独りぼっちだった少女と消えた婚約

リンドウ

文字の大きさ
15 / 28

15

しおりを挟む
アンジェラは、セリアに加えてハンナとも学院生活を共に過ごすようになった。

少しずつ性格の違った三人が一緒にいるところは人目を引くのか、次第に声をかけて来る人が増え、その何人かとは親しくなり、友人と呼べる関係になれた。
彼女達はアンジェラがジャネットに嫌がらせを受けていた間、少なくともそれに加担はしていなかった人たちだ。

自分に手を差し伸べなかった彼女達を恨む気持ちは、もはやアンジェラには残っていない。以前のように友達と過ごせる日々が、ただただ嬉しかった。

それを噛み締める暇もなく、定期試験は瞬く間に過ぎて行った。

アンジェラは、生活が落ち着いたからか概ね上々の点数を取れたことに安堵した。また、セリアの数学の結果はハンナの助けもあり「そこそこ」だったようだ。そして、ハンナは歴史学の、美術が発展した時代の試験で、去年に比べて大きく点数を伸ばし、ガルシア先生に褒められたそうだ。

試験勉強から解放された生徒達は、近づく長期休暇を待ち望みながら、残り半月の授業に臨んでいた。

午前の終わりを知らせる鐘が鳴ると、授業を終えた先生やほとんどの生徒は食堂や寮へと向かう。

しかしアンジェラは、セリアやハンナ、数人の友人と暫し基礎薬学の教室に残り、実習のレポートを仕上げていた。
カーゾン先生には来週提出する課題だが、授業の余韻があるうちに書いた方が、ペンは進む。

(独りよりも、仲間と話し合いながら書く方がずっと楽しいもの)

がらんとした部屋にはペンを走らせる音と、長期休暇をどのように過ごすか話す声が、軽やかに転がり始めていた。

セリアは故郷ラパルマンには帰らず、この国に残された魔道具を研究している叔父の屋敷で過ごさせてもらうのだという。

「セリアさんの親戚って、どんな方なのかしら」

「ラパルマンって、整った顔立ちの方が多いんですって」

「知らなかったわ。羨ましい!」

「ふふ。私達とは10歳以上離れているわ。一昨年ようやく結婚したの」

色めき立つ皆とは裏腹に、ハンナは上手く話に入っていけなくなったのか、大人しく続きを書き始めた。それに気づいたアンジェラは、静かにハンナの隣の席に移った。

「良いんですか?」

「セリアは最近ずっと私の側にいてくれていたから。皆と仲良くできているか、気になっていたのよ」

「それなら、今のところ心配なさそうです……そういえば、アンジェラさんの休暇について、聞いてなかったですね」

「今度久しぶりに、家族と旅行をする予定よ。ハンナさんは?」

「私は別荘で、両親と絵を――」

「ふうん、随分楽しそうじゃない」

甲高い声が聞こえた瞬間、ハンナの表情に怯えが浮かんだ。アンジェラも口を結び、目を見開いた。
席のすぐ後ろにある部屋の入り口を見ると、ジャネットが左右に女子生徒を伴って立っていた。アンジェラ達の話し声が外に聞こえたのだろうか。

(ハンナさんのルームメイトの三人だわ)

ジャネットはアンジェラに対しては一瞥してふん、と鼻で笑っただけで、自分の顔の横に垂らした髪を指先で弄びながら、ハンナに笑いかける。

「今朝も早々に出て行ったから、やましいところでもあるのかと思ったわ。私たちが昨日目に遭ったのに、ね?」

「それは友達が、朝食に誘ってくれたので……」

ハンナは俯いて、声も弱々しくなっていった。隣にいるアンジェラも、ジャネットの声を聞いているだけで胸が押し潰されるようで、息が苦しい。

同じだ。

今のジャネットの目も、棘を含む声も、アンジェラが少し前まで受けていたそれと、何も変わらない。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

婚約破棄が私を笑顔にした

夜月翠雨
恋愛
「カトリーヌ・シャロン! 本日をもって婚約を破棄する!」 学園の教室で婚約者であるフランシスの滑稽な姿にカトリーヌは笑いをこらえるので必死だった。 そこに聖女であるアメリアがやってくる。 フランシスの瞳は彼女に釘付けだった。 彼女と出会ったことでカトリーヌの運命は大きく変わってしまう。 短編を小分けにして投稿しています。よろしくお願いします。

聖女が降臨した日が、運命の分かれ目でした

猫乃真鶴
ファンタジー
女神に供物と祈りを捧げ、豊穣を願う祭事の最中、聖女が降臨した。 聖女とは女神の力が顕現した存在。居るだけで豊穣が約束されるのだとそう言われている。 思ってもみない奇跡に一同が驚愕する中、第一王子のロイドだけはただ一人、皆とは違った視線を聖女に向けていた。 彼の婚約者であるレイアだけがそれに気付いた。 それが良いことなのかどうなのか、レイアには分からない。 けれども、なにかが胸の内に燻っている。 聖女が降臨したその日、それが大きくなったのだった。 ※このお話は、小説家になろう様にも掲載しています

『二流』と言われて婚約破棄されたので、ざまぁしてやります!

志熊みゅう
恋愛
「どうして君は何をやらせても『二流』なんだ!」  皇太子レイモン殿下に、公衆の面前で婚約破棄された侯爵令嬢ソフィ。皇妃の命で地味な装いに徹し、妃教育にすべてを捧げた五年間は、あっさり否定された。それでも、ソフィはくじけない。婚約破棄をきっかけに、学生生活を楽しむと決めた彼女は、一気にイメチェン、大好きだったヴァイオリンを再開し、成績も急上昇!気づけばファンクラブまでできて、学生たちの注目の的に。  そして、音楽を通して親しくなった隣国の留学生・ジョルジュの正体は、なんと……?  『二流』と蔑まれた令嬢が、“恋”と“努力”で見返す爽快逆転ストーリー!

完【恋愛】婚約破棄をされた瞬間聖女として顕現した令嬢は竜の伴侶となりました。

梅花
恋愛
侯爵令嬢であるフェンリエッタはこの国の第2王子であるフェルディナンドの婚約者であった。 16歳の春、王立学院を卒業後に正式に結婚をして王室に入る事となっていたが、それをぶち壊したのは誰でもないフェルディナンド彼の人だった。 卒業前の舞踏会で、惨事は起こった。 破り捨てられた婚約証書。 破られたことで切れてしまった絆。 それと同時に手の甲に浮かび上がった痣は、聖痕と呼ばれるもの。 痣が浮き出る直前に告白をしてきたのは隣国からの留学生であるベルナルド。 フェンリエッタの行方は… 王道ざまぁ予定です

聖女追放 ~私が去ったあとは病で国は大変なことになっているでしょう~

白横町ねる
ファンタジー
聖女エリスは民の幸福を日々祈っていたが、ある日突然、王子から解任を告げられる。 王子の説得もままならないまま、国を追い出されてしまうエリス。 彼女は亡命のため、鞄一つで遠い隣国へ向かうのだった……。 #表紙絵は、もふ様に描いていただきました。 #エブリスタにて連載しました。

契約破棄された聖女は帰りますけど

基本二度寝
恋愛
「聖女エルディーナ!あなたとの婚約を破棄する」 「…かしこまりました」 王太子から婚約破棄を宣言され、聖女は自身の従者と目を合わせ、頷く。 では、と身を翻す聖女を訝しげに王太子は見つめた。 「…何故理由を聞かない」 ※短編(勢い)

婚約破棄を伝えられて居るのは帝国の皇女様ですが…国は大丈夫でしょうか【完結】

恋愛
卒業式の最中、王子が隣国皇帝陛下の娘で有る皇女に婚約破棄を突き付けると言う、前代未聞の所業が行われ阿鼻叫喚の事態に陥り、卒業式どころでは無くなる事から物語は始まる。 果たして王子の国は無事に国を維持できるのか?

悪役令嬢の涙

拓海のり
恋愛
公爵令嬢グレイスは婚約者である王太子エドマンドに卒業パーティで婚約破棄される。王子の側には、癒しの魔法を使え聖女ではないかと噂される子爵家に引き取られたメアリ―がいた。13000字の短編です。他サイトにも投稿します。

処理中です...