生き残りBAD END

とぅるすけ

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第2章 「征」編

もう一人の私

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 「見せてやるよ…俺の本気を…」

 男は木刀を両手で握り、切っ先を高く掲げる。
 すごく隙だらけな構えだ。
 神速の楓彩にかかれば一瞬で勝負がついてしまうだろう。

「来いよ…」

──刹那、凄まじい破裂音と共に、楓彩は突きの構えをした男の手前でうつ伏せになり、気を失っていた。
 何が起こったのだろうか、剣得とショウはその一部始終をしっかり見ていた。
  男は楓彩が突っ込むと同時に、楓彩の首筋目がけて切り込む。だが、それと同時に、両脇腹にも切込みを入れ、更にそれと同時に突きを繰り出したのだ。
 合計四撃。
 それを全て同時に楓彩に叩き込んだ。

「ふぅ……うっ!」

 男の腹部に鈍い痛みがはしる。

「(ま、まさか、あの一瞬で入れたのか…? この俺に……!)」
「楓彩!!」

 剣得はすかさず、楓彩に駆け寄り、楓彩の上体を抱きかかえる。

「おい!楓彩!」
「……うぅ、は、剣得さん……?」

 弱々しい楓彩の声。

「はぁ、良かった、生きてたか…」

 剣得は安堵の息を漏らす。

「くっ……!?」

 楓彩は震える体を自力で動かそうとするが

「か、体が……うごかない……!」

 男は歩み寄り

「まぁ、褒めてやる…久しぶりに本気になった……しかし、よく生きてたな…急所は外したつもりだが、力加減が出来なかった…」

 男は相変わらず無表情だが、その中に焦りの感情が見て取れた。

「この技を教えてやる……明日また来い…あと、ここは俺の寝床にさせてもらうぞ…どうせ釈放されたんだろ?俺は…」

 剣得は楓彩を背中に抱えて立ち上がると

「あぁ、逃げるよりはマシだ、明日も頼む…」

 と、出口へ向けて振り返る。
 その時、楓彩は男に向けて右手の親指を立ててニッコリ笑っていた。
 おそらく、ありがとうの意味だろう。

「っ! …」

 男は少し頬を赤くして剣得とは逆の方向に歩き始める。



「うぅぅっ! 痛いっ!!」

 楓彩は半裸になり、ショウの工房で治療を受けていた。
 もちろん剣得の目には布が何重にも巻かれ、手錠が付けられていた。

「手錠までいるかぁ!!!!」

 剣得は声を上げ、手錠を自力で引きちぎった。

「剣得、あんた変態になりたくなかったら大人しくしてて…楓彩、回って?」

 ショウは、楓彩の胸にサラシを巻きながら剣得に指摘する。

「でも、楓彩…よかったね…あの人割といい人だよ…私と戦った時は“鬼”だったけどね…」


 その後、楓彩は上着を来て

「ありがとうございます、ショウさん」

 とぺこりとお辞儀をする。
 その時、目隠しを付けた剣得とショウは暗い表情で黙っていた。

「ねぇ…楓彩」「なぁ…楓彩」

 2人とも同時に楓彩の名前を呼ぶ。

「あの時の楓彩は誰なの?」「もう目隠し取っていいか?」

 そして違うことを話す。

「え?…は?…えっと…剣得さん、どうぞ取ってください…ショウさんの言ってる意味がよく分かりません…」

 と、的確に2人に返していく。
 剣得は目隠しを取る。

「えっと…ショウさん?」
「楓彩…あんたやっぱりさ…多重人格なの?」

 その言葉に剣得も反応する。

「そ、そうだ、楓彩、お前、あの時の目は…長い間お前と一緒にいるけどあんなの初めてだぞ…」

 楓彩は2人と目を合わせないように俯く。
 そして、胸に手を当て

「わ、分かりました…話します…」

 楓彩は話した、風呂場で体験した、感覚のことを、戦いになると、相手を殺そうとしてしまう自分を押さえ込んでいることを。
 そして、苦しい気持ちを。

「わ、私…どうしたら…いつか自分が抑えられなくて誰かを殺してしまうと思うと…」

 楓彩は頭を抱えて

「自分が怖い…!」

 と泣き崩れてしまう。
 剣得とショウは、泣いている楓彩の背中をさすることしか出来ない剣得。
 泣いている楓彩を見ている事しか出来ないショウ。
 自分たちとは何か違うことに悩む楓彩に適当な助言が出来ないのだ。

「うぅぅっ……」

 蛍光灯の明かりとショウのパソコンの明かりだけが照らしてる薄暗い部屋に、楓彩よ泣き声だけが響く。
 その時、口を開いたのは剣得だった。

「楓彩、お前ショウと居ろ…」
「…え?」

 楓彩は剣得を見上げる。

「ちょっ! ちょっと剣得!?」
「悪いが…今は世界が変わるかもしれない、大事な時だ……今は解決は出来ない…だがらせめてショウと居てくれ…」

 剣得は冷たい言葉とは裏腹に少し悲しそうな顔をしていた。 
 そして、剣得は楓彩の顔を見ることが出来ず、
そのまま、工房を後にした。

「………」
「………楓彩…?」

 ショウと楓彩は扉を開け、工房を出ていく剣得の背中を黙って見ていた。

「は、剣得さん…」
「楓彩……」
    
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