂くように、鋭い男の声が響いた。
その場にいた全員の動きが止まる。
私も、足を止め、ゆっくりと振り返った。
声の主は、会場の奥の柱に寄りかかるように立っていた。
漆黒の軍服に、冷たい金の瞳。
隣国・ガルディア王国の第一王子、レオニス・ヴェルグレイ。
「その女、俺がもらっていく」
「……な、何を言っているのだ、レオニス殿下!?」
王太子が顔をしかめる。
「ガルディアの王子である貴様が、我が国の断罪された令嬢を……!」
「断罪? 証拠も曖昧な風聞で、貴族の娘を処刑するとは、随分と野蛮な国だな」
会場に、再び静寂が降りる。
レオニスは私のもとへと、ゆっくりと歩いてくる。
足音が、やけに大きく響いて聞こえた。
「リリエル嬢。俺の妃として、ガルディア王国へ来てもらう」
「……は?」
あまりの言葉に、私は素っ頓狂な声を上げてしまった。
「ちょ、ちょっと待ってください! どうして私が……?」
「美しい、気が強い、黙っていても絵になる。そして何より、俺の好みだ」
「………………」
私は、呆然とその場に立ち尽くした。
婚約破棄されたと思ったら、今度は突然、隣国の王子に“拾われた”。
この展開、まさかゲームにはなかった。
(えっ、これ……本当に大丈夫?)
私の運命は、静かに──けれど劇的に、狂い始めた。
王太子アルベルト・イグナーツ・アーレンベルクの冷ややかな声が、舞踏会場に響き渡った。
きらびやかなシャンデリアの下。貴族たちの視線が、一斉に私へと注がれる。
赤いドレスの裾を強く握りしめ、私は黙ってその言葉を受け止めた。
「……はい、承知いたしました」
それが、私の精一杯の返事だった。
頭を深く下げて、表情を隠す。もしも顔を上げてしまったら、涙が溢れてしまいそうだったから。
(……やっぱり、運命は変えられなかった)
私、リリエル・ヴァン・クローデルは、この国の名門・クローデル公爵家の令嬢。
そして、ほんの少しだけ特別な存在。なぜなら――私は前世の記憶を持っているから。
この世界が、かつてプレイした乙女ゲームの舞台そのものであることに気づいたのは、十歳の誕生日を迎えた日。
ゲームの登場人物と全く同じ名前、同じ外見、同じイベント。全てが現実のものとして目の前に現れた。
そして、私自身は**“悪役令嬢”として断罪され、婚約破棄された挙句、国外追放になる運命**をたどる存在だった。
(できる限りおとなしく、目立たず、ゲームの展開から外れるように……そう努力してきたのに)
それでも、ヒロインに都合よく進むこの世界では、悪役令嬢の役目から逃れることはできなかったらしい。
「リリエル・ヴァン・クローデル。貴様が我が許婚でありながら、クラリス嬢を侮辱し、侍女に暴行を加えたという報告が数多く寄せられている。証拠も、証人も、ある」
「…………」
クラリス・ミューゼル。
ゲームのヒロインであり、今は王太子の腕にしなだれかかっている銀髪の少女。
彼女は涙を溜めた目でこちらを見つめ、震える声で言った。
「リリエル様……わたくし、本当に怖かったのです。あの夜、物陰から『庶民が王子に近づくな』と、鋭い刃物を突きつけられて……!」
(そんなこと、していない。していないけれど)
今この場で何を弁明しても、無駄だ。
王太子が「信じた」と言えば、それがすべてになる。
「リリエル様、もし言い訳があるのでしたら、どうぞ。ですが、貴女の顔をこれ以上見るのも不愉快ですから、手短にお願いいたしますわ」
クラリスの口調は、ふるえるように優しい。
だがその瞳には、かすかな嘲りの色があった。
私は、静かに口を開く。
「……申し訳ございません。何も申し上げることはございません。殿下、これまでのご縁に感謝申し上げます。末永く、お幸せに」
「ふん、潔いな。だがもう遅い。お前は社交界から永久に追放されるだろう」
くすくすと笑い声が上がる。貴族たちが、今まで媚びていた私に向かって、口々に侮辱を投げつける。
「やっぱりあの女、裏では腹黒だったのね」
「気に食わない顔してると思ってたのよ!」
「ざまぁ。やっと罰が当たったわね」
私は静かに目を閉じた。
前世で読んだ“悪役令嬢ざまぁ”のテンプレートそのものだった。まさか自分がその当事者になるとは。
(もう、ここにはいたくない)
そう思って、ドレスの裾を翻し、会場を出ようとした、そのとき。
「──待て」
静寂を切り裂くように、鋭い男の声が響いた。
その場にいた全員の動きが止まる。
私も、足を止め、ゆっくりと振り返った。
声の主は、会場の奥の柱に寄りかかるように立っていた。
漆黒の軍服に、冷たい金の瞳。
隣国・ガルディア王国の第一王子、レオニス・ヴェルグレイ。
「その女、俺がもらっていく」
「……な、何を言っているのだ、レオニス殿下!?」
王太子が顔をしかめる。
「ガルディアの王子である貴様が、我が国の断罪された令嬢を……!」
「断罪? 証拠も曖昧な風聞で、貴族の娘を処刑するとは、随分と野蛮な国だな」
会場に、再び静寂が降りる。
レオニスは私のもとへと、ゆっくりと歩いてくる。
足音が、やけに大きく響いて聞こえた。
「リリエル嬢。俺の妃として、ガルディア王国へ来てもらう」
「……は?」
あまりの言葉に、私は素っ頓狂な声を上げてしまった。
「ちょ、ちょっと待ってください! どうして私が……?」
「美しい、気が強い、黙っていても絵になる。そして何より、俺の好みだ」
「………………」
私は、呆然とその場に立ち尽くした。
婚約破棄されたと思ったら、今度は突然、隣国の王子に“拾われた”。
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