独りぼっちだった少女と消えた婚約

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「――そういえば、セリアはどんな国から来たの? さっき、同年代の子と過ごすのが久しぶりって言っていたけれど」

アンジェラが尋ねると、セリアは手にしていたカップを置き、バルコニーからはるか遠くを見つめるように話し始めた。

「『波の向こうの』島国よ。ここまで船で十五日はかかったわね。一言で言えば、神秘の魔法大国、ってところかしら。あまり他国との交流も盛んではないしね。ここに来てみたら魔法は使われていないし、魔道具も全然見当たらなくて、驚いたわ」

「魔法……!」

アンジェラの国では、魔法は遠い昔に失われており、現在は古くからの魔術具が王国のあちこちに残されているだけだ。この世界には魔法が残っている地もあるとは聞いたことがあるが、セリアがそんなところからはるばるクインス校に留学に来ているとは、何だか信じられない。

「他にはそうね、皆で祈りを捧げる神殿があちこちにあって、厳かな純白の建物が朝日に照らされる様子は、とても綺麗よ」

見てみたいわ、とアンジェラがつぶやくと、いつか一緒に行けたら良いわね、とセリアは笑った。

気がつけばすっかり日も暮れようとしていた。二人は夕食の時間に遅れそうになる前に、ティーセットとお菓子を片付けることにした。

結局、彼女の過去については聞けなかった。


その日の夜。アンジェラはセリアの授業の準備を手伝っていた。

「これで使う物は全部ね。明日は早いから、もう明かりを消しても良いかしら」

「ありがとう、アンジェラ。私は大丈夫よ。おやすみ」

「おやすみなさい」

明かりを消して、二人はそれぞれのベッドに入る。

今日はいろいろな事があった。
クインス校に戻ってきて、留学生のセリアとルームメイトになって、学院を案内して、お茶を一緒に飲んで、偶然オーウェンを見かけて。

(でも……)

談話室での出来事は、思い出すだけで身体が凍りつくような恐ろしい気持ちが蘇ってくる。今日は去年のような酷い言葉や嘲りをぶつけられたわけではなかったが、それでも言い返すことさえできない自分がただただ悔しかった。

ジャネットから嫌がらせを受けるようになったのは、2年生に進級してしばらく経った頃だった。きっかけは古代語の授業だ。アンジェラは近くの席に座っていた男子生徒に、彼が書いた古代語の文の文法が正しいか尋ねられた。

彼はたまたま、成績の良さそうなアンジェラに声をかけたのだと思う。アンジェラも特に断る理由もなかったので、彼が分かりやすいようになるべく丁寧に教えたのがいけなかった。

彼は、当時ジャネットが密かに思いを寄せていた相手だった。
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