生き残りBAD END

とぅるすけ

文字の大きさ
上 下
13 / 159
第1章 犯罪制裁 編

大丈夫です…

しおりを挟む
「小雨! 目を開けて!!」

 臨は叫び、ガラスを叩く。

「り、臨! 落ち着いて!小雨は大丈夫だから!」

 口を開いたのはショウだった。

「どこが!?」

 そして、振り向き、鋭利な瞳に浮かんだ涙とクマを見せると、力尽きたのか、その場に座り込んで

「あぁ、小雨……オレが守っていれば…っ!」
「り、臨さん、座って…ください」

 楓彩は座ってうつむいている臨の肩に触れ、近くの長椅子へ移動させる。

「あぁ……やだよぉ……小雨……」

 臨は右手で涙を隠しているのか顔を覆っている。

「クソっ……あの時…一緒にいれば……!!」

 右足で床を踏みつける臨。
 剣得はショウの近くに寄り

「小雨の状態はどうなんだ?」
「背中と右脇腹に裂傷、内蔵損傷までいってる、それと右足は切断ギリギリ小雨は頑張ってるよ、普通なら死んでる」

 剣得は近くの壁に拳を当て陥没させる。
 ショウはベンチで俯いている臨に歩み寄る。

「……安心して、小雨は絶対に死なない、死なせない」
「「ショウ?」」
「まぁ、この天才ショウちゃんに任せな!」

 と笑顔を見せると右手に掛けていた白衣に着替え、集中治療室に入る。

「臨? ここはショウに任せようぜ?」
「は…はい……」

 臨は窓越しに小雨を見て

「小雨、頑張って……」


総督室

「総督、こちら資料になります」

 いつも通り、赤毛の長髪美人部下が剣得に資料を渡す。

「ご苦労」

 剣得は資料に目を通す。

「やはり、SABERか……やったのは晴雲だな」

 男性隊員は資料を渡すと剣得の集中力に圧倒され退室した。

「は、剣得さん……」
「?」

 資料から目線を持ち上げると、楓彩が立っていた。

「そうか、まだ朝飯まだだっ───」
「小雨さん……」
「ん?」

 その時、楓彩の目から涙がこぼれ落ち、やがて滝のように溢れ出す。

「うっ、ううぅ……」

 剣得はいま、楓彩の数ある優しさの一つに気づいた。
 楓彩は悲しんでいる臨の前では決して泣かず、寄り添った。
 しかし、楓彩も我慢は出来なかったのだろう。
 今になって、感情に歯止めが聞かなくなってしまった。

「うああぁっ……えぐっ……うぅぅ…」

 剣得は立ち上がり、そっと楓彩を抱き寄せる。

「大丈夫だ、あの小雨だぞ? またいつも通り飛びついて来るさ、それに、傷も大したこと無いらしいぞ?」
「ほ…本当ですか…? グスっ」
「ああ、ほら、泣いてたら小雨だって寄ってこれないぞ?」
「う、うん…」

楓彩は涙を拭い明るく笑って見せた。



 ここは暗く

「お前、妹さんを手にかけるとはな…晴雲。」
「あぁ、“くだらねぇ集団”に手を貸してる時点で俺らの敵だからな…それに、妹だろうが家族だろうが、邪魔者は消す、それだけだ」
「仕事熱心だな、唯一の家族を……」
「はっ」
「まぁ、この調子で奴らの戦力を削いでいけ」
「はいよ、………妹……か」


 十年前───

「兄貴ー!あそぼー!」
「小雨、こっちは受験勉強中だ!」
「むぅ」

 今から十年前、小雨は当時10歳、晴雲は15歳。
 晴雲は高校受験のために勉強を頑張らなければならない時期だった。

「……後でな」
「うん!」

 西区にある一軒家で、仲のいい兄妹として近所では有名だった。
 雨地家の両親は共にG,S,Aの役員として働いており、父親は提督を務めるほど、手柄を立てていた。
 両親が共働きということで、家では大体、2人で協力しあって暮らしていた。

「小雨、それよりまず、飯にしよう!」
「わーい!」
「手伝ってくれるか?」
「うん!」

 晴雲は勉強を切り上げるとキッチンにむかい、冷蔵庫の中からチャーハンの作り置きを取り出し、電子レンジに入れる。

「小雨ー、スプーンと箸出してくれー」
「はーい」

 そして、2人は協力して食卓に料理を並べていく。
 今日のメニューは作り置きのチャーハン、温野菜のサラダ、小雨お手製のハンバーグ。

「「いただきます。」」
「んー、小雨、お前のハンバーグまた美味くなったな」
「そう? ありがとう」

 その時

『続いてのニュースです』

 2人はついていたテレビに目を向ける。

『近年増加している暴徒集団の勢力が広まりつつあると、G,S,Aからの発表がありました。西区都心の周辺ではテロ活動が多発しています、周辺にお住まいの方は外出を控えるなど、対策を心がけると良いでしょう』

「親父達も大変だな」
「……また、一緒に遊びに行けるかな?」

 小雨は不安そうな顔をする。

「……行けるといいな」
「うん…………兄貴?」
「?」
「今日一緒に寝よ?」
「あぁ、いいぞ」

 その後、2人は夕食の片付けをすると小雨から順番に風呂に入り、歯を磨き、布団に入る。
 これが2人の日課、両親がG,S,Aでなければ  普通の兄妹。
 だが
 事件は起きてしまった。


 晴雲の受験当日、犯罪活動が活発だった西区に暴動が入る。
 その暴動は勢力を拡大しつつ都心に……小雨が通っている小学校へ近づいていた。

「?」

 晴雲はまだ気付かない。


「なぁ、晴雲これ!」
「なんだよ」

 晴雲の友達は携帯の画面を見せてくる。

「暴動だって! お前ん家近いぞ!」
「っ!……大丈夫だ」

 小雨は学校だし、教員がしっかりやってくれるだろう。
 そう思った。

「(大丈夫…だよな…)」

 その時だった。
 耳触りの悪いサイレンが鳴り響く。

「…さ、生存者サバイバー警報!」
「おいおい、今日入試だぞ!?」
「そうじゃねぇ!! 西区……小雨!!」

 晴雲は元来た道を走り出す。
 新都の外側へ

「お、おい!待てよ!」
「先に行ってろ!」

 そして、家まで走っていくといつも通っている道に規制線が貼られていた。

「な!?」

 晴雲はG,S,Aの隊員に近づき

「通してください!!」
「? ここから先の住民は避難しているはずだよ?」
「え?な、なら、しょ、小学生は?」
「大丈夫、避難している、君も早く避難場所に行きなさい」

 晴雲はその言葉を信じ、避難場所となっている  都心にある中学校へむかう。
 晴雲が歩いていると

「人気が無い……皆、避難したのか。」

 程なくして、都心の避難所となる中学校に到着する。
 人が溢れかえり、体育館だけではなくグランドも人でいっぱいだった。
 晴雲は知り合いの近所のおばさんを探し出し

「すいません、小雨、見ませんでしたか?」
「おぉ、晴雲くん、無事だったのか!よかった!」
「あ、はい、で、小雨は……」
「ごめんね、見てないんだ……私も一緒に探すよ」

 その後、学校中を探し回ったが、小雨の姿は無かった。
 その時、中学校に小学生の集団と教員何人かが入ってくるのが見えた。

「小雨……!」

 晴雲は1人で駆け寄るがそこにも小雨の姿は無かった。

「くそっ!」
「晴雲くん!」

 近所のおばさんの声も届かず、晴雲は再び走り出した。
 我が家へ。
 そして、程なくして規制線まで戻ってくる。
 だが、様子がおかしかった。

「誰もいない……。」

 先ほどまでいたG,S,Aの隊員の姿が消えていた。
 晴雲は規制線を潜り、走り出す。
すると見えてきた

「───っ!!」

 人々が血だらけになり、倒れている姿を。

「うっ!!」

 酷い匂いだった。
 晴雲は足を止めることなく、小学校を目指す。
 そして、小学校手前でうずくまっている小学生と思われる子達を見つけるその中に金髪の少女を見つけ

「こ、小雨!!」
「……あ、兄貴?」

 小雨は顔を上げる。

「よ、よかった!」

 小雨は立ち上がろうとするが、腰が抜けてしまって立ち上がることができない様子だった。
 晴雲は肩を貸し、立ち上がらせると

「さぁ、みんなも逃げよう!」

 晴雲は一人一人立ち上がらせ、怪我をしている子を抱えて、皆の手を引いて走り出した。

「君たち!!」

 勇ましい女性の声が晴雲達を呼び止める。
 だが、小雨と晴雲にはその声に覚えがあった。

「か、母さん!」
「せ、晴雲!小雨!」

 その後、晴雲達の母親の指示によって晴雲と小雨を含め、怪我をした子や、怯えて歩けなくなった子達は安全な場所に無事、たどり着いた。

「母さん、俺、なんか手伝うよ」

「気持ちは嬉しいけど、危ないから下がってて。暴動を起こした奴らは皆、生存者サバイバーにやられてるから仕事も少ないだろうしね?」
「で、でも」
「……小雨を頼むよ」

 晴雲はふと、目線を下ろすと晴雲の手をしっかり握った小雨の姿が見えた。

「うん」

 そして、都心へむかう護送車に乗せられ、母親と別れた。
 その時、晴雲と小雨が見たのは自分達の住んでいた場所が黒煙に巻かれて見えなくなる姿だった。

「小雨……帰ろうな…絶対」
「……うん」

 その時、護送車の後方に、黒煙から巨大な影が浮かび上がる。
 高さは目測で約8m、四足、六足歩行のトカゲのような姿をした怪物が黒煙の中から凄まじいスピードで護送車を追いかけてくる。

「っ!!」

 小雨は晴雲に顔を埋め、晴雲はしっかりと小雨を抱きしめた。

 ───刹那

 護送車と生存者(サバイバー)との間に綺麗な虹色の壁が現れ、生存者(サバイバー)を食い止める。

「こ、これは!!母さん!!」

 そう、晴雲達の母親の能力バリアだった。
 だが

「あ」

 バリアは一瞬で砕かれ、振り抜かれた尻尾は晴雲達の母親の頭部を消し飛ばした。


 その瞬間を晴雲は見てしまった。

しおりを挟む

処理中です...