【完結】悪役令嬢なのに、冷酷王太子に溺愛されています

22時完結

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レオナードと私は、戦いの後、王宮に戻るために急いで移動を始めた。夜の帳が降り、王宮の外は静けさに包まれている。しかし、私の心は静まることがなかった。敵の陰謀を打破し、数々の戦いを経て、まだその背後に潜む本当の脅威を突き止めていないことを感じていた。

「レオナード様、今回の件で少しだけ気づいたことがあります。」私は彼に話しかけた。彼は少し驚いた表情で私を見つめるが、すぐに冷徹な視線に戻った。

「何だ?」

私は少し躊躇した後、言葉を続けた。「この陰謀の裏にいるのは、もしかすると私たちの身近な存在かもしれません。」

レオナードは黙って私を見つめていたが、その視線の鋭さに、心の中で冷や汗が流れるのを感じた。彼は私が言ったことの意味を瞬時に理解したのだろう。私たちが直面している敵は、決して遠くの存在ではなく、王宮内、ひいては私たちの周囲に潜んでいる可能性がある。

「それは確かに考慮すべきだ。」レオナードは低い声で答え、私の肩に手を置いた。「だが、今はお前の安全が最優先だ。疑いを持つことはいいが、危険を冒すのは早い。」

その言葉に私は少し安心したが、同時に心の中である考えが深まっていた。レオナードの忠告を無視して無謀に動くつもりはないが、もし本当に私たちの周囲に潜む者がいるのなら、早急にその正体を暴かなければならない。

王宮に戻ると、まず最初に向かったのはレオナードの部屋だった。私たちが無事に戻ったことを報告するために、一刻も早く状況を共有する必要があったからだ。しかし、部屋に着くと、予想外の人物が待ち構えていた。

「おかえりなさいませ、レオナード様。」その声は、冷たく響くがどこか儚げでもあった。

その人物は、王宮内で名高い女性、アリシア王女だった。彼女は、レオナードの幼馴染であり、過去に私たちの間に何度も波風を立ててきた存在だった。彼女がここにいるということは、何か重要な用事があるに違いない。

「アリシア王女、どうしてここに?」レオナードは冷徹な声で問いかけたが、その瞳の奥にはわずかな警戒が漂っていた。

アリシアは微笑みながら、優雅に立ち上がった。「あなたが無事で戻ったことを知り、安心しました。しかし、私にはお話ししなければならないことがあります。」

その言葉に、私の胸の奥で何かが引っかかるような気がした。アリシアの微笑みの裏に隠されたものが、何か不穏な気配を感じさせた。

「話せ。」レオナードが言うと、アリシアは一歩踏み出し、私たちの間に立った。

「実は…」アリシアは静かに言った。「王宮内に、あなたを狙っている者がいることを私は知ってしまったのです。」

その言葉が部屋に響くと、私たちは息を呑んだ。アリシアの言うことが本当なら、私たちの身の回りに潜んでいる者は予想以上に深く絡んでいる可能性がある。

「誰だ?」レオナードの声は冷たく、鋭さを増していた。

アリシアは少し間を置いた後、ゆっくりと口を開いた。「それが…まだはっきりと分からないのです。ですが、あなたの周りにいる者、特にあなたに近しい者の中に、裏で動いている者がいるようです。」

その言葉を聞いた瞬間、私の胸が冷たく締め付けられるのを感じた。アリシアの言う通りなら、私たちは予想以上に深い闇に取り囲まれていることになる。信じるべき者が誰なのかすら分からない状況に陥っていた。

「どうすればその者を見つけ出せる?」レオナードが冷徹な目でアリシアを見つめながら尋ねた。

アリシアは微笑みながらも、その目には一片の悲しみが宿っていた。「それは、私もまだ調べている最中です。しかし、あなたが最も信頼している者の中に、裏切り者がいる可能性は高いと思います。」

その言葉に、私は再び息を呑んだ。誰が裏切り者なのか、どんな手を使ってでもその正体を突き止めなければならない。

レオナードはアリシアに一度だけ短く頷くと、「分かった。引き続き調査を頼む。」と告げた。

アリシアは軽く頭を下げ、部屋を出て行った。私たちはその後しばらく沈黙の中で考え込んでいた。今、私たちの最も重要な課題は、裏切り者を見つけ出し、王国を守ることだ。しかし、その裏にはもっと深い陰謀が潜んでいることを、私たちは確信していた。

レオナードと私は、アリシアが去った後も長い間言葉を交わさなかった。心の中で、裏切り者の正体を突き止める方法を考え続けていたが、どうしても答えが見つからなかった。

「裏切り者…」私はつぶやいた。

レオナードは、私が口にした言葉を反芻するようにじっと私を見つめていた。彼の目にはいつも冷徹な光が宿っていたが、今はそれが少し鋭く感じられた。恐らく、彼も同じように不安を感じているのだろう。

「アリシアが言ったことは無視できない。」レオナードはついに口を開いた。「だが、誰が裏切り者なのか…それはまだ分からない。」

私は彼の言葉に頷き、深く息を吐いた。「私たちはこの王国を守るために戦っているのに、その中に裏切り者がいるなんて…」

「分かっている。」レオナードは軽く肩をすくめた。「だが、私たちが今できることは、さらに慎重に行動することだけだ。」

その言葉には、彼の責任感と冷徹さが感じられた。私もその覚悟を持たなければならないと、強く感じていた。

「レオナード様、私はもう一度、王宮内で調べてみます。」私は決意を込めて言った。

レオナードは私をじっと見つめ、少しの間黙っていた後、頷いた。「だが、無理をするな。お前が危険にさらされては意味がない。」

「分かっています。」私は微笑んで答えたが、その表情にどこか自信が欠けていた。

その夜、私は再び王宮内を巡ることにした。夜の闇に包まれた宮殿は、昼間の華やかさとは違い、冷たく静まり返っていた。私はひとけのない廊下を歩きながら、周囲の気配を感じ取ろうとした。

突然、背後から足音が聞こえた。私は瞬時に足を止め、振り返ると、そこにいたのは…

「あなた、どうしてここに?」私の目の前に立っていたのは、王宮の司祭、セヴリスだった。彼は冷徹な顔をして、私をじっと見つめている。

「私は…少し考え事をしていただけです。」私はその場で立ち止まり、セヴリスに微笑みかけた。

セヴリスはしばらく黙って私を見つめた後、口を開いた。「お前も、いろいろと悩んでいるようだな。だが、この宮殿には本当に信頼できる者が少ない。特に王族の中には…」

その言葉に私は心の中でひとしきり驚いた。セヴリスがここまで言うということは、王族の中に何かしらの不穏な動きがあることを暗に示唆しているのだろう。

「あなたも、何か知っているのですか?」私は問いかけた。

セヴリスは静かにうなずき、低い声で言った。「私は、王族の中で最も信頼できる者が誰なのか、確信が持てなくなってきている。しかし、私が知っている情報は、あまりにも危険すぎて、お前に伝えるべきかどうか迷っている。」

その言葉に、私の心はざわめき始めた。セヴリスは間違いなく、何か重要な情報を握っている。だが、彼がそれをどうして伝えたくないのか、私は理解できなかった。

「セヴリスさん、お願いです。私たちは今、王国を守るために動かなければならないのです。あなたが知っていることを教えてください。」私は必死に頼み込んだ。

セヴリスはしばらく沈黙した後、ようやく口を開いた。「お前の目の前に立っている者、レオナード王子には、今後大きな選択が迫られるだろう。だが、その選択が正しいかどうかを判断するためには、もっと多くの情報が必要だ。しかし、その情報を手に入れるには、お前自身がどこまで覚悟を決められるかにかかっている。」

その言葉が胸に重く響いた。何か大きな選択が迫っている。私とレオナード、そして王国を守るためには、私たちがどれほどの覚悟を持つべきなのか、私にはまだその答えが見つからなかった。

セヴリスは一度深く息を吐き、私を見つめた。「だが、注意しろ。王宮内には、どこにでも敵が潜んでいる。信じている者が、裏切り者でない保証はどこにもない。」

その言葉を胸に刻みながら、私は再び王宮内を歩き出した。この先、私たちを待ち受ける試練が何であれ、私は立ち向かう覚悟を決めていた。

その後、私は王宮内でさらに情報を収集することにした。セヴリスの言葉が頭から離れず、背筋が寒くなるような感覚に捉えられていた。王宮内には、信じられないほど多くの陰謀と裏切りが渦巻いていることを、私は痛感していた。

レオナードのことを信じる気持ちは揺るがないが、セヴリスの言葉が示唆するように、彼自身も選択を迫られた時、どんな行動を取るかは分からない。そのためには、私自身も自分の立ち位置を確立し、何が正しいのかを見極めなければならないと強く感じていた。

私はその日の夜、再び王宮内を歩いていた。普段の華やかな姿とは異なり、今の王宮は静けさの中に潜む危険がひしひしと感じられた。だが、私はもうその静寂に恐れを感じることはなかった。むしろ、ここが今、私が最も必要としている場所であり、ここで行動することが最も重要だと確信していた。

廊下を進んでいると、突然、足音が近づいてきた。私は反射的に立ち止まり、足音の主を見据えた。姿を現したのは、レオナードだった。彼の冷徹な表情に、私の胸は高鳴った。

「どうした、こんな時間に。」レオナードが私を見つめながら低い声で言った。

「ちょっと散歩していただけです。」私は微笑みながら答えたが、内心は少し緊張していた。

「散歩か。」レオナードは静かに歩み寄り、私をじっと見つめた。その眼差しはいつもよりも鋭く、冷徹に感じられた。彼は何かを警戒しているようだった。

「レオナード様、実は…」私は言葉を切りながら、決心を固めた。「王宮内には、私たちの周りに潜んでいる敵がいるかもしれないんです。」

その言葉に、レオナードは微動だにせず立ち止まった。彼の表情からは何も読み取れなかったが、その視線には確かな警戒が込められていた。

「お前も気づいたか。」レオナードはつぶやいた。「だが、お前の安全が最優先だ。無理に危険なことに巻き込まれるな。」

私はその言葉を聞いて、胸が締め付けられる思いだった。レオナードは私の安全を何よりも優先してくれている。しかし、それと同時に、私の心の中ではもっと深い問題が広がっていった。私たちの周囲には、どれだけ慎重に行動しても、目に見えない敵が潜んでいるという現実が、次第に重くのしかかってきていた。

「でも、レオナード様…私はあなたと共に戦いたい。」私は力強く言葉を紡いだ。「今、私にできることがあるなら、何でもします。あなたを守るために。」

レオナードは黙って私を見つめ、その瞳に微かな驚きの色を浮かべた後、ゆっくりと頷いた。「お前の覚悟は理解した。だが、無理はするな。お前の安全が確保されていなければ、何も意味がない。」

その言葉を胸に刻みながら、私は心の中で決意を新たにした。これからもレオナードと共に歩むためには、私も彼にとってかけがえのない存在であり続ける必要がある。そして、私たちの戦いが終わったその先に、私たちの未来があることを信じていた。

その後、レオナードと私は並んで歩きながら、王宮内の状況について話し合いを続けた。セヴリスの言葉が頭から離れなかった。私たちはまだ、何も分かっていないのだ。だが、確実に言えることは、私たちの周囲には、少なくとも一人の裏切り者が潜んでいるということだ。

レオナードは冷徹な表情のまま、私に向かって低く言った。「お前が言った通り、今は何も確定していない。だが、すべての情報を集める必要がある。明日から、再び王宮内で調査を始める。」

私は頷き、彼の決意に胸が熱くなるのを感じた。この戦いがどれほど厳しいものであっても、私は彼と共に乗り越えるつもりだ。レオナードのそばにいることで、私たちはきっと勝利を手にすることができると信じていた。

その夜、私は寝室に戻ると、しばらくの間眠れなかった。頭の中でさまざまなことを考え続けていた。裏切り者の正体は誰なのか、それが分かるまで、私たちはどれほどの犠牲を払わなければならないのか。だが、私はその問いに答えを見つけるために、どんな犠牲も厭わない覚悟を決めていた。

そして、次の日。再び王宮内で動き出すと、私は確信した。私たちが直面する試練は、想像以上に厳しく、そして深いものになるだろう。しかし、レオナードと共に戦い抜く覚悟が、私の心を強くしてくれた。

翌朝、私はレオナードと共に再び王宮内で調査を開始した。昨日、セヴリスから得た情報をもとに、私たちは慎重に動き始めた。王宮の中には、いくつもの部屋や廊下が広がり、それぞれに秘密が隠されていることを知っていた。どんな些細な兆しでも見逃さないようにと、私は常に警戒していた。

「これまで、特に何か不審な動きは見受けられなかった。」レオナードが冷徹な声で言った。彼の目は鋭く、王宮内の隅々まで注意深く観察している様子だった。

「私も、同じように感じます。」私は答えながら、廊下を歩くレオナードの背中に視線を向けた。彼の姿はいつも以上に頼もしく見えたが、それでも私の心は落ち着かなかった。裏切り者が身近にいると考えると、何もかもが疑わしく思えてしまう。

突然、王宮の奥から騎士の姿が見えた。彼は私たちを見つけると、すぐに駆け寄ってきた。

「お二人とも、お探ししておりました。」騎士は慌てた様子で言った。彼の顔には焦燥の色が浮かんでいた。

「どうした?」レオナードが短く尋ねた。

「先ほど、宮殿の北側の一室で不審な動きがありました。」騎士は息を切らしながら答えた。「何者かが急いでその部屋に向かった後、すぐに姿を消しました。」

私たちはその言葉を聞いて、無意識のうちに身を乗り出した。北側の一室には、王宮内でも重要な文書が保管されている部屋があった。その部屋が不審な人物に狙われている可能性は高い。

「行ってみよう。」レオナードは即座に判断を下し、私に向かって言った。「気をつけろ。」

私たちは騎士に案内されながら、急いで北側の一室に向かった。道中、私はレオナードの背後を歩きながら、その顔に浮かぶ真剣な表情を見ていた。彼の目の奥に何かを探し求めるような輝きが宿っていた。

北側の廊下にたどり着くと、騎士は部屋の前で立ち止まった。「ここです。先ほど、不審な人物がこの部屋に向かいました。」

レオナードは何も言わずに扉を開け、部屋の中を覗き込んだ。私もその後に続き、部屋の中に目を凝らした。

室内は暗く、重厚な書棚が壁に並べられている。古びた文書や書類が整然と置かれ、ほとんど手がつけられていないように見えた。しかし、私の目はすぐに部屋の隅にある小さなテーブルの上に置かれた一枚の紙に引き寄せられた。

「これ…」私は声を漏らした。

レオナードがその紙を手に取ると、すぐにそれを広げ、目を通し始めた。その顔色が急激に変わった。

「これは…」彼はつぶやいた。

その紙には、王宮内で進行中の陰謀を示唆する内容が記されていた。暗号のように書かれた文面には、王国を揺るがすような秘密が隠されていることが明確に示されていた。

「レオナード様、この文書は…」私は声を震わせながら尋ねた。

「どうやら、この文書は王国を揺るがす陰謀を裏で操っている者たちから送られてきたもののようだ。」レオナードは冷徹に言い放った。

私の胸は、激しく鼓動を打ち始めた。私たちは、ついに裏切り者の糸口をつかんだのだろうか。

「このままでは、王国が崩壊する。」レオナードは文書を握りしめながら、鋭い目で私を見つめた。その視線は、いつもの冷徹さに満ちていたが、その奥にある決意を感じ取ることができた。

「どうするのですか?」私は息を呑んで尋ねた。

レオナードはしばらく黙っていたが、すぐに答えた。「これを基に、動き出す。裏切り者を見つけ出すことが最優先だ。」

その言葉には、もはや迷いはなかった。私たちは、王国を守るために動く時が来たのだと、私は確信した。

「私もお手伝いします。」私は静かに言った。

レオナードは私を見つめ、その顔にわずかな驚きの色が浮かんだが、すぐにそれを隠し、頷いた。「分かった。だが、慎重に動け。」

その後、私たちは王宮内での調査をさらに進めることを決定した。セヴリスの言葉がますます現実味を帯びてきた。裏切り者がいる。その裏切り者を見つけるために、私たちはさらに深い闇の中に足を踏み入れることになる。

その後、レオナードと私は王宮内での調査を続け、いくつかの証拠を積み重ねていった。文書に記されていた陰謀の内容をさらに掘り下げるため、王宮内の高官や関係者に密かに接触を試みた。しかし、いずれも何も得られることはなく、私たちは次第に追い詰められていった。

一方で、私とレオナードの関係にも少しずつ変化が訪れていた。彼の態度は依然として冷徹で、私に対する感情を表に出すことはなかった。しかし、何度も一緒に過ごすうちに、私には彼の中に隠された優しさや気配りが感じられるようになった。彼は言葉にしないが、私を守ろうとする姿勢が強く伝わってきていた。

ある日、私たちは再び王宮の裏通りで調査を行っていた。その日は寒い冬の朝で、空気が澄んでいて、歩くたびに足元から白い息が立ち上がった。レオナードが前を歩き、私はその後ろについて歩いていた。私たちの足音が静かに響く中、突然、何かが私の足元をかすめて通り過ぎた。

「!?」私は驚きの声を上げ、振り返った。

それは一人の男だった。瞬時に、私はその人物がただの通行人ではないことを感じ取った。彼の顔は隠されていて、身のこなしが尋常ではない。何かを隠しているような不自然さが漂っていた。

「待って!」私は思わずその男に声をかけた。

しかし、その男は一瞬振り向いた後、すぐに素早く足を進め、角を曲がって姿を消した。レオナードがすぐにその後を追おうとしたが、私は彼の腕を止めた。

「レオナード、あの男、どこかで見覚えがあるかもしれない。」私は冷静に言った。

レオナードは一瞬考え込んだが、すぐにその男の姿を追おうとはせず、私の目を見つめた。「待て。無理に追いかけるな。もし彼がただの通行人なら、それで終わりだ。しかし、何かが違う場合…」

その時、私たちの間に重苦しい沈黙が流れた。レオナードは私の目をじっと見つめ、私が彼に頼らないようにという意図を込めた警告を送っていた。彼が心配しているのは、私が危険な目に遭うことだろう。だが、私はその時、心の中で強く感じていた。あの男が重要な鍵を握っていると。

「レオナード、私も行きます。」私は強い意志を込めて言った。

「行かせん。」レオナードは冷たく言い放ち、私を止めた。だが、その言葉の裏には、私を守りたいという彼の強い気持ちが見え隠れしていた。

「大丈夫よ。私、一人で行けるから。」私はそう言って、歩き始めた。

レオナードは何も言わずに、私の後ろについてきた。私たちはその男が消えた先の通りを進んでいった。しばらく歩くと、細い道に出た。道の先には薄暗い小さな建物が建っていた。

その建物の扉が少しだけ開いていた。私はその扉の前で足を止め、レオナードに目を向けた。

「ここに、あの男が隠れている。」私はつぶやいた。

レオナードは黙って頷き、私の前に立った。「気をつけろ。すぐに戻ろう。」

私はその言葉に頷くと、恐る恐る扉を押して開けた。中は薄暗く、埃っぽい部屋が広がっていた。壁には古びた絵画や、いくつかの棚が並べられているだけで、目立ったものは何もなかった。私たちが中に入ると、突然、足音が背後から聞こえてきた。

振り向いた先には、先ほどの男が立っていた。彼の目が私たちを見つめている。何も言わず、ただ立ち尽くしているその姿に、私は強い不安を感じた。

「お前たち、何の用だ?」男は低い声で言った。その声には、明らかに警戒心が込められていた。

レオナードが冷静に答えた。「お前が何者か、知っている。」

男は一瞬驚いたような表情を浮かべたが、それもすぐに消え、鋭い視線を私たちに向けてきた。「何も知らないほうがいい。」

その言葉を聞いた瞬間、私は胸の中で何かが震えるのを感じた。この男が、きっと何か重要な情報を握っている。裏切り者かもしれない。そして、私たちはここで真実を知ることになるのだろう。

「何も知らないほうがいい。」男の言葉は冷たい刃のように私たちに突き刺さった。彼の目は、私たちを試すように見つめている。その視線には、何かを隠している確信があった。

レオナードは無言で男に近づき、その肩を軽く掴んだ。「お前が知っていることを話せ。王国にとって非常に重要なことだ。」レオナードの声は低く、圧力をかけるように響いた。

男は微動だにせず、ただ黙って私たちを見ていた。しばらく沈黙が続いたが、その間にも私は男の背後に不穏な影が広がっていくのを感じていた。彼が何か隠しているのは明らかだった。

「王国が危機に瀕している。」レオナードがさらに追い詰めるように言った。「お前が知らないわけがない。話さなければ、お前にとってもいいことはない。」

その言葉に、男の顔にわずかな変化が浮かんだ。彼は一瞬、何かを決心したように見え、息を吐くと、ゆっくりと口を開いた。

「分かった。」男はついに言葉を発した。「だが、話したからといって、お前たちが無事で済むとは限らない。」

私は一歩前に出て、男を見つめた。「何があったのか、話して。私たちは王国を守りたいだけよ。」私の言葉に、男は少しだけ肩を落とした。

「裏切り者がいる。」男は静かに告げた。「王宮内の高官の一部が、王国を裏切ろうとしている。その者たちは、外部の勢力と手を組んで、王国を滅ぼすつもりだ。」

その言葉を聞いた瞬間、私の心臓が大きく跳ね上がった。まさか、王宮内に裏切り者がいるなんて。しかも、それが王国の崩壊を目論んでいるとなれば、事態は一刻も早く動かさなければならない。

「具体的に、誰が裏切り者なんだ?」レオナードの声は一層冷たく、鋭くなった。

男は一瞬ためらったが、次第にその目に恐れの色が浮かんできた。「名前を挙げることはできない。だが、彼らは王宮の中で非常に強い力を持っている。そして、その背後には、王国の敵が控えている。」

「敵?」私の声が震えた。「一体誰が、こんなことを企んでいるの?」

男は首を横に振り、「その者たちは姿を見せない。だが、確実に王宮の中にその手が伸びている。」と言った。彼は顔を曇らせながら、ゆっくりと続けた。「これ以上関わると、お前たちにも危険が及ぶ。」

その言葉を聞き、私は背筋が凍る思いがした。王国を滅ぼそうとする陰謀の背後には、ただの反乱者ではなく、王国そのものに恨みを持つ勢力がいるのだ。これは単なる内紛にとどまらない、もっと大きな危機の兆しだった。

レオナードは男を鋭く見つめ、しばらく黙っていた。その後、ようやく口を開いた。「この情報を持って、何をするつもりだ?」

男は一度深いため息をつき、「すでに私も関わってしまっている。だが、私はもう戻れない。」と言った。「もしお前たちが王国を救うつもりなら、私にできることは少ない。ただ、これだけは言える。」男は視線を一度だけ、私に向けた。「信じてくれ。これから起こることは、想像を絶する。」そう言って、男は部屋の中に置かれていた一枚の紙を取り出した。

その紙には、詳細な地図とともに、王宮内で暗躍する者たちの位置が記されていた。その地図に記された場所は、王国の重要な施設を含んでいた。

「この地図を使って、次にどこへ行けばいい?」レオナードが冷静に問うと、男は力なく答えた。

「あなた方が行くべき場所はここだ。」男は地図の中で一箇所を指差した。その地点は、王宮の一番奥にある隠された部屋だった。

「その部屋には、王国の運命を左右する鍵が隠されている。」男は続けた。「だが、その場所に辿り着くには、裏切り者を避けなければならない。」

レオナードはその情報を慎重に受け止めた後、静かに言った。「分かった。私たちはその場所へ向かう。だが、お前が言う通り、もう一度警戒しなければならない。」

男は最後に一言、「気をつけろ。」とだけ言うと、再び黙り込んだ。

私たちはその場を後にして、レオナードと共に王宮内の深部に向かって歩き始めた。今、私たちは王国を守るため、そして自分たちの命を賭けて、裏切り者との戦いを始めようとしていた。

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