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アンジェラは、セリアに加えてハンナとも学院生活を共に過ごすようになった。
少しずつ性格の違った三人が一緒にいるところは人目を引くのか、次第に声をかけて来る人が増え、その何人かとは親しくなり、友人と呼べる関係になれた。
彼女達はアンジェラがジャネットに嫌がらせを受けていた間、少なくともそれに加担はしていなかった人たちだ。
自分に手を差し伸べなかった彼女達を恨む気持ちは、もはやアンジェラには残っていない。以前のように友達と過ごせる日々が、ただただ嬉しかった。
それを噛み締める暇もなく、定期試験は瞬く間に過ぎて行った。
アンジェラは、生活が落ち着いたからか概ね上々の点数を取れたことに安堵した。また、セリアの数学の結果はハンナの助けもあり「そこそこ」だったようだ。そして、ハンナは歴史学の、美術が発展した時代の試験で、去年に比べて大きく点数を伸ばし、ガルシア先生に褒められたそうだ。
試験勉強から解放された生徒達は、近づく長期休暇を待ち望みながら、残り半月の授業に臨んでいた。
午前の終わりを知らせる鐘が鳴ると、授業を終えた先生やほとんどの生徒は食堂や寮へと向かう。
しかしアンジェラは、セリアやハンナ、数人の友人と暫し基礎薬学の教室に残り、実習のレポートを仕上げていた。
カーゾン先生には来週提出する課題だが、授業の余韻があるうちに書いた方が、ペンは進む。
(独りよりも、仲間と話し合いながら書く方がずっと楽しいもの)
がらんとした部屋にはペンを走らせる音と、長期休暇をどのように過ごすか話す声が、軽やかに転がり始めていた。
セリアは故郷には帰らず、この国に残された魔道具を研究している叔父の屋敷で過ごさせてもらうのだという。
「セリアさんの親戚って、どんな方なのかしら」
「ラパルマンって、整った顔立ちの方が多いんですって」
「知らなかったわ。羨ましい!」
「ふふ。私達とは10歳以上離れているわ。一昨年ようやく結婚したの」
色めき立つ皆とは裏腹に、ハンナは上手く話に入っていけなくなったのか、大人しく続きを書き始めた。それに気づいたアンジェラは、静かにハンナの隣の席に移った。
「良いんですか?」
「セリアは最近ずっと私の側にいてくれていたから。皆と仲良くできているか、気になっていたのよ」
「それなら、今のところ心配なさそうです……そういえば、アンジェラさんの休暇について、聞いてなかったですね」
「今度久しぶりに、家族と旅行をする予定よ。ハンナさんは?」
「私は別荘で、両親と絵を――」
「ふうん、随分楽しそうじゃない」
甲高い声が聞こえた瞬間、ハンナの表情に怯えが浮かんだ。アンジェラも口を結び、目を見開いた。
席のすぐ後ろにある部屋の入り口を見ると、ジャネットが左右に女子生徒を伴って立っていた。アンジェラ達の話し声が外に聞こえたのだろうか。
(ハンナさんのルームメイトの三人だわ)
ジャネットはアンジェラに対しては一瞥してふん、と鼻で笑っただけで、自分の顔の横に垂らした髪を指先で弄びながら、ハンナに笑いかける。
「今朝も早々に出て行ったから、やましいところでもあるのかと思ったわ。私たちが昨日あんな目に遭ったのに、ね?」
「それは友達が、朝食に誘ってくれたので……」
ハンナは俯いて、声も弱々しくなっていった。隣にいるアンジェラも、ジャネットの声を聞いているだけで胸が押し潰されるようで、息が苦しい。
同じだ。
今のジャネットの目も、棘を含む声も、アンジェラが少し前まで受けていたそれと、何も変わらない。
少しずつ性格の違った三人が一緒にいるところは人目を引くのか、次第に声をかけて来る人が増え、その何人かとは親しくなり、友人と呼べる関係になれた。
彼女達はアンジェラがジャネットに嫌がらせを受けていた間、少なくともそれに加担はしていなかった人たちだ。
自分に手を差し伸べなかった彼女達を恨む気持ちは、もはやアンジェラには残っていない。以前のように友達と過ごせる日々が、ただただ嬉しかった。
それを噛み締める暇もなく、定期試験は瞬く間に過ぎて行った。
アンジェラは、生活が落ち着いたからか概ね上々の点数を取れたことに安堵した。また、セリアの数学の結果はハンナの助けもあり「そこそこ」だったようだ。そして、ハンナは歴史学の、美術が発展した時代の試験で、去年に比べて大きく点数を伸ばし、ガルシア先生に褒められたそうだ。
試験勉強から解放された生徒達は、近づく長期休暇を待ち望みながら、残り半月の授業に臨んでいた。
午前の終わりを知らせる鐘が鳴ると、授業を終えた先生やほとんどの生徒は食堂や寮へと向かう。
しかしアンジェラは、セリアやハンナ、数人の友人と暫し基礎薬学の教室に残り、実習のレポートを仕上げていた。
カーゾン先生には来週提出する課題だが、授業の余韻があるうちに書いた方が、ペンは進む。
(独りよりも、仲間と話し合いながら書く方がずっと楽しいもの)
がらんとした部屋にはペンを走らせる音と、長期休暇をどのように過ごすか話す声が、軽やかに転がり始めていた。
セリアは故郷には帰らず、この国に残された魔道具を研究している叔父の屋敷で過ごさせてもらうのだという。
「セリアさんの親戚って、どんな方なのかしら」
「ラパルマンって、整った顔立ちの方が多いんですって」
「知らなかったわ。羨ましい!」
「ふふ。私達とは10歳以上離れているわ。一昨年ようやく結婚したの」
色めき立つ皆とは裏腹に、ハンナは上手く話に入っていけなくなったのか、大人しく続きを書き始めた。それに気づいたアンジェラは、静かにハンナの隣の席に移った。
「良いんですか?」
「セリアは最近ずっと私の側にいてくれていたから。皆と仲良くできているか、気になっていたのよ」
「それなら、今のところ心配なさそうです……そういえば、アンジェラさんの休暇について、聞いてなかったですね」
「今度久しぶりに、家族と旅行をする予定よ。ハンナさんは?」
「私は別荘で、両親と絵を――」
「ふうん、随分楽しそうじゃない」
甲高い声が聞こえた瞬間、ハンナの表情に怯えが浮かんだ。アンジェラも口を結び、目を見開いた。
席のすぐ後ろにある部屋の入り口を見ると、ジャネットが左右に女子生徒を伴って立っていた。アンジェラ達の話し声が外に聞こえたのだろうか。
(ハンナさんのルームメイトの三人だわ)
ジャネットはアンジェラに対しては一瞥してふん、と鼻で笑っただけで、自分の顔の横に垂らした髪を指先で弄びながら、ハンナに笑いかける。
「今朝も早々に出て行ったから、やましいところでもあるのかと思ったわ。私たちが昨日あんな目に遭ったのに、ね?」
「それは友達が、朝食に誘ってくれたので……」
ハンナは俯いて、声も弱々しくなっていった。隣にいるアンジェラも、ジャネットの声を聞いているだけで胸が押し潰されるようで、息が苦しい。
同じだ。
今のジャネットの目も、棘を含む声も、アンジェラが少し前まで受けていたそれと、何も変わらない。
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