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嘘から始まる婚約
しおりを挟む新たな婚約のスタート
「お前には、完璧な王妃の振る舞いを求める。」
リオネル殿下の言葉が、私の耳に重く響いた。彼が求めているのは、「偽りの婚約者」としての私だった。王宮内で私の立場を守るため、彼は形式的に私を婚約者として扱うと宣言したのだ。
「もちろん、王妃の役割を果たせないのなら、すぐにこの立場を取り上げる。」
彼の言葉には、冷たくも厳しい圧力が込められている。だが、その中に見え隠れするのは、私に期待を寄せているような――そんな矛盾した温かさだった。
「わかりました、殿下。私は精一杯務めを果たします。」
そう答えながらも、胸の中には複雑な感情が渦巻いていた。私は本当に王妃にふさわしい人間なのだろうか? そもそも、この関係が嘘で始まっている以上、何も本物ではないのではないか?
周囲の視線
婚約を再宣言された翌日、私は宮廷内での生活を再開した。しかし、私を見る周囲の視線は相変わらず冷ややかで、時には露骨に侮蔑を含んでいた。
「エリナ様、また舞い戻っていらしたのね。」
ある令嬢がわざとらしい笑顔で話しかけてくる。その背後では数人の令嬢が小声で笑っていた。
「リオネル殿下も大変ですわね。王妃候補がこんな方では…」
「まあ、それでも婚約を続けるなんて、殿下もお優しいのね。」
表面上は礼儀を保ちながらも、彼女たちの言葉の裏には明確な悪意が隠されていた。
「ごきげんよう、皆様。殿下が選ばれた相手として、恥じることのないよう精進して参りますわ。」
私は微笑みを浮かべ、彼女たちの挑発に乗らないよう努めた。だが、その瞬間、心の奥底では悔しさと怒りが渦巻いていた。
リオネルの態度
「どうだった?」
その日の夜、リオネル殿下は私に問いかけた。彼は私の一日を把握するように、毎晩こうして声をかけてくる。
「問題ありませんでした。」
私は努めて冷静に答えたが、彼は私の様子をじっと観察するように見つめた。
「嘘だな。」
「えっ…?」
驚く私に、彼は微かに眉を上げて続けた。
「お前の表情には余裕がない。何かあったのではないか?」
彼の鋭い観察眼に、私は何も隠せないのだと悟った。
「……宮廷内では、まだ私への疑念が根強いようです。」
素直に答えると、彼は少しの間沈黙した。その後、冷たくも威圧的な声で言った。
「お前に向けられる言葉や視線がどうであれ、俺の婚約者である以上、決して屈するな。それができないなら、今すぐ婚約を解消する。」
彼の厳しい言葉に胸が締め付けられる。しかし、同時に彼が私に期待しているのだと感じ、決意を新たにした。
「わかりました。私は殿下の期待に応えてみせます。」
その答えに彼は一瞬だけ微笑み、すぐにいつもの冷たい表情に戻った。
初めての「共闘」
数日後、王宮で開かれた晩餐会にて、私とリオネル殿下が共に姿を見せた。これは私たちの婚約を公に再確認させる場だった。
「リオネル殿下、そしてエリナ様、お二人は実にお似合いですわね。」
社交界で権力を持つ公爵夫人が話しかけてきた。その言葉は褒め言葉のようでありながら、どこか試すような響きを含んでいる。
「当然だ。俺が選んだ婚約者だ。」
リオネル殿下は堂々と答え、私の手を取りながら微笑んだ。その行動に、周囲は一瞬息を呑んだようだった。
――本当に、この方は冷酷と呼ばれる王太子なのだろうか?
彼の振る舞いに戸惑いつつも、私はその場で完璧な笑顔を作り、共に場を切り抜けた。
揺れる想い
晩餐会が終わった夜、私は彼に礼を言おうと彼の部屋を訪ねた。
「殿下、本日はありがとうございました。」
深く頭を下げる私に、彼は少しだけ眉をひそめた。
「何がだ?」
「私を守るような振る舞いをしてくださったことです。」
その言葉に、彼は小さく息を吐き、私をじっと見つめた。
「勘違いするな。俺が守るのは俺の選択だ。お前ではない。」
冷たい言葉に胸が痛んだ。しかし、彼の瞳の奥には、言葉とは裏腹な優しさが潜んでいるように見えた。
「ですが、それでも私は感謝しております。」
そう答えると、彼は困惑したように視線をそらした。
「勝手にしろ。」
その不器用な態度が、少しだけ愛おしく感じられた。
嘘の中に芽生える絆
リオネル殿下の提案を受け入れてから数週間が過ぎた。
最初は形だけの婚約だと思っていたが、彼と過ごす時間が増えるたびに、彼の不器用ながらも真剣な一面を知るようになった。
「エリナ、お前はもう少し自信を持て。」
彼がそう言ってくれたとき、私は涙がこぼれそうになった。
「ありがとうございます、殿下。」
嘘から始まった婚約。しかし、その中で少しずつ本当の絆が芽生え始めているように感じるのだった。
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