【完結】仮面夫婦のはずが、旦那様が溺愛系すぎて毎日が甘くて困ります

22時完結

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混乱する心

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風邪が治った翌日、クラリスは早朝の庭を散歩していた。アルベルトからもらったショールを羽織り、万年筆を持って外に出た。彼が言っていた日記を書いてみようと思ったのだ。

庭のベンチに座り、日記帳を開く。何を書けばいいのか分からず、ペンを持つ手が止まった。

「昨日、旦那様に看病してもらった」

まずはそう書いてみた。

「優しくしてもらって、嬉しかった。でも、これは愛のない結婚のはず」

ペンが止まった。自分の気持ちがよく分からない。

「おはよう、クラリス」

声をかけられて振り返ると、アルベルトが立っていた。

「おはようございます。もう体調は大丈夫です」

「無理をしてはいけない。まだ完全に回復していないだろう」

アルベルトは隣に座った。クラリスは慌てて日記帳を閉じた。

「何を書いていたんだ?」

「あの、日記を」

「そうか。君が日記を書く姿を見ていると、安心する」

「安心?」

「君がここで幸せに過ごしてくれているような気がして」

アルベルトの横顔を見つめながら、クラリスは胸の奥がざわめくのを感じた。

「今日は天気が良いから、一緒に街まで出かけないか?」

「街まで?」

「君の好きな本屋があると聞いた。案内してもらいたい」

クラリスは驚いた。いつ自分が本好きだということを詳しく話したのだろう。

「でも、お仕事は?」

「今日は君と過ごしたい」

その言葉に、クラリスの心は大きく跳ねた。

午後、二人は馬車で街へ向かった。並んで座っていると、アルベルトの体温が伝わってくる。

「君の好きな作家は?」

「ロマンス小説を読むのが好きです」

「ロマンス小説?」

「はい。愛し合う二人が困難を乗り越えて結ばれる物語が」

言ってから、クラリスは自分の言葉を後悔した。愛のない結婚をしている自分が、こんなことを言うなんて。

「愛し合う二人、か」

アルベルトは何か考えるような表情をした。

「どのような物語が好きなんだ?」

「最初は敵同士だったり、誤解し合っていたりする二人が、だんだんお互いを理解していって」

「それで?」

「最後は本当の愛で結ばれるんです」

クラリスは夢中になって話した。アルベルトは真剣に聞いてくれていた。

「素敵な物語だな」

「でも、現実にはそんなことは」

「現実にもあるかもしれない」

アルベルトは意味深な表情でクラリスを見つめた。

本屋に着くと、アルベルトは驚くほど多くの本を買ってくれた。

「こんなに買っていただいて」

「君が喜ぶなら、何冊でも」

「でも、お金が」

「君の幸せのためなら、お金は惜しくない」

その言葉に、クラリスは胸が熱くなった。

帰りの馬車の中で、クラリスは勇気を振り絞って尋ねた。

「なぜ、こんなに優しくしてくださるのですか?」

「君を幸せにしたいからだ」

「幸せに?」

「君は私の妻だ。妻を幸せにするのは、夫の当然の責務だろう」

「責務、ですか」

「責務であり、願いでもある」

アルベルトは真っ直ぐにクラリスを見つめた。

「君が笑っているのを見ると、私も嬉しくなる」

「私も、あなたと一緒にいると」

クラリスは言いかけて、口をつぐんだ。

その夜、クラリスは日記に書いた。

「今日、街に出かけた。旦那様がとても優しくしてくれた。でも、これは愛なのだろうか?それとも、責任感からなのだろうか?」

「私の心も、だんだん変わってきている気がする」

「もしかしたら、私は」

そこまで書いて、ペンを置いた。まだ、その先の言葉を書く勇気がなかった。
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