独りぼっちだった少女と消えた婚約

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一日の授業を終えたアンジェラは、セリアに誘われて図書館を訪れていた。昨日クインス校を案内した時は、蔵書整理のために入ることができなかったのだ。二人は思い思いの本を選んで借りると中庭に出て、ベンチに腰を下ろした。閲覧室は私語が禁じられているためだ。

「あら? あそこにいらっしゃるのって」

セリアが声を上げた。見ると、オーウェンが悠然と中庭を歩いていた。エリックの姿はなかった。声が聞こえたのか、オーウェンはアンジェラ達に気がつくと、こちらへ向かってきた。

「ああ、君は、留学生の」

セリアは立ち上がり、優雅な礼をした。

「改めまして、ラパルマン王国より参りました、セリア・マレーナ・カサードと申します。お会いできて光栄です」

「そうか、だが私も今はここの一学生だ。そう畏まらなくていい。是非クインス校での生活を、心ゆくまで楽しんでくれ」

「ありがとうございます」

オーウェンはアンジェラの方を向いた。

「ディライト。今日の歴史学の授業では話を聞かせてもらえたこと、感謝している。なかなか良い時間だったな」

「いえ。私の方こそ、とても楽しかったです」

アンジェラの頬は少し熱を帯びて、声も心なしか上擦っていた。

「それはコルネリウスの本か?私も好きだ」

「ほ、本当ですか?」

好きという言葉に、アンジェラはついどきっと反応してしまった。

「実は王立学院に入る頃まで体が弱くてな。熱を出して城から出られない間は、本ばかり読んで過ごしていた。そのコルネリウスの作品も、よく読んでいる」

「私も、これが一番好きです」

偶然見かけて、懐かしくなって借りた本を、オーウェンも読んでいたことを知って、アンジェラは嬉しく思った。
さらに、彼が王都の中心部にあるウィステリア校ではなく、自然豊かな郊外のクインス校に通っている理由も初めて分かった。

「読書の邪魔をしてすまなかった、失礼するよ」

オーウェンはそう言って去って行った。

「すごいわ。今日は2回も殿下とお話できたなんて、何だか信じられない……」

「面白かったわよ、さっきのアンジェラ」

「えっ、どうして?」

尋ねても、セリアは笑うばかりで答えてくれない。

「それにしても、噂通り素敵な方ね、オーウェン殿下」

「そうよね!」

思わず間髪入れずに返してしまった。オーウェンが褒められると、アンジェラの心も温かくなるようだった。

「まあ、私は騎士団にいるような屈強な方が好みだけど」

セリアの理想の男性像は、何とも意外なものであった。
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